紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第9章:地下水道の再会

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東京の地下深く。
 かつて江戸城の抜け穴として掘られ、現代では地下鉄の廃線となっている暗黒の迷宮。
 湿った空気と、古い鉄の錆びた匂いが充満している。
 風間颯は、足音を殺して枕木の上を歩いていた。
 頼りになるのは、懐中電灯ではない。蝋(ろう)を染み込ませた一本の**松明(たいまつ)**だ。揺らめく炎が、壁面の配管を不気味な影として映し出す。
 (……揚羽は、生きているか)
 地上はすでに暴徒と、ヴォイドの機械兵士たちによって制圧されつつあるだろう。
 疾風は立ち止まり、指を口にくわえた。
 ヒュルリ……ヒュルル……
 指笛。
 それは、電子音のような一定の周波数ではない。鳥の鳴き声を模した、不規則で有機的な旋律。
 かつて二人が、伊賀の里の修行時代に決めた合図だ。
 返事はない。ただ、地下水の滴る音が響くだけ。
 疾風が再び吹こうとした、その時。
 ……ヒュイ、ヒュイ。
 闇の奥から、短く、高い音が返ってきた。
 疾風は松明を掲げ、走った。
 角を曲がった先、整備用の小部屋に、その影はあった。
 「……遅いじゃない、疾風」
 揚羽がそこにいた。
 真紅のドレスは裾が破れ、泥にまみれている。素足は血と煤(すす)で汚れていたが、その瞳だけは宝石のように輝いていた。
 彼女の足元には、破壊された数体の小型ドローンの残骸が転がっている。
「無事だったか」
「ええ。ヒールが折れちゃったけどね」
 揚羽は強がって見せたが、その肩はわずかに震えていた。
 疾風は無言で歩み寄り、彼女の冷えた手を握った。
 体温が伝わる。
 GPSも通信機も繋がらない今、この掌(てのひら)の温もりだけが、互いの存在証明だった。
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