閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第5章 制度的実装形態の比較

5.4 各モデルにおける安定条件

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本節では、前節までに検討した三つの制度的実装形態――政府発行型(インフラ的生産)モデル、企業(生産者)準政府モデル、分散型・管理者不在モデル――が、それぞれどのような条件の下で安定的に機能し得るかを整理する。ここでいう安定とは、成長や効率の最大化を意味するものではなく、生存条件が急激に悪化せず、調整が継続可能な状態を指す。

政府発行型モデルの安定条件は、インフラ生産の予測可能性と冗長性に強く依存する。生産量、人口規模、減衰率が一定範囲に収まっている限り、このモデルは最低限の生存を高い確率で保証する。逆に、需要変動が大きい場合や、不可逆的な設備損耗が連続する場合、調整は遅れ、全体的な不安定化を招く。したがって、本モデルが安定するためには、環境条件の変動が制度の調整能力を上回らないことが前提となる。

企業準政府モデルの安定条件は、競争と集中のバランスにある。複数の生産者が存在し、生存に不可欠な分野が単一主体に独占されていない場合、このモデルは柔軟性と調整速度を両立できる。一方で、特定企業への依存が高まると、企業の内部判断が集団全体の生存条件を左右する。したがって、代替可能性と透明性が維持されていることが、本モデルの安定性を支える。

分散型・管理者不在モデルの安定条件は、最も厳しい。最低生存条件を保証する主体が存在しない以上、安定は制度内部からは生じない。このモデルが相対的に安定し得るのは、インフラが高度に自動化され、かつ物理的に破壊困難である場合に限られる。すなわち、人間の判断や調整をほとんど必要としない基盤が既に存在していることが前提となる。

三つのモデルを比較すると、安定性は単一の設計によって達成されるものではなく、環境条件と制度形態の組み合わせによって決定されることが分かる。政府発行型は初期安定性に優れ、企業準政府モデルは調整能力に優れ、分散型モデルは特定条件下での耐障害性に優れる。いずれのモデルも、単独で全ての状況に適合するわけではない。

本研究の枠組みにおいて重要なのは、これらのモデルを排他的に選択することではない。実際のハビタット運営においては、複数のモデルが層状に重なり合う形で実装される可能性が高い。最低限の生存を政府的インフラが支え、その上で企業的生産が選択肢を提供し、周縁では分散的な自律が生じる。この重なりこそが、全体としての安定性を生み出す。

以上より、制度的実装形態の安定条件は、単一の正解として定式化できるものではない。カロリー基準と ML による記録は、どのモデルが採用されているかを可視化するが、安定を保証するものではない。安定は、常に環境、技術、個体の行動の相互作用の結果として、暫定的に成立する。本章で示した比較は、その暫定性を前提とした上で、各モデルの成立条件を整理するためのものである。

【参考文献】
ポール・A・ラインハルト『制度はなぜ単独で崩れるのか――安定条件の比較分析』(ノード経済理論社、2181)
アストラ経済新聞社 編『インフラと市場のあいだ――地球外経済10年の回顧』(アストラ経済新聞社、2194)
ルイス・マンフォード『メガマシン(The Myth of the Machine)』(ハーコート・ブレイス・ジョバノビッチ、第一巻 1967 / 第二巻 1970)
ジェーン・K・ジェイコブセン『システム社会における人間尺度の限界』(ランダム・オービット社、2161)
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