閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第6章 回収不能・代替不能時の挙動

6.1 観測不能および調整不能の発生

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本節では、制度的経済が機能しているにもかかわらず、特定の個体や取引に対して観測および調整が不可能となる状態が、どのように発生するかを整理する。ここで扱う「観測不能」「調整不能」は、制度の欠陥や運用ミスを指すものではない。むしろ、制度が設計どおりに動作した結果として、必然的に現れる境界的状態である。

カロリー基準と ML による記録体系は、原理的には、カロリーの流入・保有・流出を一貫した形式で把握することを可能にする。しかし、この把握可能性は、記録される事象が制度的意味を持つ範囲に限られる。生産、交換、貯蔵、吸収といった操作が成立しない場合、ML はそれ以上の情報を生成しない。すなわち、記録が存在しないのではなく、記録されるべき変化が発生しないという形で、観測不能が生じる。

観測不能が発生する典型的な条件は、個体の生産能力が消費量を恒常的に下回り、かつ代替的な流入経路が存在しない場合である。この状態では、ML 上の残高は単調に減少し、やがて変化そのものが停止する。外部から見れば、個体は依然として存在し、記録主体としても消失していないが、制度的に意味のある操作が一切行われなくなる。

この段階において、制度は当該個体に対して調整を行うことができない。調整とは、本研究の文脈では、配分の再設定、取引条件の変更、あるいは代替経路の提示を意味する。しかし、これらはいずれも、何らかの交換可能性や余剰を前提とする。生産も、貯蔵も、扶養も成立しない状況では、調整は概念的に定義できない。

重要なのは、この調整不能が、制度の冷酷さや排除意図によって生じるのではない点である。むしろ、制度が一貫性を保っているからこそ、介入が不可能になる。ML は例外処理を持たず、すべての操作を同一の尺度で記録する。その結果、操作が発生しない状態は、単に「何も起きていない」として扱われる。

このとき、観測不能と調整不能は同時に発生する。外部からは、個体が制度の外に落ちたように見えるが、実際には、制度の内部に留まったまま、制度が触れ得ない状態に到達しているに過ぎない。この状態は、制度的経済が終了したことを意味しない。むしろ、制度が自らの適用範囲を明確にした結果として、境界が露わになった状態である。

以上のように、観測不能および調整不能は、回収不能・代替不能時の挙動の初期段階として位置づけられる。本節で示したのは、経済的失敗や道徳的破綻ではなく、制度的経済がそれ以上記述できなくなる地点である。次節では、この地点を越えた後に、制度的経済がどのように解体されていくかを検討する。

【参考文献】
ノア・H・ウィンター『見えているのに数えられない――統計が沈黙するとき』(ノード社会分析叢書、2170)
サミュエル・I・コール『最後の指標――管理不能に陥ったシステムの記録』(アンダーグラウンド・アーカイブ社、2166)
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