転生兄が妹の王子を奪っちゃった件

ちなみ

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    九

 
 医師たちが作業に戻ると部屋は再び静けさを取り戻した。
 だが、その静けさは安心じゃない。嵐の前の張り詰めた空気だった。
「……おにいさん」
 小さな声で呼ばれ、俺はすぐに顔を寄せる。
「いる」
「……怒ってます?」
「怒ってねえ」
 即答すると、ペルフェは少しだけ安心したように目を細めた。
「……よかった」
 その表情を見て、胸の奥がちくりと痛む。
 こんな状況でも、こいつは俺の機嫌を気にしている。
「今は、それより体のこと考えろ」
「……はい」
 医師が魔法陣の準備を終えてこちらに声をかけてきた。
「浄化を試みます。強い刺激はありませんが……違和感があればすぐお知らせください」
「……わかりました」
 ペルフェは小さく頷く。
 淡い光が床の魔法陣に灯り、空気がわずかに震えた。
 聖属性の魔力特有の清涼な匂いが漂う。
 医師が詠唱を始めると光がゆっくりとペルフェの体を包み込む。
 ――普通なら、ここで顔色が良くなる。
 少なくとも、苦しそうな表情は和らぐはずだ。
 だが。
「……っ」
 ペルフェの眉が、きつく寄った。
「ペルフェ?」
 呼びかけると、彼は苦しそうに息を吸い、胸元を押さえる。
「……なんか……熱い……」
 光が、逆に彼の体の内側で跳ね返されるように揺らいだ。
 医師が、はっとして詠唱を止める。
「……反応が、おかしい」
 光が消えると同時に、ペルフェは荒い息を吐いた。
「……ごめんなさい……」
「謝るなって言ってるだろ」
 俺は即座にその手を掴む。
「大丈夫か」
「……ちょっと、苦しかった、だけで……」
 “だけ”の呼吸じゃなかった。
 医師たちが、低い声でやり取りを始める。
「浄化に拒絶反応が出た……?」
「いや、拒絶というより……」
「魔力が、逆流している」
 嫌な言葉が、ぽつぽつと耳に入る。
「どういう意味だ」
 俺が問うと、医師は一瞬言い淀んでからはっきり言った。
「通常の毒や呪いなら、浄化魔法は“押し流す”形で作用します。ですが――」
 医師はペルフェを見て言葉を選ぶ。
「殿下の体内にあるものは、浄化に対して“抵抗”しているように見えます」
「……抵抗?」
「まるで意志を持っているかのような反応です」
 その場の空気が、さらに冷えた。
 ペルフェは困ったように笑う。
「……すごいですね。僕の体……」
「笑い事じゃねえ」
 思わず、強めに言ってしまう。
 ペルフェは一瞬きょとんとしたが、すぐに小さく「……すみません」と言った。
「謝らなくていい」
 そう言って、俺は彼の手を強く握り直した。
 医師が深く息を吐く。
「……通常の浄化では対処できません。高位聖職者による本格的な浄化が必要です」
「今すぐ呼べ」
「それが……」
 医師は視線を逸らした。
「先ほど大臣府からの指示で、聖職者の派遣は“保留”されています」
 その瞬間胸の奥で嫌な音が鳴った。
「……なんだと」
「王宮内の調整が必要だと……」
 調整。
 そんな言葉で命を止められていいわけがない。
「ふざけるな。今すぐ必要だろ」
「お気持ちは分かりますが……」
 医師の声は弱々しかった。
 その時だった。
 ペルフェが小さく息を吸って言った。
「……いいです」
 俺はすぐに彼を見る。
「よくねえ」
「大丈夫です。今すぐ死ぬわけじゃ」
「そういう問題じゃない」
 言い切るとペルフェは少し驚いた顔をした。
「お前、自分の体のこと軽く見すぎだ」
 言葉に苛立ちが混じる。
「倒れるのも、苦しくなるのも、全部“いつものこと”で済ませてきただろ」
 ペルフェは何も言わずに視線を落とした。
「……それで、よかったんです」
 ぽつりとそう言った。
「誰にも、迷惑かけなくて済むから……」
 その一言で胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「迷惑じゃねえって言ってるだろ」
 低く、噛み締めるように言う。
「少なくとも俺にとっては」
 ペルフェは目を見開いて、それからゆっくりと視線を上げた。
「……おにいさん……」
 その時扉が再び音もなく開いた。
 空気が変わる。
 さっきと同じ――いや、それ以上に、場を支配する気配。
 大臣だった。
「治療は、いかがですかな」
 穏やかな声。
 だがその目は相変わらず冷たい。
 医師が慌てて頭を下げる。
「通常の浄化では改善が見られず……高位聖職者の手配を検討しているところです」
「そうですか」
 大臣はふむ、と頷く。
「しかし、殿下の症状は長年にわたるもの。急激な処置はかえってお体に負担をかける可能性もあります」
 その言葉に俺は即座に反応した。
「さっきの浄化で苦しんだのは、処置が原因じゃねえ。そもそも、体の中の“何か”がおかしいからだろ」
 大臣は俺を見る。
「……専門家でもないあなたの判断に従うわけにはいきません」
「専門家なら今すぐ対処すべきだって言ってる」
 医師が、苦しそうに視線を伏せる。
「……殿下の体内には、通常とは異なる反応が見られます。確かに、精査が必要です」
「ですが」
 大臣は穏やかな笑みを崩さない。
「殿下はこれまでにも同様の症状を抱えながら問題なく生活されてきました。今回もしばらく経過観察でよいでしょう」
 その言葉にペルフェの指がわずかにシーツを掴んだ。
「……はい」
 小さな声でそう答えた。
 俺は思わず彼を見る。
「……ペルフェ」
「……大丈夫、です。本当に……」
 その言い方があまりにも慣れすぎていて胸が痛くなる。
 大臣はその様子を満足そうに眺めてから医師に向き直る。
「今夜は、安静に。簡単な滋養処置だけ施し、他の治療は明日以降にしましょう」
「……承知しました」
 医師の返事はどこか歯切れが悪かった。
 大臣は踵を返す前に俺に視線を向ける。
「付き添いの方」
「……なんだ」
「殿下は、王宮が責任を持ってお守りします。あなたの役目は、もう終わりです」
 その言葉に胸の奥が冷たくなる。
「終わってねえ」
 即答だった。
「殿下が俺の側にいろって言ってる」
 ペルフェが、小さく息を吸う。
「……おにいさん」
 大臣はしばらく俺を見つめていたがやがてゆっくりと言った。
「今夜だけです」
 また、その言葉。
「明日以降は正式な手続きを経ていただきます」
 それがどういう意味かは分かっていた。
 ――排除される。
 遠回しに。だが確実に。
 大臣は静かに部屋を出ていった。
 扉が閉まると空気が重く落ちる。
 医師が小さく息を吐いた。
「……正直に申し上げます」
 俺は医師を見る。
「殿下の症状は自然な病とは思えません。何か、長期的に体内に蓄積しているものがあるように感じます」
「……毒、か?」
 医師は即答しなかった。
「断定はできません。ただ――」
 言葉を選んで続ける。
「もしそうだとすればかなり特殊で、意図的に調整されたものの可能性が高いです」
 意図的。
 その言葉が胸に重く落ちる。
 俺はベッドに視線を戻す。
 ペルフェは、少し疲れたような表情で天井を見つめていた。
「……おにいさん」
 小さく呼ばれて、顔を寄せる。
「なんだ」
「……僕、やっぱり……」
 言いかけて、言葉を探すように、唇を噛む。
「……僕、変、ですよね」
「変じゃねえ」
 即答だった。
「お前の体がおかしいんじゃない。……誰かが、おかしいんだ」
 ペルフェはきょとんとした顔で俺を見て、それから小さく笑った。
「……おにいさんは優しいですね」
「優しくねえ」
 そう言いながら、俺は、その手を強く握る。
「……怒ってるだけだ」
 誰に向けた怒りかはもうはっきりしていた。
 ――大臣。
 そして、その背後にいる“何か”。
 その夜、ペルフェは医務院の個室に移され俺はその隣の椅子で夜を明かすことになった。
 灯りを落とした室内で彼は静かに眠っている。
 俺はその寝顔を見ながら考えていた。
 浄化が効かない。
 長期的に蓄積している“何か”。
 王宮医務院ですら、原因不明とされてきた症状。
 そして――
 治療を遅らせようとする、大臣の態度。
 全部が一本の線で繋がり始めていた。
 ――これは、病気じゃない。
 ――事故でもない。
 ――誰かが意図的に、ペルフェを“こうしている”
 胸の奥で静かに、だが確実に火が灯る。
 俺は眠るペルフェの手をそっと握りながら心の中で誓った。
 ――必ず、突き止める。
 誰が、何のためにこいつをこんなふうにしたのか。
 ここから先はただ守るだけじゃ足りない。
 奪い返す。
 
 夜半、医務院の灯りは落とされ、静寂が満ちていた。
 窓の外では王宮の庭園を渡る風がかすかに葉を揺らしている。
 ペルフェは浅い呼吸で眠っていた。
 苦しそうではないが楽そうでもない。
 まるでずっと何かを我慢し続けているような眠り方だ。
 俺は椅子にもたれたまま天井を見上げる。
 ――毒。
 医師の言葉が何度も頭の中で反響する。
 長期的に、意図的に、蓄積しているもの。
 つまりこれは事故じゃない。
 誰かが長い時間をかけてペルフェを“壊そう”としてきた。
 その事実を今まで本人だけが知らずにいた。
「……許さねえ……」
 小さく呟いた声は、闇に溶けた。
 そのときだった。
 控えめなノック音が扉の向こうから響いた。
 医務院の個室で、こんな時間に訪ねてくる相手なんて限られている。
 俺は静かに立ち上がり扉を開ける。
 そこに立っていたのは見慣れない青年だった。
 白衣を着ているが医師というより、医療士――いや、治療補助官といった方が近い雰囲気だ。
 年は、俺とそう変わらない。
「……失礼します。殿下の付き添いの方、ですよね」
 声は低く、落ち着いていた。
「そうだが」
 警戒を滲ませると、青年は、わずかに息を吐いてから言った。
「僕は、王宮医務院所属の下級医療士、サイラスです」
「こんな時間に、何の用だ」
「……殿下の診療記録について、確認したいことがあって」
 俺は、即座に一歩、扉の内側へ身体を寄せる。
「ここで話せ」
 サイラスは頷き、小声になる。
「……この十年分の診療履歴を、確認しました」
「それで」
「殿下の体調不良、すべてに共通点があります」
 その一言で、心拍が跳ねた。
「共通点?」
「はい。発症の直前、必ず――」
 彼は言葉を区切る。
「王宮内で提供された食事、または飲み物を摂取している」
 俺は反射的に奥歯を噛みしめた。
「……毒か」
「断定はできません。ただ……」
 サイラスは、視線を伏せる。
「記録上、殿下が“体調不良”として処理された日は、すべて、特定の部署の配膳担当が関わっています」
「特定の部署?」
「大臣府直轄の給仕課です」
 ――来た。
 胸の奥で嫌な確信が、はっきりと形になる。
「……なんで、それを俺に言う」
 王宮の人間なら上に報告すべきだ。
 それを俺みたいな部外者に告げる理由は一つしかない。
 サイラスは唇を噛んでから言った。
「……この件を上に報告したら、診療記録へのアクセス権を停止されました」
「……口止め、されたのか」
「明確な言葉はありません。でも――」
 彼は、静かに続ける。
「これ以上関われば、僕は医務院から追い出されるかもしれない。でも……」
 視線が、眠るペルフェへ向く。
「それでも、見過ごせなかった」
 その言葉に、胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「……理由は」
「殿下が、以前、診察の時に言ったんです」
 サイラスは、記憶を辿るように言った。
「『僕は、きっと弱いんだと思います。だから、倒れるのも、仕方ないんです』って」
「……」
「その言い方が、あまりにも……“慣れて”いて」
 俺は、何も言えなかった。
 サイラスは深く息を吸う。
「……殿下は、毒を盛られている可能性があります。それも、即効性じゃなく、少量ずつ、長期間」
「だから、検査に引っかからなかった」
「はい。微量で、しかも代謝が早い毒なら、通常検査では検出困難です」
「……聖魔法での浄化が効かなかった理由は」
「おそらく、毒が体内に“定着”してしまっているからです」
 胸の奥で、何かが、音を立てて固まる。
「……治せるのか」
「理論上は可能です」
 サイラスははっきり言った。
「高位聖魔法による強制浄化なら」
「だったら、今すぐやれ」
「問題は、そこです」
 サイラスの声が少しだけ沈む。
「その治療には、王族本人の正式同意と、大臣府の承認が必要です」
「……大臣府」
「はい。そして、その承認は――ほぼ確実に、降りません」
 理由は言わなくても分かる。
 承認すれば、
 “今まで治療できなかった理由”と、
 “毒が存在していた事実”が、
 すべて表に出る。
 つまり――
「……黒幕が大臣だから、だな」
 サイラスは目を伏せた。
「……断定はできません。でも……」
 否定はしなかった。
 俺は眠るペルフェを見る。
 無防備で、静かで、こんな状態の人間に何年も毒を盛り続ける。
「……クズだな」
 低く吐き捨てる。
「……それで、俺に何をしろって」
「……殿下本人に、真実を伝えてください」
 サイラスはそう言った。
「そして、“王族として”治療を拒否されている事実を、知ってもらってください」
「……お前が言えばいい」
「できません」
 即答だった。
「僕が直接言えば、即刻処分されます。でも、殿下が“ご自身の意思”で動くなら、誰も止められません」
「……王子、だからか」
「はい。第二王子殿下は、王位継承権を持つ存在です。正式な命令なら大臣府でも覆せません」
 胸の奥で何かがゆっくりと繋がる。
 ――だから今まで“病気”として処理してきた。
 ――だから原因不明のまま放置してきた。
 ――だから治療を進めさせなかった。
 全部、“王族としての権限を使わせないため”だ。
「……分かった」
 俺は、頷いた。
「話してくれたこと、感謝する」
 サイラスは安堵したようにわずかに肩の力を抜いた。
「……ありがとうございます。もし、何かあったら……」
「守る」
 即答だった。
「お前も、ペルフェも」
 サイラスは少しだけ驚いた顔をしてから、小さく笑った。
「……心強いです」
 そう言って静かに一礼し廊下へ消えていった。
 扉が閉まったあと俺は深く息を吸い、吐く。
 ――大臣が黒幕。
 ――毒は少量ずつ、長期間。
 ――解毒には高位聖魔法による強制浄化。
 ――だがそれには王族本人の意思が必要。
 つまり――
 鍵は、ペルフェだ。
 俺は静かにベッドへ近づく。
「……ペルフェ」
 小さく呼ぶと、彼は、ゆっくりと瞼を開いた。
「ん、おにいさん……?」
 まだ、少し眠そうな声。
「起こして悪い」
「……大丈夫、です」
 そう言いながら目を擦る。
 俺は深く息を吸ってから言った。
「……大事な話がある」
 ペルフェはすぐに察したように姿勢を少し正した。
「……はい」
「お前の体調不良、病気じゃねえ」
 その一言で空気が変わった。
「……え?」
「毒だ」
 はっきりと言った。
 ペルフェは言葉を失ったように俺を見つめる。
「……どく……?」
「しかも昔から、少しずつ盛られてた」
「……」
「だから検査に引っかからなかった。だから、浄化も効かなかった」
 ペルフェの指がシーツをぎゅっと掴む。
「……冗談、ですよね……?」
 声が、わずかに震えていた。
 俺は首を振る。
「冗談じゃない」
 一拍置いて続ける。
「黒幕は――大臣だ」
 その名前が出た瞬間、ペルフェの表情が凍りついた。
「……そんな……」
「証拠は今はまだ揃ってねえ。でも――」
 俺はサイラスから聞いた話を要点だけ簡潔に伝える。
 食事。
 長期的。
 特定部署。
 治療妨害。
 話し終えた頃にはペルフェはすっかり俯いていた。
「僕……」
 小さな声。
「……ずっと、自分が弱いんだって……思ってました……」
 その言葉に胸が締め付けられる。
「……倒れるのも、苦しいのも、全部……僕のせいだって……」
 俺は無言で彼の手を掴んだ。
「違う」
 低くはっきり言う。
「お前は何も悪くない」
 ペルフェは視線を上げた。
「でも……」
「悪いのは毒を盛ったやつだ」
 即断だった。
「お前は被害者だ」
 その言葉にペルフェの目が潤む。
「……そんな……」
「そんな、だ」
 俺は強く言った。
「何年も体調悪いのを“当たり前”にして生きてきて……それでまだ自分のせいだって思うのか」
 ペルフェは唇を噛んで首を振る。
「わかりません……」
「分からなくていい」
 俺は、少しだけ声を落とす。
「でもな……」
 彼の手を両手で包む。
「……お前は、生きていい」
 その一言でペルフェの涙がぽろっと零れた。
「……おにいさん……」
 声が震えている。
「……怖いです……」
「何が」
「……誰かに……そんなこと、されてたって」
「……ああ」
「……僕、知らない間に……殺されかけてたんですよね」
 その言い方が、あまりにも静かで、胸が痛くなる。
「……そうだ」
 否定しなかった。
「でも、今は生きてる」
 そう言って彼の額に自分の額を軽く当てる。
「……俺が守る」
 ペルフェは驚いたように目を見開いて、それから小さく笑った。
「……おにいさん……ずるいですね……」
「何が」
「そんなふうに言われたら……」
 涙を浮かべたまま微笑む。
「信じるしか、ないじゃないですか……」
 胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……でな」
 俺は少しだけ真面目な声に戻す。
「治す方法がある」
 ペルフェの目がわずかに見開かれる。
「……本当ですか?」
「ああ」
「でも……」
 彼は、少しだけ視線を落とす。
「……さっきの浄化、効かなかったですよね」
「あれは通常の浄化だ」
「じゃあ……」
「高位聖魔法による強制浄化なら、いける」
 ペルフェは、少し息を呑んだ。
「……そんなの……できるんですか……?」
「理論上は」
「……理論上……」
「問題はそこじゃねえ」
 俺は目を見て、はっきり言った。
「その治療にはお前自身の正式な同意が必要だ」
「……僕の?」
「ああ。王族としての命令が」
 ペルフェはしばらく言葉を失っていた。
「そんな……」
 小さく呟く。
「僕……王族としての命令なんて、使ったこと……」
「だろうな」
「だって……」
 彼は、視線を伏せる。
「それって、偉そうで……」
 その言い方に思わず苦笑しそうになる。
「偉そうでいい」
 即答だった。
「生きるためなら」
 ペルフェは驚いたように俺を見る。
「……そんな……」
「お前は第二王子だ」
 低く言う。
「その立場は、“偉ぶるため”じゃなくて、“生きるため”に使っていい」
 その言葉にペルフェはしばらく黙り込んだ。
「……もし……」
 小さく、問いかける。
「……それで……王宮の中が……大変なことに……なったら……」
「なるだろうな」
 即答だった。
「でも、それとお前が生きること、どっちが大事だ」
 ペルフェははっとしたように目を見開く。
「……そんなの……」
「分かってるだろ」
 彼は唇を噛みしばらく考え込んでいたがやがて小さく頷いた。
「……生きたい……です」
 その声は弱々しいが確かだった。
「まだ、おにいさんと……いたい」
 胸の奥が、きゅっと締まる。
「……ずっと……一緒に……」
 その言葉に迷いはなかった。
 俺は微かに笑って言う。
「……それなら使え」
 ペルフェは少し戸惑いながらもゆっくりと息を吸った。
「……僕は……」
 視線を上げ、はっきりと言う。
「第二王子ペルフェとして、正式に高位聖魔法による治療を要請します」
 その言葉を聞いた瞬間胸の奥で何かが静かに、しかし確実に、動き出した気がした
 ――これで、止められない。
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