第四の生命体#1 遭遇

岬 実

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Day33ー⑥ ダンコ

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 トワイライトを追って屋上の内階段に歩を進めた時、イオタに通信が入った。

『ようイオタの馬鹿。元気でやってるか?』
「ああ、勇示? 今さ、敵地のど真ん中に居るんだ。データにあった若白髪のヤツに、超能力で基地から市役所まで飛ばされてさ」
『ふーん? まあ良い。予定通り、奴等を痛め付けろ。頼むぞ』
「ああ、任しとけ」
『良し、敵さんの下っ端は軍人さん方が粗方片付けてくれたらしいな。で、肝心の第五生物と第四生物は最上階の会議室に一人、玄武と言われる女が居る。第四生物の「流用刀」を手に持ってな。後の奴等は監視カメラに映ってないから、大方、街で戦ってんだろ。それと、市長の姿がどこにも無い。注意しろ』
「玄武か、防御力を上げるだけの雑魚だ。兵隊さんの手伝いをしてやる」
『気を付けろよ。流用刀の能力は、触れた死体を操る事だ』



 同時刻、市役所手前に車で乗り付けていたカール達の部隊に、ミリエラから入電。

『Bチーム! 若干予定が狂った。トワイライトの介在により、ミスター・デイブレイクと職員のホワイトが市役所内に居る! 直ちに突入し、敵勢力を排除しつつ、彼等を救助せよ!』
『了解!』

 隊長が返事をするや、カール達に指示を下す。

「お前達、聞いた通りだ! 救助活動は予定外だが、お前達にすれば問題は無い! 作戦通り、訓練通りやれ!」
『了解!』
「良し! 行け行け行け行け!」



 イオタとホワイトは、敵と出会う事無く、玄武が居る部屋に到着していた。

「良し、玄武だかはこの部屋の中だな?」
『ああ、そうだ。ついでに護衛が5人。知っての通り、打撃が通用しなくなってる筈だ。耐火能力が時間切れかどうかは、微妙だな』
「なに、居ないも同然の人数だ。ホワイトさんは、ちょっとそこで待ってて下さい。それと、護身用にこれを」
「え? ええ」

 イオタは自分の短銃のファイブ・セブンをホワイトに手渡し、突撃銃のF2000エフにせんにグレネード弾を装填した。
 それをどこか釈然としない様子で受け取り、ホワイトはドア脇でしゃがむ。

「では行くか……。プロミネンス用ー意♥️」

 イオタは、ドアを勢い良く開けるや否や、目に付いた一人にグレネード弾を撃ち込む。
 室内の小物が倒れ、窓ガラスが震える程の爆風。
 半ば一直線に噴き出した高温高圧の金属流は命中した戦闘員を吹き飛ばし、壁に叩き付けて気絶させた。

「敵か!」

 玄武達は反射的に撃ち返して来るが、イオタはドア脇に退避し、壁を盾にして身を守っている。

 「撃つってえのは、こうやんだよ」

 イオタは壁から身を放すと、その壁に向かってグレネード弾を発砲。
 爆発は壁を溶かしつつ容易く突き破り、飛び散ったコンクリートの破片が向こう側に居た者に降り掛かる。それが頭に命中した者は失神、大きめの破片が被さって来た者は身動きが取れない。
 その時、階下から銃撃戦の音が伝わって来た。

「軍人さん達も来たし、早くもお前一人だぞ。勝負有ったな」
「…………」

 玄武は無言で流用刀を構え、ゆっくりとイオタとの距離を詰める。

「ふん、やる気か? 来い!」

 イオタは突撃銃や戦鎚を床に放り出し、両腕を大きく広げて、モデル歩きで玄武に迫る。

「デイブレイクさん……。まさか素手で戦うつもりか……?」

 ホワイトの予想通り、イオタは徒手空拳での戦闘に突入した。
 玄武は一歩踏み込み、イオタは横に体を捻る。その瞬間、3連続の突きがイオタが居た虚空を刺した。

「!」

 玄武は一瞬、くちを半開きにしたものの、すぐさま横薙ぎを繰り出す。
 しかし、イオタにその手を片手で受け止められ、反転し、もう片方の腕でのエルボーを頭に受けてしまう。
 だが玄武は超能力の効果で怯まず、宙に放った流用刀を空いている手で持ち替え、大上段から斬り付ける。
 が、その斬撃は掴まれている自分の腕でガードされ、深くしゃがんだイオタに股を鷲掴みにされると、立ち上がる勢いを乗せて投げ飛ばされてしまった。
 宙を舞った玄武の体は、机に頭から落下し、そこにめり込む。

「ブヒヒヒヒ……」

 頭を抜こうともがいている玄武に対して、イオタは嘲笑う。

「凄いな、デイブレイクさん……」

 様子を伺っていたホワイトは感嘆の声を漏らす。すると背後から、カールとテレンスを含めた数人が足音を抑えながら小走りで到着した。

「状況は?」
「デイブレイクさんと玄武が交戦状態。現在、デイブレイクさんが優勢ですが」

 カールの問いに、ホワイトが答える。そこで、ミリエラからの通信が入った。

『突入は暫く待て。少しミスターの戦い振りを見学したい。但し、どちらかの命が危険になったら即、割って入れ』
「了解」

 一人の隊員がフレキシブル・カメラを使い、ドア脇から、室内の様子を画面に映し出す。
 玄武はイオタと距離を取り、仕切り直しをする。対するイオタも、再び両腕を広げる。
 イオタは不意に姿勢を低くし、蛇が這うかの様にジグザグに動いて瞬時に玄武に迫る。
 玄武は狙い済まして突きを繰り出すが、イオタはそれより一瞬早く跳び上がっており、玄武の顔に跳び蹴りを見舞う。
 玄武が数歩後退した隙に、今度はパイプ椅子を手にした。
 イオタと玄武は互いに、攻撃を武器で受け止め、捌いたらフェイントを織り混ぜて追撃し、体勢を崩したらすぐに離れるか小物を投げる等、一進一退の攻防を始めた。

「デイブレイクのヤツ、やるなあ。相手は確か、刀術だとかの達人だろ? ソイツに互角なんて」
『いや……、互角なんかじゃない』

 感心するカールだが、ミリエラは否定した。

「達人対、素人の差が有るからですね?」
『それも有るが、見ろ。相手の攻撃を、後から動いた時でも防御している。加えて、30センチ程も小さな相手に。つまり実際は、ミスターの動きの方が圧倒的に速いと言う事だ』

 テレンスの答えに、ミリエラは付け加えた。

『おい、イオタの馬鹿。いつまでも遊んでないで、さっさと片付けろ』
「ん? ああ、近接戦闘のプロと出会う事はまず無いからな。後学の為にもちょっとな。余裕勝ちってのも……、あまりに無慈悲かなって」
『良いから。後がつかえてるんだぞ』
「あいよーん」

 イオタはパイプ椅子を手放すと、息が上がり気味の玄武に、立てた中指で手招きする。

「もう飽きたし、わたくし達、そろそろ終わりにしない?」
「……!」

 玄武は軽く息を吸い込むと、流用刀を構えて走り寄る。
 対するイオタは顔の横で拳を握り、くちの中を舐め回し、腰を低くする。
 玄武が間合いに入った瞬間、イオタは頭を狙った回し蹴りを放つ。が、玄武は後ろにステップし蹴りをかわしてしまった。
 玄武は笑みを作る。

「死ね、デイブレイク!」

 空振りのせいでバランスを悪くしているイオタに、玄武は刀を両手持ちで縦一文字に振り下ろす。
 だが。
 切っ先が命中する直前、顔を向けたイオタはくちから、無色透明な液体を吐き掛けた。

「!?」

 刀身にもその液体は当たりはしたが、半分以上は玄武の顔に当たった。
 液体は、触れた肌に炎症を生じさせ、やがて剥がれ落ちさせる。片眼は破れ、前髪は一部が頭皮ごと抜け落ちた。それぞれの患部からおびただしい出血が始まる。
 床に落とした流用刀は液体溜まりに落ち、すぐさま錆び、溶け崩れて、折れた。

「あ!? あー! あー! あー!!」
「な? な…!?」
『信じられない事を……』

 その一撃で、玄武は悶え苦しみ、カール達は呆気に取られる。

『はっ……! あ、決着は付いたな。確保しろ!』
「了解」

 我に返ったミリエラによって、カール達は突入する。

「ん」

 ぼんやりとカール達に視線を向けるイオタを気にせず、カール達は玄武達に殺到し、後ろ手に縛り上げる。
 カールは刀身が折れた流用刀を拾い上げ、しげしげと見つめる。

「何なんだ? 胃酸か? 司令官、世の中にはこんな技が有るのか?」
『いや……、私も色々学んだつもりだが、初めて見る技だ。ミスター吉田、聞いているのでしょう? これは一体?』

 勇示への問い掛けで、キーボードを叩く音が聞こえる。

『正確ニハ胃酸ジャナクテ、ソノ主成分ノ塩酸ダ。最大濃度トサレル37度前後ノナ。本人ガ言ウニハ、「練習シタラ出来タ」、ダト。「はいぱー・あしっでぃてぃー」ト名付ケテ呼ンデイルガ』
『ハイパー・アシッディティー……。言い得て妙ですね』

 カールはイオタの口元を凝視する。

「お前、くちん中は大丈夫なのか?」
「あー……」

 イオタは大口を開けて、口腔内を見せてやる。

「普通だな。普通過ぎて異常だ?」
『しかし合点が行った。一人で戦いに来たと言うから、一番厄介な玄武をどう攻略するかと気になっていたが、こう言う訳だったのか』

 イオタは捨てた武器を装備し直し、小走りで部屋から出て行った。

「さて、次に死ぬのは誰かな?」
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