第四の生命体#1 遭遇

岬 実

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Day33ー⑦ ファシラ・ヴェンコ

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 どこかへ行きそうになるイオタを、カールとテレンスは慌ててその腕を捕らえる。

「ちょっと待て! こっちにはこっちの予定が有るんだ。変に引っ掻き回されちゃ困る!」
「そう? 寧ろ楽になると思うけど。今みたく」
「別にお前の助けが無くても、こっちには勝てるだけの準備がしてある。大人しくしてろ!」

 テレンスがそう言って何気無く廊下の窓を見た所、ブカブカな服をベルトで絞め込んだ一人の女が、真っ逆さまに落ちて行った。

「えっ!」
「どうした?」

 驚いたテレンスに、カールが訝しむ。

「今……、女が一人落っこちてった……。一瞬だったが、標的の青龍の様だったが……。目が合っちまったよ、気味悪い」
「青龍!? まずい! アイツの超能力は……!」

 カールが警戒するや否や、窓の外にドラゴンの頭が現れた。
 それは、巨大化且つ、骨格だけがワイバーンの物に変化した青龍の姿であった。変身した事により、服のサイズがマッチしている。羽ばたきもせずに滞空し、薄ら笑いを浮かべる。

「ヤツの前に立つな!」

 誰かの忠告を合図にしたか、青龍はバーナーの様に細長く伸びる、青白い炎を吐き出した。
 当たった者は居なかったが、炙られた壁は次々に溶かされ、5秒も掛からずに市役所を貫通した。
 炎を吐き終えた青龍は顎で上を指すと、上空へと飛び去って行った。

『誘ってるのか……。こちらの思い通りだ。少し時間を稼げ、すぐに援軍を向かわせる!』
「了解!」

 ミリエラの指示に返事をしたのは隊員達ではなく、イオタである。
 勢いそのままに向かおうとするが、カールがその肩を掴んだ。

「……って、お前は行かなくて良いんだ! ホワイトとここで待ってろ!」
「ヘイ」

 一人の隊員が玄武を連行し、残ったカール達が青龍を追って行くのを見届けると、イオタは椅子に腰掛けた。

「デイブレイクさん、お返しします」

 ホワイトはイオタから預かった銃を返そうとするが、イオタは手で制した。

「いや、それはもう暫く貸しておきます」
「え」

 イオタが指差した方をホワイトが見ると、銀色のミドリガメが部屋の入り口に現れていた。

「ま、まさか第四生物!」
「そのまさか。わたくし共は、あれを『猪苗代いなわしろ』と呼んでます」
「イナワシロ……?」

 イオタは悠然とそのカメを拾い上げると、見つめ合う。

「シャー……!」
「シャー!」

 猪苗代の威嚇に、イオタも威嚇し返す。
 直後にイオタが猪苗代いなわしろを上に向けた為、猪苗代いなわしろは、首を伸ばしての噛み付きを空振りする事となった。
 間髪入れずに、イオタはフリスビーの要領で、猪苗代いなわしろを窓の外に放り投げた。

「これで良し」
「でもまた戻って来ますよ?」
「でしょーね。でも戦うなと言われてるし。なあ勇示?」
『イヤミも程々にしておけよ?』

 言った側から銀色の液体が窓から侵入し、カメの形態を取る。

「来なくて良いのに」

 イオタは『一壊いっかい歯車はぐるま』と銘打たれた自分の戦鎚を手に取ると、素早く床を這い回る猪苗代いなわしろを捉え、ゴルフのスイングで外に追放した。イオタは突撃銃を手に取る。
 また猪苗代いなわしろが戻って来ると、今度は大きく跳び上がって体を針状に伸ばし、イオタを突き刺そうとした。

「チャンス!」

 イオタはその針の先端を銃口に噛ませて受け止め、突撃銃を手にした腕を伸ばす。
 直後、突撃銃を片手撃ちでのフル・オート射撃が始まる。
 「ダララララ……!」と言う銃声と火花による明滅の中、銃弾は猪苗代いなわしろを片端から削り飛ばし、銀色の飛沫に変えた。

「これでは時間の無駄にもならん」

 イオタは、猪苗代いなわしろの破片が寄り集まって行くのを待ち、一固まりになった所でハイパー・アシッディティーを吐いた。結果、猪苗代いなわしろは形を整える事もままならず、その場から立ち去ろうとした時点で酸の2撃目を受け、沈黙した。

「戦うなって言われてたんじゃ?」
「戦ったんじゃなくて殺したんですよ」

 ホワイトのツッコミに、イオタはニヤけて返した。

「さて、カール達は生きてるかな……」

 イオタは天井を見上げて呟いた。
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