第四の生命体#1 遭遇

岬 実

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Day33ー⑬ クラギギュ

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 敵の偶像は、生物同様に滑らかな唇の動きで言葉を続ける。

「一つ忠告するが……、この体は劣化ウランで出来ている。下手な真似はせん事だ」

 それを聞いて、ミリエラは慌てた口調で通達する。

『総員、指示が下るまでは今後一切あの悪魔……、敵の偶像には攻撃するな! 重金属汚染が起きるぞ!』
「大方、誰も我に傷を付けるなと御達しが有るだろうが、我としては人間には用は無い。無いから安心して良いが……、そこの銀髪の男、お前には死んで貰った方が良さそうだ」

 カールは、それを聞いて呟いた。

「流暢に喋ってる。それに人を襲わないのか? 第四生物にしちゃ珍しいな」
「それよりも、この市長はどうする? だってコイツは――」

 イオタが健一ジェンイーを足で小突きながら伺うが、言葉の途中でカールが遮った。

「ソイツは第五生物。超能力は絶対服従、だろ? 但し母国語の肉声、それも相手が言葉を理解や感知してないと効果が無い。今回の任務に東洋人が極端に少ないのはその為だ」
「やっぱり知ってたのか?」
「当然だ。それに詳しくは言えんが、犯罪をやってると思える点が幾つも有った。民間人のお前が嗅ぎ付ける位だしな」

 カールは言いながら、健一ジェンイーの上半身を担ぎ上げた。

「それはそれとして、あの悪魔が戦ってる隙に退避しよう。悪いけど脚側を持ってくれ」
「ああ。朱雀だったモノはここに放っておこ」

 その時、側の溶岩の一部がせり上がり、等身大のヒトの形を取り、トワイライトの姿になった。

「どこ行くんだよ?」
「くそ……! デイブレイク、急ぐぞ!」
「ああ」

 カールの指示にイオタはいそいそと健一ジェンイーの上にテレンスの生首を乗せ、脚を小脇に抱えた。

「司令官! トワイライトが操る溶岩に襲われている! 至急、いや大至急! 援護を寄越してくれ!」
『……その脇の廃ビルの屋上に、先程の大型ドローンを向かわせる。離脱出来ていないのは君達だけだ、急げ!』
「了解! デイブレイク、そこのビルの屋上に行くぞ!」

 イオタ達はそそくさとその場から去り、溶岩トワイライトは朱雀スーツェーの死体を踏み付けて火葬した後、歩いて二人を追う。
 敵の偶像は横目でイオタ達の退却を見届けると、武蔵ウーキャンに視線を戻す。

「宣言しよう。被害を抑えつつ、お前達を殺す」
「やめとけ。俺達なんぞ殺したら、お前さんの恥になる」
「『恥になる』程度の者も始末出来ない方が恥だ」
「殺しの正当化かい?」

 トワイライトの言葉と共に武蔵ウーキャンの損傷部分が直り、全砲門と機銃が敵の偶像に向く。
 その頃の溶岩トワイライトは、外壁を溶かして室内に進入した。

「撃てぃア!」

 建物と溶岩を震わせる程の砲声が響くや、曳光弾混じりの砲弾と銃弾が夜空を切り裂き、敵の偶像の胸元へ集中して迫る。
 が、その全てが空中で停止し、溶岩の無い所にゆっくりと着地した。
 その頃の溶岩トワイライトは天井をジャンプで突き破り、上階のイオタ達に追い付いた。間断無く気付いたカールに銃撃を受けて砕け散るが、すぐに寄り集まって元の形に戻る。

「砲撃じゃ駄目か? だったらハード・ワーカーだ!」
「オッケー!」

 ハード・ワーカーは応じ、トワイライトと共に敵の偶像に視線を移す。敵の偶像はおもむろに右手の掌を空に向けた。
 イオタはカールを先に行かせ、溶岩トワイライトと対峙している。挑発や、わざと近付く等で攻撃を誘い、その全てを回避して時間を稼いでいる。

「起爆しろ!」

 トワイライトの合図と同時に、ハード・ワーカーは一瞬光った。しかし、爆炎は敵の偶像の掌から細い火柱として発生し、ほどなくして消えた。

「! 何で……!」

 トワイライトは驚き、敵の偶像は嗤う。

「次はこちらの番だ」
「頃合いか……」

 決着を察して、イオタは溶岩トワイライトを放って逃走。屋上を目指す。
 空を彼方まで覆っている翼型の雷雲。その中の色取り取りの電気が武蔵ウーキャンの頭上に集中する。

「まずい!」

 トワイライトは慌てて異次元空間を発生させ、そこにハード・ワーカーを放り込む。
 同時刻、イオタは屋上に到着。

「急げ、デイブレイク!」

待機していた大型ドローンに、しがみついているカールと縛り付けられている健一ジェンイーに急かされて、自らもドローンの吊り下げ機構に掴まった。
 次の瞬間、細い雷が光線同様に一直線に落ち、昼間並みに明るい閃光の中で、武蔵ウーキャンは大爆発を起こして粉々になった。
 その破片とトワイライトは電流の余波を受けて蒸発。
 それを背景とし、イオタ達は爆風を背に受けながら、ドローンで街の外に飛び去って行く。

「ふーむ……」

 敵の偶像は軽く周囲を見回すと、真下の溶岩に両手を翳す。すると、熱気が溶岩から敵の偶像の手に移って行き、溶岩はみるみる輝きを失って元の地面に戻った。

「手助けはここまでだ。失礼する」

 敵の偶像は、粉の様にバラけて姿を消した。
 先程までの騒ぎが無かったかの様に、街に夜の静寂が戻った。
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