第四の生命体#2 奪取

岬 実

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Day40-⑪ コレゴ

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 カールがイオタを引き連れてガレージに舞い戻ると、出迎えてくれたのはすめらぎ、ではなかった。
 警察の特殊部隊の集団が、イオタ達に一斉に銃を向けたのだ。

「両手を頭の後ろにやって、座れ!」

 隊員の一人がそう指図する。
 カールは「おいおい……」と渋々従うが、イオタは「何でだ?」と棒立ちしたまま。

「おいデイブレイク、指示に従え」

 カールに服を引っ張られて、「ふん……」とノロノロ胡座をかくイオタ。
 そこへ警部が登場し、勢い良くイオタの胸ぐらを掴んだ。

「警察の邪魔のみならず、何人も何人も殺し掛けるとはどう言う了見だ!」
「仕事なもので」
「そんな事を訊いてるんじゃない! やり過ぎだと言ってるんだ!」

 イオタは、軽く息を吸って吐いて、弁解を続けた。

「最近……、再生医療が実用化間近だそうで?」
「だから!?」
「これ……、本当は言っちゃいけないんですけど、国の研究機関が実験台を求めてましてね? デイブレイクに重傷患者を多数作る様に頼んで来たそうですよ? よって、今回の案件はそれも達成出来て一石二鳥」

 カールはそれを聴いて、「そう言う事か……」と一人納得した。
 イオタは、マルセル警部の手を軽く掴んで服から手を離させた。

「何にしても、ボランティア団体の協力・任務が邪魔だと思うなら迅速に行動するんですな、お芋さん等は。まあ今回は、奴等の親分位は譲りますがね……」
「それなら、部下達が今頃捕まえてる! 君の同僚が、ヘッドが乗ってる車を砲撃したからだ! 殺す気か、全く……!」
「『死んだら死んだで構わん』と許可を受けてますが」
「っ! 悪人とは言え、人の命だ! それに更正し得る未来も有るんだぞ! 五体満足でなければ生きる事さえ難しいし!」
「言った筈だ、国に頼まれて動いていると。お芋さん程度が文句言える立場じゃない」
「……く、何て奴だ……」
「じゃ、同僚に挨拶が有るんで。失礼します」

 イオタはカールの手を引き、悠々とその場を後にし、ガレージの外に出た。
 目視出来るギリギリの遠方の道路では、道路に黒煙を上げる大穴が空いており、その脇では一台の車が横転している。そこから数人の警官に引き摺り出される、暴走族のヘッド。
 一方、館では消火活動に当たる消防士の合間を縫って、いそいそと担ぎ出される暴走族のメンバー達の姿が有った。「あ~、いて~いて~!」、「つ、つええ……」、「冗談じゃねえぜ……!」等と口々に呻きながら。
 カールは、心配そうな気味悪そうな目でそれを見送るすめらぎの肩に手を置き、イオタに訊く。

「何やったんだ、アイツ等?」
「メインは強盗と強盗致傷、副産物で人身売買と臓器密売、頼まれて武器や麻薬の運び屋、だったかな」
「クズだな。そー言えばあの市長も、賄賂を貰って虫垂を通してたんだっけ。そんなに皆、超能力を身に付けたいのか……?」
「禁制品だから欲しくなるだけだろ。それはそれとして……」

 イオタは上空を見上げ、ホバリング中のヘリコ・プターに向かって手を上げた。
 それは輸送の用途に使われる、機体前後に回転翼を持つタンデム・ローター機。機体には包みを運ぶコウノトリが描かれ、デイブレイク・マークはその包みに付いている。
 ガトリング砲を多数装備しているそれは、イオタ達からやや離れた所に、砂埃を巻き上げつつゆっくりと降り立った。
 回転翼が完全に止まった所で、イオタ達はヘリコに近付く。するとドアが開き、金ピカのロケット砲を持った、一人の若い黒人女性が現れた。
 その特徴はコーヒー色の肌をし、そこそこ背が高いのだが鼻が非常に低く幅広である。
 服装はリベットを沢山打った黒い上下レザーで、四隅と左脇が銀色に光る黒いロザリオを下げている。背中の真ん中には銀色のデイブレイクのマーク。ウェーブがかった長い髪を、星型の髪止めで左側頭部でサイド・ポニーにしている。また、メイクはラメ入りの白い物である。
 黒人女性はカールに一瞥くれると片手を挙げてイオタ達に声を掛ける。

「ムリ・シャーニ~♪ 『トゥラソニ』、今日も良い仕事した! イオタ君、すめらぎちゃん元気? トゥラソニ元気。この人、カール?」
「ンディフェ・ブウィーノ~♪ そう、この人、カール」

 黒人女性は、イオタと陽気で片言な英語の挨拶をしてカールの方を見る。
 カールは「カウ・ガールな奴の次は、ハード・ロックな奴が来やがったな」と呟きながら身分証を見せ、寧ろ気持ち、ロケット砲に注視して答えた。

「そう。俺はカール=フォスター伍長。陸軍の第四生物対策部隊極東支部・上海シャンハイ基地所属だ、トゥラソニ? さん」
「あれ、何でトゥラソニの名前知ってる? トゥラソニぃ~、『トゥラソニ=ムソンダ』。宜しく」
「………………。いやあ、ちょっとしたメンタリズムかな……」
「へー……。凄い!」

 至って真面目に驚くトゥラソニに、カールは「ハハ……」と苦笑し、トゥラソニのロケット砲を指差す。

「それよりさ……、何だそれ金管楽器のつもりか? ミサイル砲のスティンガーに似ちゃあいるが、アンテナやスコープどころか、照準器も付いてないぞ……」
「え、ああ、これはーー」

 言い掛けて、トゥラソニは遠目の山の頂上に目を向け、そこに向かっておもむろにロケット砲を構える。

「ちょっと、あっち見て」
「……ああん? 何する気だ?」
「良いから良いから。ムソンダさんが曲芸見せるから」

 若干の警戒をするカールをイオタはなだめ、カールの顔を手で山の方に向かせる。だが、カールは視線をトゥラソニから外さない。

「あっち見るけど……、変な気は起こすなよ?」
「オッケー!」

 返事を合図とし、トゥラソニはロケット砲の引金を引いた。
 一瞬、砲身の後部から火が噴き出て、「バシュウゥゥゥ……!」と言うガスの噴射音と弾の風切り音を余韻として残し、ロケット弾は一直線に飛ぶ。

「んん……?」

 カールは弾の行く先、山の頂上に目を凝らす。
 すると、山の陰から一機の武装ヘリコが姿を現し、現れた瞬間にトゥラソニの弾が命中。

「!?」

 目を剥くカールをよそに、機体は炎上しながら墜落し、木々を薙ぎ倒しながら転がり落ち、程無くして大爆発を起こして粉々になった。
 小躍りして命中を喜ぶトゥラソニ。

「命中ウェーイっ! トゥラソニ、また良い仕事した!」
「対動体の命中率92パーセント、連続命中数は83台めでしたか。を圧倒的に上回るとは神業を通り越してますな」

 和気藹々としている二人だが、反してカールは口許を押さえている。

「…………~~~~~~っ。とんでもねぇモノを見た……」

 受けたショックを力んで堪えるカールに、イオタは同意を求める。

「なあカール。このヒト凄いよな?」
「凄いなんてモンじゃねーと思うんですけど」

 カールは気を取り直して訊く。

「今撃墜したヘリはどこの奴だ? 何で接近が分かった? どうやって当てた? そのランチャーは何だ?」
「えっとね、ヘリの音、敵の雇い主で、アメリカの悪い人達が使う奴と同じ。目も耳も良いから分かった。先読みして当てた。ランチャーは、『トゥラソニの管楽器』。射程10キロ、ウチの職人が作った」
「色々カッ飛んでるが……、アメリカの悪党だと? ふーん、そうか……」

 カールは、ヘリコの操縦席に目を向けた。その機体のガラスには全てスモークが張られており、室内が見えない。

「折角だから、パイロットにも挨拶したい。会わせてくれ」
「うん、分かった」

 トゥラソニは小走りで操縦席に駆け寄ると、中の人物の手を取り、腰回りを保持して降りさせた。
 現れた人物は、第二次大戦時の戦闘機パイロット的格好をしてはいるが、肌は皺だらけ、目と口は半開きで腰の曲がった、老いた男である。

「…………………………」

 疑り深そうな目で見るカールを気にせず、トゥラソニはヨロヨロと歩く老人の手を引き、今さっきよりも何倍もの時間を掛けてイオタ達の元へ戻って来た。
 トゥラソニは老人の耳に向かって叫ぶ。

「おじーーーーちゃーーーーんっ!! この人ぉーーーーっ!! ぐ、ん、じ、ん、さ、ん、のぉーーーーっ!! カールってぇ!! ゆーんだってぇーーーーっ!!」

 その声量にカールは耳を塞ぎ、周囲の小鳥は一斉に飛び立ち、遠巻きの警官も反応した。
 対して老パイロットは「……はぁ~?」と返すだけ。
 トゥラソニは困り顔をして、老人は一旦置いてヘリコの格納庫に向かう。

「駄目だこりゃ。最近、余計、トシ取っちゃって」

 等とブツクサ良いながら戻って来た彼女の手には、医療用の杖の様な物が握られている。グリップ部分が戦闘機の操縦桿を模しており、幾つかのボタンがついているのである。

「はい、おじいちゃん、これ持って。ね?」

 杖の輪に彼の右腕を通し、取っ手を握らせる。
 すると突然、老人は背筋をシャキッと伸ばした。

「おぅっ……!?」

 カールが動揺していると、老人は、目は吊り上がり口は引き結び、肌にも見る見る張りが戻り、壮年の姿に変貌した。

「…………え、なっ。う、ううっ……」

 声もまともに発せないカールに、老人は杖で自分の掌を叩きながら質問する。

「バケモン見たかの様に驚くとは失礼な奴だな。誰だアンタ」
「あらやだ、軍人さん、カールって教えたよ、トゥラソニ。おじいちゃん」
「あ~そうかい。済まんね」

 談笑する二人をよそに、カールはイオタに訊く。

「何だこの人? え? ギャグか?」
「この人は旧カナダ人で『イーライ=ジョンストン』。今年91。若い時は、観光ヘリの操縦士だったんだってさ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「操縦桿みたいなのを持つと気合いが入るタチなんだけど、何か問題でも?」
「あれ、俺がおかしいのか……?」

 カールが腕組みして唸っていると、イーライが声を掛けた。

「でさ、怪我人を作るのはもう良いらしいから、次はヴァディムだとかのアジトに送ってやるよ。参謀からの指示だ」
「俺に拒否権は?」
「無い」
「だよね~。あー畜生!」

 カールは軽く地団駄を踏んで、イオタ達と渋々ヘリコに乗り込み、速やかにその場から飛び去って行った。
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