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Day40-⑪ コレゴ
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カールがイオタを引き連れてガレージに舞い戻ると、出迎えてくれたのは皇、ではなかった。
警察の特殊部隊の集団が、イオタ達に一斉に銃を向けたのだ。
「両手を頭の後ろにやって、座れ!」
隊員の一人がそう指図する。
カールは「おいおい……」と渋々従うが、イオタは「何でだ?」と棒立ちしたまま。
「おいデイブレイク、指示に従え」
カールに服を引っ張られて、「ふん……」とノロノロ胡座をかくイオタ。
そこへ警部が登場し、勢い良くイオタの胸ぐらを掴んだ。
「警察の邪魔のみならず、何人も何人も殺し掛けるとはどう言う了見だ!」
「仕事なもので」
「そんな事を訊いてるんじゃない! やり過ぎだと言ってるんだ!」
イオタは、軽く息を吸って吐いて、弁解を続けた。
「最近……、再生医療が実用化間近だそうで?」
「だから!?」
「これ……、本当は言っちゃいけないんですけど、国の研究機関が実験台を求めてましてね? デイブレイクに重傷患者を多数作る様に頼んで来たそうですよ? よって、今回の案件はそれも達成出来て一石二鳥」
カールはそれを聴いて、「そう言う事か……」と一人納得した。
イオタは、マルセル警部の手を軽く掴んで服から手を離させた。
「何にしても、ボランティア団体の協力・任務が邪魔だと思うなら迅速に行動するんですな、お芋さん等は。まあ今回は、奴等の親分位は譲りますがね……」
「それなら、部下達が今頃捕まえてる! 君の同僚が、ヘッドが乗ってる車を砲撃したからだ! 殺す気か、全く……!」
「『死んだら死んだで構わん』と許可を受けてますが」
「っ! 悪人とは言え、人の命だ! それに更正し得る未来も有るんだぞ! 五体満足でなければ生きる事さえ難しいし!」
「言った筈だ、国に頼まれて動いていると。お芋さん程度が文句言える立場じゃない」
「……く、何て奴だ……」
「じゃ、同僚に挨拶が有るんで。失礼します」
イオタはカールの手を引き、悠々とその場を後にし、ガレージの外に出た。
目視出来るギリギリの遠方の道路では、道路に黒煙を上げる大穴が空いており、その脇では一台の車が横転している。そこから数人の警官に引き摺り出される、暴走族のヘッド。
一方、館では消火活動に当たる消防士の合間を縫って、いそいそと担ぎ出される暴走族のメンバー達の姿が有った。「あ~、いて~いて~!」、「つ、つええ……」、「冗談じゃねえぜ……!」等と口々に呻きながら。
カールは、心配そうな気味悪そうな目でそれを見送る皇の肩に手を置き、イオタに訊く。
「何やったんだ、アイツ等?」
「メインは強盗と強盗致傷、副産物で人身売買と臓器密売、頼まれて武器や麻薬の運び屋、だったかな」
「クズだな。そー言えばあの市長も、賄賂を貰って虫垂を通してたんだっけ。そんなに皆、超能力を身に付けたいのか……?」
「禁制品だから欲しくなるだけだろ。それはそれとして……」
イオタは上空を見上げ、ホバリング中のヘリコ・プターに向かって手を上げた。
それは輸送の用途に使われる、機体前後に回転翼を持つタンデム・ローター機。機体には包みを運ぶコウノトリが描かれ、デイブレイク・マークはその包みに付いている。
ガトリング砲を多数装備しているそれは、イオタ達からやや離れた所に、砂埃を巻き上げつつゆっくりと降り立った。
回転翼が完全に止まった所で、イオタ達はヘリコに近付く。するとドアが開き、金ピカのロケット砲を持った、一人の若い黒人女性が現れた。
その特徴はコーヒー色の肌をし、そこそこ背が高いのだが鼻が非常に低く幅広である。
服装はリベットを沢山打った黒い上下レザーで、四隅と左脇が銀色に光る黒いロザリオを下げている。背中の真ん中には銀色のデイブレイクのマーク。ウェーブがかった長い髪を、星型の髪止めで左側頭部でサイド・ポニーにしている。また、メイクはラメ入りの白い物である。
黒人女性はカールに一瞥くれると片手を挙げてイオタ達に声を掛ける。
「ムリ・シャーニ~♪ 『トゥラソニ』、今日も良い仕事した! イオタ君、皇ちゃん元気? トゥラソニ元気。この人、カール?」
「ンディフェ・ブウィーノ~♪ そう、この人、カール」
黒人女性は、イオタと陽気で片言な英語の挨拶をしてカールの方を見る。
カールは「カウ・ガールな奴の次は、ハード・ロックな奴が来やがったな」と呟きながら身分証を見せ、寧ろ気持ち、ロケット砲に注視して答えた。
「そう。俺はカール=フォスター伍長。陸軍の第四生物対策部隊極東支部・上海基地所属だ、トゥラソニ? さん」
「あれ、何でトゥラソニの名前知ってる? トゥラソニぃ~、『トゥラソニ=ムソンダ』。宜しく」
「………………。いやあ、ちょっとしたメンタリズムかな……」
「へー……。凄い!」
至って真面目に驚くトゥラソニに、カールは「ハハ……」と苦笑し、トゥラソニのロケット砲を指差す。
「それよりさ……、何だそれ金管楽器のつもりか? ミサイル砲のスティンガーに似ちゃあいるが、アンテナやスコープどころか、照準器も付いてないぞ……」
「え、ああ、これはーー」
言い掛けて、トゥラソニは遠目の山の頂上に目を向け、そこに向かっておもむろにロケット砲を構える。
「ちょっと、あっち見て」
「……ああん? 何する気だ?」
「良いから良いから。ムソンダさんが曲芸見せるから」
若干の警戒をするカールをイオタはなだめ、カールの顔を手で山の方に向かせる。だが、カールは視線をトゥラソニから外さない。
「あっち見るけど……、変な気は起こすなよ?」
「オッケー!」
返事を合図とし、トゥラソニはロケット砲の引金を引いた。
一瞬、砲身の後部から火が噴き出て、「バシュウゥゥゥ……!」と言うガスの噴射音と弾の風切り音を余韻として残し、ロケット弾は一直線に飛ぶ。
「んん……?」
カールは弾の行く先、山の頂上に目を凝らす。
すると、山の陰から一機の武装ヘリコが姿を現し、現れた瞬間にトゥラソニの弾が命中。
「!?」
目を剥くカールをよそに、機体は炎上しながら墜落し、木々を薙ぎ倒しながら転がり落ち、程無くして大爆発を起こして粉々になった。
小躍りして命中を喜ぶトゥラソニ。
「命中ウェーイっ! トゥラソニ、また良い仕事した!」
「対動体の命中率92パーセント、連続命中数は83台めでしたか。命中率で男のを圧倒的に上回るとは神業を通り越してますな」
和気藹々としている二人だが、反してカールは口許を押さえている。
「…………~~~~~~っ。とんでもねぇモノを見た……」
受けたショックを力んで堪えるカールに、イオタは同意を求める。
「なあカール。このヒト凄いよな?」
「凄いなんてモンじゃねーと思うんですけど」
カールは気を取り直して訊く。
「今撃墜したヘリはどこの奴だ? 何で接近が分かった? どうやって当てた? そのランチャーは何だ?」
「えっとね、ヘリの音、敵の雇い主で、アメリカの悪い人達が使う奴と同じ。目も耳も良いから分かった。先読みして当てた。ランチャーは地対空無反動砲、『トゥラソニの管楽器』。射程10キロ、ウチの職人が作った」
「色々カッ飛んでるが……、アメリカの悪党だと? ふーん、そうか……」
カールは、ヘリコの操縦席に目を向けた。その機体のガラスには全てスモークが張られており、室内が見えない。
「折角だから、パイロットにも挨拶したい。会わせてくれ」
「うん、分かった」
トゥラソニは小走りで操縦席に駆け寄ると、中の人物の手を取り、腰回りを保持して降りさせた。
現れた人物は、第二次大戦時の戦闘機パイロット的格好をしてはいるが、肌は皺だらけ、目と口は半開きで腰の曲がった、老いた男である。
「…………………………」
疑り深そうな目で見るカールを気にせず、トゥラソニはヨロヨロと歩く老人の手を引き、今さっきよりも何倍もの時間を掛けてイオタ達の元へ戻って来た。
トゥラソニは老人の耳に向かって叫ぶ。
「おじーーーーちゃーーーーんっ!! この人ぉーーーーっ!! ぐ、ん、じ、ん、さ、ん、のぉーーーーっ!! カールってぇ!! ゆーんだってぇーーーーっ!!」
その声量にカールは耳を塞ぎ、周囲の小鳥は一斉に飛び立ち、遠巻きの警官も反応した。
対して老パイロットは「……はぁ~?」と返すだけ。
トゥラソニは困り顔をして、老人は一旦置いてヘリコの格納庫に向かう。
「駄目だこりゃ。最近、余計、トシ取っちゃって」
等とブツクサ良いながら戻って来た彼女の手には、医療用の杖の様な物が握られている。グリップ部分が戦闘機の操縦桿を模しており、幾つかのボタンがついているのである。
「はい、おじいちゃん、これ持って。ね?」
杖の輪に彼の右腕を通し、取っ手を握らせる。
すると突然、老人は背筋をシャキッと伸ばした。
「おぅっ……!?」
カールが動揺していると、老人は、目は吊り上がり口は引き結び、肌にも見る見る張りが戻り、壮年の姿に変貌した。
「…………え、なっ。う、ううっ……」
声もまともに発せないカールに、老人は杖で自分の掌を叩きながら質問する。
「バケモン見たかの様に驚くとは失礼な奴だな。誰だアンタ」
「あらやだ、軍人さん、カールって教えたよ、トゥラソニ。おじいちゃん」
「あ~そうかい。済まんね」
談笑する二人をよそに、カールはイオタに訊く。
「何だこの人? え? ギャグか?」
「この人は旧カナダ人で『イーライ=ジョンストン』。今年91。若い時は、観光ヘリの操縦士だったんだってさ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「操縦桿みたいなのを持つと気合いが入るタチなんだけど、何か問題でも?」
「あれ、俺がおかしいのか……?」
カールが腕組みして唸っていると、イーライが声を掛けた。
「でさ、怪我人を作るのはもう良いらしいから、次はヴァディムだとかのアジトに送ってやるよ。参謀からの指示だ」
「俺に拒否権は?」
「無い」
「だよね~。あー畜生!」
カールは軽く地団駄を踏んで、イオタ達と渋々ヘリコに乗り込み、速やかにその場から飛び去って行った。
警察の特殊部隊の集団が、イオタ達に一斉に銃を向けたのだ。
「両手を頭の後ろにやって、座れ!」
隊員の一人がそう指図する。
カールは「おいおい……」と渋々従うが、イオタは「何でだ?」と棒立ちしたまま。
「おいデイブレイク、指示に従え」
カールに服を引っ張られて、「ふん……」とノロノロ胡座をかくイオタ。
そこへ警部が登場し、勢い良くイオタの胸ぐらを掴んだ。
「警察の邪魔のみならず、何人も何人も殺し掛けるとはどう言う了見だ!」
「仕事なもので」
「そんな事を訊いてるんじゃない! やり過ぎだと言ってるんだ!」
イオタは、軽く息を吸って吐いて、弁解を続けた。
「最近……、再生医療が実用化間近だそうで?」
「だから!?」
「これ……、本当は言っちゃいけないんですけど、国の研究機関が実験台を求めてましてね? デイブレイクに重傷患者を多数作る様に頼んで来たそうですよ? よって、今回の案件はそれも達成出来て一石二鳥」
カールはそれを聴いて、「そう言う事か……」と一人納得した。
イオタは、マルセル警部の手を軽く掴んで服から手を離させた。
「何にしても、ボランティア団体の協力・任務が邪魔だと思うなら迅速に行動するんですな、お芋さん等は。まあ今回は、奴等の親分位は譲りますがね……」
「それなら、部下達が今頃捕まえてる! 君の同僚が、ヘッドが乗ってる車を砲撃したからだ! 殺す気か、全く……!」
「『死んだら死んだで構わん』と許可を受けてますが」
「っ! 悪人とは言え、人の命だ! それに更正し得る未来も有るんだぞ! 五体満足でなければ生きる事さえ難しいし!」
「言った筈だ、国に頼まれて動いていると。お芋さん程度が文句言える立場じゃない」
「……く、何て奴だ……」
「じゃ、同僚に挨拶が有るんで。失礼します」
イオタはカールの手を引き、悠々とその場を後にし、ガレージの外に出た。
目視出来るギリギリの遠方の道路では、道路に黒煙を上げる大穴が空いており、その脇では一台の車が横転している。そこから数人の警官に引き摺り出される、暴走族のヘッド。
一方、館では消火活動に当たる消防士の合間を縫って、いそいそと担ぎ出される暴走族のメンバー達の姿が有った。「あ~、いて~いて~!」、「つ、つええ……」、「冗談じゃねえぜ……!」等と口々に呻きながら。
カールは、心配そうな気味悪そうな目でそれを見送る皇の肩に手を置き、イオタに訊く。
「何やったんだ、アイツ等?」
「メインは強盗と強盗致傷、副産物で人身売買と臓器密売、頼まれて武器や麻薬の運び屋、だったかな」
「クズだな。そー言えばあの市長も、賄賂を貰って虫垂を通してたんだっけ。そんなに皆、超能力を身に付けたいのか……?」
「禁制品だから欲しくなるだけだろ。それはそれとして……」
イオタは上空を見上げ、ホバリング中のヘリコ・プターに向かって手を上げた。
それは輸送の用途に使われる、機体前後に回転翼を持つタンデム・ローター機。機体には包みを運ぶコウノトリが描かれ、デイブレイク・マークはその包みに付いている。
ガトリング砲を多数装備しているそれは、イオタ達からやや離れた所に、砂埃を巻き上げつつゆっくりと降り立った。
回転翼が完全に止まった所で、イオタ達はヘリコに近付く。するとドアが開き、金ピカのロケット砲を持った、一人の若い黒人女性が現れた。
その特徴はコーヒー色の肌をし、そこそこ背が高いのだが鼻が非常に低く幅広である。
服装はリベットを沢山打った黒い上下レザーで、四隅と左脇が銀色に光る黒いロザリオを下げている。背中の真ん中には銀色のデイブレイクのマーク。ウェーブがかった長い髪を、星型の髪止めで左側頭部でサイド・ポニーにしている。また、メイクはラメ入りの白い物である。
黒人女性はカールに一瞥くれると片手を挙げてイオタ達に声を掛ける。
「ムリ・シャーニ~♪ 『トゥラソニ』、今日も良い仕事した! イオタ君、皇ちゃん元気? トゥラソニ元気。この人、カール?」
「ンディフェ・ブウィーノ~♪ そう、この人、カール」
黒人女性は、イオタと陽気で片言な英語の挨拶をしてカールの方を見る。
カールは「カウ・ガールな奴の次は、ハード・ロックな奴が来やがったな」と呟きながら身分証を見せ、寧ろ気持ち、ロケット砲に注視して答えた。
「そう。俺はカール=フォスター伍長。陸軍の第四生物対策部隊極東支部・上海基地所属だ、トゥラソニ? さん」
「あれ、何でトゥラソニの名前知ってる? トゥラソニぃ~、『トゥラソニ=ムソンダ』。宜しく」
「………………。いやあ、ちょっとしたメンタリズムかな……」
「へー……。凄い!」
至って真面目に驚くトゥラソニに、カールは「ハハ……」と苦笑し、トゥラソニのロケット砲を指差す。
「それよりさ……、何だそれ金管楽器のつもりか? ミサイル砲のスティンガーに似ちゃあいるが、アンテナやスコープどころか、照準器も付いてないぞ……」
「え、ああ、これはーー」
言い掛けて、トゥラソニは遠目の山の頂上に目を向け、そこに向かっておもむろにロケット砲を構える。
「ちょっと、あっち見て」
「……ああん? 何する気だ?」
「良いから良いから。ムソンダさんが曲芸見せるから」
若干の警戒をするカールをイオタはなだめ、カールの顔を手で山の方に向かせる。だが、カールは視線をトゥラソニから外さない。
「あっち見るけど……、変な気は起こすなよ?」
「オッケー!」
返事を合図とし、トゥラソニはロケット砲の引金を引いた。
一瞬、砲身の後部から火が噴き出て、「バシュウゥゥゥ……!」と言うガスの噴射音と弾の風切り音を余韻として残し、ロケット弾は一直線に飛ぶ。
「んん……?」
カールは弾の行く先、山の頂上に目を凝らす。
すると、山の陰から一機の武装ヘリコが姿を現し、現れた瞬間にトゥラソニの弾が命中。
「!?」
目を剥くカールをよそに、機体は炎上しながら墜落し、木々を薙ぎ倒しながら転がり落ち、程無くして大爆発を起こして粉々になった。
小躍りして命中を喜ぶトゥラソニ。
「命中ウェーイっ! トゥラソニ、また良い仕事した!」
「対動体の命中率92パーセント、連続命中数は83台めでしたか。命中率で男のを圧倒的に上回るとは神業を通り越してますな」
和気藹々としている二人だが、反してカールは口許を押さえている。
「…………~~~~~~っ。とんでもねぇモノを見た……」
受けたショックを力んで堪えるカールに、イオタは同意を求める。
「なあカール。このヒト凄いよな?」
「凄いなんてモンじゃねーと思うんですけど」
カールは気を取り直して訊く。
「今撃墜したヘリはどこの奴だ? 何で接近が分かった? どうやって当てた? そのランチャーは何だ?」
「えっとね、ヘリの音、敵の雇い主で、アメリカの悪い人達が使う奴と同じ。目も耳も良いから分かった。先読みして当てた。ランチャーは地対空無反動砲、『トゥラソニの管楽器』。射程10キロ、ウチの職人が作った」
「色々カッ飛んでるが……、アメリカの悪党だと? ふーん、そうか……」
カールは、ヘリコの操縦席に目を向けた。その機体のガラスには全てスモークが張られており、室内が見えない。
「折角だから、パイロットにも挨拶したい。会わせてくれ」
「うん、分かった」
トゥラソニは小走りで操縦席に駆け寄ると、中の人物の手を取り、腰回りを保持して降りさせた。
現れた人物は、第二次大戦時の戦闘機パイロット的格好をしてはいるが、肌は皺だらけ、目と口は半開きで腰の曲がった、老いた男である。
「…………………………」
疑り深そうな目で見るカールを気にせず、トゥラソニはヨロヨロと歩く老人の手を引き、今さっきよりも何倍もの時間を掛けてイオタ達の元へ戻って来た。
トゥラソニは老人の耳に向かって叫ぶ。
「おじーーーーちゃーーーーんっ!! この人ぉーーーーっ!! ぐ、ん、じ、ん、さ、ん、のぉーーーーっ!! カールってぇ!! ゆーんだってぇーーーーっ!!」
その声量にカールは耳を塞ぎ、周囲の小鳥は一斉に飛び立ち、遠巻きの警官も反応した。
対して老パイロットは「……はぁ~?」と返すだけ。
トゥラソニは困り顔をして、老人は一旦置いてヘリコの格納庫に向かう。
「駄目だこりゃ。最近、余計、トシ取っちゃって」
等とブツクサ良いながら戻って来た彼女の手には、医療用の杖の様な物が握られている。グリップ部分が戦闘機の操縦桿を模しており、幾つかのボタンがついているのである。
「はい、おじいちゃん、これ持って。ね?」
杖の輪に彼の右腕を通し、取っ手を握らせる。
すると突然、老人は背筋をシャキッと伸ばした。
「おぅっ……!?」
カールが動揺していると、老人は、目は吊り上がり口は引き結び、肌にも見る見る張りが戻り、壮年の姿に変貌した。
「…………え、なっ。う、ううっ……」
声もまともに発せないカールに、老人は杖で自分の掌を叩きながら質問する。
「バケモン見たかの様に驚くとは失礼な奴だな。誰だアンタ」
「あらやだ、軍人さん、カールって教えたよ、トゥラソニ。おじいちゃん」
「あ~そうかい。済まんね」
談笑する二人をよそに、カールはイオタに訊く。
「何だこの人? え? ギャグか?」
「この人は旧カナダ人で『イーライ=ジョンストン』。今年91。若い時は、観光ヘリの操縦士だったんだってさ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「操縦桿みたいなのを持つと気合いが入るタチなんだけど、何か問題でも?」
「あれ、俺がおかしいのか……?」
カールが腕組みして唸っていると、イーライが声を掛けた。
「でさ、怪我人を作るのはもう良いらしいから、次はヴァディムだとかのアジトに送ってやるよ。参謀からの指示だ」
「俺に拒否権は?」
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