第四の生命体#2 奪取

岬 実

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Day40-⑬ ラピダ・マルラピダ

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  イオタ達のヘリコはややあって、内陸部の荒廃都市の上空に進入していた。
  人工物はことごとく円形の穴が空いており、そこを起点として風化が進んでいる。建物は殆どが倒壊し、アスファルトは細かく砕けている。そこを雑草が侵食しており、人骨がそこかしこに転がっている。
  そんな廃墟を見下ろしてカールはボヤく。

「俺が言うのも何だが、内陸の復興はいつになるやら……」

  それにイーライは返す。

「それは仕方無い。今は把握出来てる世界人口が約9億だそうだし、中々手も回らないんだろう。オマケに内陸に行く程第四生物と悪党共の巣窟だしな」

  その時、トゥラソニが「あっ」と声をあげた。

「どうしました?」

  とイオタが問うと、トゥラソニは「あれ……」と遠くの地面を指差した。
  そこには、周りに反して無傷の車両基地が一つ。
  カタツムリの殻を模した車庫が五つ在り、そこから伸びた転車台から、一本の線路。その線路の端はカタツムリの眼の様に長く、天を向いている。

勇示ゆうじ、あれって?」
『もう調べた。アイツは軍からもマークされてる第四生物、「素早いノロマ」。乱入されたとは言え第四生物対策部隊の1個中隊を壊滅させたヤツだ。注意しろ』
「どの辺に注意しろって? 何? 『ソイツは新幹線並みのスピードで動けてだな――』?」

 勇示ゆうじの説明をイオタが英訳し始めると同時に、素早いノロマはイオタ達の方に顔を向け、話の通りのスピードで猛追して来た。

「おいおい、不測の戦闘か! ちょっと固定銃座を借りるぞ!?」
「『新幹線の先頭車両型の電磁加速弾を放って来る』んだってよ」
「のんびりしてんな! 攻撃されなきゃ緊張する必要も無いってな!」

 カールはガトリングの銃口を素早いノロマに向け、「ズギャアアアアアア」と光線にも見える連射速度の弾を放った。
 しかし、その弾は車庫や線路や可動域等、どこに当てても火花をあげて弾かれるばかり。

「チ! ガトリングじゃ駄目だ! 他にも武器は!」
「これ使って!」

 トゥラソニはリクエストに答え、武器が複数置いてある棚から『M320エムさんにゼロ』と呼ばれるグレネード発射器と、人の膝から下程の長さの弾が複数入ったケースを、カールとすめらぎに手渡した。

「何だこれ!?」

 カールは弾を装填しているすめらぎのベルトに、壁から伸びるヒモを固定してやりながら訊いた。

「新型ロケット弾! 小さい! でも、戦車も致命傷!」
「そう言えば最新型にこんなのが有った気もする!」

 自分の固定と装填も終え、カールは返事をしながら素早いノロマに砲口を向け、スコープを覗きながら質問する。

「ゼロは!?」
「1093!」
「OK!」

 それを合図に、カールとすめらぎはロケット弾を発射。
 「ドギュ」と一瞬緩く飛び出した弾は間髪入れずにブースターに点火し、急加速して一直線に車庫部分に着弾。周囲の木がしなり、盛大に砂埃が舞う大爆発を二つも起こした。
 しかし、爆炎の中から現れた命中箇所は、ヘコミはしても未だシルエットは保っている。

「くそ! アイツ戦車より硬い装甲なのか!」

 悔しがるカール。対して素早いノロマは車庫から内臓の様なデザインの、尖った赤い車両を出し、転車台に乗せる。

「ヤバイ! 撃つ気だ! 阻止しろ!」

 急いでリロードをするカールだが、イーライがそれを制した。

「いや、撃たせろ。弾の無駄だ」
「聞いてたのか!? 電磁加速弾だぞ!? 避けられる訳ねーだろ!」
「信用ねーなー。ぜってー避けるって」
「どっから来るんだその自信は!」
「経験と訓練」
「あーもー! 信じるぞ、オイ!」

 言い合いをしている間、イーライは機体高度を下げ、地面スレスレを飛行させる。
 対して素早いノロマは一旦脚を止め、ヘリコに狙いを定め始めた。

「わざと狙い易くしてんだ、ホラ撃って来い! お前等は衝撃に備えろ!」
「はいはい!」

 素早いノロマの車両は線路上を進んで、加速度的にスピードを上げる。

「カウント! 3、2、1!」

 1で、イーライは機体を急上昇させる。

「ゼロ!」
「緊張するぞぉ!」
「多分命中する!」
「何!」

 イーライが合図したタイミングで、素早いノロマの車両は放たれた。
 目に見える程の衝撃波を発生させ、自身の車輪すら千切れ飛ばし、車両は飛来する。
 果たして車両は、イーライの機体に命中。
 ……せずに、遥か下方を通り過ぎて行くだけだった。
 しかし衝撃波で機体はかなり揺さぶられ、スピードが落ちた所で素早いノロマに追い付かれてしまった。
 素早いノロマは鎌首をもたげてヘリコを押し潰そうとする。

「当たるかよ、ノロマな素早いノロマ!」

 イーライは悠々と操縦桿を切り、機体を急転回させて回避。
 素早いノロマは転車台に次の車両を進め、第2射の準備をする。

「おっと」

 直後に、発車した電車の前方、イオタは線路にプロミネンスを撃ち込んだ。
 弾は車両の鼻先に命中。発生した高温の金属流は車体と線路には無傷だったが、車輪は吹き飛ばし、電車は鼻を線路に打ち付ける。そして前方回転しながら宙を舞った。
 行く手に落下したそれに追突した素早いノロマは、大きく体勢を崩す。その隙に、ヘリコは距離を開けた。

「ナイスゥ~♪」
わたくしも良い仕事した♪」

 ハイ・タッチをするイオタとトゥラソニ。反して、カールはイーライに文句を言う。

「当たるとか言うからビビッちまったぜ!」
「当たってるよ、コソ泥兄妹のアジトに」
「そっちかよ!?」
「俺は『危険なコウノトリ』なんて呼ばれるが、送り付けるのは人だけじゃない」

―――――

 カールとイーライが会話をしている同時刻、ヴァディム兄妹の拠点にて。
 先刻と同じ様にフランチェスカが部屋に駆け込んで来て告げる。

「フランシスお兄ちゃん! デイブレイクの奴等がこっちに向かってる! 早く逃げよう!?」
「おう。コソコソ逃げるのは性に合わねーが、しかし暴走族って使えねーな」
「それも素早いノロマも連れて来てる!」
「何だと!?」

 フランシスは反射的に、外を映す複数の監視カメラの画面を注視する。
 その内の一つに、空の彼方に小さい点が現れた。

「ん」

 それは先程躱した、素早いノロマの流れ弾であった。

「素早いノロマの弾! 伏せろぉぉ!」

 フランシスがフランチェスカを押し倒して覆い被さり、次いで自分の頭を防御したが早いか、弾を映していた画面は真っ暗になり、同時に地震より強力な揺れが部屋を襲う。
 家財は倒れ、天井は軋んで埃を降らす。

「うおおおおおお、無茶苦茶しやがる!」
「潰されちゃうう~っ!」
「壷のラドンパが作ったシェルターを信じろ!」

 二人に出来る事は、信じて耐える事だけだった。
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