天使の住まう都から

星ノ雫

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一章

011 剣術の講習

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 午後からは冒険者ギルドで剣術の講習だ。
 まずはギルドに行く前に、昨日購入した籠手こて臑当すねあてを受け取りに防具屋へ寄る。

「こんにちはー」

「はい、いらっしゃい。お、昨日のお兄さん。ちゃんとできてるよ。――ちょっと待っててね、今出してくるから」

 そう言いうとドワーフのお姉さんは奥へ行って、俺の防具を持ってきてくれた。

「んじゃ、合わせてみるかね」

 早速お姉さんに付け方を教えてもらいながら装備させてもらう。

「見た感じよさそうだけど、どう? 変な所ない?」

「……うん、大丈夫です。良いですね。大満足です!」

「それは良かったよー」

 お姉さんはニコッと笑い、俺の言葉に満足して頷いた。
 早速残りの代金の支払いを済ませる。

「お金の工面ができたら胸当てなんかも買っておくれよ」

「分かりました」

 そう言葉を返し店を出ようとしたら、ふと掛けてあった帽子に目が留まる。そこには、インディ・ジョーンズがかぶっていたようなデザインの、革製の帽子があった。
 帽子か……日除けとしても安全帽代わりとしても、一つは持っていた方がいいかもな。――値札を見ると、なんとか買えそうだ。

「あっ、これなら買えそうです」

 帽子を手に取ると、お姉さんに代金と一緒に渡す。

「まいどありっ!」

 お姉さんはにこやかにお礼の言葉を述べてくれると、値札を取ってくれた。
 早速かぶってみる。

「おっ、いいじゃないかお兄さん。男前だよっ!」

「ははっ、ありがとう」

 お姉さんのお世辞にちょっと照れながら店を後にする。店のショーウィンドウに映る帽子をかぶった姿は、なかなか様になっていた。
 うん、いいね。この帽子を被って俺も冒険するぜっ!



 冒険者ギルドの受付で受講料を払い、ギルド裏の訓練施設へ行く。

 既に自分以外では四人ほどいた。それぞれ自分の得意な得物と思われる木剣を持っている。
 そのうち三人は先日の身体強化魔法の講習でも見た顏で、彼らもこちらに気が付いた。

「よぅ、昨日のおっさんじゃん。身体強化、ちったあできるようになったか?」

 思ってたよりフレンドリーに話しかけてくれる。ちょっと嬉しい。

「いやー、まだ全然」

「なんだよ危なっかしいなー」

「まあぼちぼちやってくよ。それより、君らこの講習にも参加してんだな」

「まーなー、人の斬り方は教えてくれる奴いねーからな」

「あの講習にいた奴らは、ダンジョン行かない日は結構来てんですよ」

 そんな事を、もう一人の少年が教えてくれる。

「へぇー、意外だな。皆ひたすらダンジョンに潜ってるのかと思ってたよ」

「まぁおっさんもダンジョン行けるようになったら分かんだろうけど、あそこは人殺す技術がなきゃヤバイ」

「低層で一番怖いのは冒険者狩りですからね」

 何だその冒険者狩りって。オヤジ狩りかよ、物騒だな。

「……きたぞ」

 もう一人の寡黙そうな少年の声に振り向くと、髭を貯えたナイスミドルがこちらにやってくるのが見えた。
 彼が指導員なのかな? パンパンと手を叩き皆を注目させる。

「それでは始めようか。皆集まりたまえ」

 彼はそう言うと受講者を見渡す。

「今日は初めての受講者がいるので改めて紹介させていただく。私が当ギルドで剣術や槍術の講師を務めるマリウスだ。よろしく」

 マリウスさんはどちらかというと冒険者というよりは、騎士と言った方がいい佇まいをしていた。
 まずは全員で軽く柔軟を終えた後、俺以外は素振りをする事になる。

 俺はこれまで全く剣を振った事が無い事を伝える。

「聞いている。ミリア君にみっちりしごいてくれと頼まれているよ。……得物は一応持っているんだね」

 俺の剣を見ると、それに近い木剣を選んでくれた。
 そしてまずは基本的な構えや振り方を教えてもらう。

「しばらく続けるように」

 そう俺に言い、マリウスさんは他の受講生の指導に向かった。
 俺はひたすら素振りを繰り返す。

 結構疲れてきた頃に、マリウスさんが戻って来た。

「君は剣を振った事が無い割りに体幹がしっかりしているね。変な癖も付いて無さそうで良い。次は足さばきを加えて振る練習をしてみよう」

 今度は足さばきを教えてもらい、立ち位置を変えながら、ひたすら振る。
 ……さっきからずっと振ってるから段々と辛くなってきたぞ。手も豆ができたようで痛い。

 少年たちは、どうやら今度はマリウスさんと一人ずつ打ち合いをしている。
 彼らが言っていたように、対人技術を中心に学んでいるようだ。

 結局この日は素振りだけで終わってしまった。腕がパンパンで、めちゃくちゃキツイ……。



 それから俺は、午前は魔力マナの鍛錬で午後は剣術の鍛錬という生活を続け、一週間ほどが経った。

「よーし、おっさんいくぞー」

 そう言い少年たち三人が、目と口が書かれたクッションを付けてある槍のような棒を突き出してくる。

「とりあえず三匹同時の攻撃にも対処できるようになってください」

 俺はマリウスさんの言葉に頷き、剣で弾き、さばき、回し込み、なんとか攻撃をさばいていく。

「おらおら! 剣当てねえとネズミは減らねえぞ!」

 少年たちは容赦なくいろんな角度や高さから突いたり払ったりしてくる。

「ちょ、ちょっとまっ……あだっ!」

 足を思いっきり払われ素っ転んでしまうと、透かさずマリウスさんに叱咤される。

「もっと足や左手の松明たいまつも上手く活用しなさい」

 俺は今、小・中型の魔物対策の訓練を行っている。直近の目標である大ネズミ対策だね。
 人が獣を真似て突進するよりも槍の突きの方が鋭く速いため、一緒に学んでいる少年たちが大ネズミを想定して様々な角度から鋭い攻撃を入れてくれるのだ。

「よーし、次俺な!」

 とは言え、俺だけが皆の時間を使ってしまう訳にはいかないので、ローテーションで少年たちもやっている。
 狭い暗所での戦闘を想定しているため、少年も俺と同じショートソードの木剣に火の付いてない松明たいまつを持っている。

 彼らの方が先輩なのでやはり動きも良いが、最近は俺も、少しは剣を振れるようになってはきていた。

「外皮強化はできるようになりましたか?」

 息を整えている俺の所に、やってきたマリウスさんがそう尋ねてきた。

「そうですね……、昨日なんとか……、できるように、なりました……」

 ぜぇはぁ言いながら答える。――そう、なんと俺は昨日からついに身体強化の初歩ともいえる外皮強化が使えるようになったのだ!
 初めての魔法ができた時には思わず涙出ちゃったよ俺!

「それは結構。剣さばきも見れるようになってきたので、ホーンラビットを狩る位なら大丈夫とミリア君に伝えておきましょう」

「……! ありがとうございます!」

 よし、やっと都市の外を散策できる位のお墨付きがもらえた!
 懐事情もかなりヤバくなってきていたので、早速明日は何かしらの依頼を受けてみよう。



 俺は朝早くに起きて、常設依頼の薬草採取に行く事にした。
 昨晩のうちにミリアさんと大家さんに告げると、大家さんからは回復薬を一瓶頂いた。

 朝靄あさもやが立ちこめるまだ早い時間を、教えられた道順に従い薬草のある山間やまあいに向かって足早に駆けていく。
 自衛隊にいた頃は体力作りのため毎日十キロは走っていたから、これくらいの駆け足は問題ない。
 むしろ今は魔力マナがある分、日に日に身体能力が上がっている気もする。

 山に続く林の辺りまで来たので、水筒の水を一口飲み息を整える。この先にある渓流に、本日採取する予定のケルナコという薬草が自生している。
 ここからは用心のため、外皮強化を常時発動させて慎重に進んでいく事となる。

 しかし外皮強化は凄いね。虫刺されや藪漕やぶこぎでの擦り傷など全く気にする必要がない。ずんずんと進んで行ける。
 暫く進んで行くと川の音が聞こえてきた。とりあえず方向が合っていた事に安堵する。

 無事に渓流へ出ると、ここからは上流に向かって登って行く。――暫く進むと……あった!
 大家さんに教えてもらった姿形をした薬草が、まばらにではあるが生えている。俺はホルスターから剪定ばさみを取り出すと、数株残しながらチョキチョキと採取していく。

 暫くは順調に採取をしながら沢登りをしていたのだが……。渓流のとろに近づいた辺りで俺は足を止めてしまう。

 ――この先に何かいる……!

 何かの気配を察知し、緊張が走る。俺は剣を抜くと外皮強化の度合いを上げ、音を立てないよう慎重に歩を進めていく。
 ここで引き返すのであれば、遭遇せずに済むだろう。だけど今の俺は、特訓の成果を試してみたいという気持ちの方が勝っていた。

 さて、獣か魔物か……。
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