天使の住まう都から

星ノ雫

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一章

026 邪竜ギリメカリス

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 ――バゴン!!!

 ラキちゃんは立ち上がると、今にもブレスを放とうと口を膨らませていたギリメカリスの顎の下にテレポートし、強烈なアッパーを食らわした。
 なんとギリメカリスの巨体が軽々と浮き上がってしまう。

「グフファ!?」

 ――ボフン!!!

 放とうとしていたブレスが行き場を失いギリメカリスの顔を焼く。

「ナ!?」

 ギリメカリスは何が起こったのか理解できないようで、唖然としている。
 その目の前に六枚の光の翼を纏ったラキちゃんが握りこぶしを固めて立ちふさがっていた。

「ナッ、ナンダオ前ハ!?」

「お前なんか、どっかいっちゃえー!」

 ギリメカリスの顔面に強烈なラキちゃんのグーパンチが放たれる。

――ドゴォン!!!

 ギリメカリスは恐ろしいほどの勢いで吹き飛ばされ、地面を跳ねながらドラゴニア帝国との国境になっている山脈の中腹に打ち付けられた。
 リアルでドラゴンボールのような吹き飛び方を目の当たりにして、驚愕してしまう。

「ギリメカリス様ー!!!」

 それからラキちゃんは叫び声を上げている連中に向き、天高く上げた両手を振り下ろした。

 ――ズドドドドーン!!!

 物凄い爆音と共に飛竜兵、騎竜兵全てが雷に打たれ、動ける竜人の兵団は一瞬でいなくなった。
 次はサンダーブレークですか! 何という必殺パワー!

 俺は気を失ったままの大家さんの傍らで唖然としながらラキちゃんを見つめていると、ラキちゃんは何か頷く仕草をした。
 ラクス様かサラス様と会話しているのだろうか? そう思った矢先、周囲の魔力マナが暴風の如く急激にラキちゃんに集まりだし、なびく銀髪が金色に輝きだす。
 そしてギリメカリスの方角へ構えると、ラキちゃんの第三の目の辺りから カッ! と高出力のビームが放たれた。

――グゴォォォォ……。

 物凄い爆発が起こり、かなり距離があるのに爆風がこちらまで届いて来ている。
 えぇ……すごーい、バスターランチャーみたーい……。
 暫くして爆発が収まると、ギリメカリス諸共山脈が抉れていた。溶けた岩肌がここからでも見えるくらい赤々としている。
 ああ、うん……、都市一つ余裕で火の海になるなこれは……。



 暫くしてラキちゃんは下りてきた。しかし、表情が冴えない。

「あ……あのね、お兄ちゃん……」

 不安げな表情で俺に何かを言いたそうだったが、次の言葉が出ないようだ。
 俺は笑顔で労いの言葉を掛け、そしてハグをしてあげる。

「ラキちゃんありがとう。ラキちゃんのおかげで助かったよ」

「あ……、うん!」

 その言葉に安堵したのか、元気よく返事をして抱き返してくれた。

 後から聞いた事だが、ラキちゃんは自分のした行為に俺が恐怖し、距離を置かれてしまうのではと、とても不安だったみたいだ。
 そんな事するわけないじゃないか。

 それから、先ほど誰かと会話でもしてたの? と尋ねる。

「あの竜、目を覚ましたらまた人を食べに行っちゃうからとどめ刺しておいてってサラスお姉ちゃんに言われたの」

 また、ラクス様もラキちゃん達の会話を見ていたようで、すぐにこちらへ聖堂騎士団を送ってくれる事になった。
 突然のドラゴニア帝国兵による侵攻の賠償請求と、その辺に転がっている竜人の捕虜等に関する後始末をしてくれるようだ。
 因みに竜人どもはラキちゃんの雷に打たれて半死半生の状態で動く事もできない。

「う……、ううん……」

 おっ! 大家さんが目を覚ましたようだ!

「大家さん! 大丈夫ですか!」

 大家さんは起き上がり、頭を押さえている。

「うっ……ううん、あれからどうなったのでしょうか?」

 そう言い顔を上げた大家さんは……とても若く美しかった……。
 えっ!? どういうこと?

「おっ、大家さん……、あの、お顔が……」

「えっ……?、あらやだ! これはその……ナイショでお願いしますね?」

 合わせた両手を斜めにお願いポーズをする大家さんがとても可愛く、クラッときてしまう。

「もっ、もちろんです!」

 どうしよう、若々しい大家さんにどぎまぎしてしまう。
 とっ、とりあえず状況を説明しよう。俺はラキちゃんがギリメカリスを倒し、ドラゴニア兵を戦闘不能にしたと伝えた。

「凄いのねラキちゃん。――本当にありがとう」

「お姉ちゃんが無事でよかった」

 そう言って大家さんも俺と同じようにラキちゃんを抱きしめてあげた。
 ラキちゃんは安堵と照れくささが入り混じった顔で大家さんを抱き返した。
 そうか、ラキちゃんが大家さんの事を常にお姉ちゃんと呼んでいたのは、この姿が見えていたからなんだね。

 どうやら大家さんは日常生活で若いままだと色々と面倒が多いので、年を取った姿をしていたようだ。
 うん、こんなに美人さんだからね、男どもが放っておかないだろう。毎日のようにお店に押しかけてきてそうだ。
 あの姿は実年齢に対して只人だった場合の老け具合なんだそうな。そうか、実年齢はあの位なのか……。

 大家さんは精霊魔法を掛け直し、元の姿に戻ってしまった。
 思わずしょんぼりとしてしまった俺の顏を見て、大家さんは 「そんな顏しないでください」 と困った顔をして微笑んでいた。

 ドラゴニア帝国兵が動けない間に、一緒に逃げていた人達は我先にと帰ってしまっていた。
 とりあえず俺達も帰りたいのだが、ドラゴニア帝国兵をそのままにしておいて良いのか不安になったのでラキちゃん経由でラクス様達に相談してみる事になった。
 結果、聖堂騎士団よりも先にサラス様の部下である魔族の職員さん達が来て、拘束した上でギリギリ死なない程度に回復してあげる事となった。



「――よっと。みんなおつかれー」

 突然サラス様が現れた。ラキちゃんの座標を目印にテレポートしてきたらしい。

「ラキちゃんありがとね。お姉ちゃんとっても助かっちゃった!」

「よかったっ!」

 サラス様はラキちゃんと手を取り合ってお礼を述べている。

「あれ?、サラス様だけなんですか?」

「んーん、もうすぐ来るわよ。あたしだけ先に来ちゃった」

 暫くしたら何かしらの作動音とともに、魔動飛空艇がやってきた。
 おおお凄い! ファイナルなファンタジーに出てくるようなやつだ!

「きたきた。――どうする? 少し待っててくれれば帰りは送ってあげるけど」

「本当ですか!?」

「ええ!」

 やったぁ! 基本的に飛行機大好きな俺としてはめちゃくちゃ嬉しい!
 俺達三人は魔動飛空艇に乗れる事になって大はしゃぎだ。大家さんも外見の設定を忘れて俺達とハイタッチして喜んでいる。

 それから俺たちは船から降りてきた魔族の職員さん達を手伝い、ドラゴニア帝国兵を拘束していった。回復はどうやらサラス様とラキちゃんが上手い具合に調整して行うらしい。
 連中の乗って来たワイバーンや重量級四足歩行のグランドラゴン、機動型二足歩行のダッシュドラゴンなども回復してあげているようだ。まあ騎竜に罪は無いからね。

 粗方作業も終わり、後はこれからやってくる聖堂騎士団に任せて俺達はさっさと帰る事にする。

「私、一度でいいから空飛ぶ船に乗ってみたかったんです!」

 大家さんは聖都の家からたまに見えるこの魔動飛空艇に一度でいいから乗ってみたいと思っていたらしく、大興奮だ。
 上空に停泊している魔動飛空艇からゴンドラのような搭乗用の箱が下りてきて、俺たちを船に上げてくれた。



「お疲れだ諸君!」

「あーっ! 何でいるの!?」

「ラキシスに会いたくてな。――きちゃった」
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