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二章
067 飛ぶ!
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まるで空の上にいるんじゃないかと錯覚する位に、今俺達がいる階段エリアは非常に高い位置にある。
この景色を見てしまうと、たしかにここが全ての迷宮エリアの中で最も広いと言われるのも頷ける。
だが、この迷宮は全ての階層の空間が繋がっている。
たしかにこれなら、ラキちゃんの力を使えばあっという間にボス部屋前まで辿り着けそうだ。
「そうか! ラキなら飛べるもんな!」
「はい。……ですが、本来このエリアで風魔法やギフトなどを使って飛んで行こうとすると、物凄い数の魔物が襲い掛かってきて、あっという間に連中の餌食となってしまいます」
「「「えっ!?」」」
「ですので、普通の冒険者では飛んで攻略というのは、まず不可能なんです。でも、ギリメカリスを倒してしまえるラキちゃんならば……、きっと突破できると思ったんです」
そう言って大家さんはラキちゃんの肩に手を置く。
それから大家さんは俺達を浮島の端の方へ促すと、ある方向を指差した。
「……あそこ、見えますか? かなり遠くですが、逆三角形をしている大きな浮島があるんです。あの浮島の中腹にボス部屋への入り口があります」
あまりにも距離があり過ぎて霞んで見える位だが、たしかにピラミッドを逆さにしたような巨大な浮島がある。
あの形状のため、たとえ迷宮を進んで真上に辿り着く事ができたとしても、そのまま下に降りてショートカットするという事ができないようになっているそうだ。
「ラキちゃん、あそこまで私達を連れていって欲しいのですけど……。お願いできます?」
ラキちゃんは力強く首肯し、 「任せて!」 と答えてくれた。
大家さんはラキちゃんに頷き返してお礼を述べると、今度は俺達の方へ振り向いた。
「大変危険でしょうが……、お二人とも覚悟はよろしいですか?」
「「はい!」」
俺とリンメイも迷うことなく、はっきりと答えた。
ラキちゃんがやってくれると言ったんだ。ここで覚悟を決めなきゃ男じゃないぜ。
「では、万が一の為に、これで全員の体を繋いでおきましょう」
そう言いながら大家さんは白銀色に輝くとても綺麗なロープを取り出し、俺達の体を数珠繋ぎに結んでくれる。
このロープはメガボンビクスというモスラみたいな蛾の魔物から採れる、恐ろしいほど強靭な糸でできていると教えてくれた。
「それと、武器を落としたら回収に戻る余裕はありませんのでこれを……」
大家さんはロープとは別に紐も取り出すと、抜刀した俺とリンメイそれぞれに、剣の柄と手首を繋いで脱落防止をしてくれた。
危ない危ない……。抜き身の剣を落っことしてしまう可能性を、全く考慮していなかったよ。
ラキちゃんは六枚の光の翼を展開して少し浮くと、以前十層の海に行った時のように右手で俺の左手を、左手でリンメイの右手を繋ぐ。
リンメイはいつも双剣のため左手でも普通に剣を扱えるので、俺が右手で剣を振れるようにこの配置だ。
そして、大家さんはラキちゃんの前から腰辺りに抱きついた。
「では、行きまーす!」
ラキちゃんはフワッと浮いて飛び立つと、徐々に加速していく。
俺達が陸地からある一定の距離を離れると、異変が起こった。
突然何かを察知したかのように、けたたましい奇声を発しながら無数の魔物が、あらゆる方角の浮島から舞い上がりだしたのだ。
そして、それらはまるでイレギュラーを排除するかのように、真っ直ぐにこちらへ襲い掛かってきた!
猛禽類や毒鳥など鳥のタイプ、毒蛾や蜻蛉などの蟲のタイプ、ワイバーンのようなドラゴンのタイプなど様々だ。
魔物の名前を確認している余裕もない。
あまりにも夥しい数の魔物のため、まるで蜂の巣から大量に蜂が襲ってくるように見えてしまい、思わずゾッとしてしまう。
うへぇ、意地でも楽に攻略なぞさせんぞって強い意志を感じるんだけど……。
たしかにこれはラキちゃんでないと突破できないと思う。
「ひぇえぇぇ……! 物凄い数の魔物が来てんぞ!」
「止まったら終わりです! 前方の敵だけ処理して、とにかく真っ直ぐにボス部屋の入り口へ向かってください!」
「はい!」
ラキちゃんは大家さんの注意に頷くと、第三の目からビームを打ちまくって、前方の敵を処理していく。
殆ど撃ち漏らす事はないが、極稀に死角から抜けてきてしまった敵は、俺とリンメイが剣で牽制して防いだ。
魔物よりもラキちゃんの飛ぶ速度の方が早いので、今のところは取り囲まれる事は無いが、次々と空飛ぶ魔物がこちらに向かってきているので、油断はできない。
ラキちゃんは魔物に怯む事無く物凄い速度で飛んでくれるので、ボス部屋のある逆三角形の巨大な浮島はどんどん近づいてくる。
「げっ! あいつ等先回りして壁作りだしたぞ!」
俺達の目的地が分かっているかのように、魔物はボス部屋のある浮島を遮るようにして、俺達の前に壁を作り出した。
層の厚みも結構ありそうなので、あれでは一匹一匹を撃ち落としている余裕はない。
回避しようにも広範囲に広がり過ぎている。
――まずい、こちらが動きを止めたら蜂の巣にされてしまうぞ!
「ラキちゃん! 一発でかいの撃って、空いた穴を結界張りながら一気に突貫しよう!」
「わかりました!」
――カッ!!!
ラキちゃんの髪の毛が金色に輝きだし魔力をチャージすると、第三の目から渾身の一撃を放つ。
強烈な一撃は見事魔物の壁を抉り、俺達が通れるほどの穴を開けた。
「いけー!」
「おー!」
リンメイの掛け声にラキちゃんは勇ましく声をあげて応える。
少しでも時間が経てば、すぐに再び魔物が穴を塞いでしまいそうだ。
ラキちゃんは結界を張りながら更に加速すると、一気に穴へ向かって突入する。
穴を塞ごうと魔物は次々と向かってくるが、結界によって弾き飛ばしながら突き進み、なんとか俺達は壁を抜ける事に成功した。
「あそこです! 正面向かって左側の中腹にボス部屋への入り口があります!」
見ると丁度ボス部屋への入り口前には、普段のボス部屋前エリアと同じか少し大きい位の陸地が、台のように付いている。
正規ルートでくるための転移門も見える。
「あれ? 誰かいるぞ!」
よく見ると、なんとそこには一組の冒険者パーティがいた。
まだダンジョンの再構築からそれほど日が経ってないので、恐らく彼らは再構築を跨いでこの迷宮に挑んでいる冒険者パーティだろう。
彼らはこちらの異変に気が付き魔物を警戒しているが、ボス部屋前エリアは安全地帯のため、俺達の巻き添えは食らわないはずだ。
ラキちゃんは旋回しながら、そのままボス部屋の方へ飛んでいく。
あれほどべったりと付いて来ていた大量の魔物は、俺達がこの浮島にある一定の距離まで近づいたら、潮が引くように戻って行ってしまった。
「やった! 突破したぞ!」
「ラキちゃん、そのままボス部屋に入ろう!」
「了解ですっ!」
あそこにいる冒険者パーティが先にボス戦に挑んでしまうと、待つ時間が惜しい。
申し訳ないが、俺達が先に行かせてもらう事にする。
飛んで来た俺達を唖然と見ていた冒険者達に向かって、俺は声を張り上げる。
「すまん! お先に失礼するぞ!」
「えっ……!」 「あっ! おい!」 「ちょっと……!」
そのまま俺達はボス部屋の入り口を潜ると、ふわりとラキちゃんが着地してくれる。
急いで体に結んだロープを外し、俺はボス部屋の扉を閉めるために入口付近の宝玉へ向かう。
扉の外を見ると、外にいた冒険者達はこちらの方へ走ってきていた。
「わりーな! 今度外で見かけたら一杯奢るから! ――んじゃーな!」
俺は彼らにそう言い放つと、返事も待たず扉を閉めた。
「わっ! おっさんちょっと待て! まだロープがほどけてないって!」
「時間が惜しい! もうボスもラキちゃんにお願いしよう! ――頼むラキちゃん!」
「頼まれましたっ!」
ここのボスはガルーダという巨大な怪鳥だ。
こいつが自由に飛びまわれるように、ボス部屋はとんでもない広さとなっている。勿論高さもかなりある。
部屋の中心に巨大な魔法陣が浮かび上がると、けたたましい啼き声とともに、ボスは魔法陣から上空に飛び出してきた。
そして上空で羽ばたいて停止するとボスはこちらに向き、もう一声威嚇をするがごとく啼いたのだが……、それと同時にラキちゃんの高圧縮された目からビームが逆袈裟斬りに一閃した。
――シュン!!!
間髪を容れず両断されてしまったガルーダの体は、ずるりと上下が斜めにずれたかと思うと、爆散してしまった。
「「えぇー……」」
ここへ来るまでに散々ラキちゃんの強さを目の当たりにしたと思うのだが、リンメイと大家さんは一撃のもとにガルーダを葬り去ったラキちゃんの強さに、呆気に取られてしまっていた。
「ふぅ……、流石にちょっと一息いれよう。いいかなリンメイ?」
「おっ、おう。勿論だ」
時間としてはまだ出発してから一時間も経っていないが、ここまでの道程があれだったので、精神的に落ち着かないとやばい。
リンメイに逸る気持ちを抑えてもらい、俺達は体を結んだロープや武器の脱落防止の紐をほどきながら、気持ちを静めるよう努めた。
出口の転移門の方を見ると、今回も宝箱が三つ出ている。
時間が惜しいのかリンメイは宝箱に向かうと、ぱぱっと全ての箱を開けてしまった。
そしてそのまま鑑定を行い、中身のアイテムをどうするかは、すぐに決めてしまったようだ。
思わず嘆声を漏らしていたので、ひょっとしたら何か良い品が入っていたのかもしれない。
「これはおっさん。これは大家さんに。――そしてこれはあたいに使わせてくれ」
そう言いながら、リンメイは宝箱から一振りの剣を取り出した。
「ごめんなラキ。今回はラキの分が無いんだ……。今度良いの出たら必ずラキに回すから」
「ううん、大丈夫だよー。気にしないでっ」
ラキちゃんは大丈夫大丈夫と、両手をふりふりしてリンメイに答えているが……。
うん、俺も何かしらラキちゃんが気に入ってくれそうな品が無いか、今度探してみよう。
今回の件が片付いたら、皆で露店巡りするのも良いかもしれない。
リンメイが取り出した剣は今の俺の剣のように、両手でも扱えるが片手剣としても問題無く使える作りのロングソードだった。
「その剣はどんな効果があるんだ?」
「以前ハンスが手に入れた炎属性の付いた両手剣覚えてる? あれの片手剣バージョンてところだな。魔力を込めると炎属性の攻撃ができるんだよ」
「おー、いいじゃん! これでリンメイは炎と氷二つの属性攻撃ができるようになったって事じゃないか」
「へっへー! そうなんだよ!」
リンメイはにこやかに頷いた。
なんかカッコイイな、炎と氷の属性攻撃を繰り出せる剣士って。
無性に厨二心をそそられてしまう。
「んで、これは大家さんに」
続けてリンメイは宝箱から何かを取り出すと、大家さんのところへ持ってきた。
リンメイが手にしているのは、昔祖母が大事に使っていた 『つげ櫛』 のような、非常に美しい櫛だった。
「なんて素敵な櫛でしょう……。よろしいのですか?」
「いいのいいのっ。……いつもの感謝の気持ちとして、あたいらから大家さんにって事で――いいだろ? 二人とも」
「ああ勿論だ!」 「勿論です!」
こちらに向けられたリンメイの問いに、俺とラキちゃんは大きく頷く。
「これ、 『世界樹の櫛』 ってネームド品でさ、髪の毛の修復と美髪の効果が付いてんだぜ」
「「「おぉー!」」」
これまた効果が凄いな。女性なら誰もが欲しがる逸品じゃないか。
迷宮からは本当にいろんなアイテムが出るため、毎回驚かされてしまう。
「皆さんありがとう。大切に使わせて頂きますね」
大家さんは受け取った櫛を愛おしそうに見つめた後、大事そうに鞄にしまった。
「へへっ。今回ちょうど良いのが出てさ、良かったよ」
「ほんとだな!」
「うんうん!」
大家さんに喜んでもらえて、俺達も自然と顏が綻ぶ。
これは良いプレゼントになったな。
「あと一つはおっさんが使うといいよ。――てことで、おっさんが取り出して」
「おっ? 了解だ!」
リンメイはまだ取り出してない残りの箱を指差し、俺に取り出すよう促した。
てことは装備品だな? なんだろう楽しみ。
いそいそと宝箱の方へ行き中を覗くと、航空眼鏡のようなゴーグルが入っていた。
おぉー、飛行機好きな俺としてはなかなかに嬉しいデザインだ。
「このゴーグルはどんな効果なんだ?」
「効果は暗視。あたいもラキも夜目が利くからな。おっさんが使うのが一番だと思ったんだ」
「たしかに。これは助かるよ、ありがとう!」
「おう!」
これはありがたい。ダンジョンや地下水路などで光源の乏しい箇所や、夜間での活動が有利になるぞ。
というか、リンメイとラキちゃんと三人で行動した時、足を引っ張らなくて済む!
「さてと……」
一息入れながら宝箱も開けたことだし、いよいよ三十層に突入するか。
「この転移門の先にも連中は待ち構えているはずだ。――皆準備はいいかな?」
皆に確認を取りつつ、俺はアイアンニードルの針を両手に三本ずつ持つ。
「おう!」 「はい!」 「大丈夫です!」
全員武器を構え、戦闘態勢に入る。
いよいよ、ここからが本番だ。
「では俺とリンメイがこちらの転移門の敵を殲滅しますので、大家さんとラキちゃんは反対側の転移門の敵をお願いします」
「はい、任されました」
「任されましたっ!」
そして俺達は順番に、三十層へ通じる転移門に足を踏みいれた。
この景色を見てしまうと、たしかにここが全ての迷宮エリアの中で最も広いと言われるのも頷ける。
だが、この迷宮は全ての階層の空間が繋がっている。
たしかにこれなら、ラキちゃんの力を使えばあっという間にボス部屋前まで辿り着けそうだ。
「そうか! ラキなら飛べるもんな!」
「はい。……ですが、本来このエリアで風魔法やギフトなどを使って飛んで行こうとすると、物凄い数の魔物が襲い掛かってきて、あっという間に連中の餌食となってしまいます」
「「「えっ!?」」」
「ですので、普通の冒険者では飛んで攻略というのは、まず不可能なんです。でも、ギリメカリスを倒してしまえるラキちゃんならば……、きっと突破できると思ったんです」
そう言って大家さんはラキちゃんの肩に手を置く。
それから大家さんは俺達を浮島の端の方へ促すと、ある方向を指差した。
「……あそこ、見えますか? かなり遠くですが、逆三角形をしている大きな浮島があるんです。あの浮島の中腹にボス部屋への入り口があります」
あまりにも距離があり過ぎて霞んで見える位だが、たしかにピラミッドを逆さにしたような巨大な浮島がある。
あの形状のため、たとえ迷宮を進んで真上に辿り着く事ができたとしても、そのまま下に降りてショートカットするという事ができないようになっているそうだ。
「ラキちゃん、あそこまで私達を連れていって欲しいのですけど……。お願いできます?」
ラキちゃんは力強く首肯し、 「任せて!」 と答えてくれた。
大家さんはラキちゃんに頷き返してお礼を述べると、今度は俺達の方へ振り向いた。
「大変危険でしょうが……、お二人とも覚悟はよろしいですか?」
「「はい!」」
俺とリンメイも迷うことなく、はっきりと答えた。
ラキちゃんがやってくれると言ったんだ。ここで覚悟を決めなきゃ男じゃないぜ。
「では、万が一の為に、これで全員の体を繋いでおきましょう」
そう言いながら大家さんは白銀色に輝くとても綺麗なロープを取り出し、俺達の体を数珠繋ぎに結んでくれる。
このロープはメガボンビクスというモスラみたいな蛾の魔物から採れる、恐ろしいほど強靭な糸でできていると教えてくれた。
「それと、武器を落としたら回収に戻る余裕はありませんのでこれを……」
大家さんはロープとは別に紐も取り出すと、抜刀した俺とリンメイそれぞれに、剣の柄と手首を繋いで脱落防止をしてくれた。
危ない危ない……。抜き身の剣を落っことしてしまう可能性を、全く考慮していなかったよ。
ラキちゃんは六枚の光の翼を展開して少し浮くと、以前十層の海に行った時のように右手で俺の左手を、左手でリンメイの右手を繋ぐ。
リンメイはいつも双剣のため左手でも普通に剣を扱えるので、俺が右手で剣を振れるようにこの配置だ。
そして、大家さんはラキちゃんの前から腰辺りに抱きついた。
「では、行きまーす!」
ラキちゃんはフワッと浮いて飛び立つと、徐々に加速していく。
俺達が陸地からある一定の距離を離れると、異変が起こった。
突然何かを察知したかのように、けたたましい奇声を発しながら無数の魔物が、あらゆる方角の浮島から舞い上がりだしたのだ。
そして、それらはまるでイレギュラーを排除するかのように、真っ直ぐにこちらへ襲い掛かってきた!
猛禽類や毒鳥など鳥のタイプ、毒蛾や蜻蛉などの蟲のタイプ、ワイバーンのようなドラゴンのタイプなど様々だ。
魔物の名前を確認している余裕もない。
あまりにも夥しい数の魔物のため、まるで蜂の巣から大量に蜂が襲ってくるように見えてしまい、思わずゾッとしてしまう。
うへぇ、意地でも楽に攻略なぞさせんぞって強い意志を感じるんだけど……。
たしかにこれはラキちゃんでないと突破できないと思う。
「ひぇえぇぇ……! 物凄い数の魔物が来てんぞ!」
「止まったら終わりです! 前方の敵だけ処理して、とにかく真っ直ぐにボス部屋の入り口へ向かってください!」
「はい!」
ラキちゃんは大家さんの注意に頷くと、第三の目からビームを打ちまくって、前方の敵を処理していく。
殆ど撃ち漏らす事はないが、極稀に死角から抜けてきてしまった敵は、俺とリンメイが剣で牽制して防いだ。
魔物よりもラキちゃんの飛ぶ速度の方が早いので、今のところは取り囲まれる事は無いが、次々と空飛ぶ魔物がこちらに向かってきているので、油断はできない。
ラキちゃんは魔物に怯む事無く物凄い速度で飛んでくれるので、ボス部屋のある逆三角形の巨大な浮島はどんどん近づいてくる。
「げっ! あいつ等先回りして壁作りだしたぞ!」
俺達の目的地が分かっているかのように、魔物はボス部屋のある浮島を遮るようにして、俺達の前に壁を作り出した。
層の厚みも結構ありそうなので、あれでは一匹一匹を撃ち落としている余裕はない。
回避しようにも広範囲に広がり過ぎている。
――まずい、こちらが動きを止めたら蜂の巣にされてしまうぞ!
「ラキちゃん! 一発でかいの撃って、空いた穴を結界張りながら一気に突貫しよう!」
「わかりました!」
――カッ!!!
ラキちゃんの髪の毛が金色に輝きだし魔力をチャージすると、第三の目から渾身の一撃を放つ。
強烈な一撃は見事魔物の壁を抉り、俺達が通れるほどの穴を開けた。
「いけー!」
「おー!」
リンメイの掛け声にラキちゃんは勇ましく声をあげて応える。
少しでも時間が経てば、すぐに再び魔物が穴を塞いでしまいそうだ。
ラキちゃんは結界を張りながら更に加速すると、一気に穴へ向かって突入する。
穴を塞ごうと魔物は次々と向かってくるが、結界によって弾き飛ばしながら突き進み、なんとか俺達は壁を抜ける事に成功した。
「あそこです! 正面向かって左側の中腹にボス部屋への入り口があります!」
見ると丁度ボス部屋への入り口前には、普段のボス部屋前エリアと同じか少し大きい位の陸地が、台のように付いている。
正規ルートでくるための転移門も見える。
「あれ? 誰かいるぞ!」
よく見ると、なんとそこには一組の冒険者パーティがいた。
まだダンジョンの再構築からそれほど日が経ってないので、恐らく彼らは再構築を跨いでこの迷宮に挑んでいる冒険者パーティだろう。
彼らはこちらの異変に気が付き魔物を警戒しているが、ボス部屋前エリアは安全地帯のため、俺達の巻き添えは食らわないはずだ。
ラキちゃんは旋回しながら、そのままボス部屋の方へ飛んでいく。
あれほどべったりと付いて来ていた大量の魔物は、俺達がこの浮島にある一定の距離まで近づいたら、潮が引くように戻って行ってしまった。
「やった! 突破したぞ!」
「ラキちゃん、そのままボス部屋に入ろう!」
「了解ですっ!」
あそこにいる冒険者パーティが先にボス戦に挑んでしまうと、待つ時間が惜しい。
申し訳ないが、俺達が先に行かせてもらう事にする。
飛んで来た俺達を唖然と見ていた冒険者達に向かって、俺は声を張り上げる。
「すまん! お先に失礼するぞ!」
「えっ……!」 「あっ! おい!」 「ちょっと……!」
そのまま俺達はボス部屋の入り口を潜ると、ふわりとラキちゃんが着地してくれる。
急いで体に結んだロープを外し、俺はボス部屋の扉を閉めるために入口付近の宝玉へ向かう。
扉の外を見ると、外にいた冒険者達はこちらの方へ走ってきていた。
「わりーな! 今度外で見かけたら一杯奢るから! ――んじゃーな!」
俺は彼らにそう言い放つと、返事も待たず扉を閉めた。
「わっ! おっさんちょっと待て! まだロープがほどけてないって!」
「時間が惜しい! もうボスもラキちゃんにお願いしよう! ――頼むラキちゃん!」
「頼まれましたっ!」
ここのボスはガルーダという巨大な怪鳥だ。
こいつが自由に飛びまわれるように、ボス部屋はとんでもない広さとなっている。勿論高さもかなりある。
部屋の中心に巨大な魔法陣が浮かび上がると、けたたましい啼き声とともに、ボスは魔法陣から上空に飛び出してきた。
そして上空で羽ばたいて停止するとボスはこちらに向き、もう一声威嚇をするがごとく啼いたのだが……、それと同時にラキちゃんの高圧縮された目からビームが逆袈裟斬りに一閃した。
――シュン!!!
間髪を容れず両断されてしまったガルーダの体は、ずるりと上下が斜めにずれたかと思うと、爆散してしまった。
「「えぇー……」」
ここへ来るまでに散々ラキちゃんの強さを目の当たりにしたと思うのだが、リンメイと大家さんは一撃のもとにガルーダを葬り去ったラキちゃんの強さに、呆気に取られてしまっていた。
「ふぅ……、流石にちょっと一息いれよう。いいかなリンメイ?」
「おっ、おう。勿論だ」
時間としてはまだ出発してから一時間も経っていないが、ここまでの道程があれだったので、精神的に落ち着かないとやばい。
リンメイに逸る気持ちを抑えてもらい、俺達は体を結んだロープや武器の脱落防止の紐をほどきながら、気持ちを静めるよう努めた。
出口の転移門の方を見ると、今回も宝箱が三つ出ている。
時間が惜しいのかリンメイは宝箱に向かうと、ぱぱっと全ての箱を開けてしまった。
そしてそのまま鑑定を行い、中身のアイテムをどうするかは、すぐに決めてしまったようだ。
思わず嘆声を漏らしていたので、ひょっとしたら何か良い品が入っていたのかもしれない。
「これはおっさん。これは大家さんに。――そしてこれはあたいに使わせてくれ」
そう言いながら、リンメイは宝箱から一振りの剣を取り出した。
「ごめんなラキ。今回はラキの分が無いんだ……。今度良いの出たら必ずラキに回すから」
「ううん、大丈夫だよー。気にしないでっ」
ラキちゃんは大丈夫大丈夫と、両手をふりふりしてリンメイに答えているが……。
うん、俺も何かしらラキちゃんが気に入ってくれそうな品が無いか、今度探してみよう。
今回の件が片付いたら、皆で露店巡りするのも良いかもしれない。
リンメイが取り出した剣は今の俺の剣のように、両手でも扱えるが片手剣としても問題無く使える作りのロングソードだった。
「その剣はどんな効果があるんだ?」
「以前ハンスが手に入れた炎属性の付いた両手剣覚えてる? あれの片手剣バージョンてところだな。魔力を込めると炎属性の攻撃ができるんだよ」
「おー、いいじゃん! これでリンメイは炎と氷二つの属性攻撃ができるようになったって事じゃないか」
「へっへー! そうなんだよ!」
リンメイはにこやかに頷いた。
なんかカッコイイな、炎と氷の属性攻撃を繰り出せる剣士って。
無性に厨二心をそそられてしまう。
「んで、これは大家さんに」
続けてリンメイは宝箱から何かを取り出すと、大家さんのところへ持ってきた。
リンメイが手にしているのは、昔祖母が大事に使っていた 『つげ櫛』 のような、非常に美しい櫛だった。
「なんて素敵な櫛でしょう……。よろしいのですか?」
「いいのいいのっ。……いつもの感謝の気持ちとして、あたいらから大家さんにって事で――いいだろ? 二人とも」
「ああ勿論だ!」 「勿論です!」
こちらに向けられたリンメイの問いに、俺とラキちゃんは大きく頷く。
「これ、 『世界樹の櫛』 ってネームド品でさ、髪の毛の修復と美髪の効果が付いてんだぜ」
「「「おぉー!」」」
これまた効果が凄いな。女性なら誰もが欲しがる逸品じゃないか。
迷宮からは本当にいろんなアイテムが出るため、毎回驚かされてしまう。
「皆さんありがとう。大切に使わせて頂きますね」
大家さんは受け取った櫛を愛おしそうに見つめた後、大事そうに鞄にしまった。
「へへっ。今回ちょうど良いのが出てさ、良かったよ」
「ほんとだな!」
「うんうん!」
大家さんに喜んでもらえて、俺達も自然と顏が綻ぶ。
これは良いプレゼントになったな。
「あと一つはおっさんが使うといいよ。――てことで、おっさんが取り出して」
「おっ? 了解だ!」
リンメイはまだ取り出してない残りの箱を指差し、俺に取り出すよう促した。
てことは装備品だな? なんだろう楽しみ。
いそいそと宝箱の方へ行き中を覗くと、航空眼鏡のようなゴーグルが入っていた。
おぉー、飛行機好きな俺としてはなかなかに嬉しいデザインだ。
「このゴーグルはどんな効果なんだ?」
「効果は暗視。あたいもラキも夜目が利くからな。おっさんが使うのが一番だと思ったんだ」
「たしかに。これは助かるよ、ありがとう!」
「おう!」
これはありがたい。ダンジョンや地下水路などで光源の乏しい箇所や、夜間での活動が有利になるぞ。
というか、リンメイとラキちゃんと三人で行動した時、足を引っ張らなくて済む!
「さてと……」
一息入れながら宝箱も開けたことだし、いよいよ三十層に突入するか。
「この転移門の先にも連中は待ち構えているはずだ。――皆準備はいいかな?」
皆に確認を取りつつ、俺はアイアンニードルの針を両手に三本ずつ持つ。
「おう!」 「はい!」 「大丈夫です!」
全員武器を構え、戦闘態勢に入る。
いよいよ、ここからが本番だ。
「では俺とリンメイがこちらの転移門の敵を殲滅しますので、大家さんとラキちゃんは反対側の転移門の敵をお願いします」
「はい、任されました」
「任されましたっ!」
そして俺達は順番に、三十層へ通じる転移門に足を踏みいれた。
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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