ロマンティックの欠片もない

水野七緒

文字の大きさ
33 / 131
第3話

7・つまりは、その一言

しおりを挟む
 あのときの菜穂と、今の菜穂はおそらく同じだ。おそらく、浜島とのあれこれがうまくいかなかった結果、彼女の「初体験」に対するこだわりが「もういいかな」に転じたのだ。
 それを「据え膳食わぬは~」とばかりに、のってくる男もいるだろう。実際、緒形も相手によっては「じゃあ、遠慮なく」と手を合わせたかもしれない。
 けれど、相手は菜穂だ。緒形にとっては「多感な時期に付き合った元カノ」だ。
 しかも、当時の彼女との思い出を掘りおこそうとすると、必ず苦いエピソードがつきまとう。
 そうした複雑な存在であるうえに、当の彼女は未だ処女だという。
 それを、他の誰かに奪われるのは――

(おもしろくない)

 そう、つまりはその一言に尽きるのだ。
 とはいえ、これが正解かと問われると緒形はなんとも答えられない。
 やはりどう考えても褒められた話ではないし、緒形が誠実な人間なら、おそらく真摯な態度で「もっと自分を大事にしろよ」と彼女を拒絶していただろう。
 そうしないあたり、自分も浜島と大差ない。
 それでも、やはり他の男に彼女のはじめてを奪われるのは不愉快なのだ。

(まあ、そのうち我に返るかもしれないし)

 根はまじめな菜穂のことだ。そのうち我に返って「やっぱり付き合えない、ごめんなさい」と言ってくるかもしれない。それに、付き合う条件として出された「抱いてほしい」も、まさか今すぐというわけではないだろう。

(とりあえず、週末どうするかだけは考えておくか)

 最初だし、やっぱり無難に映画か水族館にでも行って、ごはんを食べて、解散――そんなプランをたてながら、緒形はスマホで現在上映中の映画を検索しはじめた。
 この時点で、緒形は菜穂の本気度をかなり低く見積もっていたわけだが、残念なことに彼はそのことにまったく気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...