上 下
7 / 189
第1話

7・というわけで…

しおりを挟む
「だからさ、青野。今の俺は、お前の知っている俺じゃないんだ」
「……は?」
「たぶんだけど『パラレルワールド』から来た的な? たしかに俺のいた世界にもナナセやお前はいたし、家や学校もこことそっくりだけどさ。細かい部分が微妙に違うっつーか……たとえば、昨日まで俺は茶髪で黒い目だったし、お前も黒い目で、ナナセも黒い目で、父さんと母さんもそうで」

 なによりお前は、ナナセと付き合っていた。
 俺じゃない、妹の彼氏だったんだ。

「なのに目が覚めたら俺は金髪で、みんなの目の色が緑で、お前は俺と付き合ってることになっていて──」

 しかも、俺は童貞を捨てていました──って。
 あり得ねぇ。こんなの、絶対俺の知っている世界じゃねーよ。

「だからな、青野。俺は、お前が付き合っていた『星井夏樹』じゃないんだ」

 わかるよな? 理解してくれたよな?
 けれども、返ってきたのはあきれたようなため息だった。

「あんたにしては凝った言い訳ですね」
「違うって! 言い訳とかじゃなくて……」
「じゃあ、なんですか。新しい遊びですか。『異世界から来ました』的な?」
「遊びじゃなくて事実! ほんとに俺、ここじゃない世界の人間で──」
「もういいです」

 吐き捨てるような言葉で、青野は俺の主張をさえぎった。

「要するにアレでしょ。俺とは『やりたくない』ってことでしょ」
「そう! それ!」

 ていうか、正しくは『お前とはデキない』んだ。
 だって、お前相手にムラムラしたことないし、押し倒したところで絶対そんな気にはなれないし。
 百歩譲って、俺の身体になんらかのバグが起きたとしても、いざとなったら絶対「妹の彼氏」ってことが引っかかる。
 だから、どう頑張っても、お前とは無理なわけで──

「で、今度の浮気相手は誰なんっすか」
「……え」
「男っすか、女っすか。──ああ、もしかしてそっちが本命? 俺が『浮気相手』に格下げですか」

 待て待て。どうしてそんな話になった?
 今、ちゃんと説明したよな? 俺は別世界からやってきた「別人だ」って。
 なのに、青野の冷ややかな眼差しは変わらない。

「ほんっと毎回よく思いつきますよね。くだらねー嘘バレバレの言い訳」
「いや、だから……」
「なにが『別世界』っすか。黒い目とか有り得ないでしょ」
「それが有り得るんだって!」

 俺がいた世界ではそうだったの! 目の色が「黒」の人が多かったの!
 もちろん外国人まで範囲を広げると違うかもしれないけど、少なくとも俺の周囲は「黒」が圧倒的に多かったわけで──

「もうはっきり言ったらどうです。『お前より気に入った相手が見つかったから、今後お前とはやりたくない』って」
「だから、そういうんじゃ……」
「うるせぇ、つまんねー言い訳してんなよ! この尻軽クソビッチが!」

 鈍い音がした。続いて、右のこぶしに鈍い痛みが広がった。
 青野が、呆然としたように俺を見ている。しかも左頬を押さえて。
 え……うそ?
 もしかして俺、青野を殴った?
 いや、殴ったな──だって青野の左頬、みるみるうちに腫れていくし。

「ご、ごめん」

 なにやってんだ、俺。いくらカッとなったからって暴力はダメだろ。
 しかも相手は後輩。妹の彼氏。

「ごめん、冷やすの──タオル……ハンカチ……」

 慌てふためく俺に「いらねーっす」と言い残して、青野は視聴覚室を出ていこうとする。

「青野、ごめん! ほんとごめん!」

 必死に謝ったけど、青野は振り向かない。
 音をたててドアが閉まり、俺は再びひとりきりになった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

奴隷の私が複数のご主人様に飼われる話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:135

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:208

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:7,537

様々なニーズに応えたい僕の性事情

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:116

犯されたい女とお持ち帰りした青年の話(エロしかない)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:28

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:584

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,572pt お気に入り:139

処理中です...