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第4話

17・勘違い

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「あ……」

 目が合うなり、青野はくしゃりと顔を歪ませた。

「よかった……生きてた」
「……は?」
「あんた今朝から様子がおかしくて、なんだか嫌な胸騒ぎがして、授業中もずっと気になってて」

 マジか。そんなに心配してくれていたのか。

「やっと昼休みになったから様子を見に行ったのに、あんた教室にいないし、お気に入りの場所にもいないし……ダメ元でここに来たら……半目のまま動かなくなっていて……」
「半目!?」

 うわ、それ最悪……誰かに見られたらめちゃくちゃ恥ずかしいヤツじゃん。
 思わずそうこぼすと、青野は「そうです」と勢いよくうなずいて、なぜか俺を抱きしめた。

「わかりますよね、めちゃくちゃ恥ずかしいヤツです! だから……っ」

 ──だから?

「もう……半目で意識を飛ばさないで」

 え──なにその微妙なセリフ。こういうときって、ふつうもっといい感じのことを言うもんじゃねーの?
 たとえば「俺のそばにいて」とか「俺を置いていかないで」とか「おかしなことをしないで」とか。
 なのに「半目」? そこ、まだ言及する?
 つーか、半目じゃなければ意識を飛ばしてもいいってこと?
 え──なんか、えええええ──
 なんてつっこみが数秒のうちに頭をよぎったけど、結局どれも飲み込んだ。だって、こいつ、さっきからずーっと震えているんだ。

(ああ、くそ)

 いつもは無愛想だったりふてぶてしかったり、俺に対してやけに当たりがキツかったり、つまりは年下らしい可愛げがまるでないヤツだけど──今、俺を抱きしめて震えている青野には、ちょっと心を揺さぶられた。
 なんだよ、お前。可愛いとこあるじゃん。

(今なら、こいつを抱けるかも……)

 いや、嘘です。それはどう考えてもやっぱり無理。
 もちろんケツを許すのも絶対に無理。

(けど、これくらいなら……)

 俺は、青野の背中に手をまわした。それから、ゆっくり落ち着かせるように青野の丸まった背骨を何度もなぞった。

「大丈夫、どこにも行かねーよ」

 つーか行けねーよ。たぶん、次の満月までは。
 はぁぁ……なんだかなぁ……。


 その夜、八尾の病室で2回目の瞑想やら何やらを試してみたものの、結局、昼間ほどの成果は得られなかった。
 そんなわけで、こっちの世界にきて初めての「チャレンジ」は失敗に終わった。
 どうやら俺は、もうしばらくの間こっちの世界にいなければいけないらしい。
 あーあ、いつになったら戻れんのかなぁ。
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