目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒

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第10話(Another.ver)

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夏樹は、青野の自宅の最寄り駅で待ち伏せしていた。
刺すような視線に一瞬たじろいだものの、さすがに無視するわけにはいかない。

「話がある。付き合え」

青野の心臓が、派手に跳ねた。
やばい。怒っている。
この人、全身から怒りをほとばしらせている。

「聞こえねぇのか? 話があるって言ってんだけど」

当然、断ることなどできるはずもなく、ふたりで満員電車に乗り込んだ。
夏樹に腕を引かれている間、青野はぼんやりとメッセージアプリについた赤い印を思い出していた。
昨日、久しぶりに送られてきた夏樹からのメッセージ。
どうしても、青野はそれを確認することができなかった。
だって、怖かった。そこに決定的な一言が書いてあったら、いよいよ自分は立ち直れない。
そうして放置した結果が、これだ。腕に食い込む夏樹の指先が、怒りの深さを表しているようでただただ辛い。

(どうしよう。なんて言い訳すれば?)

「実は昨日忙しくて」「スマホが壊れてしまって」「帰宅してからすぐに眠ってしまって」──
ダメだ、どれもすぐにバレる。その結果どうなるのかは、火を見るよりも明らかだ。
こんなことなら、未読スルーなんてしなければよかった。さっさと中身を確認して、心の準備をしておけば良かった。
電車が動き出すころには、青野の喉はカラカラになっていた。
それでも、なんとか勇気を振り絞って「話とは何か」と訊ねてみた。

「ナナセのことだ」

予想外の答えが返ってきた。

「お前、ナナセのことを避けてるらしいな」
「それは……」
「誤魔化すな。俺はそう聞いた」

言い訳しようとする青野を、夏樹はぴしゃりと遮った。きれいに整えられた眉毛が、怒りのせいかつりあがっている。
青野は面食らった。あるいは拍子抜けした。

(それで怒っていたのか?)

未読スルーのことではなく?
つまりは「自分たちのあれこれ」ではなく?
とはいえ、ナナセを避けている自覚はあった。そばにいるとどうしても夏樹の顔がちらつくから、意識して距離を置いていたのだ。

「すみません。夏樹さんの指摘どおりです」

態度を改めます、と伝えると夏樹はあっさり怒りを引っ込めた。「二度と避けるなよ」とものすごく念押しされた気はするが、謝ったからには怒りを継続させるつもりはないらしい。
これで会話は終わり、とばかりに夏樹は口をつぐんでしまった。

(……え、本当に?)

彼が腹を立てていたのは、本当にそのことだけだったのか?

(未読スルーの件は?)

それについては怒っていないのか?
そのことはどうでもいいのか?
彼の妹を避けていたことよりも?
もしや「怒る価値のないこと」だと思われているとか?

(……いや、待て)

そもそも、彼は本当にメッセージを送ったのか?
たとえば誰かにアカウントを乗っ取られた可能性は?
しかも、そのことに未だ気づいていないとしたら?
だったら、あれか。昨日届いたメッセージは第三者が送ってきたということか。「マネーカード買ってきて」的な、いわゆるスパムメッセージのようなもの──

(ダメだ、落ち着け)

思考が、どんどんおかしな方向に向かっている。
青野は窓の外に顔を向けた。意識して、流れる景色だけを目で追いかけた。
これもまた簡単な瞑想の一種だ。このようにひとつの行為に意識を集中させることで、雑念が頭から振り払われていくのだ。
案の定、徐々に気持ちが落ち着いてきた。

(いいぞ、このまま平常心を保ち続けろ)

下車駅までおよそ20分、なんとかこの状況を乗り切らないと。
ところが、そんな青野をあざ笑うかのように、車内に急ブレーキの音が響き渡った。
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