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第2話
12・夏樹とナツ(その2)
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人がいいというより、自信がない。
八尾さんのその言葉に、俺は首がもげそうなほどうなずいてしまった。
星井と付き合うようになって知ったことだけど、どういうわけか夏樹さんは自己評価がめちゃくちゃ低い。あんなに可愛くてかっこよくて、親切で優しくて、努力家で魅力的な人なのに、なぜか夏樹さん自身は自分を取るに足らない人間だと思っているふしがある。
まったくもって理解できない。もしかして、別世界の自分──つまりはナツさんに「自信」とか「自己肯定感」を吸い取られてしまったのだろうか。
内心ため息をついていると、隣にいた八尾さんが聞き捨てならないことを口にした。
「まあ、そのあたりはナツも同じだけどな」
──はい? 今なんと?
「ナツさんが? 夏樹さんと同じ?」
「同じだろ。あいつも自分に自信がないやつだし」
「いや……それは同意しかねますね」
ナツさんがあんなにも好き勝手に振る舞えるのは、どう考えても自分に自信があるからだ。どれだけ無茶をしても嫌われない──そう思えなければ、あそこまで自分本位にはなれないはずだ。
俺の指摘に、八尾さんは「いやぁ」と苦笑した。
「ナツはナツで、いろいろフクザツなんだよ。だから、自信のなさが星井とは違う形で表に出てくるだけで──」
「なになに、なんの話?」
またもや、ナツさんが会話に割り込んできた。どうやら話に夢中になっているうちに、駅前のロータリーまで来ていたようだ。
「あ、青野。これ、もういらない」
濡れた折りたたみ傘を笑顔で突き返されて、俺はスンッと鼻をすすった。
たしかに、ここから駅構内までは屋根があるから傘は不要だ。けれど、今の言い方はあんまりじゃないだろうか。
(夏樹さんなら、絶対こんなことは言わない)
いや、夏樹さんに限らず、ふつうの人はもう少し発言に気を配るのではないか。実際、少し先で俺たちを待っていた星井は、開口一番「ほんとごめんね」と手をあわせてきたし。
「ハンカチある? ないなら貸そうか?」
「大丈夫、持ってる」
とはいえ、わざわざ取り出して濡れた髪を拭こうとは思わない。どうせ、電車に乗っているうちに乾くのだ。
改札をくぐったところで「それじゃ」と3人に頭を下げた。
「またな。風邪引くなよ」
「青野、傘ほんとありがとね」
声をかけてくれたふたりの背後で、ナツさんは周囲をキョロキョロと見まわしていた。なにか捜し物でもしているのだろうか。まあ、俺には関係のないことだけれど。
下りホームに着き、各停待ちの列に並んだところで、背負っていたリュックを前に抱えなおした。そのとたん、背中がひんやりとして、俺はわずかに身震いをした。
やばい、ちょっとしんどいかも。早く家に帰って、あたたかい風呂につかりたい。
電光掲示板を確認すると、先に到着するのは急行列車のようだ。一瞬「今日は各停で帰るのはやめようか」と心が揺れたものの、すぐ隣の急行待ちの長い列に気がついて、俺は前に向き直った。
やっぱり、確実に座れる各停がいい。下車駅までぎゅうぎゅうにつぶされながら立ち続けるのは辛すぎる。
心を決めた矢先、誰かが冷えた背中に突進してきた。
八尾さんのその言葉に、俺は首がもげそうなほどうなずいてしまった。
星井と付き合うようになって知ったことだけど、どういうわけか夏樹さんは自己評価がめちゃくちゃ低い。あんなに可愛くてかっこよくて、親切で優しくて、努力家で魅力的な人なのに、なぜか夏樹さん自身は自分を取るに足らない人間だと思っているふしがある。
まったくもって理解できない。もしかして、別世界の自分──つまりはナツさんに「自信」とか「自己肯定感」を吸い取られてしまったのだろうか。
内心ため息をついていると、隣にいた八尾さんが聞き捨てならないことを口にした。
「まあ、そのあたりはナツも同じだけどな」
──はい? 今なんと?
「ナツさんが? 夏樹さんと同じ?」
「同じだろ。あいつも自分に自信がないやつだし」
「いや……それは同意しかねますね」
ナツさんがあんなにも好き勝手に振る舞えるのは、どう考えても自分に自信があるからだ。どれだけ無茶をしても嫌われない──そう思えなければ、あそこまで自分本位にはなれないはずだ。
俺の指摘に、八尾さんは「いやぁ」と苦笑した。
「ナツはナツで、いろいろフクザツなんだよ。だから、自信のなさが星井とは違う形で表に出てくるだけで──」
「なになに、なんの話?」
またもや、ナツさんが会話に割り込んできた。どうやら話に夢中になっているうちに、駅前のロータリーまで来ていたようだ。
「あ、青野。これ、もういらない」
濡れた折りたたみ傘を笑顔で突き返されて、俺はスンッと鼻をすすった。
たしかに、ここから駅構内までは屋根があるから傘は不要だ。けれど、今の言い方はあんまりじゃないだろうか。
(夏樹さんなら、絶対こんなことは言わない)
いや、夏樹さんに限らず、ふつうの人はもう少し発言に気を配るのではないか。実際、少し先で俺たちを待っていた星井は、開口一番「ほんとごめんね」と手をあわせてきたし。
「ハンカチある? ないなら貸そうか?」
「大丈夫、持ってる」
とはいえ、わざわざ取り出して濡れた髪を拭こうとは思わない。どうせ、電車に乗っているうちに乾くのだ。
改札をくぐったところで「それじゃ」と3人に頭を下げた。
「またな。風邪引くなよ」
「青野、傘ほんとありがとね」
声をかけてくれたふたりの背後で、ナツさんは周囲をキョロキョロと見まわしていた。なにか捜し物でもしているのだろうか。まあ、俺には関係のないことだけれど。
下りホームに着き、各停待ちの列に並んだところで、背負っていたリュックを前に抱えなおした。そのとたん、背中がひんやりとして、俺はわずかに身震いをした。
やばい、ちょっとしんどいかも。早く家に帰って、あたたかい風呂につかりたい。
電光掲示板を確認すると、先に到着するのは急行列車のようだ。一瞬「今日は各停で帰るのはやめようか」と心が揺れたものの、すぐ隣の急行待ちの長い列に気がついて、俺は前に向き直った。
やっぱり、確実に座れる各停がいい。下車駅までぎゅうぎゅうにつぶされながら立ち続けるのは辛すぎる。
心を決めた矢先、誰かが冷えた背中に突進してきた。
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