目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒

文字の大きさ
124 / 124
第8話

3・戦友に報告

しおりを挟む
 そんなわけで、俺とナツさんは「好き(仮)」という状態でお付き合いをはじめることになった。
 とはいえ、あくまで「ひそかに」だ。表向き、俺の交際相手は星井ナナセであり、彼女とは当分別れるわけにはいかない。

(とりあえず、星井と額田先輩がうまくいかない限りは無理だよな)

 果たしていつになるのやら──などと思いつつ、俺はルーズリーフを1枚外した。
 午後の授業はすでにはじまっていたので、俺は板書するふりをしながらそこに必要事項を書き記した。そして、ていねいに折りたたむと、星井の机の上にポンと乗せた。
 星井は、ちらりとこちらを見ると、すぐに俺からのルーズリーフを開いた。

 ──「ナツさんと(仮)で付き合うことになった」

 星井は「へっ!?」と奇声をあげた。
 当然、その声はすでに授業がはじまっている教室中に響き渡り、教師に「どうした星井」と問われるはめになった。

「すみませーん、なんでもないでーす」

 その場を笑顔で乗りきった星井は、すぐさま自分のルーズリーフをビリッと破り取った。

 ──「どういうこと? なんなの(仮)って」

 なるほど、気になったのはそっちか。
 俺は、渡された切れ端のさらに端っこに「詳しくは放課後」と書き記すと、教師の目を盗むように星井に返した。
 さて──星井にはなんて説明しよう。ナツさんを言いくるめた「仮免云々」の言い訳が、果たして彼女に通用するだろうか。

(いや、しないな)

 するわけがない。
 そもそも俺は、星井に口で勝てた試しがない。よって、適当な理由で彼女を言いくるめるなど、どう頑張っても無理に決まっている。
 なので、星井にはバカ正直に今の心情を語ることにした。
 ナツさんからの好意に疑問があること。
 それ以上に、自分の想いに自信がないこと。

「雰囲気に流されたかも……と、思わなくもないというか」

 放課後、ラッキーバーガーの片隅でボソボソと語る俺に、星井はひとこと「面倒くさ」と吐き捨てた。

「なんなのあんた、なんでそんな面倒くさいの」
「自分でもそう思う」

 まったくもって、恋する自分がこんなに面倒くさいとは思ってもみなかった。実に有り難くない発見だ。
 うなだれる俺を前に、星井は椅子にふんぞりかえったまま「あのさ」と足を組み直した。

「青野はさ、なっちゃんのこと可愛いって思ってるんでしょ」
「それは、まあ……」
「だったら決まりじゃん! 可愛いは『好き』だよ。『愛しい』だよ、古文で習ったじゃん!」
「いや、古文では『いとし』が『可愛い』であって、『可愛い』が『愛しい』というわけでは──」

 俺の訂正は、彼女の「うるさい」の一言で片付けられてしまった。

「今、大事なのはそこじゃない。一度は『好き』って認めておきながら、そのあとごちゃごちゃ尻込みして、挙げ句(仮)なんてつけたあんたの往生際の悪さについて『どうなの』って言ってんの!」

 痛い指摘だ。俺は、さらに背中を丸めた。
 星井は、ズズッと音をたててアイスティーをすすった。彼女がこういう行儀の悪い態度をとるときは、たいてい呆れているか、苛立っているときだ。本当に面目ない。

「たしかに、その……俺も往生際が悪いと思わなくはないけど」

 それでも、怯んでしまったのだから仕方がない。
 そもそもナツさんもナツさんだ。想いが通じ合ったとたん、あんなにグイグイ迫ってくることはないだろう。

「星井だって引くだろ、付き合ってすぐに額田先輩にグイグイこられたら」
「なんで? むしろ嬉しいじゃん」
「えっ!?」
「嬉しいよ、好きな人に『求められてる』ってことでしょ」
「いや、けどタイミングがあるっていうか……『お付き合いしましょう』『じゃあ、ヤリましょう』って、どう考えても早すぎるというか……」
「じゃあ、逆に訊くけど」

 星井は、寄りかかっていた椅子から身体を起こした。

「青野は、いつならいいの」
「……えっ」
「いつなら、なっちゃんとやってもいいの?」
「それ……は……」

 なんて答えにくい質問をぶつけてくるのだろう。口ごもる俺に、星井は「ほらね」とため息をついた。

「つまりさ、青野は結局──」

 星井が何か言いかけた、そのときだ。
 彼女のカバンから、ブルルとスマホのバイブ音が聞こえてきた。

「──あ、八尾っちからだ。めずらしー」

 しかも、メールではなく電話らしい。星井は、通話アイコンをタップすると椅子の背もたれに寄りかかった。

「もしもーし。なに、八尾っち……えっ!?」

 星井の、夏樹さん似の細い目がにわかに丸くなる。

「ううん、別れてないけど──えっ、なっちゃんが? えっ、えっ?」

 星井がちらりとこちらを見た。
 やばい──この時点で、すでに嫌な予感しかしない。

「ああ、うん……青野ならここにいるけど……うん、わかった」

 星井は、眉をひそめると「はい」と俺にスマホを差し出してきた。

「……何?」
「八尾っちが『青野に替わってくれ』だって」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

るく
2023.11.02 るく

青野くんナツさんが来てからトラブルに巻き込まれまくりなのに、ちょっとずつ絆されてきてるのがとにかく可愛すぎます〜🤦‍♀️

2023.11.02 水野七緒

こちらにも感想ありがとうございます。
こっちのふたりをどう着地させるか、まだ手探りなのですが、彼らの物語もこのまま追っていただけますと幸いです。

解除

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月
BL
☆ファッティ高校生男子<酒井俊>×几帳面しっかり者高校男子<風見凛太朗>のダイエットBL☆  晴青高校二年五組の風見凛太朗は、初めて任された学級委員の仕事を責任を持ってこなすために日々頑張っている。  そんなある日、ホームルームで「若者のメタボ」を注意喚起するプリントが配られた。するとクラス内に「これって酒井の事じゃん」と嘲笑が起きる。  クラスで一番のメタボ男子(ファッティ男子)である酒井俊は気にした風でもないが、これがイジメに発展するのではないかと心配する凛太朗は、彼のダイエットを手伝う決意をする。だが、どうやら酒井が太っているのには事情がありーー。 高校生活の貴重なひと時の中に、自分を変える出会いがある。輝く高校青春BL☆ 青春BLカップ参加作品です!ぜひお読みくださいませ(^^♪ お気に入り登録・感想・イイネ・投票(BETボタンをポチ)などの応援をいただけると大変嬉しいです。 9/7番外編完結しました☆  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。