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第4話
6・特訓の成果
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たとえば、ある日の休み時間。
私の背後から聞こえてくる、女子数名のこんな会話。
「ねえねえ、間中ヤバい」
「どうしたの?」
「さっき、視聴覚室に資料を運ぼうとしてたらさ、スッて近づいてきて『貸せよ、手伝う』って!」
「えっ、間中が!?」
「手伝ってくれたの!?」
「しかも、すっごいさり気ないの! ぜんぜんウザくないの!」
「あーいるよね。そういうときウザいヤツ。『それ重いだろ? 重いよな? しょうがねーな、俺が持ってやるか~』的な?」
「ね! でも、間中は違うの! ほんと、スッて近づいてきて、スッて資料を取ってくれてさ!」
──よしよし、順調。
似たような声は、他の子たちからも聞こえてきている。「高いところにひっかかったバドミントンの羽根を取ってくれた」「掃除を手伝ってくれた」「ペンケースを誉めてくれた」などなど。
その、すべてに共通しているのが「さり気なく」ってことだ。
押しつけがましくなく、軽すぎるノリでもなく、あくまでサラッと涼しげに。
たったそれだけのことで、多くの女子から「カッコイイ」認定されちゃうんだから、すごいというか怖いというか。
でも、当の間中くんはそうは思っていなかったみたいで──
「なーんか、納得いかねぇ」
書庫の本棚に寄りかかって、拗ねたようにあぐらをかいている。
どうでもいいけど、直接床に座るのってお尻が冷たくならないのかな。制服も汚れそうだし、私なら絶対無理なんだけど。
「納得いかないって何が?」
「なんか……『カッコイイ』とか言われんの。俺、今までも女子の荷物を持ったり、掃除を手伝ったりしたことあったのに」
「だから、それはさ、ノリが軽すぎたんだってば」
たとえば、重い荷物を持っている女子がいたとして。これまでの間中くんは「おー重そうじゃん。俺も手伝おっか~」って気さくに声をかけていたんじゃないの?
「でも、それだとカッコイイ要素がないんだよ。女子からすると『手伝ってもらえてラッキー』とは思うけど、それ以上にはならないというか」
しかも、ノリが軽いから、相手の女子も「ありがと、じゃあ、お願い」って気さくに返しちゃう。その結果、ただの「親切なヤツ」で終わっちゃう。
「まあ、あくまで勝手な想像だけどね。私は、クールっぽい間中くんのことも特にカッコいいとは思わないし」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。私、別にクール系男子なんて好きじゃないもん」
「えええっ」
いや、驚くことじゃないでしょ。「クール系男子」を目指しているのは、あくまで結麻ちゃんの好みだからだよ?
そう指摘すると、間中くんは「うーん」と首を傾げた。
「でもさ、それだと俺がカッコよくふるまえているか、佐島には判断できなくね?」
「そんなことないよ。理解はできてるもん」
間中くんを「クール系男子にする」って決めてから、いろいろな小説や漫画を読んで知識をたくわえた。だから「こういう男子がモテる」っていうのはわかるんだ。
ただ、それを私は「かっこいい」って思わないだけで。
「じゃあさ、じゃあさ」
間中くんは素早く立ち上がると、目をきらきらさせて私に近づいてきた。
そして、いったん真顔になると、ふっと笑って私のおでこを軽く突いて──
「『お前、俺のことよく見てんじゃん』──」
──ほうほう。今のは、テキスト2枚目の久住くんのセリフの応用版だね。
しかも「微笑み+おでこツン」のコンボときたものだ。
(やるな、間中くん)
まあ、でもここはちょっと厳しめに──
「75点」
「えっ、低すぎじゃね!?」
「だって『おでこツン』の突き方が強すぎたもん」
「そっか? じゃあ、これくらい?」
「それだと弱すぎ」
「うーん……じゃあ、これでどう?」
「うん、90点」
「よっしゃ!」
あ、笑った。
ただそれだけのことなのに、私の目はいとも簡単に釘付けになってしまう。
おかしい。やっぱりどうかしている。さっきの「微笑み+おでこツン」には特に何も感じなかったのに。
「おーい、佐島? どうかした?」
大きな手を目の前でふられて、私はようやく我にかえった。
「あっ、ええと……」
「どうした? ボーッとして」
「なんでもない。それよりそろそろ教室に戻ろう」
「えっ、まだ時間あるけど……」
「次の授業の予習をしたいから。今日はこれでおしまい」
適当な理由をつけて、書庫のドアを開ける。間中くんは、怪訝そうな顔をしつつも私のあとをついてきた。
(まいったな)
なんだか、ますます状況が悪化している気がする。
どうしよう。どうすればこれまでどおりに戻れるんだろう。
謎が解けさえすればいいのか。いっそ、私の前では笑うのを禁止にしようか。でも、この目は、私に向けられていない笑顔さえも勝手に拾いあげてしまっているわけで──
「あっ」
急に、間中くんが声をあげた。
「やべ、公欠届、出すの忘れてた」
「公欠? なんで?」
「新人戦の準決勝! 明後日だから早く出さねぇと」
「へぇ、すごいね、準決勝なんて」
「まだ地区予選だけどな。あと2つ勝てば、来月県大会──」
そこまで言いかけたところで、間中くんはポカンと口を開けた。軽くみひらかれた目は、私の背後に向けられている。
どうしたんだろう、と振り返るより早く「トモちゃん」と呼びかけられる。
間中くんの視線の先にいたのは、意中の相手──結麻ちゃんだった。
私の背後から聞こえてくる、女子数名のこんな会話。
「ねえねえ、間中ヤバい」
「どうしたの?」
「さっき、視聴覚室に資料を運ぼうとしてたらさ、スッて近づいてきて『貸せよ、手伝う』って!」
「えっ、間中が!?」
「手伝ってくれたの!?」
「しかも、すっごいさり気ないの! ぜんぜんウザくないの!」
「あーいるよね。そういうときウザいヤツ。『それ重いだろ? 重いよな? しょうがねーな、俺が持ってやるか~』的な?」
「ね! でも、間中は違うの! ほんと、スッて近づいてきて、スッて資料を取ってくれてさ!」
──よしよし、順調。
似たような声は、他の子たちからも聞こえてきている。「高いところにひっかかったバドミントンの羽根を取ってくれた」「掃除を手伝ってくれた」「ペンケースを誉めてくれた」などなど。
その、すべてに共通しているのが「さり気なく」ってことだ。
押しつけがましくなく、軽すぎるノリでもなく、あくまでサラッと涼しげに。
たったそれだけのことで、多くの女子から「カッコイイ」認定されちゃうんだから、すごいというか怖いというか。
でも、当の間中くんはそうは思っていなかったみたいで──
「なーんか、納得いかねぇ」
書庫の本棚に寄りかかって、拗ねたようにあぐらをかいている。
どうでもいいけど、直接床に座るのってお尻が冷たくならないのかな。制服も汚れそうだし、私なら絶対無理なんだけど。
「納得いかないって何が?」
「なんか……『カッコイイ』とか言われんの。俺、今までも女子の荷物を持ったり、掃除を手伝ったりしたことあったのに」
「だから、それはさ、ノリが軽すぎたんだってば」
たとえば、重い荷物を持っている女子がいたとして。これまでの間中くんは「おー重そうじゃん。俺も手伝おっか~」って気さくに声をかけていたんじゃないの?
「でも、それだとカッコイイ要素がないんだよ。女子からすると『手伝ってもらえてラッキー』とは思うけど、それ以上にはならないというか」
しかも、ノリが軽いから、相手の女子も「ありがと、じゃあ、お願い」って気さくに返しちゃう。その結果、ただの「親切なヤツ」で終わっちゃう。
「まあ、あくまで勝手な想像だけどね。私は、クールっぽい間中くんのことも特にカッコいいとは思わないし」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。私、別にクール系男子なんて好きじゃないもん」
「えええっ」
いや、驚くことじゃないでしょ。「クール系男子」を目指しているのは、あくまで結麻ちゃんの好みだからだよ?
そう指摘すると、間中くんは「うーん」と首を傾げた。
「でもさ、それだと俺がカッコよくふるまえているか、佐島には判断できなくね?」
「そんなことないよ。理解はできてるもん」
間中くんを「クール系男子にする」って決めてから、いろいろな小説や漫画を読んで知識をたくわえた。だから「こういう男子がモテる」っていうのはわかるんだ。
ただ、それを私は「かっこいい」って思わないだけで。
「じゃあさ、じゃあさ」
間中くんは素早く立ち上がると、目をきらきらさせて私に近づいてきた。
そして、いったん真顔になると、ふっと笑って私のおでこを軽く突いて──
「『お前、俺のことよく見てんじゃん』──」
──ほうほう。今のは、テキスト2枚目の久住くんのセリフの応用版だね。
しかも「微笑み+おでこツン」のコンボときたものだ。
(やるな、間中くん)
まあ、でもここはちょっと厳しめに──
「75点」
「えっ、低すぎじゃね!?」
「だって『おでこツン』の突き方が強すぎたもん」
「そっか? じゃあ、これくらい?」
「それだと弱すぎ」
「うーん……じゃあ、これでどう?」
「うん、90点」
「よっしゃ!」
あ、笑った。
ただそれだけのことなのに、私の目はいとも簡単に釘付けになってしまう。
おかしい。やっぱりどうかしている。さっきの「微笑み+おでこツン」には特に何も感じなかったのに。
「おーい、佐島? どうかした?」
大きな手を目の前でふられて、私はようやく我にかえった。
「あっ、ええと……」
「どうした? ボーッとして」
「なんでもない。それよりそろそろ教室に戻ろう」
「えっ、まだ時間あるけど……」
「次の授業の予習をしたいから。今日はこれでおしまい」
適当な理由をつけて、書庫のドアを開ける。間中くんは、怪訝そうな顔をしつつも私のあとをついてきた。
(まいったな)
なんだか、ますます状況が悪化している気がする。
どうしよう。どうすればこれまでどおりに戻れるんだろう。
謎が解けさえすればいいのか。いっそ、私の前では笑うのを禁止にしようか。でも、この目は、私に向けられていない笑顔さえも勝手に拾いあげてしまっているわけで──
「あっ」
急に、間中くんが声をあげた。
「やべ、公欠届、出すの忘れてた」
「公欠? なんで?」
「新人戦の準決勝! 明後日だから早く出さねぇと」
「へぇ、すごいね、準決勝なんて」
「まだ地区予選だけどな。あと2つ勝てば、来月県大会──」
そこまで言いかけたところで、間中くんはポカンと口を開けた。軽くみひらかれた目は、私の背後に向けられている。
どうしたんだろう、と振り返るより早く「トモちゃん」と呼びかけられる。
間中くんの視線の先にいたのは、意中の相手──結麻ちゃんだった。
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