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第1話

5・1週間前の話(その4)

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「うわ……」

 マジだ。マジで尻尾が生えていやがる。

「触ってもいいか?」
「構わん」
「じゃあ、失礼して……」

 なんだこれ、毛並み良すぎじゃないか?
 フワフワツヤツヤで、これはずっと触っていたくなる。
 というか、これなんの尻尾だ? どうも犬っぽいけど──じゃあ、大賀って「犬の神様」なのか?

「もういいか」
「えっ……ああ、悪い」

 いつまでも他人に身体を触られていたくはないよな。
 手を離すと、大賀はズラしていたズボンを元に戻した。少し腰を揺すっているのは、尻尾のおさまりのよいところを探っているのだろう。

「この尻尾、見せたり隠したりできるのか?」
「ああ。だがずっと隠しているのは疲れる」
「隠すと霊力を消費するんだよね。だから、家では出しっぱなしにしているほうが多いってわけ」
「なるほど……じゃあ、隠すのは外出するときだけか」
「それと、事情を知らない人間がうちに来たときだな」
「ああ、たしかに……」

 こんなの、いきなり見せられたら普通はびっくりするもんな。
 つーか、俺なんて事前に写真を見せられていてもビビったけど。くそ、かっこ悪いな、さっきの俺。
 ひそかに自己嫌悪に陥っていると、大賀が「とりあえずあがってくれ」と居間のドアを開けた。

「このままここで立ち話もなんだろう」
「そうだね、玄関だもんね」
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