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第4話
3・火傷
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この日のカフェは、週末でもないのになかなかの大賑わいだった。
常に座席がひとつかふたつ空いていて、いったん満席になってもすぐに誰かが帰って、また席が空くような状態。おかげで、店内飲食希望のお客さんは、ほぼすべてご案内。もちろんテイクアウトのお客さんもひっきりなしにやってくるから、一息ついているヒマがない。
俺は、今日もドリンクとフードの担当だ。
加えて、ひとつめのレジがまわらなくなると、ふたつめのレジを開けてヘルプに入る。正直、両方やるのはけっこうキツい。店長がいれば、どちらかの作業を引き受けてくれるのに。
それでも、最初の2時間は頑張って回せていた。この混雑具合にしては、お客さんをそれほど待たせることもなく、スムーズに対応できていたと思う。
問題が起きたのは、15分休憩を終えたすぐ後のこと。
「熱っ」
カウンターの向こうにお客さんがいるにも関わらず、俺は思わず大声をあげてしまった。
ホットフードを温めるためのブラウナーは、かなり高温に設定されている。そのなかからチーズサンドを取り出すとき、うっかり指先が触れてしまったのだ。
右手の小指に鋭い痛みが走った。一緒にドリンクを担当していた川野ちゃんが「大丈夫ですか!?」と引きつった声をあげた。
「大丈夫……それよりチーズサンド……」
「提供は私がやりますから! 早く指冷やしてきてください!」
おお……成長したなぁ。数週間前は、カウンター前が混雑してくると涙目になっていたのに。
「悪い」と頭を下げて、いったん裏に引っ込む。洗浄担当のやつが「うわ、痛そうっすね」と、すぐに流し台を譲ってくれた。
くそ、こんな混んでいるときに火傷するなんて。
でも、ここでしっかり冷やさないと後で水ぶくれになっちまう。それで絆創膏を貼ることにでもなったら、しばらくはドリンクやフードを担当できない。衛生上、食品に触れなくなるからだ。
(くそ、マジで痛ぇ)
蛇口をひねって、流水に指をつっこもうとしたそのときだ。
「えーサボり? お客さん、めちゃくちゃ並んでんだけどー」
すぐそばのドアが開いて、坂沼さんが入ってきた。
「すみません、ちょっと火傷して」
「そんなのあとで手当すれば? それともお客さんより自分の手当て優先って感じ?」
「……」
「自分の不注意じゃーん。なんでお客さん待たせてんの?」
もっともらしい指摘を口にした坂沼さんからは、かすかにタバコのにおいがした。たぶん、またトイレ休憩のふりをしながら店外で一服してきたんだろう。
苛立ちと不快感──その一方で「みんなに迷惑をかけている」という気まずさと負い目。
結局、俺は蛇口を止めた。かわりにアイスドリンク用の氷を、いくつかグラスに落とした。
「若井さん、いいんっすか? 冷やさなくて」
「大丈夫、なんとかする」
カウンターに戻ると、川野ちゃんが必死の形相でショットを落としていた。
「どこまでやった?」
「カフェモカまで……って、もういいんですか?」
「うん、まあ……平気」
オーダーシートを確認して、冷蔵庫から生クリームを取り出す。火傷の痕にはしばらく氷を当てていたけれど、そのうち邪魔になって排水口に捨ててしまった。
(痛ぇ……)
でも、そんなこと言っていられない。とにかく目の前のオーダーをさばかないと。
そうして、気がつけば閉店5分前。そこからさらにクローズ作業がはじまって、結局手当ができたのは火傷してから4時間後のことだった。
常に座席がひとつかふたつ空いていて、いったん満席になってもすぐに誰かが帰って、また席が空くような状態。おかげで、店内飲食希望のお客さんは、ほぼすべてご案内。もちろんテイクアウトのお客さんもひっきりなしにやってくるから、一息ついているヒマがない。
俺は、今日もドリンクとフードの担当だ。
加えて、ひとつめのレジがまわらなくなると、ふたつめのレジを開けてヘルプに入る。正直、両方やるのはけっこうキツい。店長がいれば、どちらかの作業を引き受けてくれるのに。
それでも、最初の2時間は頑張って回せていた。この混雑具合にしては、お客さんをそれほど待たせることもなく、スムーズに対応できていたと思う。
問題が起きたのは、15分休憩を終えたすぐ後のこと。
「熱っ」
カウンターの向こうにお客さんがいるにも関わらず、俺は思わず大声をあげてしまった。
ホットフードを温めるためのブラウナーは、かなり高温に設定されている。そのなかからチーズサンドを取り出すとき、うっかり指先が触れてしまったのだ。
右手の小指に鋭い痛みが走った。一緒にドリンクを担当していた川野ちゃんが「大丈夫ですか!?」と引きつった声をあげた。
「大丈夫……それよりチーズサンド……」
「提供は私がやりますから! 早く指冷やしてきてください!」
おお……成長したなぁ。数週間前は、カウンター前が混雑してくると涙目になっていたのに。
「悪い」と頭を下げて、いったん裏に引っ込む。洗浄担当のやつが「うわ、痛そうっすね」と、すぐに流し台を譲ってくれた。
くそ、こんな混んでいるときに火傷するなんて。
でも、ここでしっかり冷やさないと後で水ぶくれになっちまう。それで絆創膏を貼ることにでもなったら、しばらくはドリンクやフードを担当できない。衛生上、食品に触れなくなるからだ。
(くそ、マジで痛ぇ)
蛇口をひねって、流水に指をつっこもうとしたそのときだ。
「えーサボり? お客さん、めちゃくちゃ並んでんだけどー」
すぐそばのドアが開いて、坂沼さんが入ってきた。
「すみません、ちょっと火傷して」
「そんなのあとで手当すれば? それともお客さんより自分の手当て優先って感じ?」
「……」
「自分の不注意じゃーん。なんでお客さん待たせてんの?」
もっともらしい指摘を口にした坂沼さんからは、かすかにタバコのにおいがした。たぶん、またトイレ休憩のふりをしながら店外で一服してきたんだろう。
苛立ちと不快感──その一方で「みんなに迷惑をかけている」という気まずさと負い目。
結局、俺は蛇口を止めた。かわりにアイスドリンク用の氷を、いくつかグラスに落とした。
「若井さん、いいんっすか? 冷やさなくて」
「大丈夫、なんとかする」
カウンターに戻ると、川野ちゃんが必死の形相でショットを落としていた。
「どこまでやった?」
「カフェモカまで……って、もういいんですか?」
「うん、まあ……平気」
オーダーシートを確認して、冷蔵庫から生クリームを取り出す。火傷の痕にはしばらく氷を当てていたけれど、そのうち邪魔になって排水口に捨ててしまった。
(痛ぇ……)
でも、そんなこと言っていられない。とにかく目の前のオーダーをさばかないと。
そうして、気がつけば閉店5分前。そこからさらにクローズ作業がはじまって、結局手当ができたのは火傷してから4時間後のことだった。
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