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第7話
2・不穏な気配
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俺が、そのことに気づいたのはただの偶然だ。
以前ドリンク業務のあれこれを教えた新人ちゃん──川野ちゃんっていうんだけど、彼女と久しぶりに一緒にドリンクカウンターに入ったときのこと。
「俺、フローズンヨーグルトやるからホットミルクお願い」
「……」
「……川野ちゃん、聞いてる?」
「あっ……はい!」
川野ちゃんは、慌てた様子でピッチャーにミルクを注いでいる。
最近の彼女はひとりでも余裕でドリンク業務を回せていたはずで、だからそのときも「ちょっとヘンだな」とは思っていたんだ。
それが「絶対におかしい」に変わったのは、カウンター内の提供用カップが切れたときだ。
「川野ちゃん、バックヤードから取ってきてもらえる?」
そうお願いしたのは、俺がこのあとチーズドックを作らなければいけなかったからだし、彼女も「はい!」と元気に返事をしてカウンターを出ていった。
なのに、なぜかなかなか戻ってこない。
どうしたのかと振り返ると、彼女はバックヤードのドアの前で立ち尽くしていた。
「……川野ちゃん?」
声をかけると、彼女は打たれたようにこちらを見た。
「あ、ええと……すみません!」
勢いよく頭を下げると、彼女はバックヤードのドアに手をかけようとする。
と、中から弾けるような笑い声が聞こえてきた。どうやら、また坂沼さんが動画サイトを観ているらしい。
そのとたん、川野ちゃんがびくりと背中を震わせた。指先まで震わせて──これは、どう見てもただ事ではない。
「川野ちゃん、何かあった?」
恐る恐る訊ねると、彼女はうつむいて泣き出した。
ハラハラとこぼれ落ちる涙が、俺の懸念が正解だったことを教えてくれていた。
以前ドリンク業務のあれこれを教えた新人ちゃん──川野ちゃんっていうんだけど、彼女と久しぶりに一緒にドリンクカウンターに入ったときのこと。
「俺、フローズンヨーグルトやるからホットミルクお願い」
「……」
「……川野ちゃん、聞いてる?」
「あっ……はい!」
川野ちゃんは、慌てた様子でピッチャーにミルクを注いでいる。
最近の彼女はひとりでも余裕でドリンク業務を回せていたはずで、だからそのときも「ちょっとヘンだな」とは思っていたんだ。
それが「絶対におかしい」に変わったのは、カウンター内の提供用カップが切れたときだ。
「川野ちゃん、バックヤードから取ってきてもらえる?」
そうお願いしたのは、俺がこのあとチーズドックを作らなければいけなかったからだし、彼女も「はい!」と元気に返事をしてカウンターを出ていった。
なのに、なぜかなかなか戻ってこない。
どうしたのかと振り返ると、彼女はバックヤードのドアの前で立ち尽くしていた。
「……川野ちゃん?」
声をかけると、彼女は打たれたようにこちらを見た。
「あ、ええと……すみません!」
勢いよく頭を下げると、彼女はバックヤードのドアに手をかけようとする。
と、中から弾けるような笑い声が聞こえてきた。どうやら、また坂沼さんが動画サイトを観ているらしい。
そのとたん、川野ちゃんがびくりと背中を震わせた。指先まで震わせて──これは、どう見てもただ事ではない。
「川野ちゃん、何かあった?」
恐る恐る訊ねると、彼女はうつむいて泣き出した。
ハラハラとこぼれ落ちる涙が、俺の懸念が正解だったことを教えてくれていた。
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