モフモフ野郎と俺の朝ごはん

水野七緒

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第7話

3・後輩への仕打ち

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その日は俺も川野ちゃんも20時あがりだったので、一駅隣のカフェで話を聞くことにした。ちなみに、その店では川野ちゃんの彼氏がバイトをしていて、俺にこっそりシュークリームをサービスしてくれた。彼氏くんいわく、この店で一番うまいスイーツらしい。

「すみません、こんな遅い時間に付き合ってもらって」
「いいって。俺、このあと予定ないし」

シュークリームを頬張っていると、彼氏くんもドリンクを手にやってきた。ただ事じゃない雰囲気を察した店長が「休憩していいよ」と許可をくれたらしい。

「こいつ、ここんとこ、ずっと泣いてたんっす。『社員が嫌だ、また嫌がらせされた』って」
「社員って、坂沼さんだよな。なにされたんだ?」
「いろいろです。ちゃんと5分前には出勤したのにタイムカードを押させてくれなくて遅刻扱いにされたり、1番休憩のときにバックヤードに入れてもらえなくて、お店の外に行くしかなかったり」
「1番……って30分休憩じゃん」

勤務中はコンビニや他の飲食店へ行くのは御法度なので、バックヤードに入れないとなると、従業員用のトイレに閉じこもるか、店の外で待つしかない。まだ肌寒いこの時期、それはあまりにも辛すぎる。

「なにか心当たりは?」
「……ひとつだけ」

今から1ヶ月ほど前のこと。1番休憩に入ろうとした川野ちゃんが、バックヤードで動画サイトを閲覧中の坂沼さんとバッティングしたことがあった。川野ちゃん自身は特に何も言わなかったそうだけど、彼女の同席に坂沼さんは気まずさを覚えたのだろう。「キミも観たいチャンネルがあるなら観てもいいよ」と声をかけてきた。
ところが、彼女はそれを断った。「今は遊ぶ時間じゃありませんので」──まじめな川野ちゃんらしい返答だ。
けれども、坂沼さんはそれを自分に対する嫌みだと受け取ったらしい。

「それ以来、いろいろ嫌がらせをされて……最初は気のせいだって思おうとしてたんです。でも、あまりにも続くから『ああ、これはわざとなんだ』って」
「店長には?」
「言いました。注意もしてもらいました」

その結果、今度はネチネチと嫌味を言われるようになったらしい。

「私が何かやるたびに、あれこれ言ってくるんです。たとえば『アイスコーヒーの量がバラバラじゃない?』とか『オーダーが入ってからの作業が遅すぎない?』とか。でも、慎重にコーヒーを淹れていると『お客さんを待たせすぎでしょ』って言われるし、オーダーが入ってすぐに作業に取りかかると『バタバタしていて見てられない』って。もうどうすればいいのかわからなくて」

聞いているだけで、気分が悪くなってきた。
たしかに、坂沼さんのそれは明らかな「嫌がらせ」だ。

「あのさ、大丈夫だよ。俺から見た川野ちゃんは、ちゃんと適切な分量で商品を提供しているし、ドリンク業務も100点満点だし」

そもそも店内作業をろくにこなせない坂沼さんが、なぜエラそうにそんなことを言うのか。俺なら「うっせぇ、すっこんでろ」って思うところだけど、まじめな川野ちゃんはそうもいかないのだろう。
うつむく彼女の隣で、彼氏くんも悔しそうだ。

「こいつ、最近すっかり寝不足なんっす。それにメシもあんまり食ってないみたいで」
「そうなの、川野ちゃん?」
「……すみません……でも、なんだかごはんを食べる気になれなくて」

うなだれる後輩を前に、胸が苦しくなった。
彼女は、少し前の「俺」だ。
坂沼さんの嫌がらせを受け続けていたときの俺自身だ。

(なんとかしてあげたい)

せっかく、こうして打ち明けてくれたのだ。
だったら手を貸したい。少しでも後輩の力になりたい。
それに、今日の今日まで彼女が受けた仕打ちに気づかなかった後ろめたさもあった。だって、嫌がらせを受けはじめたのが「1ヶ月ほど前」って──その間、俺は何度も彼女と同じシフトに入っていたのに。

「本社に通報しよう」
「えっ」
「店長に言ってもダメだったんだろ? だったら、もっと上の……本社に直接訴えよう」
「え、でも……」

怯む川野ちゃんの隣で、彼氏くんが「それいいっす」と声をあげた。

「こいつは間違ってないっす! その川野ってやつの悪行、がっつり訴えてやりましょう!」

それでも、川野ちゃんはまだ不安そうだ。なので、安心させるように俺はさらに言葉を続けた。

「大丈夫。訴えるのは、俺がやるから」
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