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エピローグ
4・その後のモフモフ野郎
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さて、ここからは近況報告だ。
バイトを辞めた俺は、大学と自宅の往復をしつつ、これまで以上に自炊生活に精を出している。
理由はいくつかあって、まずこれまでグズグズだった生活態度を見直すため。バイトを辞めたことで、時間ができたため。好きに使えるお金が減ったので、節約の必要性に迫られたため。
でも、一番の理由は──
「大賀、お前……! なんでアボカドの皮を剥いてんだよ」
「剥いてはいけなかったか? 皮も食べられるのか?」
「食べられねーけど、だからってにんじんやじゃがいもの皮剥きとは違うんだよ!」
アボカドは、包丁で縦に半分に割ったあと、指で皮を剥く。あるいはスプーンで実をくりぬく。たったこれだけで皮と実を分けることができるんだ。
それなのに、包丁でちまちまと皮剥きしやがって。
「おかげで実がボロボロじゃねぇか」
「そうだな。すまない」
──出たよ、ほぼ無表情でのお詫び。
まあ、尻尾がしょんぼり垂れているから許してやるけど。
こんな調子で、今日も我が家のキッチンにはモフモフ野郎が立っている。
本当なら今頃は新島のところに転がり込んでいるはずだったんだろうけれど、いろいろあった末に同居を拒否されてしまったらしい。
「だからって、なにもうちに転がり込まなくても……」
「なんの話だ?」
「お前だよ、お前の話!」
着替えやら何やらを抱えたこいつが「また世話になる」とやってきたのが、2週間ほど前のこと。
当然、一悶着あったものの、間に入った神森にうまく丸め込まれて、現在再び同居中というわけだ。
(なんで、こんなことになったかなぁ)
たしかに「また来い」とは言ったけどさ、それはあくまで「ときどき遊びに来い」って意味で「同居を再開しよう」とは言わなかったよな、俺。
まあ、うちからだと新島のもとに通いやすいらしいし、生活費もいれてもらえることになったから、いいんだけど。
「で、あいつの悩みは解決しそうなのか?」
「わからん」
「というと?」
「まず、新島の気持ちがわからん。あの女性になぜああも執着しているのか──」
「そんなの好きだからに決まってるだろ。よく言うじゃん、『恋は盲目』って」
ありきたりな言葉のはずだけど、大賀にはピンとこないらしい。
俺は、マヨネーズとわさびを混ぜながらため息をついた。
「やっぱり無理なんだよ、お前が恋愛相談にのるのは」
「だが、困っているあいつを放ってはおけない」
「だったら、まずはお前が恋愛すればいいんじゃねーの?」
そうすれば、新島の気持ちも理解できるかもしれないし。知らんけど。
素っ気ない俺に、大賀はムッと眉を寄せた。なんだ、図星をさされてふてくされてるのか? お前、意外と負けん気が強いもんな。
「まあ、でも恋なんてしようと思ってできるものでもないか」
俺自身、元カノと別れて1年以上経つし。
そんなことを思い出しながら、ヤツの手元を覗き込む。
「エビの背わた取り、終わったか?」
「あと少しだ」
「貸せよ。俺もやるから」
で、終わったら軽く茹でて、わさびマヨネーズでさっと和えよう。お前がグズグズにしたアボカドも一緒に。
「すぐに食べるのか?」
「一部はな。残りは明日の朝食にまわす」
これで作るホットサンド、絶対うまいからな。
お前も楽しみにしておけよ。
そうして、ふたりで台所に立ちながら、明日の光景を思い浮かべる。
窓から差し込む朝の日差し。ひやりとした空気。吐く息の白さ。
そんななかで、俺はきっと食パンにバターを塗っている。
俺と、このモフモフ野郎が、新しい一日を元気で過ごせますように。
そんな祈りを、ひっそりと込めながら。
バイトを辞めた俺は、大学と自宅の往復をしつつ、これまで以上に自炊生活に精を出している。
理由はいくつかあって、まずこれまでグズグズだった生活態度を見直すため。バイトを辞めたことで、時間ができたため。好きに使えるお金が減ったので、節約の必要性に迫られたため。
でも、一番の理由は──
「大賀、お前……! なんでアボカドの皮を剥いてんだよ」
「剥いてはいけなかったか? 皮も食べられるのか?」
「食べられねーけど、だからってにんじんやじゃがいもの皮剥きとは違うんだよ!」
アボカドは、包丁で縦に半分に割ったあと、指で皮を剥く。あるいはスプーンで実をくりぬく。たったこれだけで皮と実を分けることができるんだ。
それなのに、包丁でちまちまと皮剥きしやがって。
「おかげで実がボロボロじゃねぇか」
「そうだな。すまない」
──出たよ、ほぼ無表情でのお詫び。
まあ、尻尾がしょんぼり垂れているから許してやるけど。
こんな調子で、今日も我が家のキッチンにはモフモフ野郎が立っている。
本当なら今頃は新島のところに転がり込んでいるはずだったんだろうけれど、いろいろあった末に同居を拒否されてしまったらしい。
「だからって、なにもうちに転がり込まなくても……」
「なんの話だ?」
「お前だよ、お前の話!」
着替えやら何やらを抱えたこいつが「また世話になる」とやってきたのが、2週間ほど前のこと。
当然、一悶着あったものの、間に入った神森にうまく丸め込まれて、現在再び同居中というわけだ。
(なんで、こんなことになったかなぁ)
たしかに「また来い」とは言ったけどさ、それはあくまで「ときどき遊びに来い」って意味で「同居を再開しよう」とは言わなかったよな、俺。
まあ、うちからだと新島のもとに通いやすいらしいし、生活費もいれてもらえることになったから、いいんだけど。
「で、あいつの悩みは解決しそうなのか?」
「わからん」
「というと?」
「まず、新島の気持ちがわからん。あの女性になぜああも執着しているのか──」
「そんなの好きだからに決まってるだろ。よく言うじゃん、『恋は盲目』って」
ありきたりな言葉のはずだけど、大賀にはピンとこないらしい。
俺は、マヨネーズとわさびを混ぜながらため息をついた。
「やっぱり無理なんだよ、お前が恋愛相談にのるのは」
「だが、困っているあいつを放ってはおけない」
「だったら、まずはお前が恋愛すればいいんじゃねーの?」
そうすれば、新島の気持ちも理解できるかもしれないし。知らんけど。
素っ気ない俺に、大賀はムッと眉を寄せた。なんだ、図星をさされてふてくされてるのか? お前、意外と負けん気が強いもんな。
「まあ、でも恋なんてしようと思ってできるものでもないか」
俺自身、元カノと別れて1年以上経つし。
そんなことを思い出しながら、ヤツの手元を覗き込む。
「エビの背わた取り、終わったか?」
「あと少しだ」
「貸せよ。俺もやるから」
で、終わったら軽く茹でて、わさびマヨネーズでさっと和えよう。お前がグズグズにしたアボカドも一緒に。
「すぐに食べるのか?」
「一部はな。残りは明日の朝食にまわす」
これで作るホットサンド、絶対うまいからな。
お前も楽しみにしておけよ。
そうして、ふたりで台所に立ちながら、明日の光景を思い浮かべる。
窓から差し込む朝の日差し。ひやりとした空気。吐く息の白さ。
そんななかで、俺はきっと食パンにバターを塗っている。
俺と、このモフモフ野郎が、新しい一日を元気で過ごせますように。
そんな祈りを、ひっそりと込めながら。
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