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弐章 国づくり

72 戦乱の世

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 穢多の人々が集まる集落。
 その中でも外れにある一つ、ボロボロの小屋から煙が流れでている。
 
 その小屋の中、ホタルは、竈に火を入れグツグツと鍋でヒエを炊いていた。
 
 「ごめんお父さん。
 私が皮の加工が出来ればいいんだけど」 
 
 そうすれば戦乱の世で需要が伸びている馬具や防具が作れる。
 
 それをお金にすればもっと美味しいものを食べさせてあげられるし、もしかしたらお医者様に見てもらえるかもしれない。
 
 ホタルはグツグツと音を立て揺れる蓋を眺めながら落ち込みこの先どうすればいいのかとぼうっと小窓から見える空を見上げる。
 
 無力な自分が嫌になる。
 
 今を生きるのが精一杯でもし明日、自分が病気にかかったりして動けなくなったりしたら。
 きっと誰にも助けられる事も無く誰にも知られずに、父と一緒に死んでしまうのだろう。
 
 皆、家族や自分が生きるのに必死で他人を気にする暇なんてない。
 
 それどころか食糧の為に村同士で戦いがある程だ。
 
 そんな世の中。
 それが当たり前。
 
 ホタルはみすぼらしい継ぎ接ぎだらけの服、母が編み直し残してくれた宝物に触れる。
 
 戦乱の世、もし一攫千金、今の不安定な暮らしを変えられるすべがあるとするなら。
 
 一つしかない。
 
 ホタルは父に背を向けたままさり気なく、普段通りの語り口で切り出す。
 
 「そう言えば…。
 町の人達が言ってたんだ…戦に出ればお金が手に入るんだって…。
 ちょうど、近々この地域で戦をするらしいから。
 だから、私…。
 私、戦(いくさ)に行くよ」
 
 ホタルの手は震え、不安で胸がいっぱいだ。
 
 それに気づいたのか父は動かなくなった手をホタルに弱々しく伸ばす。
 
 「よしなさい。
 俺の事はいい…」
 
 そう背中にかけられた父の声は弱々しい。

 「いいわけ無い!!」
 
 ホタルは手を握りしめ強く言い放ち父を見る。
 
 「良くないよ…。
 お父さんはたった一人の家族なんだよ?
 もしお父さんがいなくなっちゃったら私…一人になっちゃう…」
 
 父はそんな娘の言う言葉を受け口を閉じホタルを見つめる。
 
 「私が戦に出てる間は、お父さんの面倒は、私が戦に行ってくれるならって村長が変わりに面倒を見てくれる人を寄越してくれるって言ってたし大丈夫だよ」
 
 村長はこの集落の口減らしの為にそう言ってきたのかもしれないが、ホタルにとっては都合が良い話だ。
 
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