あなたが妹を選ぶというのなら、どうぞお幸せに

1.婚約破棄

「イーファット・レヴァクル！ お前との婚約を破棄破棄させてもらう！ お前の妹、マルクこそが私の妻として相応しい！」

　大勢の貴族を呼んだ開かれた私の婚約者ブレン・ディーン伯爵様のパーティ。
　そこで彼は声を大きく荒げながらそう口にしてきた―私の妹、マルクを引き連れて。

　やっぱり……そんな空虚な言葉が私の胸を突いた。
　私がどれだけ時間を作っても、ブレン様は私との時間を一切作ろうとしなかった。
　なのに、いつからかよくマルクと一緒に居るところを目にする事が多くなり、今日その理由が分かってしまった。

　彼は私を愛しておらず、妹のマルクを愛していたのだ。
　私が突然の事に驚きつつも、諦めと悲しみに暮れながら肩を震わせそうになっていると、あろうことかブレン様は周囲の視線が集まる中、とんでもない事を言い出した。

「何故、私がお前ではなくマルクを選んだのか、分かるか？」
「いえ……ブレン様がマルクの事を愛してしまったから……でしょうか？」
「ふん、それはもちろんだ！ しかし、もっともたる理由はお前にある！ この私を前に、自分の罪を認めぬつもりか？ 何と愚かな女だ！」

「自分の罪……？ とぼける……？ 何の事でしょうか……？」
「とぼけても無駄だ！ イーファット・レヴァクル！ 貴様は私の知らぬうちに、どこの馬の骨とも知れぬ男と寝ていたそうではないか！」

　ちょっと待って、浮気ってどういう事？
　身に覚えのない事を告げられ、私が会場で困惑していると周囲から様々な声が上がり始める。

「伯爵様じゃ飽き足らず、他の男に手を出したというの……？」
「『聖女』と呼ばれておきながら、なんと汚らわしい……」
「伯爵様が可哀想だわ……」

　動揺している間にも徐々に広がっていく私への不信感。
　私はそれに抗うようにしてブレン様へと抗議の声を上げようとしたが―

「お待ち下さい、ブレン様！ 私はそのようなことはしておりません！ 貴方様の妻となる為、日夜努力をして―」
「汚らわしい口を開くな！ そのような不埒な女と婚姻を結ぶなどあり得ない！ この女を外へ連れ出せ！」

　……ああ、そうか……分かってしまった。
　私は彼らにハメられたんだ・・・・・・・。
　妹のマルクの嫌な笑みと伯爵様のほっとした態度を見ればよく分かる……あの人達は父上や伯爵様のご家族の見ている前で私に罪を着せて、自分達の浮気を正当化しようとしているのだ。

　それが分かり、絶望した私に婚約者だったブレン様は冷たい声で告げた。

「せっかくの宴が台無しになる。その女を外につまみ出せ！」

　そうして私は、彼の言いなりになった衛兵達に連れられて会場から追い出された。