ケルム王国物語~英雄レオハルト王の叛逆~『ノード戦記 征錬魔術師』 漆黒の復讐者

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】

文字の大きさ
3 / 10
1章 月が落ちた日

第3話 復讐の英雄王

しおりを挟む

「―また、あの夢か」

 『ノード大陸』に存在する国の一つ、『ケルム王国』にある王室の中央に置かれた玉座に腰掛ける黒い服を身にまとった男性はゆっくりと目を開きながらそう口にした。

 その男性こそ、先代ケルム王が後を継がせたという『ケルム王国』の現国王―レオハルト・ケルム・ヴァーリオンである。

 数年前、祖国にあった『王都シュバイツァー』で処刑されかけていたところを命からがら脱出。

 現在はケルム王として、戦力を整える為に尽力している。

 全ては自分を裏切った祖国への復讐を成し遂げんが為、そして今なお大事な人を盾とする非常な者達を葬らんとする為だった。

(グラウス……ルーレック……。私は必ずお前達への復讐を成し遂げる……)

 かつての戦友の名を思い出し、手にした書類を強く握り締める。

 しかし、戦力を整える為には他国との協力関係は避けられないものだ。

 彼はただ王として君臨しているだけではなく、政治関係も取り仕切るようにしていた。

 そして、今まさに彼が手にしたその書類には各国の情勢が事細かに記されており、彼の居る『ケルム王国』周辺の国への被害についても報告されている。

 レオハルトはその報告書に記された国―『神聖アルト国』という名を見るや、その眉を強くひそめていた。

 数年前、彼はその『神聖アルト国』にある『王都シュバイツァー』で戦い、〝反逆者〟として追われた。そして今、その『神聖アルト国』は周囲の国々に『魔術師』との嫌疑を掲げて弾圧まがいのことをしているという。

 多くの者を失った祖国の蛮行に、レオハルトが書類から目を離すと大きくため息を吐いて玉座に深く寄りかかった時だった。

「―陛下、少しお話が」

 軽く扉を叩く音と同時に金色の髪を靡かせた女性がレオハルトの居る王室へと足を踏み入れてくる。レオハルトはそんな彼女の姿を見ると、疲れて沈んでいた表情を変え、余裕を持った顔で出迎えた。

「レイシアか、どうした?」
「中立国のイルから協力要請が来ています。……『神聖アルト国』から武力によって加盟を強要されている、と」

 女性の名前はレイシア・ケルム・レディスター。

 かつては、レオハルトと敵対していた『魔術師』であり、『魔術師』の国である『レヴィルド』の第一皇女でもある。年齢はまだ二十代であるものの、凛とした容姿と落ち着いたその佇まいはこの王室によく合っており、彼女が皇女であることを強く感じさせる。

 数年前、『魔術師』が『征錬術師』達の国に攻め入り、『第二次国家戦争』と呼ばれる今の戦争が開始。

 その結果、『ノード大陸』は大きく二分され、戦争の発端である『魔術師』の殲滅を目的とした〝過激派〟、そして『魔術師』との共存を掲げる〝穏健派〟に分かれた。

 その〝過激派〟の先頭に立つ国こそ、『神聖アルト国』―つまり、レオハルトの生まれ育った故郷であり、レオハルトを〝反逆者〟として処刑しようとした国だ。

 それに対し、レオハルトの治める『ケルム王国』は『魔術師』との共存を掲げる〝穏健派〟の中心として、各国から強い支持を得ていた。

 彼が『魔術師』との共存を掲げるのは彼の目の前に居るレイシアを始め、『魔術師』側の協力者を多く得ているからであり、またレオハルトが王都への復讐とは別に、戦争の終結を願っているからでもある。

 実際、彼は先代ケルム王の娘ヴィーク・ケルムを第一皇女とし、第二皇女として『魔術師』の皇女であったレイシアを、また『征錬術師』との共存を掲げて『王都シュバイツァー』の王位継承権のあるシルヴィ・シュヴァイツァーを第三皇女に迎え入れていた。

 その婚姻については政治的な影響を考えたものではあるものの、レオハルトが個人的に親しくしていた女性達でもあり、個々の意思を無視した関係では無い。

 『征錬術師』と『魔術師』という垣根を越えて平和を取り戻す象徴として、彼らは共に人生を歩むことを決めていた。

 各国が敵対関係である中、『ケルム王国』以外での彼らの関係は非常に複雑なものだった。

 しかし、数年前まで敵対していたレオハルトとレイシアだが、今では一定の信頼関係を築くことが出来ている。

 『魔術師』全てが敵ではなく、また『征錬術師』全てが敵ではない。
 それを世に知ってもらうには積み重ねが大切であり、協力要請を出す国があればそれに応じる必要があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...