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1章 月が落ちた日
第3話 復讐の英雄王
しおりを挟む「―また、あの夢か」
『ノード大陸』に存在する国の一つ、『ケルム王国』にある王室の中央に置かれた玉座に腰掛ける黒い服を身にまとった男性はゆっくりと目を開きながらそう口にした。
その男性こそ、先代ケルム王が後を継がせたという『ケルム王国』の現国王―レオハルト・ケルム・ヴァーリオンである。
数年前、祖国にあった『王都シュバイツァー』で処刑されかけていたところを命からがら脱出。
現在はケルム王として、戦力を整える為に尽力している。
全ては自分を裏切った祖国への復讐を成し遂げんが為、そして今なお大事な人を盾とする非常な者達を葬らんとする為だった。
(グラウス……ルーレック……。私は必ずお前達への復讐を成し遂げる……)
かつての戦友の名を思い出し、手にした書類を強く握り締める。
しかし、戦力を整える為には他国との協力関係は避けられないものだ。
彼はただ王として君臨しているだけではなく、政治関係も取り仕切るようにしていた。
そして、今まさに彼が手にしたその書類には各国の情勢が事細かに記されており、彼の居る『ケルム王国』周辺の国への被害についても報告されている。
レオハルトはその報告書に記された国―『神聖アルト国』という名を見るや、その眉を強くひそめていた。
数年前、彼はその『神聖アルト国』にある『王都シュバイツァー』で戦い、〝反逆者〟として追われた。そして今、その『神聖アルト国』は周囲の国々に『魔術師』との嫌疑を掲げて弾圧まがいのことをしているという。
多くの者を失った祖国の蛮行に、レオハルトが書類から目を離すと大きくため息を吐いて玉座に深く寄りかかった時だった。
「―陛下、少しお話が」
軽く扉を叩く音と同時に金色の髪を靡かせた女性がレオハルトの居る王室へと足を踏み入れてくる。レオハルトはそんな彼女の姿を見ると、疲れて沈んでいた表情を変え、余裕を持った顔で出迎えた。
「レイシアか、どうした?」
「中立国のイルから協力要請が来ています。……『神聖アルト国』から武力によって加盟を強要されている、と」
女性の名前はレイシア・ケルム・レディスター。
かつては、レオハルトと敵対していた『魔術師』であり、『魔術師』の国である『レヴィルド』の第一皇女でもある。年齢はまだ二十代であるものの、凛とした容姿と落ち着いたその佇まいはこの王室によく合っており、彼女が皇女であることを強く感じさせる。
数年前、『魔術師』が『征錬術師』達の国に攻め入り、『第二次国家戦争』と呼ばれる今の戦争が開始。
その結果、『ノード大陸』は大きく二分され、戦争の発端である『魔術師』の殲滅を目的とした〝過激派〟、そして『魔術師』との共存を掲げる〝穏健派〟に分かれた。
その〝過激派〟の先頭に立つ国こそ、『神聖アルト国』―つまり、レオハルトの生まれ育った故郷であり、レオハルトを〝反逆者〟として処刑しようとした国だ。
それに対し、レオハルトの治める『ケルム王国』は『魔術師』との共存を掲げる〝穏健派〟の中心として、各国から強い支持を得ていた。
彼が『魔術師』との共存を掲げるのは彼の目の前に居るレイシアを始め、『魔術師』側の協力者を多く得ているからであり、またレオハルトが王都への復讐とは別に、戦争の終結を願っているからでもある。
実際、彼は先代ケルム王の娘ヴィーク・ケルムを第一皇女とし、第二皇女として『魔術師』の皇女であったレイシアを、また『征錬術師』との共存を掲げて『王都シュバイツァー』の王位継承権のあるシルヴィ・シュヴァイツァーを第三皇女に迎え入れていた。
その婚姻については政治的な影響を考えたものではあるものの、レオハルトが個人的に親しくしていた女性達でもあり、個々の意思を無視した関係では無い。
『征錬術師』と『魔術師』という垣根を越えて平和を取り戻す象徴として、彼らは共に人生を歩むことを決めていた。
各国が敵対関係である中、『ケルム王国』以外での彼らの関係は非常に複雑なものだった。
しかし、数年前まで敵対していたレオハルトとレイシアだが、今では一定の信頼関係を築くことが出来ている。
『魔術師』全てが敵ではなく、また『征錬術師』全てが敵ではない。
それを世に知ってもらうには積み重ねが大切であり、協力要請を出す国があればそれに応じる必要があった。
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