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1章 月が落ちた日
第5話 配偶者への気遣い
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レオハルトは玉座から離れてレイシアの下へと歩いてくると、その正面に立ちながら真剣な表情で返した。
「すぐに準備に移ろう。このままではイルが陥落されるのも時間の問題だ」
「では、ヴィークに各軍への招集命令の通達をお願いしておきます」
「頼む、私もすぐに向かう」
互いに顔を合わせて頷き合うレオハルトとレイシアだったが、しばしの沈黙の後、レイシアは少し顔を俯かせる。先程までの凛とした佇まいとは似ても似つかないその姿に、レオハルトはケルム王としてではなく、彼女の配偶者として気遣うように声を掛けた。
「……つらいな、戦争というのは」
「……はい。私の父があんなことをしなければ……戦争なんて始めなければ、あなたがこんな役目を負うことにはならかったのに……本当に、ごめんなさい……」
肩を震わせながらそう言葉にするレイシアは、レオハルトに促されその顔を上げる。レオハルトは涙で目を腫らした彼女の肩を抱くと、安心させるように言葉を紡いだ。
「心配するな。私はこの選択を……この『ケルム王国』の国王になったことを後悔していないさ」
「でも、あなたはその所為で故郷から剣を向けられることになって……また今、その故郷と戦おうとしているんです。……それは全て私の父、アーノルド・レディスターがあなた達『征錬術師』の住処に侵攻したことが始まりなのですから」
数年前、レオハルトは『征錬術師』として『王都シュバイツァー』に在り、そして満足とは到底言えない立場ではあったものの、戦争とは程遠い生活をしていた。
しかし、今では度重なる出来事が重なり、『ケルム王国』の国王となって自分の住んでいた『王都シュバイツァー』と敵対している。
それが戦争へと至った発端―それは、彼女の言う通り、『魔術師の国レヴィルド』の国王であり、レイシアの父であるアーノルド・レディスターが王都へと侵攻したことが原因だった。
だが、それだけが全てではない。
レオハルトは未だ肩を震わせるレイシアを安心させるように言葉を続ける。
「確かに、戦争の発端は君の父親かもしれない。……だが、理由はどうあれ、王都の人間は私に罪を被せ、全ての責任を私へと向けてきた愚かな連中だ。それに、ミーネットを人質に取った彼らだ、いずれ似たようなことはしていたさ。どちらにせよ、そんな連中の下に私は居るつもりはなかったよ」
「ありがとう……ございます。ただ、やはり私は……『魔術師』の国王の娘として、父の蛮行であなたを不幸にしたことを自分で許すことは出来ません」
「そう言うな、そうでなければ君に会うこともなかったかもしれない。全てが悪いことばかりではないさ」
「それは……そうなのですが……」
強く責任を感じているレイシアは自分の腕を強く握る。
数年前までレイシア自身も戦争を経験したことは無く、一国の王女として城内で妹のような存在の『人造人間』の少女、アヴィーナ・レディスターと生活していた。
だが、戦争が始まった頃、レイシアは父親がアヴィーナの膨大な魔力を利用して、自爆させようと目論んでいたことを知り、『魔術師』から離反。その後は当時敵対関係であったレオハルトに保護され、『魔術師』側の情報提供に協力していたのだ。
「君は戦争を止める為に私に協力してくれた。その結果、『魔術師』の下に戻れなくなったんだ、君も被害者であることに変わりはないだろう」
「……当事者である私に、それを言う権利があるのでしょうか?」
「君自身は戦争に関わるつもりは無かったんだろう? 現に、君は誰一人その手に掛けることは無かった。そんな君を責めるつもりは無いさ」
レオハルトの言葉に安堵したレイシアはその涙を拭い、いつものような凛とした佇まいへと戻っていく。
「すぐに準備に移ろう。このままではイルが陥落されるのも時間の問題だ」
「では、ヴィークに各軍への招集命令の通達をお願いしておきます」
「頼む、私もすぐに向かう」
互いに顔を合わせて頷き合うレオハルトとレイシアだったが、しばしの沈黙の後、レイシアは少し顔を俯かせる。先程までの凛とした佇まいとは似ても似つかないその姿に、レオハルトはケルム王としてではなく、彼女の配偶者として気遣うように声を掛けた。
「……つらいな、戦争というのは」
「……はい。私の父があんなことをしなければ……戦争なんて始めなければ、あなたがこんな役目を負うことにはならかったのに……本当に、ごめんなさい……」
肩を震わせながらそう言葉にするレイシアは、レオハルトに促されその顔を上げる。レオハルトは涙で目を腫らした彼女の肩を抱くと、安心させるように言葉を紡いだ。
「心配するな。私はこの選択を……この『ケルム王国』の国王になったことを後悔していないさ」
「でも、あなたはその所為で故郷から剣を向けられることになって……また今、その故郷と戦おうとしているんです。……それは全て私の父、アーノルド・レディスターがあなた達『征錬術師』の住処に侵攻したことが始まりなのですから」
数年前、レオハルトは『征錬術師』として『王都シュバイツァー』に在り、そして満足とは到底言えない立場ではあったものの、戦争とは程遠い生活をしていた。
しかし、今では度重なる出来事が重なり、『ケルム王国』の国王となって自分の住んでいた『王都シュバイツァー』と敵対している。
それが戦争へと至った発端―それは、彼女の言う通り、『魔術師の国レヴィルド』の国王であり、レイシアの父であるアーノルド・レディスターが王都へと侵攻したことが原因だった。
だが、それだけが全てではない。
レオハルトは未だ肩を震わせるレイシアを安心させるように言葉を続ける。
「確かに、戦争の発端は君の父親かもしれない。……だが、理由はどうあれ、王都の人間は私に罪を被せ、全ての責任を私へと向けてきた愚かな連中だ。それに、ミーネットを人質に取った彼らだ、いずれ似たようなことはしていたさ。どちらにせよ、そんな連中の下に私は居るつもりはなかったよ」
「ありがとう……ございます。ただ、やはり私は……『魔術師』の国王の娘として、父の蛮行であなたを不幸にしたことを自分で許すことは出来ません」
「そう言うな、そうでなければ君に会うこともなかったかもしれない。全てが悪いことばかりではないさ」
「それは……そうなのですが……」
強く責任を感じているレイシアは自分の腕を強く握る。
数年前までレイシア自身も戦争を経験したことは無く、一国の王女として城内で妹のような存在の『人造人間』の少女、アヴィーナ・レディスターと生活していた。
だが、戦争が始まった頃、レイシアは父親がアヴィーナの膨大な魔力を利用して、自爆させようと目論んでいたことを知り、『魔術師』から離反。その後は当時敵対関係であったレオハルトに保護され、『魔術師』側の情報提供に協力していたのだ。
「君は戦争を止める為に私に協力してくれた。その結果、『魔術師』の下に戻れなくなったんだ、君も被害者であることに変わりはないだろう」
「……当事者である私に、それを言う権利があるのでしょうか?」
「君自身は戦争に関わるつもりは無かったんだろう? 現に、君は誰一人その手に掛けることは無かった。そんな君を責めるつもりは無いさ」
レオハルトの言葉に安堵したレイシアはその涙を拭い、いつものような凛とした佇まいへと戻っていく。
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