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短編集:研修試験監督者、ユウコ(3)
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翌日の昼過ぎ。
舞子達と一緒に、店舗棟3階の社宅村にある、旅館の広い部屋で寝ていた勇子は、のそりと布団から目覚めた。
メイアが横でまだ寝ており、舞子達3人も余程疲れていたのか、よだれを垂らして爆睡している。
エルフの女性営業部長はすでに起きているらしく、布団は空であった。
「ソル姉は……多分風呂やろね」
昨日は明け方まで舞子達の訓練に付き合い、魔法的状態異常を回復させる精霊治癒魔法《水流の清め》の治癒力場で、汗や土埃を洗い落として浴衣に着替え、すぐ眠ってしまったために、全員がお風呂抜きであった。
エルフの女性部長は風呂好きであるため、起きてすぐに湯浴みへ行ったことが、勇子にも容易に察せられる。
「ウチも風呂行って目ぇ覚まそ。部屋の風呂は舞子ら起こしてまうかもしれんし、1階の露天風呂へ行こか」
うーんと伸びをしてから部屋の備品である手拭いを持ち、旅館の1階にある露天浴場へ行こうとする勇子。
勇子が部屋を出て廊下を歩いていると、子犬形態のミサヤを頭に乗せた命彦が、白衣の女性の話す場面に遭遇した。
「お、命彦とミサヤに……あれ誰や? 見いひん顔やね?」
真剣に白衣の女性と話す命彦の姿に、会話の邪魔をしてはマズいと気を遣った勇子は、廊下の柱の陰に身を潜め、チラリと様子を確認する。
幼少期から店に出入りしていた勇子は、【精霊本舗】の従業員やその家族全員と顔見知りである。
その勇子が見知らぬあの白衣の女性は、一体何者か。考えることは苦手だったが、勇子は思考した。
(この旅館を利用しとる時点で、店の客人か商談相手っちゅう線が濃厚やね。あ、舞子らと同じく新入社員っちゅうこともありえるか。……しっかし、見てくれに気い遣わん人やわー。白衣も一応洗濯してるっぽいけど、よう見たらあちこち黒ずんでるやん。機械油か?)
よくよく白衣の女性を観察して、勇子はあることに気付く。
(あの女、多分〔魔工士〕か〔魔具士〕やわ……)
肌つやから命絃や梢と近い年齢の気がしたが、妙に気怠い雰囲気を発しており、ぼさぼさの髪と目元の深い隈、黒ずんで荒れた指先と割れた爪から、メイアやドワーフ翁に近い匂いを、勇子は白衣の女性から感じていた。
メイアやドワーフ翁も、何かを必死に作っている時、ああいう姿を見せるのである。
命彦と白衣の女性の会話はすぐに終わり、女性がすぐ傍の部屋に引っ込む。
すると命彦とミサヤが揃って、柱の陰から顔を出す勇子を見た。
「おい、気付かねえと思ってんのか、勇子?」
『こっちの視界に顔面だけチラチラ映ってましたよ? 気配も丸わかりですし、立ち聞きするのであれば、もう少し身を隠して欲しいモノです』
「ありゃりゃ、ばれとったんかい。いや、ごめんごめん。別に立ち聞きするつもりはあらへんかったんよ? 話も聞こえんかったしね。邪魔したらアカンと思って、引っ込んどってん」
「まあ、気を遣ってくれたことには礼を言っとく。あんがとよ」
ため息をつきつつ歩いて来る命彦。その命彦にニカッと笑いかけ、勇子は問うた。
「ほいよ、その礼は受け取ったるわ。んで、早速やけどあの人誰や?」
「新しくウチの開発部に入ってもらう新人さんだ。時期が来れば勇子にも紹介する」
「ふーん……分かった。ほいで、あんたらがここにおる理由は、その新人さんを旅館に泊めるためか?」
「いんや、それはついでだ。俺達はメイアに用事がある」
勇子の泊まっていた部屋の方へ視線を送る命彦。その命彦の肩に乗るミサヤも思念で語った。
『従業員達から、メイアがあの部屋にいると聞いたのですが?』
「ああ、おるにはおるよ。まだ寝とるけどね?」
「寝てる? 昨日は舞子達に加えて、お前らまで泊まりか?」
命彦が少し意外そうに眉を上げる様子を見て、勇子は苦笑を返した。
「せやで。あんた忘れてるやろ? 舞子らの研修、昨日がとりあえずの最終日やで? せやから、明け方までウチらがみっちり仕込んでたんよ」
『そういえば……マイコ達の研修は、始まってから昨日で1週間が経過してますね?』
ミサヤの思念を受けて、命彦も合点がいったとばかりに首を振った。
「あ、完全に忘れてた。ふむ、最後の研修だから、お前らで追い込みをかけてたわけか。それで、あの3人の仕上がり具合はどうよ?」
『ソルティアからこれまでに聞いた感じですと、まずまず及第点とのことですが?』
「せやね、ええ感じはええ感じやわ。あとは実戦次第やろね? 昼飯食ったら迷宮へ行くつもりや。いつも通りに魔法具の点検もして欲しいとこやけど……開発部の職人さん達って、今は忙しいんやろ?」
気を遣っている様子の勇子の発言を聞いて、フッと頬を緩めた命彦は、ミサヤの顎をくすぐりつつ言った。
「忙しいのは忙しいが、日常業務へ過度の影響が出ねえ範囲でやってもらってる。さすがに魔法具を作る場合は、いつもより納期が遅れるだろうが、すぐに終わる点検くらいは頼めるだろ。ドム爺に頼むのは難しいが、手隙の職人は誰かいる筈だ。開発部に頼んどいてやるから気を遣わんでいい。……俺達は明日まで用事があって見れねえから、アイツらのこと、頼んだぞ?」
「おう、舞子らのことはウチに任せとき! ……で、それはそうと、あんたら今何しとるんや? ソル姉からおもろいこと計画してるって聞いたんやけど? 用事ってそのこととちゃうの?」
良い機会と思って勇子が問うと、命彦とミサヤは顔を見合わせた。
『まあそうですが、今ここでその内容を明かすのは……ねえ、マヒコ?』
「ああ。まだ早い。面白いのは面白いんだが、勇子にはまだ言えねえよ」
「ええーっ! 教えてや! 空太はもう知ってんねんやろ?」
「俺の計画について知ってるのは、俺の家族以外だと、メイアと開発部の職人達、ソル姉と空太に、梢さん達だけだ。たとえ古参従業員のトト婆やタロ爺でも、俺の計画についてはまだ知らねえよ。勇子には、舞子達の研修が終わったら教えるつもりだったから安心しろ。ただ、今はまだ教えらんねえ」
『こちらの計画を知れば、確実にマイコ達の研修を放り出して、ユウコはこちらの手伝いをしようとするでしょうからね? マヒコは、マイコ達の研修をユウコにしっかり見て欲しいと思っています。ですので、今は教えられません』
「うぐっ! そ、そういうことか……」
不満顔だった勇子が、がっくりと肩を落とした。
性格がまっすぐで、思考も単純である勇子は、2つの物事を同時に進めることが基本的に苦手である。
それゆえに、今任されている研修以外で関心を持つ事柄に触れると、そちらの方へどうしても意識が傾いてしまい、研修にも身が入らず、舞子達への指導をおろそかにしてしまう可能性があると、命彦は考えていた。
勇子の性格を良く知るがゆえに、命彦は研修が終わるまで、自分達の計画について秘密にしていたいのである。
勇子も自分の性格はよく分かっているため、しょぼくれた様子で首を縦に振った。
「わかった。研修ちゃんと終わらすから、その時に教えてや、絶対やでっ!」
「おうよ。楽しみにしとけ」
『あ、メイアが部屋から出て来ました。マヒコ、そろそろ……』
「ああ。手拭いを持ってるとこ見ると、風呂へ行くつもりだったんだろ、勇子? さっさと行って来いよ」
「へーい」
勇子がそう言うと命彦は歩き出し、部屋から出てこちらに気付いた様子のメイアの方へ近付いて行った。
エルフの女性営業部長と入れ替わりに旅館1階の露天風呂へ入り、しっかりと目を覚ました勇子は、部屋に戻って舞子達と合流し、店舗棟2階の食堂でやや遅めの昼食を済ませた。
「おっし、飯も食うたし、いよいよやね?」
「ええ。それじゃ3人とも、今後の予定を確認するわよ?」
「「「はい!」」」
昼食を食べ終えた勇子とメイアは、詩乃と奏子、舞子を見た。
エルフの女性営業部長は、どうやら先に仕事へ行ったらしく、この場にいるのは5人だけである。
舞子達3人を見回して、メイアと勇子が口を開いた。
「まずは開発部で魔法具の点検をしてもらうわ。昨日魔法具をもらったばかりとはいえ、習熟訓練で使ったから、点検はきちんとしてもらうこと。その後、依頼所へ行き、私と勇子がさっきミツバに連絡しておいた、[結晶樹の樹液]の採集依頼を受領して、迷宮へ行くわ」
「舞子はウチらと一緒に採集依頼を達成したから、以前失敗した採集依頼の汚点を相殺できとるけど、詩乃と奏子はまだ汚点が残ったまんまや。研修のためとはいえ、せっかく迷宮へ行くんや。この機会を有効活用して、小遣い稼ぎと汚点の相殺も、同時に狙おうっちゅう魂胆やで。どや、お得やろ?」
「確かにそうね。個人の実績にも小隊の実績にも、依頼失敗の件は残ったままだし……」
「それに、依頼報酬は魔法具の返済に当てられる。できれば依頼はどんどん受けたい」
「はい。私も依頼を受けるのは良い考えだと思います」
舞子達3人が首を縦に振ると、メイアが話を続けた。
「まずはサツマイモとの戦闘を行って、自信をつけましょう。その後、ツルメの群れを探しがてら採集依頼を達成し、群れを発見したら、私達が1体だけ残して群れを狩るから、残った1体を倒すこと。いいわね?」
「1体だけ言うても、ツルメは植物種魔獣にしては個々の戦闘力が高い種族や。気い抜いたらホンマに死ぬで」
「「「はいっ!」」」
引き締まった表情で答える舞子達を見て、勇子とメイアはフッと頬を緩めた。
食後に店の庭を通り過ぎて、勇子達が開発棟へ行こうとしていると、命彦が声をかけてくれていたのか、庭で休憩していた2人の年配の女性職人、〔魔具士〕学科の魔法士達が5人へ声をかけ、店舗棟2階の会議室で勇子達の魔法具を点検してくれた。
「……ほい。点検完了っと」
「こっちも終わったよ、これで全員分が済んだね?」
「うん、全員済んだよ。おばちゃんらあんがと、ホンマ助かったわ!」
「お2人とも忙しいところ、ありがとうございました」
「いいんだよ、勇子ちゃん、メイアちゃん。若様にも頼まれたし、その子らは今後ウチの店に来るんだろ? 同僚のよしみってやつさ。まあ親方と比べると、あたしらの道具を見る目は数段落ちるんだけどね」
「あはは、そりゃそうだわ、年季が違うからね? でも、あたしらに見れる限り、しっかり見たつもりさね」
「そうだね。あんた達も研修しっかりね? 応援してるよ」
「「「はい! ありがとうございます」」」
肝っ玉母ちゃんという感じの〔魔具士〕の女性職人達に礼を言い、【精霊本舗】を後にして、依頼所へ移動した勇子達は、依頼所の2階受付で採集依頼を受領した。
「はい。これで【精霊合唱団】の皆さんは、[結晶樹の樹液]の採集依頼を受領されました。こちらが採集容器です。目盛りの一杯まで樹液を入れて、依頼所へお持ちくださいね?」
「「「はい! ありがとうございます、ミツバさん」」」
舞子達3人が揃って頭を下げ、採集用の容器を受け取る。
その舞子達へ、バイオロイドのミツバと同じく受付席にいた梢が言った。
「あんた達、今度は失敗しちゃダメよ? 勇子とメイア、しっかり見てあげてね」
「分かっとるって、梢さん」
「私達が見ています、決して無理や無茶はさせませんよ」
勇子とメイアの発言を聞き、梢とミツバが安心したように笑った。
「頼んだわよ? それじゃあ……」
「皆さん、お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
「「「はい、行ってきます!」」」
梢とミツバに見送られ、元気よく依頼所を後にした勇子達。
【迷宮外壁】の頂上にある関所で、迷宮への出入り手続きを終えて、迷宮側の昇降機に乗る。
迷宮に降り立った舞子達の表情は、真剣そのもので気合に満ちていた。
「ええ表情や。もっとガチガチに固まっとると思ってたけど、これやったら……」
「そうね。こちらもあまり介入せずに済むでしょう」
メイアと目配せし、勇子が舞子達に語る。
「よし。訓練の成果を見せてもらおか。ウチらは少し離れて舞子らに付いて行く。さあ、新生【精霊合唱団】の力、とくと見せてもらうで!」
「はい! 詩乃ちゃん、奏子ちゃん、行くよ!」
「「りょーかい!」」
研修の習熟訓練で教わった感知系の精霊探査魔法、《旋風の眼》や《地礫の眼》、《陽聖の眼》を3人がそれぞれ展開し、周囲を警戒しつつ、植物種魔獣【殺魔芋】を探して歩き始めた舞子達。
その舞子達の後を追いつつ、勇子とメイアも迷宮を進んで行った。
舞子達と一緒に、店舗棟3階の社宅村にある、旅館の広い部屋で寝ていた勇子は、のそりと布団から目覚めた。
メイアが横でまだ寝ており、舞子達3人も余程疲れていたのか、よだれを垂らして爆睡している。
エルフの女性営業部長はすでに起きているらしく、布団は空であった。
「ソル姉は……多分風呂やろね」
昨日は明け方まで舞子達の訓練に付き合い、魔法的状態異常を回復させる精霊治癒魔法《水流の清め》の治癒力場で、汗や土埃を洗い落として浴衣に着替え、すぐ眠ってしまったために、全員がお風呂抜きであった。
エルフの女性部長は風呂好きであるため、起きてすぐに湯浴みへ行ったことが、勇子にも容易に察せられる。
「ウチも風呂行って目ぇ覚まそ。部屋の風呂は舞子ら起こしてまうかもしれんし、1階の露天風呂へ行こか」
うーんと伸びをしてから部屋の備品である手拭いを持ち、旅館の1階にある露天浴場へ行こうとする勇子。
勇子が部屋を出て廊下を歩いていると、子犬形態のミサヤを頭に乗せた命彦が、白衣の女性の話す場面に遭遇した。
「お、命彦とミサヤに……あれ誰や? 見いひん顔やね?」
真剣に白衣の女性と話す命彦の姿に、会話の邪魔をしてはマズいと気を遣った勇子は、廊下の柱の陰に身を潜め、チラリと様子を確認する。
幼少期から店に出入りしていた勇子は、【精霊本舗】の従業員やその家族全員と顔見知りである。
その勇子が見知らぬあの白衣の女性は、一体何者か。考えることは苦手だったが、勇子は思考した。
(この旅館を利用しとる時点で、店の客人か商談相手っちゅう線が濃厚やね。あ、舞子らと同じく新入社員っちゅうこともありえるか。……しっかし、見てくれに気い遣わん人やわー。白衣も一応洗濯してるっぽいけど、よう見たらあちこち黒ずんでるやん。機械油か?)
よくよく白衣の女性を観察して、勇子はあることに気付く。
(あの女、多分〔魔工士〕か〔魔具士〕やわ……)
肌つやから命絃や梢と近い年齢の気がしたが、妙に気怠い雰囲気を発しており、ぼさぼさの髪と目元の深い隈、黒ずんで荒れた指先と割れた爪から、メイアやドワーフ翁に近い匂いを、勇子は白衣の女性から感じていた。
メイアやドワーフ翁も、何かを必死に作っている時、ああいう姿を見せるのである。
命彦と白衣の女性の会話はすぐに終わり、女性がすぐ傍の部屋に引っ込む。
すると命彦とミサヤが揃って、柱の陰から顔を出す勇子を見た。
「おい、気付かねえと思ってんのか、勇子?」
『こっちの視界に顔面だけチラチラ映ってましたよ? 気配も丸わかりですし、立ち聞きするのであれば、もう少し身を隠して欲しいモノです』
「ありゃりゃ、ばれとったんかい。いや、ごめんごめん。別に立ち聞きするつもりはあらへんかったんよ? 話も聞こえんかったしね。邪魔したらアカンと思って、引っ込んどってん」
「まあ、気を遣ってくれたことには礼を言っとく。あんがとよ」
ため息をつきつつ歩いて来る命彦。その命彦にニカッと笑いかけ、勇子は問うた。
「ほいよ、その礼は受け取ったるわ。んで、早速やけどあの人誰や?」
「新しくウチの開発部に入ってもらう新人さんだ。時期が来れば勇子にも紹介する」
「ふーん……分かった。ほいで、あんたらがここにおる理由は、その新人さんを旅館に泊めるためか?」
「いんや、それはついでだ。俺達はメイアに用事がある」
勇子の泊まっていた部屋の方へ視線を送る命彦。その命彦の肩に乗るミサヤも思念で語った。
『従業員達から、メイアがあの部屋にいると聞いたのですが?』
「ああ、おるにはおるよ。まだ寝とるけどね?」
「寝てる? 昨日は舞子達に加えて、お前らまで泊まりか?」
命彦が少し意外そうに眉を上げる様子を見て、勇子は苦笑を返した。
「せやで。あんた忘れてるやろ? 舞子らの研修、昨日がとりあえずの最終日やで? せやから、明け方までウチらがみっちり仕込んでたんよ」
『そういえば……マイコ達の研修は、始まってから昨日で1週間が経過してますね?』
ミサヤの思念を受けて、命彦も合点がいったとばかりに首を振った。
「あ、完全に忘れてた。ふむ、最後の研修だから、お前らで追い込みをかけてたわけか。それで、あの3人の仕上がり具合はどうよ?」
『ソルティアからこれまでに聞いた感じですと、まずまず及第点とのことですが?』
「せやね、ええ感じはええ感じやわ。あとは実戦次第やろね? 昼飯食ったら迷宮へ行くつもりや。いつも通りに魔法具の点検もして欲しいとこやけど……開発部の職人さん達って、今は忙しいんやろ?」
気を遣っている様子の勇子の発言を聞いて、フッと頬を緩めた命彦は、ミサヤの顎をくすぐりつつ言った。
「忙しいのは忙しいが、日常業務へ過度の影響が出ねえ範囲でやってもらってる。さすがに魔法具を作る場合は、いつもより納期が遅れるだろうが、すぐに終わる点検くらいは頼めるだろ。ドム爺に頼むのは難しいが、手隙の職人は誰かいる筈だ。開発部に頼んどいてやるから気を遣わんでいい。……俺達は明日まで用事があって見れねえから、アイツらのこと、頼んだぞ?」
「おう、舞子らのことはウチに任せとき! ……で、それはそうと、あんたら今何しとるんや? ソル姉からおもろいこと計画してるって聞いたんやけど? 用事ってそのこととちゃうの?」
良い機会と思って勇子が問うと、命彦とミサヤは顔を見合わせた。
『まあそうですが、今ここでその内容を明かすのは……ねえ、マヒコ?』
「ああ。まだ早い。面白いのは面白いんだが、勇子にはまだ言えねえよ」
「ええーっ! 教えてや! 空太はもう知ってんねんやろ?」
「俺の計画について知ってるのは、俺の家族以外だと、メイアと開発部の職人達、ソル姉と空太に、梢さん達だけだ。たとえ古参従業員のトト婆やタロ爺でも、俺の計画についてはまだ知らねえよ。勇子には、舞子達の研修が終わったら教えるつもりだったから安心しろ。ただ、今はまだ教えらんねえ」
『こちらの計画を知れば、確実にマイコ達の研修を放り出して、ユウコはこちらの手伝いをしようとするでしょうからね? マヒコは、マイコ達の研修をユウコにしっかり見て欲しいと思っています。ですので、今は教えられません』
「うぐっ! そ、そういうことか……」
不満顔だった勇子が、がっくりと肩を落とした。
性格がまっすぐで、思考も単純である勇子は、2つの物事を同時に進めることが基本的に苦手である。
それゆえに、今任されている研修以外で関心を持つ事柄に触れると、そちらの方へどうしても意識が傾いてしまい、研修にも身が入らず、舞子達への指導をおろそかにしてしまう可能性があると、命彦は考えていた。
勇子の性格を良く知るがゆえに、命彦は研修が終わるまで、自分達の計画について秘密にしていたいのである。
勇子も自分の性格はよく分かっているため、しょぼくれた様子で首を縦に振った。
「わかった。研修ちゃんと終わらすから、その時に教えてや、絶対やでっ!」
「おうよ。楽しみにしとけ」
『あ、メイアが部屋から出て来ました。マヒコ、そろそろ……』
「ああ。手拭いを持ってるとこ見ると、風呂へ行くつもりだったんだろ、勇子? さっさと行って来いよ」
「へーい」
勇子がそう言うと命彦は歩き出し、部屋から出てこちらに気付いた様子のメイアの方へ近付いて行った。
エルフの女性営業部長と入れ替わりに旅館1階の露天風呂へ入り、しっかりと目を覚ました勇子は、部屋に戻って舞子達と合流し、店舗棟2階の食堂でやや遅めの昼食を済ませた。
「おっし、飯も食うたし、いよいよやね?」
「ええ。それじゃ3人とも、今後の予定を確認するわよ?」
「「「はい!」」」
昼食を食べ終えた勇子とメイアは、詩乃と奏子、舞子を見た。
エルフの女性営業部長は、どうやら先に仕事へ行ったらしく、この場にいるのは5人だけである。
舞子達3人を見回して、メイアと勇子が口を開いた。
「まずは開発部で魔法具の点検をしてもらうわ。昨日魔法具をもらったばかりとはいえ、習熟訓練で使ったから、点検はきちんとしてもらうこと。その後、依頼所へ行き、私と勇子がさっきミツバに連絡しておいた、[結晶樹の樹液]の採集依頼を受領して、迷宮へ行くわ」
「舞子はウチらと一緒に採集依頼を達成したから、以前失敗した採集依頼の汚点を相殺できとるけど、詩乃と奏子はまだ汚点が残ったまんまや。研修のためとはいえ、せっかく迷宮へ行くんや。この機会を有効活用して、小遣い稼ぎと汚点の相殺も、同時に狙おうっちゅう魂胆やで。どや、お得やろ?」
「確かにそうね。個人の実績にも小隊の実績にも、依頼失敗の件は残ったままだし……」
「それに、依頼報酬は魔法具の返済に当てられる。できれば依頼はどんどん受けたい」
「はい。私も依頼を受けるのは良い考えだと思います」
舞子達3人が首を縦に振ると、メイアが話を続けた。
「まずはサツマイモとの戦闘を行って、自信をつけましょう。その後、ツルメの群れを探しがてら採集依頼を達成し、群れを発見したら、私達が1体だけ残して群れを狩るから、残った1体を倒すこと。いいわね?」
「1体だけ言うても、ツルメは植物種魔獣にしては個々の戦闘力が高い種族や。気い抜いたらホンマに死ぬで」
「「「はいっ!」」」
引き締まった表情で答える舞子達を見て、勇子とメイアはフッと頬を緩めた。
食後に店の庭を通り過ぎて、勇子達が開発棟へ行こうとしていると、命彦が声をかけてくれていたのか、庭で休憩していた2人の年配の女性職人、〔魔具士〕学科の魔法士達が5人へ声をかけ、店舗棟2階の会議室で勇子達の魔法具を点検してくれた。
「……ほい。点検完了っと」
「こっちも終わったよ、これで全員分が済んだね?」
「うん、全員済んだよ。おばちゃんらあんがと、ホンマ助かったわ!」
「お2人とも忙しいところ、ありがとうございました」
「いいんだよ、勇子ちゃん、メイアちゃん。若様にも頼まれたし、その子らは今後ウチの店に来るんだろ? 同僚のよしみってやつさ。まあ親方と比べると、あたしらの道具を見る目は数段落ちるんだけどね」
「あはは、そりゃそうだわ、年季が違うからね? でも、あたしらに見れる限り、しっかり見たつもりさね」
「そうだね。あんた達も研修しっかりね? 応援してるよ」
「「「はい! ありがとうございます」」」
肝っ玉母ちゃんという感じの〔魔具士〕の女性職人達に礼を言い、【精霊本舗】を後にして、依頼所へ移動した勇子達は、依頼所の2階受付で採集依頼を受領した。
「はい。これで【精霊合唱団】の皆さんは、[結晶樹の樹液]の採集依頼を受領されました。こちらが採集容器です。目盛りの一杯まで樹液を入れて、依頼所へお持ちくださいね?」
「「「はい! ありがとうございます、ミツバさん」」」
舞子達3人が揃って頭を下げ、採集用の容器を受け取る。
その舞子達へ、バイオロイドのミツバと同じく受付席にいた梢が言った。
「あんた達、今度は失敗しちゃダメよ? 勇子とメイア、しっかり見てあげてね」
「分かっとるって、梢さん」
「私達が見ています、決して無理や無茶はさせませんよ」
勇子とメイアの発言を聞き、梢とミツバが安心したように笑った。
「頼んだわよ? それじゃあ……」
「皆さん、お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
「「「はい、行ってきます!」」」
梢とミツバに見送られ、元気よく依頼所を後にした勇子達。
【迷宮外壁】の頂上にある関所で、迷宮への出入り手続きを終えて、迷宮側の昇降機に乗る。
迷宮に降り立った舞子達の表情は、真剣そのもので気合に満ちていた。
「ええ表情や。もっとガチガチに固まっとると思ってたけど、これやったら……」
「そうね。こちらもあまり介入せずに済むでしょう」
メイアと目配せし、勇子が舞子達に語る。
「よし。訓練の成果を見せてもらおか。ウチらは少し離れて舞子らに付いて行く。さあ、新生【精霊合唱団】の力、とくと見せてもらうで!」
「はい! 詩乃ちゃん、奏子ちゃん、行くよ!」
「「りょーかい!」」
研修の習熟訓練で教わった感知系の精霊探査魔法、《旋風の眼》や《地礫の眼》、《陽聖の眼》を3人がそれぞれ展開し、周囲を警戒しつつ、植物種魔獣【殺魔芋】を探して歩き始めた舞子達。
その舞子達の後を追いつつ、勇子とメイアも迷宮を進んで行った。
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──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
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魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
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16歳になったばかりの高校2年の主人公。
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