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短編集
短編集:研修試験監督者、ユウコ(5)
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廃墟と化した建築物の壁にめり込んだツルメが、のそのそと這い出して舞子達を見る。
無言だが、激しい殺意を宿すその瞳が語っていた。
お前達は、決して生きては返さぬ、と。
突如として激しい殺気がツルメから吹き出し、舞子達を威圧する。
「「「くっ!」」」
殺気に呑まれて一瞬身体が竦み、動きが止まった瞬間、ツルメが地面を爆砕し、加速した。
「っ!」
人外の身体能力を発揮して走り込み、1番前にいた詩乃の眼前に肉薄したツルメが、下から地の魔法力場を纏う拳を突き上げようとする。
魔法士との戦闘経験が豊富であるためか、ツルメの拳打の動作は非常に堂に入ったものであり、狙っている場所も人体の急所である喉元であった。
まともに喰らえば致命傷必至の打突だが、間一髪詩乃の防御が間に合い、〈聖炎の魔甲拳:シャイニングフィスト〉を装備した両腕が喉元を守る。
「があっ!」
「詩乃! くぅっ!」
「詩乃ちゃんっ! うわっ!」
奏子と舞子の目前で拳を突き上げた状態のツルメが、瞬時に火の追尾系魔法弾を多数具現化し、至近距離から連射した。慌てて回避する奏子と舞子が言う。
「詩乃は私が援護する!」
「じゃあ私が打って出ます!」
詩乃へこれ以上の追撃はさせまいと、奏子が瓦礫にめり込む詩乃の方へ飛ぶ魔法弾を、2重の魔法力場を纏う拳や足で撃ち落とす一方、舞子はツルメの魔法弾を回避しつつ距離を詰め、拳を握って飛びかかった。
「よくも詩乃ちゃんを! せい! やあっ! てえぇいっ!」
ツルメが舞子の連撃を躱し、その手を掴むと同時に、力任せに地面へと叩きつけ、蹴り飛ばす。
「ぐふっ! ぐああぁぁっ!」
「「舞子!」」
どうにか〈魔甲拳〉で防御した上から蹴り飛ばされ、舞子が放物線を描いて瓦礫に突っ込んで来る。
奏子と瓦礫から這い出した詩乃が慌てて舞子を受け止めた。
「くっ……人間以上の身体能力! 今の私達じゃ、単独攻撃は危険!」
「うん。連携か同時攻撃が要るわ。はっ! 追撃よ、飛ぶわ!」
「さ、3人で仕かけるしか、活路はありません」
植物種魔獣【蔓女】が、トドメとばかりに具現化した土くれの槍、地の集束系魔法弾を必死に回避しつつ、奏子と詩乃は受け止めた舞子を地面に降ろして問うた。
「舞子、行ける?」
「どうにか……まだ動けますが、《地礫の纏い》を使いたいところですね」
地面に叩きつけられた衝撃がまだ抜け切っておらず、ふらつく舞子。
その舞子を見て、奏子と詩乃が揃って首を振った。
「分かった。私と詩乃が先に仕かける」
「魔法使って回復したら、加勢よろしくね!」
「た、頼みます!」
舞子をその場に置いて、ツルメをじっと見据えていた2人が駆け出した。
風と火、2重に揺らめく魔法力場へ魔力を送り込み、力場の厚みを増して、ツルメへ一気に肉迫する2人。
「はあっ! せいっ!」
「このっ! 当たれっ!」
前後左右や上下にも動き回り、入れ替わり立ち替わり攻撃する奏子と詩乃。
2人の連携攻撃を躱し続けることは難しかったのか、ツルメが水の盾とも言うべき移動系の精霊結界魔法を具現化し、2人の攻撃を防ぎ始めた。
舞子は自分達が優勢だとすぐに感じ取り、急いで魔法を展開する。
「其の地礫の天威を衣と化し、我が身に地の加護を与えよ。包め《地礫の纏い》」
2人に遅れまいと逸る気持ちを押し殺し、確実に精霊付与魔法《地礫の纏い》を具現化するため、詠唱してまで付与魔法を使う舞子。
薄緑色と薄紅色の魔法力場の上から薄黄色の魔法力場が重ねられ、自己治癒力を底上げして、擦り傷や体力が徐々に回復していく。
研修における訓練で魔法の練度も上がっているため、以前のように地の魔法力場を纏うと、他の魔法力場が弱体化するクセも消えていた。
3重の魔法力場を纏った舞子は、すぐに駆け出し、加速する。
「待たせました!」
「うん、待たされた!」
「畳みかけるよっ!」
ツルメが防戦に徹していることを奏子や詩乃も気づいており、すぐさま3人が息を合わせて攻撃を始める。
三方から次々に飛んで来る舞子達の拳や蹴りは、2重や3重の魔法力場のせいで高い魔法攻撃力を有し、連続攻撃や同時攻撃によって、移動系の魔法防壁を次々に叩き割った。
同時攻撃しようとする舞子達の気配に気付き、慌てて迎撃のために、全周囲へ魔法防壁を展開する植物種魔獣【蔓女】。
しかし、一度痛い目に遭った舞子達は、この時を待っていた。
「迎撃用の周囲系魔法防壁! 一点突破です!」
「「合わせる!」」
3重の魔法力場を身に纏う舞子の突貫に合わせて、2重の魔法力場を纏う詩乃と奏子も突貫する。
魔法力場をできる限り拳に集束し、同じ場所を狙って繰り出された3人の拳撃は、集束系魔法弾を凌駕する魔法攻撃力を有し、ツルメをすっぽり覆って守る周囲系魔法防壁を瞬時に貫通した。
全力で魔力を込めて、舞子達への迎撃用に具現化した結界魔法を、ものの見事に一瞬でぶち破られて慌てたツルメに舞子が肉迫し、魔法力場を集束した拳を突き上げる。
「トドメを、頼みますっ!」
「任されたっ!」
「うおらああっ!」
舞子がツルメを上空に突き上げた頃。すでに上へ飛び上がっていた奏子と詩乃は、無詠唱で《地礫の纏い》を具現化しており、3重の魔法力場を纏っていた。
そして、ありったけの魔法力場を集束したその拳を、2人は左右から同時にツルメへと繰り出す。
舞子にかち上げられたツルメの腹部に左右から衝撃が加わり、体内でぶつかり合った衝撃が、内側から爆発した。
上半身と下半身が爆裂離散したツルメが、青い体液や臓腑を撒き散らして地に落ちる。
至近距離でそれを浴びた詩乃と奏子は、地面に着地した後、崩れ落ちるように座り込み、不快そうに肩で息をしていた。
真下で体液を浴びた舞子も、嫌そうに顔を手で拭い、肩を上下させる。
「「「はあ、はあ、はあ……」」」
荒い呼吸の3人は、植物種魔獣【蔓女】に勝った感慨よりも、生きている安堵を感じているようであった。
荒い息で詩乃、奏子、舞子が、ツルメの骸を見つめている時。
近場の廃墟の屋上から戦闘を見守っていた勇子とメイアが、3人の横へと移動して笑顔で口を開いた。
「ようやったね、あんたら……ハラハラして止めに入ろかとも思てたけど、勝つって信じとったで3人とも?」
「このツルメ、普通のツルメより倍くらい高い戦闘力があったのに、よく勝ったわ。ホント上出来よ?」
「あ、お2人とも……ありがとうございます。研修のおかげで、どうにか勝てました」
「うん、勝った」
「ああ、勝ったね」
勇子達を見て安心したのか、ホッとした様子で笑う3人。
その3人の笑顔を見て、特に無理して笑っている様子の詩乃と奏子を見て、勇子は少し不安を抱いた。
「「……」」
詩乃と奏子は、無惨に千切れ飛び、横たわっているツルメの骸へチラチラと視線を送り、気にしている。
自分達がしたことへの後悔と、生き残ったことへの安堵。
それらの感情の整理がまだついておらず、少し混乱している様子であった。
下手に人間に見える分、ツルメの討伐や、討伐後のこの惨状に対して、罪の意識さえ2人は抱いているようである。
今回の場合、自分達の戦闘経験を得るために、ツルメをある意味で生贄にした側面もあるため、余計にそう感じるのであろう。
「初陣ではやり過ぎてまうのはようある話や。この程度で一々気ぃ揉んでたらアカン。もっと割り切りや」
勇子は2人の視線を遮るように立つと、奏子と詩乃を見て言葉を続けた。
「命彦の受け売りやけど……迷宮っちゅう場所はどこもかしこもこういう場所や。命のやり取りが日常化した、異常領域。ここでは他者の命を気にする前に、自分の命を気にする必要がある。力ある者だけが生き延びる、そういう世界や。都市とは異質の現実やろ? でも、ここに足を踏み入れたモンは、その現実をまず受け止める必要がある」
「今後も迷宮に入り続けるんだったら、この現実は疑問を持たずに受け入れるべきよ? ここは都市とは違うわ。そういう場所だもの。都市の感覚をここへ持ち込むと……死ぬわよ? 奪った命を気にするより、拾った自分の命をまず気にすること。実力不足の新人は特にそう。ここで感傷に浸れるのは、力ある者のみよ。雑魚は必死に力を付けろ。多分……命彦だったらそう言うでしょうね?」
メイアも感じるものがあったのだろう、2人に助言する。
詩乃と奏子は一瞬黙り込み、しっかり顔を上げて返事した。
「「……はいっ!」」
立ち上がった詩乃と奏子は、傍で心配そうに見ていた舞子の背をポンと叩き、3人で植物種魔獣【蔓女】の骸へ近寄ると、手を合わせてから骸に精霊魔法で火を点け、残留思念が出ぬよう荼毘に付した。
その3人を見て、メイアが小声で勇子に耳打ちする。
「案外平気そうね、詩乃と奏子?」
「そやね。でも、心の内は他人には分かりにくいモンや。様子は継続して見よ? これを克服せんと、戦える魔法士とは言えんからね? この先は自分との戦いやわ」
勇子も小声で返し、3人を見る。
3人は燃えるツルメの骸を凝視し過ぎて嘔吐感を覚え、その場にしゃがみこんでいた。
舞子達がツルメの骸を燃やし始めて数分後。
勇子とメイアが、すぐ傍の廃墟の屋上から周囲を警戒している時であった。
「あれは……メイア、左側見てみ!」
「左側? あれは……【鬼妖魔】! しかもデカい」
感知系の精霊探査魔法で、魔法の視覚を手にした勇子とメイアの脳裏に、恐ろしく体格の良い1体の人型魔獣が映った。
妖魔種魔獣【鬼妖魔】。
筋骨隆々の巨躯に、他の魔獣の毛皮と思しき衣を纏い、犬歯が飛び出た鬼面の魔獣である。
高い身体能力を付与魔法によって底上げし、単独で群れを作る魔獣に比肩する戦闘力を発揮するが、如何せん頭が微妙に弱いので、危険度は8級と下位にある、脳筋魔獣であった。
「オーガって普通は4m前後の体躯やろ? でもアイツ、10m近くあるで! まるで巨人種やんか!」
「それに、ヤツが手に持ってる獲物を見て……ツルメやサツマイモがたくさん。もしかして舞子達が倒した魔獣達は」
「ああ。全部アイツの食い残しやろ? てことは探してるんや、残りの獲物を!」
「ツルメを燃やしてる煙に気付いてる。こっちに来るわよ!」
「上等や、ウチが狩ったる……ってアカン! メイア、右側も警戒! 別のツルメの群れがこっち来よる!」
「くっ! 幾つかの群れが集まったのか、20体近くいるわね? これはマズい。ツルメ達も煙に気付いてるわ。囲まれる前に引き揚げましょ!」
舞子達のいる場所へ、左右から魔獣達が迫って来ていたため、勇子達の決断は迅速だった。
廃墟の屋上から飛び降りた2人は、舞子達に告げる。
「あんたら、急いで逃げるで!」
「え、逃げるって?」
「どうかした?」
「お2人とも慌ててますけど……はっ! 詩乃ちゃん、奏子ちゃん、探査魔法に反応!」
首を傾げる舞子達だったが、経験値のおかげか、舞子がいち早く気づいた。
舞子から僅かに遅れて、詩乃と奏子も顔を蒼くする。魔獣達の接近に気付いたらしい。
「「げっ!」」
「全員気付いたね? ここにおったら、オーガとツルメの挟み撃ちに遭う」
「魔獣同士の戦闘に、私達が巻き込まれる可能性があるわけ」
「目的は果たした。今回はここまでや。引き上げるで?」
「「「はい!」」」
勇子に返事する舞子達の横で、メイアが白黒に明滅する結晶を取り出した。
「もしもの時のために、ソル姉から預かってた〈転移結晶〉を使うわ。ここからだったら、【迷宮外壁】まで一気に転移できる。全員私に掴まって!」
メイアに全員でくっついて、空間転移する勇子達。
頭上に生じた虹色の空間の裂け目に吸い込まれ、【迷宮外壁】の頂上部に転移した勇子は、さっきまで自分達がいた場所を見て、その視線の先で爆発が起こったことを確認し、口を開いた。
「間一髪やったわ。どうやらやっこさん達、見事にかち合って、戦い始めたみたいやね?」
その勇子の発言を聞き、舞子達は心底逃げ切れてよかったというように、酷く疲れた表情を浮かべていた。
無言だが、激しい殺意を宿すその瞳が語っていた。
お前達は、決して生きては返さぬ、と。
突如として激しい殺気がツルメから吹き出し、舞子達を威圧する。
「「「くっ!」」」
殺気に呑まれて一瞬身体が竦み、動きが止まった瞬間、ツルメが地面を爆砕し、加速した。
「っ!」
人外の身体能力を発揮して走り込み、1番前にいた詩乃の眼前に肉薄したツルメが、下から地の魔法力場を纏う拳を突き上げようとする。
魔法士との戦闘経験が豊富であるためか、ツルメの拳打の動作は非常に堂に入ったものであり、狙っている場所も人体の急所である喉元であった。
まともに喰らえば致命傷必至の打突だが、間一髪詩乃の防御が間に合い、〈聖炎の魔甲拳:シャイニングフィスト〉を装備した両腕が喉元を守る。
「があっ!」
「詩乃! くぅっ!」
「詩乃ちゃんっ! うわっ!」
奏子と舞子の目前で拳を突き上げた状態のツルメが、瞬時に火の追尾系魔法弾を多数具現化し、至近距離から連射した。慌てて回避する奏子と舞子が言う。
「詩乃は私が援護する!」
「じゃあ私が打って出ます!」
詩乃へこれ以上の追撃はさせまいと、奏子が瓦礫にめり込む詩乃の方へ飛ぶ魔法弾を、2重の魔法力場を纏う拳や足で撃ち落とす一方、舞子はツルメの魔法弾を回避しつつ距離を詰め、拳を握って飛びかかった。
「よくも詩乃ちゃんを! せい! やあっ! てえぇいっ!」
ツルメが舞子の連撃を躱し、その手を掴むと同時に、力任せに地面へと叩きつけ、蹴り飛ばす。
「ぐふっ! ぐああぁぁっ!」
「「舞子!」」
どうにか〈魔甲拳〉で防御した上から蹴り飛ばされ、舞子が放物線を描いて瓦礫に突っ込んで来る。
奏子と瓦礫から這い出した詩乃が慌てて舞子を受け止めた。
「くっ……人間以上の身体能力! 今の私達じゃ、単独攻撃は危険!」
「うん。連携か同時攻撃が要るわ。はっ! 追撃よ、飛ぶわ!」
「さ、3人で仕かけるしか、活路はありません」
植物種魔獣【蔓女】が、トドメとばかりに具現化した土くれの槍、地の集束系魔法弾を必死に回避しつつ、奏子と詩乃は受け止めた舞子を地面に降ろして問うた。
「舞子、行ける?」
「どうにか……まだ動けますが、《地礫の纏い》を使いたいところですね」
地面に叩きつけられた衝撃がまだ抜け切っておらず、ふらつく舞子。
その舞子を見て、奏子と詩乃が揃って首を振った。
「分かった。私と詩乃が先に仕かける」
「魔法使って回復したら、加勢よろしくね!」
「た、頼みます!」
舞子をその場に置いて、ツルメをじっと見据えていた2人が駆け出した。
風と火、2重に揺らめく魔法力場へ魔力を送り込み、力場の厚みを増して、ツルメへ一気に肉迫する2人。
「はあっ! せいっ!」
「このっ! 当たれっ!」
前後左右や上下にも動き回り、入れ替わり立ち替わり攻撃する奏子と詩乃。
2人の連携攻撃を躱し続けることは難しかったのか、ツルメが水の盾とも言うべき移動系の精霊結界魔法を具現化し、2人の攻撃を防ぎ始めた。
舞子は自分達が優勢だとすぐに感じ取り、急いで魔法を展開する。
「其の地礫の天威を衣と化し、我が身に地の加護を与えよ。包め《地礫の纏い》」
2人に遅れまいと逸る気持ちを押し殺し、確実に精霊付与魔法《地礫の纏い》を具現化するため、詠唱してまで付与魔法を使う舞子。
薄緑色と薄紅色の魔法力場の上から薄黄色の魔法力場が重ねられ、自己治癒力を底上げして、擦り傷や体力が徐々に回復していく。
研修における訓練で魔法の練度も上がっているため、以前のように地の魔法力場を纏うと、他の魔法力場が弱体化するクセも消えていた。
3重の魔法力場を纏った舞子は、すぐに駆け出し、加速する。
「待たせました!」
「うん、待たされた!」
「畳みかけるよっ!」
ツルメが防戦に徹していることを奏子や詩乃も気づいており、すぐさま3人が息を合わせて攻撃を始める。
三方から次々に飛んで来る舞子達の拳や蹴りは、2重や3重の魔法力場のせいで高い魔法攻撃力を有し、連続攻撃や同時攻撃によって、移動系の魔法防壁を次々に叩き割った。
同時攻撃しようとする舞子達の気配に気付き、慌てて迎撃のために、全周囲へ魔法防壁を展開する植物種魔獣【蔓女】。
しかし、一度痛い目に遭った舞子達は、この時を待っていた。
「迎撃用の周囲系魔法防壁! 一点突破です!」
「「合わせる!」」
3重の魔法力場を身に纏う舞子の突貫に合わせて、2重の魔法力場を纏う詩乃と奏子も突貫する。
魔法力場をできる限り拳に集束し、同じ場所を狙って繰り出された3人の拳撃は、集束系魔法弾を凌駕する魔法攻撃力を有し、ツルメをすっぽり覆って守る周囲系魔法防壁を瞬時に貫通した。
全力で魔力を込めて、舞子達への迎撃用に具現化した結界魔法を、ものの見事に一瞬でぶち破られて慌てたツルメに舞子が肉迫し、魔法力場を集束した拳を突き上げる。
「トドメを、頼みますっ!」
「任されたっ!」
「うおらああっ!」
舞子がツルメを上空に突き上げた頃。すでに上へ飛び上がっていた奏子と詩乃は、無詠唱で《地礫の纏い》を具現化しており、3重の魔法力場を纏っていた。
そして、ありったけの魔法力場を集束したその拳を、2人は左右から同時にツルメへと繰り出す。
舞子にかち上げられたツルメの腹部に左右から衝撃が加わり、体内でぶつかり合った衝撃が、内側から爆発した。
上半身と下半身が爆裂離散したツルメが、青い体液や臓腑を撒き散らして地に落ちる。
至近距離でそれを浴びた詩乃と奏子は、地面に着地した後、崩れ落ちるように座り込み、不快そうに肩で息をしていた。
真下で体液を浴びた舞子も、嫌そうに顔を手で拭い、肩を上下させる。
「「「はあ、はあ、はあ……」」」
荒い呼吸の3人は、植物種魔獣【蔓女】に勝った感慨よりも、生きている安堵を感じているようであった。
荒い息で詩乃、奏子、舞子が、ツルメの骸を見つめている時。
近場の廃墟の屋上から戦闘を見守っていた勇子とメイアが、3人の横へと移動して笑顔で口を開いた。
「ようやったね、あんたら……ハラハラして止めに入ろかとも思てたけど、勝つって信じとったで3人とも?」
「このツルメ、普通のツルメより倍くらい高い戦闘力があったのに、よく勝ったわ。ホント上出来よ?」
「あ、お2人とも……ありがとうございます。研修のおかげで、どうにか勝てました」
「うん、勝った」
「ああ、勝ったね」
勇子達を見て安心したのか、ホッとした様子で笑う3人。
その3人の笑顔を見て、特に無理して笑っている様子の詩乃と奏子を見て、勇子は少し不安を抱いた。
「「……」」
詩乃と奏子は、無惨に千切れ飛び、横たわっているツルメの骸へチラチラと視線を送り、気にしている。
自分達がしたことへの後悔と、生き残ったことへの安堵。
それらの感情の整理がまだついておらず、少し混乱している様子であった。
下手に人間に見える分、ツルメの討伐や、討伐後のこの惨状に対して、罪の意識さえ2人は抱いているようである。
今回の場合、自分達の戦闘経験を得るために、ツルメをある意味で生贄にした側面もあるため、余計にそう感じるのであろう。
「初陣ではやり過ぎてまうのはようある話や。この程度で一々気ぃ揉んでたらアカン。もっと割り切りや」
勇子は2人の視線を遮るように立つと、奏子と詩乃を見て言葉を続けた。
「命彦の受け売りやけど……迷宮っちゅう場所はどこもかしこもこういう場所や。命のやり取りが日常化した、異常領域。ここでは他者の命を気にする前に、自分の命を気にする必要がある。力ある者だけが生き延びる、そういう世界や。都市とは異質の現実やろ? でも、ここに足を踏み入れたモンは、その現実をまず受け止める必要がある」
「今後も迷宮に入り続けるんだったら、この現実は疑問を持たずに受け入れるべきよ? ここは都市とは違うわ。そういう場所だもの。都市の感覚をここへ持ち込むと……死ぬわよ? 奪った命を気にするより、拾った自分の命をまず気にすること。実力不足の新人は特にそう。ここで感傷に浸れるのは、力ある者のみよ。雑魚は必死に力を付けろ。多分……命彦だったらそう言うでしょうね?」
メイアも感じるものがあったのだろう、2人に助言する。
詩乃と奏子は一瞬黙り込み、しっかり顔を上げて返事した。
「「……はいっ!」」
立ち上がった詩乃と奏子は、傍で心配そうに見ていた舞子の背をポンと叩き、3人で植物種魔獣【蔓女】の骸へ近寄ると、手を合わせてから骸に精霊魔法で火を点け、残留思念が出ぬよう荼毘に付した。
その3人を見て、メイアが小声で勇子に耳打ちする。
「案外平気そうね、詩乃と奏子?」
「そやね。でも、心の内は他人には分かりにくいモンや。様子は継続して見よ? これを克服せんと、戦える魔法士とは言えんからね? この先は自分との戦いやわ」
勇子も小声で返し、3人を見る。
3人は燃えるツルメの骸を凝視し過ぎて嘔吐感を覚え、その場にしゃがみこんでいた。
舞子達がツルメの骸を燃やし始めて数分後。
勇子とメイアが、すぐ傍の廃墟の屋上から周囲を警戒している時であった。
「あれは……メイア、左側見てみ!」
「左側? あれは……【鬼妖魔】! しかもデカい」
感知系の精霊探査魔法で、魔法の視覚を手にした勇子とメイアの脳裏に、恐ろしく体格の良い1体の人型魔獣が映った。
妖魔種魔獣【鬼妖魔】。
筋骨隆々の巨躯に、他の魔獣の毛皮と思しき衣を纏い、犬歯が飛び出た鬼面の魔獣である。
高い身体能力を付与魔法によって底上げし、単独で群れを作る魔獣に比肩する戦闘力を発揮するが、如何せん頭が微妙に弱いので、危険度は8級と下位にある、脳筋魔獣であった。
「オーガって普通は4m前後の体躯やろ? でもアイツ、10m近くあるで! まるで巨人種やんか!」
「それに、ヤツが手に持ってる獲物を見て……ツルメやサツマイモがたくさん。もしかして舞子達が倒した魔獣達は」
「ああ。全部アイツの食い残しやろ? てことは探してるんや、残りの獲物を!」
「ツルメを燃やしてる煙に気付いてる。こっちに来るわよ!」
「上等や、ウチが狩ったる……ってアカン! メイア、右側も警戒! 別のツルメの群れがこっち来よる!」
「くっ! 幾つかの群れが集まったのか、20体近くいるわね? これはマズい。ツルメ達も煙に気付いてるわ。囲まれる前に引き揚げましょ!」
舞子達のいる場所へ、左右から魔獣達が迫って来ていたため、勇子達の決断は迅速だった。
廃墟の屋上から飛び降りた2人は、舞子達に告げる。
「あんたら、急いで逃げるで!」
「え、逃げるって?」
「どうかした?」
「お2人とも慌ててますけど……はっ! 詩乃ちゃん、奏子ちゃん、探査魔法に反応!」
首を傾げる舞子達だったが、経験値のおかげか、舞子がいち早く気づいた。
舞子から僅かに遅れて、詩乃と奏子も顔を蒼くする。魔獣達の接近に気付いたらしい。
「「げっ!」」
「全員気付いたね? ここにおったら、オーガとツルメの挟み撃ちに遭う」
「魔獣同士の戦闘に、私達が巻き込まれる可能性があるわけ」
「目的は果たした。今回はここまでや。引き上げるで?」
「「「はい!」」」
勇子に返事する舞子達の横で、メイアが白黒に明滅する結晶を取り出した。
「もしもの時のために、ソル姉から預かってた〈転移結晶〉を使うわ。ここからだったら、【迷宮外壁】まで一気に転移できる。全員私に掴まって!」
メイアに全員でくっついて、空間転移する勇子達。
頭上に生じた虹色の空間の裂け目に吸い込まれ、【迷宮外壁】の頂上部に転移した勇子は、さっきまで自分達がいた場所を見て、その視線の先で爆発が起こったことを確認し、口を開いた。
「間一髪やったわ。どうやらやっこさん達、見事にかち合って、戦い始めたみたいやね?」
その勇子の発言を聞き、舞子達は心底逃げ切れてよかったというように、酷く疲れた表情を浮かべていた。
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