学科魔法士の迷宮冒険記(短編集)

九語 夢彦

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短編集:研修試験監督者、ユウコ(6)

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 採集物の提出を依頼所で行い、見事に以前は失敗した採集依頼を成功させて、過去の失敗を相殺した舞子達。
 しかし、依頼所でミツバや梢に褒められた後の、【精霊本舗】への帰路で、勇子が見る舞子達の表情はどこか沈んでいた。
 トボトボと先を歩く詩乃と奏子、舞子が言う。
「勇子さん達の警告が」
「あともう少し遅かったら……」
「私達は今頃、ここにいませんでしたね?」
 どうやら、改めて迷宮という場所の怖さを思い知った、いや、思い出させられたらしく、舞子達はすっかり戦意が萎縮している様子だった。
 その舞子達へ、横にいたメイアと顔を見合わせた勇子が、明るく言う。
「はいはい、気持ち切り替えや! 複数の群れとかち合うんは迷宮ではようあるこっちゃ。尻尾巻いて逃げ帰ったことを気にするより、生きて戻ったことをまずは喜ぶべきや。ウチとメイアがおらんかったら、酷い目に遭ってた。あんたらにそれが分かってんねんやったら、ウチとメイアがどうしてそれに気付けたか、そこにも注目すべきやろ? 単に魔法の練度の問題や。あんたらかて、力を付ければ気付けた話やで?」
「自分達の能力を超える事態に遭遇し、生き残った時。それを良い経験をしたと思って、今の自分達に不足している力、魔法を見出す糧とするのか。それとも苦い経験と思って思考停止し、封印するか。どちらが良い戦士、良い魔法士に求められる資質かは、明らかよね? この経験から、学べることを学べばいい。そして、次に活かせばいいのよ。分かった?」
 勇子に続いてメイアも諭すように語ると、舞子達がハッとしたように目を丸くし、返事した。
「「「……はい!」」」
「ええ返事や。そら店に着いた。上司に報告するで、シャンとしい!」
 【精霊本舗】に到着した舞子達は、背筋をまっすぐにして、堂々と入店した。

 エルフの女性営業部長への報告を終えて、舞子達のことをメイアに任せた勇子は1人、店舗棟2階の、食堂へと来ていた。
 今頃、舞子達は反省会を開き、ツルメへの攻撃を迷っていた件で、メイアにお説教を喰らっていることだろう。魔獣をもう少しよく観察しろと。
 食堂で席に着いた勇子は、食堂担当のエマボットに夕飯の注文をし、自宅に今夜も【精霊本舗】へ泊まることをポマコンで連絡して、料理を待った。
 夕飯を待ちつつ、明日のことを考えていると、思考が口からついつい漏れ出る。
「舞子らの連携も以前と比べたら随分マシやけど、どうにも不安材料はあるんよねぇ? 今回みたいに良い連携がサクッとできればええんやけど、追い込まれんと出えへんし……明日はホンマに行けるんやろか? 心配やわぁ」
「心配? 何がだ?」
 目を閉じて腕を組み、あれこれ真剣に思考する勇子へ、どこからか質問が飛んで来る。
 しかし、考えることに意識が注がれていた勇子は、この質問を自分の自問自答と勘違いして答えた。
「舞子らの連携についてや。個々の戦闘技能はそこそこ上がった。連携攻撃もそれに比例して磨かれて来てるけど、3人の連携が時々途切れることがある。今回は上手く連携したけど、アレが意識して常に出せるかっちゅうたら、そうとも言われへん。研修でも、追い込まれた時にしか出んねんこれが。ウチと命彦の場合やと、考えんでも常に最善の連携ができるんやけどねえ?」
『互いに動きや思考を知り尽くしていますから、感覚的に相互補完しやすいのでしょうね?』
 今度は思念が飛んで来るが、瞑目する勇子は気付かず、自分の思考の一部と思い込み、賛同する。
「せや! それがまだ舞子らには足らんねや。互いの動きや思考を完全には分かっとらへん。いや、分かりつつある段階には来てんねんけど、分かり切ってへんねん。せやから、ええ連携がでける時とでけへん時がある。攻撃にムラがあるんや。1対3の時は数の利があったから、最初からある程度良い連携攻撃がでけたけど、今度は3対3やし、そう上手くは行かんやろ。どしたらええんや? あの子らにウチらの連携を見せたろか?」
「まあ、明日だったら見せる機会もあるんじゃね? 俺や空太も同行できるし」
「ほーか? んじゃ、明日見せてみよか……って待てい! 今気付いた! あんたら何でここおんねん!」
 ようやく気付いたのか、驚いて目を見開いた勇子が対面に座る命彦達を見た。
 いつの間にか、勇子の目の前の席には、頭に子犬姿のミサヤを乗せた命彦が座っている。
 命彦が楽しそうに笑って口を開いた。
「勇子の報告をわざわざ聞きに来てやった……っていうのは建前で、気分転換に散歩してたら、小難しい顔した勇子が食堂に入ってくのが見えたから」
『からかおうと思って、ここに座ったのです』
 ミサヤが上から目線で思念を発する。イラッとしたが、勇子はそれを堪えて言った。
「こいつらはぁー……ふん! まあええわ。今回は見逃したる。その代わり、明日は手え貸してや?」
「まあ、手を貸すのは構わねえけど、俺達の動きを実際に見せたからって、すぐに舞子達の連携が改善するとは思えんぞ?」
『そうですね。こういうのは積み重ねの問題ですから。繰り返し繰り返し、経験を重ねることが重要です』
「ミサヤの言う通りだ。俺達も、最初はそうだったろう?」
 命彦に言われて勇子も思い出した、昔の自分を。そして、クスリと笑う。
「せやったね……ウチらも何やかやで、連携が上手く行かんこともあったわ」
「ああ。俺と勇子の連携もそうだが、空太やメイアと俺達の連携でも苦労したもんだ。援護を気にせん勇子に、空太やメイアの魔法攻撃がぶち当たったりしたし」
『マヒコの攻撃に全員が合わせようとして、ソラタとメイアの援護魔法攻撃にユウコが巻き込まれた一件ですね? あれは傑作でした、ぶふっ!』
「ぷくくく、咄嗟に防御した勇子が弾き飛ばされて、廃墟の壁に頭から突き刺さった挙句、抜けへん~って、むーむー言ってた時は、俺もさすがに馬鹿笑いしたよ」
「あんたら! 人の失敗を笑うんは最低やで!」
 顔を真っ赤にした勇子がプリプリと怒るが、命彦とミサヤはくすくすと笑っていた。
 思い出し笑いを引っ込めてから、命彦が少し真面目に言う。
「まあ、過去の失敗は置いといてだ。勇子、責任感があるのは良いことだし、弟子のことを親身に思いやってやれるのは、師匠としても好印象だと思う。だが、過保護過ぎるのは、時として弟子の成長を止める。俺も、祖母ちゃんには随分と突き放された。いや、突き落とされた、と言うべきか? 時には、舞子達自身にゆだねる部分も必要だろうさ。たとえ、当の舞子達に不安材料があったとしてもだ」
「……似たことをメイアにも言われたわ。我慢の時やってね?」
『ユウコは、世話好きのお節介ですからね? こういう種類の我慢は特に苦手でしょう?』
「ほっとけや、分かっとるわい!」
 気恥ずかしそうに言う勇子を見て満足したのか、命彦はミサヤを連れて席を立つ。
「まあ、いずれにせよ、俺達の連携をあいつらに見せるのは良いと思う。すぐに目に見えた結果は出ねえだろうが、目標の1つくらいは与えてやれるだろ?」
「おう! 明日は頼むで、相棒?」
『むっ! マヒコの相棒は私ですよ?』
「残念でしたぁ、〈魔甲拳〉でのド突き合いに限っては、ウチが命彦の相方ですぅ」
 妬いたミサヤがギラリと目に怒気を宿すが、飛びかかる前に命彦が抱き締め、苦笑する。
「止めいっちゅうに……ったく。んじゃ、明日にまた呼びに来いよ?」
「ああ、遅れたら許さんで!」
「へいへい」
 そう言って、命彦は食堂を出て行った。そのすぐ後に料理が届き、勇子は嬉しそうに食べ始める。
 そこへメイアの説教を終えた舞子達も合流し、全員で夕飯を食べた。

 夕飯の後、勇子とメイアは、舞子達に明日に備えて実家へ戻るように提案したが、研修を終えるまで帰れませんと言う3人の言い分にほだされ、また店舗棟3階の社宅村にある旅館に皆で泊まった。
 そして、研修試験の2日目が訪れ、魔法具の点検を終わらせた勇子達に、命彦達が合流する。
「全員、昼飯は食ったか?」
「「「はい!」」」
 ミサヤを肩に乗せた命彦の問いかけに、舞子達が元気に返事をする。
 気合の入った良い表情であった。
「ウチらは魔法具の点検も完了済みや。あんたらは?」
「俺は母さんに点検してもらったよ」
「僕もさっき親方に点検してもらえた」
「じゃあ、もう行けるわね?」
『ええ。前回は依頼を受領してから迷宮に行ったという話ですが……』
「今回はどうすんだ?」
 ミサヤと命彦の問いかけに、勇子は舞子達を見て答えた。
「今回は止めとこ。舞子らに、研修試験のことだけを考えさせてやりたいねん」
「勇子……」
「ありがと」
「絶対勝って、研修試験に合格しますね!」
 舞子達の言葉に笑顔を返す勇子。
 その勇子を頼もしそうに見てから、命彦が横に立つエルフの女性部長へ言った。
「ソル姉、それじゃあ行って来るよ。まあ多分、吉報を持って帰れると思う」
「はい、お待ちしております、若様。それでは皆さん、特に舞子さんと奏子さん、詩乃さんに、御武運を」
「「「はい! 行って来ます、セレリウス部長!」」」
「いざ、関西迷宮へ出発や」
 勇子の先導で、従業員達に見送られつつ、命彦達は【精霊本舗】を後にした。
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