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短編集
短編集:ミサヤが生まれた日(4) 完
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周囲系の風の精霊結界魔法を具現化し、半球状の魔法防壁で守りを固めた後、老成した雰囲気を纏う女性が思念を発した。
『さてと、とりあえず、まずは礼を言うとこか。この子を守ってくれて……守ろうとしてくれて、ありがとう。ほら、まー坊も頭下げんかい!』
「『うん、ありがとうオオカミさん!』」
女性が横にいた幼い少年を抱き寄せ、頭を下げさせる。
誰かに礼を言われたのも初めての経験であり、白きマカミは戸惑った。
『いや、私は……』
戸惑う巨狼に、女性は魔法による思念で言う。
『自分が死ぬと分かってても、この子のためにあんたは身を挺した。魔法弾から我が身を盾にしてでも、この子を守ろうとしたあんたの姿は、ウチも見てたわ。せやから、あんたが恐らく融和型魔獣で、ウチら人間と手を取り合える可能性を持つ魔獣っちゅうことは、薄々察しとる』
女性は抱き寄せた幼い少年をくすぐりつつ、思念による話を続けた。
『この子は年齢の割に多くの魔獣を見とるから、感覚的に融和型か敵性型か、魔獣を見分けられんねん。子どもは誰しも、そういう本質を見抜く力を本能的に持っとる。せやから、この子が気を許しとる時点で、あんたを信頼してもええっちゅう気持ちはあるんやが、そうは言うてもウチは疑り深い性格やから、確証を持たんうちは信頼せん主義や。……で、どうやろう? ウチに確証をくれんか? そしたら助けたるで?』
思わぬ申し出を受けて、白きマカミが問い返す。
『……どうすれば、よいのだ?』
『あんたの記憶を、ウチらに見せえ。記憶は人格形成の根幹に関わるモンや。そして記憶には、その当時の偽らざる想い、感情も付随する。信頼できるモンかどうかを判別するには最適や。もし、嫌やっちゅうんやったら……』
女性が言いたいことを思念で伝え終わる前に、巨狼は了承した。
『その程度のことか……抵抗できるほどの力も出せぬ。好きにしろ。我の空虚で……薄い記憶を見ても、恐らくは呆れるだけだと、思うが』
痛みによって途切れ途切れの思念だったが、あっさり申し出を受けた白きマカミに、女性はやや拍子抜けした様子だった。
『えらいサックリ決断したね? そこはもっと抵抗せんか普通? 心の内側を覗かれるっちゅうことやで? まあええわ。そいじゃまー坊、一緒に見るで?』
「うん!」
白きマカミの額に少年を抱き寄せた女性が手を置き、伝達系の精霊探査魔法を使って、記憶を読み取る。
ほんの数分、動きを止める幼い少年と女性。女性が手を離すと、幼い少年は無言で白きマカミに抱き付いた。
『ど、どうした……人の子よ?』
幼い少年はしんしんと泣いていた。ふと見ると、女性の頬にも涙が伝う。
『ザッとしか見とらんけど、あんた……ホンマに長い間、1人やったんやね? 親の愛情、家族の愛情も知らんと、普通やったら気が触れて心が壊れてまうのに……ずっと耐えて耐えて、耐えられてしもて、ツライっちゅうことにさえ気付かんと、狭い世界から広い世界を、ずっと見とったんやね? まさかウチが魔獣に憐憫の情を抱くとは……想定外やったわ』
『わ、私は、別に……』
巨狼が目を泳がせていると、幼い少年がまっすぐ見詰めて、声と思念で言う。
「『オオカミさん、さみしいときはね、さみしいっていっていいんだよ? くるしいときは、くるしいっていっていいんだ。もうトモダチだもん。ぜんぶきくから、そばにいるから……ね?』」
幼い少年の涙に濡れた目を見て、その本心から白きマカミの心を案ずる少年の想いを知って、巨狼の心がひび割れた。
押し込めて、ひた隠しにしていた感情が、欲求が、表に出て来る。
生まれた時から孤独であったがゆえに、他者との触れ合いを諦め、傍観者という立場に自らを置くことで、壊れそうだった自分の心を必死に守っていた、優しくも不器用である巨狼。
その巨狼の寂しいと叫ぶ心を、少年は救い上げ、ありったけの好意の念で包み込み、癒してくれたのである。
気付けば、白きマカミの目から次々と涙が浮かび、溢れ出ていた。
懇々と涙する巨狼に、自己治癒力を促進させる精霊治癒魔法をかけつつ、容態の安定に努めた女性が言う。
『ほら、あんまり泣くと傷に障る、もう止しいや? あんたが信頼できる融和型魔獣やと、ウチも分かったし。……どうやろ? あんたさえ良ければ、ウチらんとこへ来いひんか? 融和型魔獣は、見付けたら保護せえっちゅう決まりがあんねん。1人でいるよりは、ごっつい楽しいと思うんやが?』
『よ、よいのか? 我は……魔獣だぞ?』
老成した雰囲気を纏う女性の提案に、白きマカミが思わず泣き止み、顔を上げる。
『構わんよ? まー坊を命を懸けて守るって誓えるんやったら、ウチらが、まー坊が、あんたの居場所を作ったるわ。家族っちゅう居場所を。せやろ、まー坊?』
「『うん! トモダチより、かぞくのほうがいっしょにいられるよ?』」
巨狼が逡巡して思念を返す。
『わ、我は……同朋より忌み嫌われた者だぞ? 良いのか……共にいても?』
「まー坊、どや? オオカミさん、一緒にいたいかどうか聞いとんで?」
「『いっしょがいい! いっしょにいたいよ!』」
まっすぐに想いを、声と思念に乗せてぶつける幼い少年。白きマカミは、感極まって震えた。
他者から、傍にいて欲しいと求められることが、ただただ嬉しかった。
『ウチら魂斬家のご先祖さんには、異界から現れた白い狼を友としたモンがおる。今では、こっちの世界に転移した白いマカミやったんちゃうかと考えられとるんやが、そのせいで、普通のマカミ達からしたら忌み嫌われる白きマカミも、ウチらからしたらご先祖様を助けた白狼の再来っちゅうわけや。歓迎するで?』
女性の発言を聞いても、迷っている様子の白きマカミ。
その白きマカミを幼い少年が見詰めて、またほにゃっと笑う。
一種の刷り込みだろうか。この子の傍にいたいと、巨狼は真剣に思った。
『……分かった。その言葉に……甘えさせてもらう』
『よし、決まりや! こっちもあんたは信頼できる魔獣やと確信が持てたし、ええ加減、この容態を維持するのも限界や。一気に治療しよか?』
『できるのか?』
『うちはでけへん。治癒魔法を使うんはあんたや。痛みのせいで意識が乱れて、高位の治癒魔法を使えんねんやろ? せやったら、痛みを和らげたらええ。包め《陰闇の纏い》』
老成した雰囲気を纏う女性が、薄黒い魔法力場を具現化し、白きマカミを力場で包み込むと、ジクジクとした痛みが一気に和らいだ。
『……っ! 痛みが引いた?』
『これやったら、魔力の制御に特に気い遣う高位の治癒魔法でも使えるやろ? 天魔種魔獣の魔力やったら、数時間どころか、数十時間前まで一気に時間遡行できる筈や? はよ治癒魔法を使って全快し』
『ああ!』
白きマカミが薄らと白い治癒力場で全身を覆うと、みるみる傷口が消えて行く。
傷を負ったという因果自体を、時間遡行で無傷の状態へと上書きしているため、失った血液さえも失われる前の状態で戻って来る。
遂に巨狼は完治し、立ち上がってぶるぶると身を震わせた。
白きマカミは美しく、そして優美であった。
「『やったね、オオカミさん!』」
『ああ。少年と……いや、我が主と会ったおかげです』
「『あるじ?』」
首を傾げる幼き少年の頭をポンポンと軽く叩き、女性が思念と声を揃えて言う。
「『主か。まー坊を守るって誓いを、主従の誓いと解釈したんやね? 言葉遣いまで合わせるとは……群れを作るマカミらしい話やけど、あんた結構お堅い性分みたいやん? ふふふ、そっちの方が子どもを預けやすいから、ウチとしては好印象やけどね。さてまー坊、新しい家族に、はよ自己紹介したり?』」
「『うん! みぎりまひこです、よろしく! まひこでいいよ、オオカミさん』」
『マヒコ、心得ました。私は……』
自分の自己紹介をしようと思った時、ハタっと気付く。
白きマカミは、自分の名前を持っておらず、そもそも親が名付けたかどうかさえ、不明であることに。
困ってる様子の巨狼を見て、老成した雰囲気の女性が助け船を出した。
『あんたに付けて欲しいとさ、まー坊?』
「『ホント、オオカミさん?』」
『ええ。私に名をください、マヒコ』
「『じゃあ、ミサヤ! ミサヤがいい!』」
『ミサヤか。6代目当主の友たる白狼、美鞘乃狼にあやかったんだね? 命彦も6代目にあやかってるんやし、お揃いでええやんか』
女性の思念を聞き、白きマカミも思念で語る。
『お揃いですか……ミサヤ。気に入りました』
「『やったー! ねえねえミサヤ、あたまのうえにのっていい?』」
『ええ』
早速幼い少年が、巨狼にじゃれついて問うと、巨狼が首を下げる。
白きマカミの両耳の間に寝転んだ幼い少年は、お座りした巨狼の頭の高さから世界を見下ろした。
「『ふわー……たかいねえ! あ、じいちゃんたちだ! おーい!』」
月明かりに照らされて、瓦礫の散乱する廃墟の夜道を歩く、エルフ女性とドワーフ翁、そして壮年の男性が見えて、少年が手を振る。
『じいちゃんたちにもミサヤをしょうかいするよ! ふふふ、かぞくがふえたらおどろくよ? かぞくはねえ、ずっといっしょにいていいんだ。ミサヤもずっといっしょにいようね?』
『ええ。ずっと一緒です。我が主よ』
幼い少年の体温を額に感じ、白きマカミは生まれて初めての充足感を得た。
ミサヤはこの日、生まれたのである。
「いつの間にか……寝ていました」
昏睡状態の命彦の横で、十数分ほどうたた寝していたミサヤがふと目を覚ます。
随分昔のことを思い出していたミサヤは、幼い頃の面影を宿す命彦を見て、くすりと笑った。
「昔の純粋さはもう消えてしまいましたが、それが成長というもの。……しかし、こうして寝顔を見ていると今も昔も、マヒコはマヒコのままですね? 私にとっては愛しい主です」
寝室の扉口に命絃達が歩いて来る気配を感じ、ミサヤが身を起こした。
『マイトやミツルもすぐに来ます。魔力を回復させて、すぐに引き戻しますからね?』
ミサヤが命彦に、魔法による思念で語りかけた時である。
命彦の寝顔が多少動いた。まるで笑っているように見える。
「は、反応した! 回復の兆しです、マイト、ミツル!」
驚いたミサヤが、命絃達を呼ぶ。寝室が騒がしさを増した。
その日から、6日後に目覚めた命彦は、後にこの時のミサヤの思念を憶えていた。
「ミサヤの温かい魔力を、ずっと感じてたんだ」
そう命彦はミサヤに語って笑ったらしい。
『さてと、とりあえず、まずは礼を言うとこか。この子を守ってくれて……守ろうとしてくれて、ありがとう。ほら、まー坊も頭下げんかい!』
「『うん、ありがとうオオカミさん!』」
女性が横にいた幼い少年を抱き寄せ、頭を下げさせる。
誰かに礼を言われたのも初めての経験であり、白きマカミは戸惑った。
『いや、私は……』
戸惑う巨狼に、女性は魔法による思念で言う。
『自分が死ぬと分かってても、この子のためにあんたは身を挺した。魔法弾から我が身を盾にしてでも、この子を守ろうとしたあんたの姿は、ウチも見てたわ。せやから、あんたが恐らく融和型魔獣で、ウチら人間と手を取り合える可能性を持つ魔獣っちゅうことは、薄々察しとる』
女性は抱き寄せた幼い少年をくすぐりつつ、思念による話を続けた。
『この子は年齢の割に多くの魔獣を見とるから、感覚的に融和型か敵性型か、魔獣を見分けられんねん。子どもは誰しも、そういう本質を見抜く力を本能的に持っとる。せやから、この子が気を許しとる時点で、あんたを信頼してもええっちゅう気持ちはあるんやが、そうは言うてもウチは疑り深い性格やから、確証を持たんうちは信頼せん主義や。……で、どうやろう? ウチに確証をくれんか? そしたら助けたるで?』
思わぬ申し出を受けて、白きマカミが問い返す。
『……どうすれば、よいのだ?』
『あんたの記憶を、ウチらに見せえ。記憶は人格形成の根幹に関わるモンや。そして記憶には、その当時の偽らざる想い、感情も付随する。信頼できるモンかどうかを判別するには最適や。もし、嫌やっちゅうんやったら……』
女性が言いたいことを思念で伝え終わる前に、巨狼は了承した。
『その程度のことか……抵抗できるほどの力も出せぬ。好きにしろ。我の空虚で……薄い記憶を見ても、恐らくは呆れるだけだと、思うが』
痛みによって途切れ途切れの思念だったが、あっさり申し出を受けた白きマカミに、女性はやや拍子抜けした様子だった。
『えらいサックリ決断したね? そこはもっと抵抗せんか普通? 心の内側を覗かれるっちゅうことやで? まあええわ。そいじゃまー坊、一緒に見るで?』
「うん!」
白きマカミの額に少年を抱き寄せた女性が手を置き、伝達系の精霊探査魔法を使って、記憶を読み取る。
ほんの数分、動きを止める幼い少年と女性。女性が手を離すと、幼い少年は無言で白きマカミに抱き付いた。
『ど、どうした……人の子よ?』
幼い少年はしんしんと泣いていた。ふと見ると、女性の頬にも涙が伝う。
『ザッとしか見とらんけど、あんた……ホンマに長い間、1人やったんやね? 親の愛情、家族の愛情も知らんと、普通やったら気が触れて心が壊れてまうのに……ずっと耐えて耐えて、耐えられてしもて、ツライっちゅうことにさえ気付かんと、狭い世界から広い世界を、ずっと見とったんやね? まさかウチが魔獣に憐憫の情を抱くとは……想定外やったわ』
『わ、私は、別に……』
巨狼が目を泳がせていると、幼い少年がまっすぐ見詰めて、声と思念で言う。
「『オオカミさん、さみしいときはね、さみしいっていっていいんだよ? くるしいときは、くるしいっていっていいんだ。もうトモダチだもん。ぜんぶきくから、そばにいるから……ね?』」
幼い少年の涙に濡れた目を見て、その本心から白きマカミの心を案ずる少年の想いを知って、巨狼の心がひび割れた。
押し込めて、ひた隠しにしていた感情が、欲求が、表に出て来る。
生まれた時から孤独であったがゆえに、他者との触れ合いを諦め、傍観者という立場に自らを置くことで、壊れそうだった自分の心を必死に守っていた、優しくも不器用である巨狼。
その巨狼の寂しいと叫ぶ心を、少年は救い上げ、ありったけの好意の念で包み込み、癒してくれたのである。
気付けば、白きマカミの目から次々と涙が浮かび、溢れ出ていた。
懇々と涙する巨狼に、自己治癒力を促進させる精霊治癒魔法をかけつつ、容態の安定に努めた女性が言う。
『ほら、あんまり泣くと傷に障る、もう止しいや? あんたが信頼できる融和型魔獣やと、ウチも分かったし。……どうやろ? あんたさえ良ければ、ウチらんとこへ来いひんか? 融和型魔獣は、見付けたら保護せえっちゅう決まりがあんねん。1人でいるよりは、ごっつい楽しいと思うんやが?』
『よ、よいのか? 我は……魔獣だぞ?』
老成した雰囲気を纏う女性の提案に、白きマカミが思わず泣き止み、顔を上げる。
『構わんよ? まー坊を命を懸けて守るって誓えるんやったら、ウチらが、まー坊が、あんたの居場所を作ったるわ。家族っちゅう居場所を。せやろ、まー坊?』
「『うん! トモダチより、かぞくのほうがいっしょにいられるよ?』」
巨狼が逡巡して思念を返す。
『わ、我は……同朋より忌み嫌われた者だぞ? 良いのか……共にいても?』
「まー坊、どや? オオカミさん、一緒にいたいかどうか聞いとんで?」
「『いっしょがいい! いっしょにいたいよ!』」
まっすぐに想いを、声と思念に乗せてぶつける幼い少年。白きマカミは、感極まって震えた。
他者から、傍にいて欲しいと求められることが、ただただ嬉しかった。
『ウチら魂斬家のご先祖さんには、異界から現れた白い狼を友としたモンがおる。今では、こっちの世界に転移した白いマカミやったんちゃうかと考えられとるんやが、そのせいで、普通のマカミ達からしたら忌み嫌われる白きマカミも、ウチらからしたらご先祖様を助けた白狼の再来っちゅうわけや。歓迎するで?』
女性の発言を聞いても、迷っている様子の白きマカミ。
その白きマカミを幼い少年が見詰めて、またほにゃっと笑う。
一種の刷り込みだろうか。この子の傍にいたいと、巨狼は真剣に思った。
『……分かった。その言葉に……甘えさせてもらう』
『よし、決まりや! こっちもあんたは信頼できる魔獣やと確信が持てたし、ええ加減、この容態を維持するのも限界や。一気に治療しよか?』
『できるのか?』
『うちはでけへん。治癒魔法を使うんはあんたや。痛みのせいで意識が乱れて、高位の治癒魔法を使えんねんやろ? せやったら、痛みを和らげたらええ。包め《陰闇の纏い》』
老成した雰囲気を纏う女性が、薄黒い魔法力場を具現化し、白きマカミを力場で包み込むと、ジクジクとした痛みが一気に和らいだ。
『……っ! 痛みが引いた?』
『これやったら、魔力の制御に特に気い遣う高位の治癒魔法でも使えるやろ? 天魔種魔獣の魔力やったら、数時間どころか、数十時間前まで一気に時間遡行できる筈や? はよ治癒魔法を使って全快し』
『ああ!』
白きマカミが薄らと白い治癒力場で全身を覆うと、みるみる傷口が消えて行く。
傷を負ったという因果自体を、時間遡行で無傷の状態へと上書きしているため、失った血液さえも失われる前の状態で戻って来る。
遂に巨狼は完治し、立ち上がってぶるぶると身を震わせた。
白きマカミは美しく、そして優美であった。
「『やったね、オオカミさん!』」
『ああ。少年と……いや、我が主と会ったおかげです』
「『あるじ?』」
首を傾げる幼き少年の頭をポンポンと軽く叩き、女性が思念と声を揃えて言う。
「『主か。まー坊を守るって誓いを、主従の誓いと解釈したんやね? 言葉遣いまで合わせるとは……群れを作るマカミらしい話やけど、あんた結構お堅い性分みたいやん? ふふふ、そっちの方が子どもを預けやすいから、ウチとしては好印象やけどね。さてまー坊、新しい家族に、はよ自己紹介したり?』」
「『うん! みぎりまひこです、よろしく! まひこでいいよ、オオカミさん』」
『マヒコ、心得ました。私は……』
自分の自己紹介をしようと思った時、ハタっと気付く。
白きマカミは、自分の名前を持っておらず、そもそも親が名付けたかどうかさえ、不明であることに。
困ってる様子の巨狼を見て、老成した雰囲気の女性が助け船を出した。
『あんたに付けて欲しいとさ、まー坊?』
「『ホント、オオカミさん?』」
『ええ。私に名をください、マヒコ』
「『じゃあ、ミサヤ! ミサヤがいい!』」
『ミサヤか。6代目当主の友たる白狼、美鞘乃狼にあやかったんだね? 命彦も6代目にあやかってるんやし、お揃いでええやんか』
女性の思念を聞き、白きマカミも思念で語る。
『お揃いですか……ミサヤ。気に入りました』
「『やったー! ねえねえミサヤ、あたまのうえにのっていい?』」
『ええ』
早速幼い少年が、巨狼にじゃれついて問うと、巨狼が首を下げる。
白きマカミの両耳の間に寝転んだ幼い少年は、お座りした巨狼の頭の高さから世界を見下ろした。
「『ふわー……たかいねえ! あ、じいちゃんたちだ! おーい!』」
月明かりに照らされて、瓦礫の散乱する廃墟の夜道を歩く、エルフ女性とドワーフ翁、そして壮年の男性が見えて、少年が手を振る。
『じいちゃんたちにもミサヤをしょうかいするよ! ふふふ、かぞくがふえたらおどろくよ? かぞくはねえ、ずっといっしょにいていいんだ。ミサヤもずっといっしょにいようね?』
『ええ。ずっと一緒です。我が主よ』
幼い少年の体温を額に感じ、白きマカミは生まれて初めての充足感を得た。
ミサヤはこの日、生まれたのである。
「いつの間にか……寝ていました」
昏睡状態の命彦の横で、十数分ほどうたた寝していたミサヤがふと目を覚ます。
随分昔のことを思い出していたミサヤは、幼い頃の面影を宿す命彦を見て、くすりと笑った。
「昔の純粋さはもう消えてしまいましたが、それが成長というもの。……しかし、こうして寝顔を見ていると今も昔も、マヒコはマヒコのままですね? 私にとっては愛しい主です」
寝室の扉口に命絃達が歩いて来る気配を感じ、ミサヤが身を起こした。
『マイトやミツルもすぐに来ます。魔力を回復させて、すぐに引き戻しますからね?』
ミサヤが命彦に、魔法による思念で語りかけた時である。
命彦の寝顔が多少動いた。まるで笑っているように見える。
「は、反応した! 回復の兆しです、マイト、ミツル!」
驚いたミサヤが、命絃達を呼ぶ。寝室が騒がしさを増した。
その日から、6日後に目覚めた命彦は、後にこの時のミサヤの思念を憶えていた。
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