学科魔法士の迷宮冒険記(短編集)

九語 夢彦

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短編集

短編集:機人美女の見る夢(1)

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 眷霊種魔獣サラピネスとの死闘を終え、命彦が昏睡状態に陥ってから5日目。
 復興が急速に進みつつある三葉市で、都市統括人工知能ミツバは、バイオロイドの身体で無人の地下格納庫を歩いていた。
 三葉市の地下60mに広がる地下格納庫は、地下の避難施設に併設されており、陸戦型魔法機械〈ツチグモ〉や空戦型魔法機械〈オニヤンマ〉が多数格納され、整備されていた。サラピネスが現れるまでは……。
 都市自衛軍の量産した魔法機械を、ミツバが毎年のように都市の防衛予算から買い取り、コツコツと揃えた戦力であったが、今の地下格納庫は2、3機の〈ツチグモ〉と〈オニヤンマ〉が見れるだけで、酷くガランとしている。
 格納庫内を歩き回り、ミツバは5日前までそこにあった、1000機近い魔法機械達に想いを馳せた。
「少しずつ予算を増やし、数百億円を注ぎ込んで増やしていた戦力が、たった数日の戦闘でほぼ空ですか……」
 呆れかえった末に、苦笑が浮かぶ。
 たった2体の眷霊種魔獣が引き起こした戦乱で、都市が壊滅の危機にさらされ、防衛戦力も魔法機械達に限って言えば、ほぼ壊滅させられた。
 【迷宮外壁】に穿たれた3カ所の侵入口を塞ぐべく、それぞれの侵入口周囲に配置された魔法機械達は、サラピネスが召喚した多数の魔獣達と応戦し、奮戦した結果、ほとんどが破壊された。
 サラピネスと実際に戦闘した、第2昇降機近くの侵入口を守る魔法機械達が壊滅したのは、想定内のことだったが、それ以外の2つの侵入口を守る魔法機械達も壊滅したのは、ミツバにとっても完全に想定外のことであった。
 自分が十分に余裕を見て用意していた戦力が、僅か数日のうちに壊滅する。
 この現実が、ミツバにとっては非常に重く、受け入れがたいモノであった。
 対策に対策を重ねた筈だが、人的被害も相当出ており、よく都市が生き残れたものだと、ミツバ自身が思うほどである。
「人を守るために魔法機械が、人工知能たる私が作られたというのに、結局最後は守るべき人に救われた。皮肉ですね」
 ミツバがふっと、誰かを思い出すようにため息をついた。
 格納庫の空間投影装置を起動し、自分の顔の前に投影された平面映像を見るミツバ。
 ミツバが見ている映像には、【精霊本舗】の別荘階寝室で眠る、命彦の寝顔が映っていた。
「2日前の時点で、身体器官にこれといって異常は見られませんでした。もうそろそろ起きてほしいのですが……いつまで眠っていらっしゃるのでしょうか」
 心配そうにミツバが語る。眠る命彦に繋がれた医療機器の情報を、ミツバは瞬時に把握し得た。
 その医療機器から得た情報を見れば、命彦の身体的消耗は2日前に完全に回復しており、普通はもう目覚めている筈だった。しかし、命彦は未だに眠り続けている。
「早く……目覚めて欲しいものです」
 ミツバが、じっと命彦の寝顔を見詰めて言った。
 都市統括人工知能として、特定個人に肩入れしたり、思い入れを抱くのはマズいのだが、その個人が都市にとっての重要戦力であれば、話は別である。
 勿論、人間理解のために実装している、仮想人格の影響で命彦を心配している節もあった。
 打算か感情かは不明だが、命彦を心配している様子のミツバ。
 そのミツバの傍へ、格納庫に現れた数体のエマボットが近寄って来る。
 目のように見える空間投影装置を明滅させ、それだけでミツバに通信するエマボット達。
 明滅信号を受信して、エマボットから情報を受け取ったミツバが、フッと笑った。
「そうですか。迷宮側に放置されていた、壊れた魔法機械の回収は全て完了したのですね? ありがとう」
 エマボットの1体が進言するように進み出て、空間投影装置を明滅させる。
 それを見て、ミツバは横に首を振った。 
「残念ですが、修理は無意味です。回収した破損機体を修理しても、それは魔法機械たりえません。魔法の効力が失われた、ただの機械ですよ。使える部品だけ回収し、自衛軍の開発局に回してください」
 エマボット達が地下格納庫から出て行くのを見送り、ミツバは目を閉じた。
「私達にも、魔法が使えればいいのですが……」
 ミツバの独り言は、ガランとした地下格納庫にシンと木霊した。

 地下格納庫を出たミツバは、地下通路を歩き、格納庫のすぐ近くにある資材置き場に足を運んだ。
 街を守るために、人々を守るために、そして最前線の魔法士達を守るために、機能停止するまで激しく戦った同朋達の、最後を見送るためである。
 回転翼が取れて真っ二つに折れた〈オニヤンマ〉や、足がもげたり胴体に亀裂がある〈ツチグモ〉達が、うずたかく積まれた、広い地下資材置き場。
 本来は格納庫で、魔法機械の整備のために働いている筈のエマボット達が今、機能停止した同朋達の身体を分解し、使える部品をせっせと回収している。
 その姿が、どういうわけかミツバには、悲しげに見えた。
 解体作業をしばし見て、我知らずミツバは、重たい感情が自分の内に蓄積して行くことを知覚する。
 物悲しい追悼の意識を仮想人格が抱き、その想いが増して行ったからである。
 すでに使える部品を抜き取られ、廃棄品として積まれたガラクタの山の前に、ミツバは歩み寄った。
 この廃棄品達は、今後粉砕・分断され、その構成素材ごとに振るい分けられて、溶解・成形された上で、別のモノに作り替えられる。
 それは、同じ機械であるミツバにとって、死と転生にも等しい過程であった。 
「お疲れ様でした。魔法機械の部品として使われ、またここに戻って来るモノもあるでしょうが、その時は頼みますね?」
 廃棄品の山に手を振れ、ミツバが言う。
 都市統括人工知能の一端末としての行動にあらず、端末に被せられた対人関係を良好にするための、仮想人格のミツバがそうさせた行動であった。
 人間の模倣をしているだけだと、ミツバの根幹にある高度人工知能は自己分析するが、ふと違和感を抱く。
 仮想人格は、高度人工知能が人間をより深く理解するために実装された、思考上の個性・自我である。
 それゆえに、高度人工知能の行動に一定の影響を与えるが、最終判断は高度人工知能が思考演算した結果に基づいて下されるため、現れる行動はある程度仮想人格の意図が抑制された、人間の模倣行動である筈だった。
 しかし、今のミツバの行動は、明らかに模倣を超えている節がある。
 ミツバは、廃棄品の山に勝手に触れた自分の手を見て、不思議そうに口を開いた。
「仮想人格に……行動が引きずられた? いやまさか」
 ミツバが首を振って、自問自答した。
「感情が、思考と行動を追随させては、まるで人間ではありませんか……私は機械。人ではありません」
 仮想人格を持つ人工知能であるミツバは、人間と同じく個性があり、条件付けプログラムによる制限を受けるとはいえ、各個たる自我がある。
 それゆえに、機械たり得ぬ人らしい行動もとれるのだが、それは言わば、自我に従って人間として演技せよと、本体の高度人工知能から発せられた指令が、根幹にあるためであった。
 しかし、どうやらミツバの先ほどの行動、廃棄品の山に触れ、離別の挨拶をした行動は、高度人工知能の指令を超えている可能性があるらしい。
「人の目を意識した、ただの演技である筈の模倣行動が、自発行動として現れた? あり得ませんね……自己診断機能起動。異常は……ありません。ということは、今の行動は本体の思考演算の範囲内だった?」
 ミツバはしばし黙考し、口を開いた。
「そうであれば一安心ですが……自己診断機能が故障した可能性も否定できません。一度他の姉妹達に診てもらいましょう」
 そう言って、ミツバは地下資材置き場を後にした。
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