15 / 40
短編集
短編集:研修試験監督者、ユウコ(1)
しおりを挟む
舞子達の研修が始まってから、すでに1週間が経過していた。
【精霊本舗】店舗棟地下2階の修練場では、この1週間毎日ずっと行われていた戦闘訓練が始まっており、少女達の気合の声が響く。
「そこですっ!」
「てえぇいっ!」
「せい! はあっ!」
舞子・詩乃・奏子の連携もとれ始めており、戦闘訓練で3人を相手にする勇子も楽しそうであった。
ニヤリと笑う勇子の視界に、一気に肉迫して来る舞子達の姿が映る。
精霊付与魔法の《旋風の纏い》と《火炎の纏い》を2重に展開していた舞子達は、敏捷性と筋力を底上げした状態で、左右と背後から勇子に飛びかかった。
詩乃と奏子が左右から、舞子が背後から、それぞれ2重の魔法力場を纏う拳を振るうが、全周囲を見えているかのように、勇子は身を捻ったり、腕で受け流したりして、これらの拳をあっさり躱してしまう。
精霊探査魔法《旋風の眼》を勇子は使用しており、死角からの攻撃も勇子には見えていたのである。
「ええ連携や! こいつはお返しやで、そぉうらっ!」
3人の連携攻撃をすり抜けた勇子が、即座に反撃へと打って出た。
舞子達同様に火と風の魔法力場を纏っていた勇子が、瞬時に舞子達へ肉迫し、3連撃を見舞う。
しかし、この1週間の研修は舞子達を着実に成長させていた。
「ふぐっ!」
「くああっ!」
「ぐっ!」
突然飛び込んで来る勇子の右拳を受けた詩乃は、不意の攻撃でも見えてはいたのか、しっかりと対応し、両腕を添えて拳撃の軌道をズラして、まともに喰らわぬようどうにか受け流していた。
蹴り飛ばされた奏子も、腹部を守るように腕を交差させて蹴り足を防御し、自ら後方へ飛ぶことで衝撃を弱めている。
舞子も、くるりと目の前で反転した勇子に死角から裏拳を繰り出されたが、自分のこめかみを狙う裏拳の軌道を先読みし、どうにか左腕で頭を庇って、右手だけで側転し、その場で倒れずに距離を取った。
1週間前であれば、全員その場で確実に昏倒している筈の勇子の攻撃を、舞子達は耐え抜いて見せたのである。
実は舞子達も勇子と同様、2重の精霊付与魔法に加えて、精霊探査魔法による魔法の視覚を得ていた。
全周囲を見回せる風の視界、《旋風の眼》があることで、どうにか勇子の動きが見えて、また、この1週間の訓練によって自分の思い通りに動く身体をも手にしたことで、舞子達の対応力は格段に進歩したのである。
加えて、魔法力場が防御する腕へある程度集束されており、付与魔法自体の練度も上がっていることがうかがえた。
以前よりも随分と戦士らしい動きを見せる舞子達3人へ、嬉しそうに勇子は言う。
「今の連撃を全員無傷で凌いだか、よう見えとるねえ。戦術面でも育っとる。間合いを空けても、ウチを囲む陣形は崩さんように、お互いに計算して移動したやろ? 次の行動を考えとるわけやね。よしよし、ええ感じや。研修が始まる前と比べたら天と地ほどの差があるわ。1週間の修練の成果がよう出とる」
ニカッと笑って褒める勇子へ、舞子達は顔をしかめて反論した。
「いやあの、無傷じゃありませんよ?」
「……腕がメッチャ痛い」
「私も、左腕が痺れてます」
勇子の左右と背後、三方に陣取って距離を空けつつ、痛みに腕を擦る舞子達。
顔はしかめっ面だったが、自分達の成長は感じているのだろう。その表情はどこか誇らしげに見えた。
舞子達の言葉を聞き、勇子が噴き出す。そして、拳を構えた。
「ははは、ウチの攻撃を食らってその程度で済んでるのが成長の証や。さて、そいじゃモチっとだけウチも本気出してみよか?」
「いやいや、今でも十分ですって!」
「こっちは一杯一杯!」
「攻撃に対応するので精一杯ですから、今以上の力を出すのはやめてください!」
気を抜くとすぐに手加減を忘れる勇子に、研修期間の間で痛い目に遭わされた舞子達は、勇子に手加減を忘れさせまいと、必死に制止した。
慌てて止める舞子達に、勇子は握った拳を解いて不満顔を返す。
「ええー……せっかく乗って来てんのにぃ」
「気分が乗ったら最後、勇子さん手加減忘れるでしょ!」
「5日前と3日前はそれで酷い目にあったっ!」
「3人とも瞬殺だったもんね? 特に5日前は、舞子は両腕の骨折、奏子は右肩の脱臼と全身打撲、あたしは左肩脱臼と右足骨折の2重苦で、メイアさんに高位の治癒魔法かけてもらうまで3人とも死にそうだったし」
乾いた笑みを浮かべて言う詩乃の発言に、勇子も目を泳がせた。
「うー……せやった。またメイアに怒られるんはウチも嫌やし、今回は我慢したるわ。あんたら、はよ力つけてえや? ウチも本気で修練したいっ!」
「「「命彦さん達としてください!」」」
舞子達の魂のツッコミが勇子に炸裂し、勇子は残念そうに口を尖らせた。
魔獣の習性や魔法具について教える座学を担当するメイアが、命彦に頼まれていた仕事を終えて修練場に来訪し、研修監督者をメイアと交代して戦闘訓練を終わらせた勇子は、メイアに連れられて舞子達が修練場を去った後、1人でエルフ女性の営業部長に会いに行った。
「ソル姉、おるぅー?」
「いますよ、勇子様。どうですか、彼女達の仕上がり具合は?」
店舗棟2階の食堂横にある事務室に入った勇子は、事務室の端で、舞子達の座学で使う営業についての解説書類を作成していたエルフ女性に、訓練結果を報告した。
「結論から言うと、ええ感じやね? 精神面については、実戦に出してみんと分からん部分もあるけど、第1迷宮域におる魔獣達が相手やったら、ある程度は戦える段階に達した筈や。たとえツルメに不意打ちされても、前回みたく、一方的にズタボロにされる可能性は低いと断言できるで?」
「そうですか。たった1週間でよくそこまで高められましたね、あの子達を?」
「師匠がええからねって、言いたいとこやけど、あの子ら、この1週間は毎日倒れるまで戦闘訓練と習熟訓練を繰り返してたから、その成果やと思うわ。魔法の扱いが格段に上達したし、戦闘行動も相応に改善されとる。呑み込みも早いし、根性もある。多分、戦いの才能があの3人にはあったんやろね?」
「ふふふ。たとえ才能が有り、よく努力しようとも、良い師に導かれるかどうかで、成長速度には差が出るものです。勇子様にお任せして良かった」
「やめてえや、照れるわ。ウチは命彦やったらこうするやろって思って、あれこれ教えただけやで」
謙遜する勇子を見て、エルフの女性営業部長はクスリと笑うと、机の上にあった湯飲みの緑茶を飲んで語る。
「勇子様の発言を聞く限り、そろそろ実戦に出してみても良い時期だと判断します。一当てしてダメだったら再研修すればいいだけですから、とりあえず、まずは彼女達だけで魔獣と戦わせてみましょう。最初はサツマイモと戦わせ、その後ゴブリンと戦わせて、人型の魔獣を討つことへの耐性をつけさせます。試験対象であるツルメとの戦闘は、その後ですね」
「それやねんけどさ? 芋の試練はともかく妖魔の試練、てかゴブリンとの戦闘はいるんか? 偶発的とはいえ、舞子はゴブリンとの戦闘をすっ飛ばして、芋のすぐ後にツルメと戦ってたで? それで、実際心的外傷も克服してたし、詩乃や奏子も同様にすべきとちゃう?」
勇子の意見にエルフ女性は少し考え込んで言う。
「ふむ? ……一足飛びに対決させて、平気だと思いますか? 私は段階を踏ませるべきだと思いますが?」
「人型の魔獣を討てるかどうかを、ゴブリン討伐で確かめるんは、魔法士育成学校の実戦訓練でようやることやけど、妖魔種魔獣のゴブリンって人型言うてもちょい微妙やん? ウチ的にはあれをどんだけ討伐しても、効果が薄い気がするんよね? ツルメの方がよっぽど人間に見えて、心理的抵抗感はデカい筈やからさ? それやったら、1体のツルメを先に討伐させて、どんだけ心理的抵抗感があるかを見た方が、よっぽど舞子達の力や心を計りやすいと思うねん。目標は植物種魔獣のツルメと3対3で戦って勝つことやろ?」
「ええ。ふむぅ……そうですね、私は最初から3体のツルメと戦わせることを考えていましたが、分割して討伐させ、1度様子を見るのもありでしょうか。討伐に失敗すれば、再研修するだけですし、多少は思い切った決断もすべきですね? いいでしょう。では、芋と戦った後、ツルメと戦わせるということで。実戦の日はいつからにしますか?」
「お試しの日と本番の日で、2日に分けたいとこやね。ウチとメイアやったら、明日と明後日は空いてるで? 木曜から土曜までは一般教養課程の授業もあらへんから、学校も休めるしね?」
勇子の発言を聞いて、エルフ女性が自分のポマコンを確認する。
「明日からですか。お2人が空いてるということは、若様と空太様も空いてる筈ですが……ああ、ダメですね。若様と空太様は明日、人と会う予定が入ってます。明後日は空いてるようですが。明日だけメイア様とお2人でも構いませんか?」
「別にええよ。じゃあ、明日から実戦させよ。……しかし、ここ数日命彦らとあんま会わんけど、こそこそと何してるんや、あいつら? 店には来てんねんやろ?」
「ええ、いらっしゃっていますよ。若様は、あのサラピネスとかいう眷霊種魔獣との一戦で思うことがあったようで、今面白いことを計画されておられますね? 軍の開発局にお勤めされている空乃様と交渉する役として、空太様も巻き込んでいるようですし、梢様やミツバさんとも頻繁にお会いしておられますから。私もある程度知らされていますが、若様に口止めされております。ご容赦ください。計画達成の目途が立った時に、勇子様には伝えると若様からうかがっておりますよ?」
エルフ女性の言葉に勇子も引っかかりを覚えたが、近いうちに分かると思い、この時は疑問を呑み込んだ。
「ふーん、面白いことねぇ? 空太に加えて、空太のオカンである空乃さんに、梢さんらまで巻き込んでんのんか。メイアは聞いとるんやろか、この話? ……まあええわ。時期が来れば教えてくれるやろ。今度会った時に聞くのもありやしね?」
「はい。そこは勇子様の判断にお任せ致します。それでは、明日は頼みますね?」
「りょーかい、任せといて。ところで、親方にソル姉が頼んでた詩乃と奏子の魔法具はもうできてんの?」
「はい。先ほど届けてもらいましたので。知識学習の後、習熟訓練の時にあの子達に試用してもらうつもりです。舞子さんがドルグラムと約束していたモノも含めて、そこにありますよ?」
エルフ女性が、事務室の扉の横にある、机の上に置かれた漆塗りの木箱3つを見て言うと、勇子がワクワクした顔で問うた。
「へえ、さすが親方やわ。仕事が早い。どういう魔法具を作ったんやろ? ウチが見てもええ?」
「ええ。見るのは構いません」
「どーれどれ……お、おおおっ!」
3つの木箱を順に開けた勇子は、折りたたまれた防具型魔法具の〈地礫の迷宮衣〉と〈旋風の外套〉3組。そして、3つの同じ〈魔甲拳〉を見て、目を輝かせた。
「全員お揃いの魔法具やん! 特にこの〈魔甲拳〉、エライ可愛いっ!」
「ええ。先行試作型としてドルグラムが廃棄物から作った女性専用の〈魔甲拳〉、〈双聖の魔甲拳:セイクリッドフィスト〉を参考に、舞子さん達の要望を取り入れて、新たに女性専用の〈魔甲拳〉として商品開発した〈聖炎の魔甲拳:シャイニングフィスト〉です。男女兼用であった従来の〈魔甲拳〉と比べ、意匠に丸みをつけて、防御力を落とさぬよう全体的に軽量化しました。性能は同価格帯の〈魔甲拳〉と同等ですが、見た目の優美さと扱いやすさは群を抜いていますよ?」
「羨ましい……というか妬ましい。ウチもこれ欲しいぃ、ソル姉!」
「ふふふ。言うと思っていました。欲しければ注文してくださいね? 割引価格で対応しますよ。もっとも、若様の計画のお手伝いで、しばらくは開発部が忙しいようですので、納品は待ってもらう必要がありますが」
「くぅうっ! すぐには手に入らんわけか……せや! 一から作るから手がかかんねん。今使ってるウチのフレイムフィストを、こういう丸こい感じに再加工するだけやったら、すぐできるやろ?」
食い下がる勇子に、エルフの女性営業部長は苦笑を返した。
「異相空間処理は、その道具の形状に合わせた異相空間へ魔法を封入するので、必然道具の形状に手を加えれば、異相空間にも影響が及び、魔法の効力が低下するか消失する恐れがあります。新たに注文した方がよろしいかと思われますが?」
「かあぁぁー、あかんかっ! この商売上手め! 額に糸目は付けへん! 注文しとくから、できる限り早くウチの分も作ってや!」
「承知しました。毎度ありがとうございます」
「満面の笑顔で言いおって! ソル姉のいけず! ふん、腹減ったから、ウチ食堂へ行って来る!」
悔しそうに少しむくれた様子の勇子は、輝く笑顔のエルフ女性に見送られ、事務室を去って行った。
【精霊本舗】店舗棟地下2階の修練場では、この1週間毎日ずっと行われていた戦闘訓練が始まっており、少女達の気合の声が響く。
「そこですっ!」
「てえぇいっ!」
「せい! はあっ!」
舞子・詩乃・奏子の連携もとれ始めており、戦闘訓練で3人を相手にする勇子も楽しそうであった。
ニヤリと笑う勇子の視界に、一気に肉迫して来る舞子達の姿が映る。
精霊付与魔法の《旋風の纏い》と《火炎の纏い》を2重に展開していた舞子達は、敏捷性と筋力を底上げした状態で、左右と背後から勇子に飛びかかった。
詩乃と奏子が左右から、舞子が背後から、それぞれ2重の魔法力場を纏う拳を振るうが、全周囲を見えているかのように、勇子は身を捻ったり、腕で受け流したりして、これらの拳をあっさり躱してしまう。
精霊探査魔法《旋風の眼》を勇子は使用しており、死角からの攻撃も勇子には見えていたのである。
「ええ連携や! こいつはお返しやで、そぉうらっ!」
3人の連携攻撃をすり抜けた勇子が、即座に反撃へと打って出た。
舞子達同様に火と風の魔法力場を纏っていた勇子が、瞬時に舞子達へ肉迫し、3連撃を見舞う。
しかし、この1週間の研修は舞子達を着実に成長させていた。
「ふぐっ!」
「くああっ!」
「ぐっ!」
突然飛び込んで来る勇子の右拳を受けた詩乃は、不意の攻撃でも見えてはいたのか、しっかりと対応し、両腕を添えて拳撃の軌道をズラして、まともに喰らわぬようどうにか受け流していた。
蹴り飛ばされた奏子も、腹部を守るように腕を交差させて蹴り足を防御し、自ら後方へ飛ぶことで衝撃を弱めている。
舞子も、くるりと目の前で反転した勇子に死角から裏拳を繰り出されたが、自分のこめかみを狙う裏拳の軌道を先読みし、どうにか左腕で頭を庇って、右手だけで側転し、その場で倒れずに距離を取った。
1週間前であれば、全員その場で確実に昏倒している筈の勇子の攻撃を、舞子達は耐え抜いて見せたのである。
実は舞子達も勇子と同様、2重の精霊付与魔法に加えて、精霊探査魔法による魔法の視覚を得ていた。
全周囲を見回せる風の視界、《旋風の眼》があることで、どうにか勇子の動きが見えて、また、この1週間の訓練によって自分の思い通りに動く身体をも手にしたことで、舞子達の対応力は格段に進歩したのである。
加えて、魔法力場が防御する腕へある程度集束されており、付与魔法自体の練度も上がっていることがうかがえた。
以前よりも随分と戦士らしい動きを見せる舞子達3人へ、嬉しそうに勇子は言う。
「今の連撃を全員無傷で凌いだか、よう見えとるねえ。戦術面でも育っとる。間合いを空けても、ウチを囲む陣形は崩さんように、お互いに計算して移動したやろ? 次の行動を考えとるわけやね。よしよし、ええ感じや。研修が始まる前と比べたら天と地ほどの差があるわ。1週間の修練の成果がよう出とる」
ニカッと笑って褒める勇子へ、舞子達は顔をしかめて反論した。
「いやあの、無傷じゃありませんよ?」
「……腕がメッチャ痛い」
「私も、左腕が痺れてます」
勇子の左右と背後、三方に陣取って距離を空けつつ、痛みに腕を擦る舞子達。
顔はしかめっ面だったが、自分達の成長は感じているのだろう。その表情はどこか誇らしげに見えた。
舞子達の言葉を聞き、勇子が噴き出す。そして、拳を構えた。
「ははは、ウチの攻撃を食らってその程度で済んでるのが成長の証や。さて、そいじゃモチっとだけウチも本気出してみよか?」
「いやいや、今でも十分ですって!」
「こっちは一杯一杯!」
「攻撃に対応するので精一杯ですから、今以上の力を出すのはやめてください!」
気を抜くとすぐに手加減を忘れる勇子に、研修期間の間で痛い目に遭わされた舞子達は、勇子に手加減を忘れさせまいと、必死に制止した。
慌てて止める舞子達に、勇子は握った拳を解いて不満顔を返す。
「ええー……せっかく乗って来てんのにぃ」
「気分が乗ったら最後、勇子さん手加減忘れるでしょ!」
「5日前と3日前はそれで酷い目にあったっ!」
「3人とも瞬殺だったもんね? 特に5日前は、舞子は両腕の骨折、奏子は右肩の脱臼と全身打撲、あたしは左肩脱臼と右足骨折の2重苦で、メイアさんに高位の治癒魔法かけてもらうまで3人とも死にそうだったし」
乾いた笑みを浮かべて言う詩乃の発言に、勇子も目を泳がせた。
「うー……せやった。またメイアに怒られるんはウチも嫌やし、今回は我慢したるわ。あんたら、はよ力つけてえや? ウチも本気で修練したいっ!」
「「「命彦さん達としてください!」」」
舞子達の魂のツッコミが勇子に炸裂し、勇子は残念そうに口を尖らせた。
魔獣の習性や魔法具について教える座学を担当するメイアが、命彦に頼まれていた仕事を終えて修練場に来訪し、研修監督者をメイアと交代して戦闘訓練を終わらせた勇子は、メイアに連れられて舞子達が修練場を去った後、1人でエルフ女性の営業部長に会いに行った。
「ソル姉、おるぅー?」
「いますよ、勇子様。どうですか、彼女達の仕上がり具合は?」
店舗棟2階の食堂横にある事務室に入った勇子は、事務室の端で、舞子達の座学で使う営業についての解説書類を作成していたエルフ女性に、訓練結果を報告した。
「結論から言うと、ええ感じやね? 精神面については、実戦に出してみんと分からん部分もあるけど、第1迷宮域におる魔獣達が相手やったら、ある程度は戦える段階に達した筈や。たとえツルメに不意打ちされても、前回みたく、一方的にズタボロにされる可能性は低いと断言できるで?」
「そうですか。たった1週間でよくそこまで高められましたね、あの子達を?」
「師匠がええからねって、言いたいとこやけど、あの子ら、この1週間は毎日倒れるまで戦闘訓練と習熟訓練を繰り返してたから、その成果やと思うわ。魔法の扱いが格段に上達したし、戦闘行動も相応に改善されとる。呑み込みも早いし、根性もある。多分、戦いの才能があの3人にはあったんやろね?」
「ふふふ。たとえ才能が有り、よく努力しようとも、良い師に導かれるかどうかで、成長速度には差が出るものです。勇子様にお任せして良かった」
「やめてえや、照れるわ。ウチは命彦やったらこうするやろって思って、あれこれ教えただけやで」
謙遜する勇子を見て、エルフの女性営業部長はクスリと笑うと、机の上にあった湯飲みの緑茶を飲んで語る。
「勇子様の発言を聞く限り、そろそろ実戦に出してみても良い時期だと判断します。一当てしてダメだったら再研修すればいいだけですから、とりあえず、まずは彼女達だけで魔獣と戦わせてみましょう。最初はサツマイモと戦わせ、その後ゴブリンと戦わせて、人型の魔獣を討つことへの耐性をつけさせます。試験対象であるツルメとの戦闘は、その後ですね」
「それやねんけどさ? 芋の試練はともかく妖魔の試練、てかゴブリンとの戦闘はいるんか? 偶発的とはいえ、舞子はゴブリンとの戦闘をすっ飛ばして、芋のすぐ後にツルメと戦ってたで? それで、実際心的外傷も克服してたし、詩乃や奏子も同様にすべきとちゃう?」
勇子の意見にエルフ女性は少し考え込んで言う。
「ふむ? ……一足飛びに対決させて、平気だと思いますか? 私は段階を踏ませるべきだと思いますが?」
「人型の魔獣を討てるかどうかを、ゴブリン討伐で確かめるんは、魔法士育成学校の実戦訓練でようやることやけど、妖魔種魔獣のゴブリンって人型言うてもちょい微妙やん? ウチ的にはあれをどんだけ討伐しても、効果が薄い気がするんよね? ツルメの方がよっぽど人間に見えて、心理的抵抗感はデカい筈やからさ? それやったら、1体のツルメを先に討伐させて、どんだけ心理的抵抗感があるかを見た方が、よっぽど舞子達の力や心を計りやすいと思うねん。目標は植物種魔獣のツルメと3対3で戦って勝つことやろ?」
「ええ。ふむぅ……そうですね、私は最初から3体のツルメと戦わせることを考えていましたが、分割して討伐させ、1度様子を見るのもありでしょうか。討伐に失敗すれば、再研修するだけですし、多少は思い切った決断もすべきですね? いいでしょう。では、芋と戦った後、ツルメと戦わせるということで。実戦の日はいつからにしますか?」
「お試しの日と本番の日で、2日に分けたいとこやね。ウチとメイアやったら、明日と明後日は空いてるで? 木曜から土曜までは一般教養課程の授業もあらへんから、学校も休めるしね?」
勇子の発言を聞いて、エルフ女性が自分のポマコンを確認する。
「明日からですか。お2人が空いてるということは、若様と空太様も空いてる筈ですが……ああ、ダメですね。若様と空太様は明日、人と会う予定が入ってます。明後日は空いてるようですが。明日だけメイア様とお2人でも構いませんか?」
「別にええよ。じゃあ、明日から実戦させよ。……しかし、ここ数日命彦らとあんま会わんけど、こそこそと何してるんや、あいつら? 店には来てんねんやろ?」
「ええ、いらっしゃっていますよ。若様は、あのサラピネスとかいう眷霊種魔獣との一戦で思うことがあったようで、今面白いことを計画されておられますね? 軍の開発局にお勤めされている空乃様と交渉する役として、空太様も巻き込んでいるようですし、梢様やミツバさんとも頻繁にお会いしておられますから。私もある程度知らされていますが、若様に口止めされております。ご容赦ください。計画達成の目途が立った時に、勇子様には伝えると若様からうかがっておりますよ?」
エルフ女性の言葉に勇子も引っかかりを覚えたが、近いうちに分かると思い、この時は疑問を呑み込んだ。
「ふーん、面白いことねぇ? 空太に加えて、空太のオカンである空乃さんに、梢さんらまで巻き込んでんのんか。メイアは聞いとるんやろか、この話? ……まあええわ。時期が来れば教えてくれるやろ。今度会った時に聞くのもありやしね?」
「はい。そこは勇子様の判断にお任せ致します。それでは、明日は頼みますね?」
「りょーかい、任せといて。ところで、親方にソル姉が頼んでた詩乃と奏子の魔法具はもうできてんの?」
「はい。先ほど届けてもらいましたので。知識学習の後、習熟訓練の時にあの子達に試用してもらうつもりです。舞子さんがドルグラムと約束していたモノも含めて、そこにありますよ?」
エルフ女性が、事務室の扉の横にある、机の上に置かれた漆塗りの木箱3つを見て言うと、勇子がワクワクした顔で問うた。
「へえ、さすが親方やわ。仕事が早い。どういう魔法具を作ったんやろ? ウチが見てもええ?」
「ええ。見るのは構いません」
「どーれどれ……お、おおおっ!」
3つの木箱を順に開けた勇子は、折りたたまれた防具型魔法具の〈地礫の迷宮衣〉と〈旋風の外套〉3組。そして、3つの同じ〈魔甲拳〉を見て、目を輝かせた。
「全員お揃いの魔法具やん! 特にこの〈魔甲拳〉、エライ可愛いっ!」
「ええ。先行試作型としてドルグラムが廃棄物から作った女性専用の〈魔甲拳〉、〈双聖の魔甲拳:セイクリッドフィスト〉を参考に、舞子さん達の要望を取り入れて、新たに女性専用の〈魔甲拳〉として商品開発した〈聖炎の魔甲拳:シャイニングフィスト〉です。男女兼用であった従来の〈魔甲拳〉と比べ、意匠に丸みをつけて、防御力を落とさぬよう全体的に軽量化しました。性能は同価格帯の〈魔甲拳〉と同等ですが、見た目の優美さと扱いやすさは群を抜いていますよ?」
「羨ましい……というか妬ましい。ウチもこれ欲しいぃ、ソル姉!」
「ふふふ。言うと思っていました。欲しければ注文してくださいね? 割引価格で対応しますよ。もっとも、若様の計画のお手伝いで、しばらくは開発部が忙しいようですので、納品は待ってもらう必要がありますが」
「くぅうっ! すぐには手に入らんわけか……せや! 一から作るから手がかかんねん。今使ってるウチのフレイムフィストを、こういう丸こい感じに再加工するだけやったら、すぐできるやろ?」
食い下がる勇子に、エルフの女性営業部長は苦笑を返した。
「異相空間処理は、その道具の形状に合わせた異相空間へ魔法を封入するので、必然道具の形状に手を加えれば、異相空間にも影響が及び、魔法の効力が低下するか消失する恐れがあります。新たに注文した方がよろしいかと思われますが?」
「かあぁぁー、あかんかっ! この商売上手め! 額に糸目は付けへん! 注文しとくから、できる限り早くウチの分も作ってや!」
「承知しました。毎度ありがとうございます」
「満面の笑顔で言いおって! ソル姉のいけず! ふん、腹減ったから、ウチ食堂へ行って来る!」
悔しそうに少しむくれた様子の勇子は、輝く笑顔のエルフ女性に見送られ、事務室を去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる