12 / 137
2章 魔法士
2章-5:マヒコとコズエ、所長代理からの依頼紹介
しおりを挟む
ポマコンの通信相手である女性の姿が平面映像に映り、命彦に気付いて手を振る。
『その日常用にかけて不通だったから、迷宮用にかけたのよ? せめて日常用は常に持ち歩いて欲しいわ。まあ、閉め切ってる状態の工房内にいたら電波も結界魔法に弾かれて無意味だし、今は連絡が着いたから別にいいけどね……あ、ようやく顔が見えるわっ! どうかしら、こっちの様子は見えてる?』
椅子に座っていた女性が立ち上がり、自分の全身像と周囲の様子を見せるように、映像を動かした。
神樹梢、命彦の姉の親友であり、幼い頃から魂斬家に出入りしている、命彦が最も貸しを作っている女性であった。
柔和でのんびりした顔付きに、眠そうに見える眼差し。首筋が隠れる程度まで伸びた栗色の髪と、出る所は出つつも締まる所は締まった姿を持つ、たおやかに見える美しい女性。
日頃は抜けているが不思議と決める時は決める、今年で19歳の美女が、梢であった。
梢が映る平面映像を見て、命彦が不意にいぶかしむ。
「ああ、見えてるよ。梢さん……いつもの受付の席にいねえの? そこって依頼所の所長室だろ? もしかして、所長室の空間投影装置を経由して、俺のポマコンに連絡してる?」
『あたりー。今の私はイチ従業員を遥かに超える立場、所長代理という地位にいるのよ! うふふ、恐れ入ったかしら? 実は昨日の夜から、母さんが都市魔法士管理局とずぅっと会議しててね? 今もウチのお店を空けてるから、私が代理としてここを任されたのよ。所長代理の私が困るということは、つまり、ウチの依頼所が困るということっ!』
「あのねぇ、偉そうにドヤ顔で言うことかよ、それ」
困っていますと声高に宣言する梢を見て、命彦は呆れた様子で肩を竦めた。
日本では、魔法を身に付けた者全てが、特殊技能者権利義務規定法という法律によって、迷宮に隣接した1種の要塞都市である、迷宮防衛都市に集住させられる。
勿論、学科魔法士も迷宮防衛都市で生活することが義務付けられており、この迷宮防衛都市で暮らす魔法士達は、軍や警察の魔法士部隊に所属する者、また、防衛都市内の企業や研究所に雇用された者達を除き、全員が、防衛都市ごとに魔法士関連の仕事を集積して個々に斡旋する、依頼所という専門業務委託組織に所属していた。
国からも色々と補助を受けているが、基本的に民間の組織であるこの依頼所へ、自分の学科魔法士としての個人情報を登録して所属籍を持てば、依頼所に舞い込む多種多様の魔法士用の仕事、依頼が紹介されて、魔法士は依頼報酬という収入を得られるわけである。
依頼を出した時点で、仕事を頼んだ依頼主から予め依頼所へと報酬が預託されており、依頼を達成すれば確実に報酬が手に入るという、報酬の保障も受けられるため、依頼主の突然の蒸発による魔法士のタダ働きといった、不足の事態の発生も防げた。
自分の持つ魔法技能を頼りに、立場的にはほとんど自営業者として生きている多くの一般の学科魔法士にとって、依頼所は自分達の収入を守ってくれる、一種の互助組織でもあったのである。
その依頼所内で、魔法士の登録から依頼の斡旋にいたるまで、全権限を持つのが所長であり、所長は依頼所の顔役でもあるため、営業時の依頼所を所長が留守にする場合は、必ず所長の代役を立てる決まりがあった。
命彦の所属する依頼所【魔法喫茶ミスミ】は、日本で最も古い魔法使いの一族と目される、神樹家が経営する依頼所であり、梢の母親にして神樹家の現当主でもある、神樹梓が所長を務めていた。
そして、その梓が依頼所を留守にする時は、決まって娘の梢が所長代理を任されていたのである。
命彦は映像を見て、梢がポマコンの映像通信を使いたがった理由をすぐに察した。
普段の梢は依頼所のヒラ従業員で、受付で依頼の斡旋を魔法士に行う受付嬢の1人でもあるため、勧められた依頼を気軽に受けたり断ったりすることができるが、今の梢は代役とはいえ依頼所を預かる所長、総責任者の立場にある。
所長、あるいは所長代理が、自ら魔法士に斡旋する依頼は、総じて依頼所の威信に関わるモノが多いため、安易に断るのはマズかった。
(さすがにこれは、気乗りしねえからヤダって簡単に断るわけにも行かねえか。断る場合、理由をきっちり考える必要がある。ああー……面倒くせぇ。どういう依頼をこっちに回すつもりだろ? 梢さんだし、どうせまたややこしい依頼だろうけどさ)
呆れ顔の下でそういう風に思っている命彦。
その命彦の表情を見て、偉ぶっていることに呆れられていると勘違いした平面映像上の梢が、口を尖らせた。
『少しくらい偉そうにしてもいいでしょう? この立場でできることってそれくらいだし。まあ、どうせ偉ぶったところで、助けてもらうのはいつもと同じだけどね? 今回の依頼は、背後に少し事情があって、私がヒラ従業員の時に回してる依頼みたいに、簡単に断られるととても困るのよ。そこを汲み取ってくれるとありがたいわ』
梢の言い分を聞き、命彦が確認するように問い返す。
「それはこっちもよく分かってるよ。つまり今回の依頼って、依頼所の受付嬢がよくやる、期限が迫っている余り物の依頼を、手早く処理するために自分と親しい魔法士へ回すっていう、そういう種類の依頼じゃねえってことだろ?」
『ええ。依頼所の所長が、本当に扱いに困って、信頼できる魔法士に対応をお願いする、そういう種類の依頼と認識してほしいわ。母さんがいつも命彦に頼む緊急の依頼があるでしょ? そうした依頼と同じ扱いよ?』
梢が不意に表情を引き締め、言葉を続けた。
『通常、受領者が指定された依頼は、指定された魔法士がその依頼を断った時点で、依頼主に別の受領者を選ばせるけど、今回は依頼所として、依頼主の意志を優先する事情があるの。依頼主は命彦以外は嫌だそうよ? つまり、命彦が依頼を断ると依頼自体が消滅するわ。断る場合でも、せめて依頼主と会って、断った理由を説明してもらう必要があるのよ』
平面映像に映る梢は明るい表情であったが、その瞳には真摯さが宿っていた。
命彦がミサヤを見ると、箸を置いたミサヤも小さく首を振る。
「所長代理としてコズエが頼む依頼、ということであれば、受けるにせよ断るにせよ、私達もまずはある程度話を聞く必要がありますね? コズエを介してアズサが頼んでいる依頼、とも言えるわけですし」
「ふーむ。……分かったよ梢さん。とりあえず話を聞こうか」
『そう言ってくれると思っていたわっ! 依頼を受けてくれるのね?』
命彦の言葉を聞き、パッと目を輝かせる梢。すかさず命彦はツッコミを入れた。
「話を聞くって言ったの! 依頼を受けるとはまだ言ってねえよ! 自分に都合よく人の言葉を捻じ曲げてんじゃねえ! まったく……まあ神樹家と魂斬家は昔から家ぐるみの付き合いがあるし、所長の梓さんには可愛がってもらってる。内容次第では、梢さんの顔を立てて引き受けるよ。とにかく話せる範囲で依頼内容を教えてくれ、まずはそこからだ」
命彦の言葉を受けても、梢の表情は喜び一色であった。
『ありがとう、さすが命彦! 昔世話してあげた私の弟分よ! 一緒にお風呂に入ったり、同じ布団で寝たりした甲斐があったわ。お姉ちゃん嬉しい! この借りは必ず返すから!』
「気のせいでしょうか……いつの間にか、依頼を受ける前提で話が進んでいますが?」
ミサヤの言葉に、頭痛を堪えるように沈黙を返し、命彦は平面映像上で笑う梢を見た。
「……色々と言いたいことはあるが、それより梢さん! 10年も前の話を持ち出すのはやめてくれっ、誤解を招くから! そもそも梢さんの場合は世話したって言うよりも、俺で遊んでただけだろ? 姉さんを怒らして、よく羽交い絞めにされてたくせにさ!」
『あ、遊んでたって表現もやめてちょうだいよ、それこそ誤解を招くわっ! 私は親友が弟の世話をしているのを見て、楽しそうだったから少し手伝ったら、何故かいつも怒られただけよっ!』
「そりゃ姉さんの邪魔ばっかりしてたからだろっ! ……ふうぅー。つうかさ、今までの貸しがもう色々と貯まり過ぎてて、1個だけ返されても微妙だっての」
命彦が深いため息混じりに言うと、梢がからかうように言葉を返した。
『心配無用よ、貯まりに貯まった私の命彦への借りは、いつかきちんと返すから。それにいざという時は、私が命彦のお嫁にもらわれて、万事解決だしねっ!』
面白がっている様子の梢の言葉に、命彦は蒼い顔で慌てた。
「解決しねえよっ! あのね、冗談でもそういうこと姉さんの前で言ったら、俺は絶対に知らんぷりするよ? 恐ろしい折檻受けても、助けに行かねえからっ!」
『そういうこと言って、結局最後はいつも助けてくれるのよねぇー?』
ニヤニヤしている梢の言葉を、命彦が視線を反らせてプイッと無視すると、誰かの真似をするように、梢がポツリと言葉を紡いだ。
『ねえね、コズエたたくの、ダメぇ~』
「ふぁあっ! や、やめろよっ! 3歳の頃の俺の台詞を引き合いに出すんじゃねえっ!」
はずかしさに顔を真っ赤にして抗議する命彦。その命彦を、背後からそっと抱き締め、2人のやり取りを冷めた目で見ていたミサヤが、厳かに口を開く。
「コズエ。これ以上マヒコを煩悶させるのであれば、ここで見聞きしたこと全てを、アレコレと脚色してマイトに伝えますよ? あの嫉妬深いマイトが、不満を持ちつつもマヒコの傍に私を置いている理由。よもや忘れたとは思いませんが、知らしめた方が良いですか?」
『げげっ! 待った待った、結構です! 十二分に知ってるから、遠慮させてもらうわ!』
冷めたミサヤの視線と目が合った途端、梢が頬を引きつらせた。
「それではさっさと伝えることを伝えて、通信を終わってください。私は一応、マイトの目と耳ですからね? この私が見聞きしたことは、全てマイトにも伝わる。ゆめゆめ忘れぬことです」
『はいはい……ふう、とんだお目付け役がいたものだわ。でもまあ、弟分を多少いじって気分的には楽しかったからいいか。さて、それじゃあ今からすぐに店へ来てくれる? 守秘義務付きの依頼だからね、対面で言う必要があるのよ。こっちは談話室を1時間後に予約しとくから、そこで依頼について話しましょう。一応メイア達も呼んでおくわね?』
「守秘義務付きの時点で受ける気が失せるんだけど? 俺って結構おしゃべりだしさ……それに、あいつらも呼ぶのかよ? 俺宛ての依頼だってのにぃ?」
『依頼自体は命彦を受領者に指定してるけど、それは必ず命彦に受けて欲しいってだけの意味で、命彦が受けてくれさえすれば、単独でも小隊でも、好きに選べるわ。命彦の所属する【魔狼】小隊の子達を同席させてもいいってわけよ』
フフンと得意げに笑って言う梢を見て、ミサヤが冷たい視線で語る。
「メイア達を話に巻き込むことで、マヒコが依頼を断りにくくする魂胆ですね? しかし、この私がいる限り、そうはいきませんよコズエ? 断るべき依頼はきっちり断ります。我が主を危険に晒すわけにはまいりませんので」
『ぐっ、見透かされたか……ホントにミサヤは察しが良いわね? でもまあ、私は命彦を信じてるからね。それじゃまた3時頃にお店でね、待ってるわよー』
ポマコンの映像通信が切断されて、命彦がやれやれといった表情で脱力する。
「……ようやく通信が切れたか。好き勝手言ってくれるねホント。どっと疲れたぞ?」
背後のミサヤに抱き締められた命彦は、気だるそうに肩を落としていた。
『その日常用にかけて不通だったから、迷宮用にかけたのよ? せめて日常用は常に持ち歩いて欲しいわ。まあ、閉め切ってる状態の工房内にいたら電波も結界魔法に弾かれて無意味だし、今は連絡が着いたから別にいいけどね……あ、ようやく顔が見えるわっ! どうかしら、こっちの様子は見えてる?』
椅子に座っていた女性が立ち上がり、自分の全身像と周囲の様子を見せるように、映像を動かした。
神樹梢、命彦の姉の親友であり、幼い頃から魂斬家に出入りしている、命彦が最も貸しを作っている女性であった。
柔和でのんびりした顔付きに、眠そうに見える眼差し。首筋が隠れる程度まで伸びた栗色の髪と、出る所は出つつも締まる所は締まった姿を持つ、たおやかに見える美しい女性。
日頃は抜けているが不思議と決める時は決める、今年で19歳の美女が、梢であった。
梢が映る平面映像を見て、命彦が不意にいぶかしむ。
「ああ、見えてるよ。梢さん……いつもの受付の席にいねえの? そこって依頼所の所長室だろ? もしかして、所長室の空間投影装置を経由して、俺のポマコンに連絡してる?」
『あたりー。今の私はイチ従業員を遥かに超える立場、所長代理という地位にいるのよ! うふふ、恐れ入ったかしら? 実は昨日の夜から、母さんが都市魔法士管理局とずぅっと会議しててね? 今もウチのお店を空けてるから、私が代理としてここを任されたのよ。所長代理の私が困るということは、つまり、ウチの依頼所が困るということっ!』
「あのねぇ、偉そうにドヤ顔で言うことかよ、それ」
困っていますと声高に宣言する梢を見て、命彦は呆れた様子で肩を竦めた。
日本では、魔法を身に付けた者全てが、特殊技能者権利義務規定法という法律によって、迷宮に隣接した1種の要塞都市である、迷宮防衛都市に集住させられる。
勿論、学科魔法士も迷宮防衛都市で生活することが義務付けられており、この迷宮防衛都市で暮らす魔法士達は、軍や警察の魔法士部隊に所属する者、また、防衛都市内の企業や研究所に雇用された者達を除き、全員が、防衛都市ごとに魔法士関連の仕事を集積して個々に斡旋する、依頼所という専門業務委託組織に所属していた。
国からも色々と補助を受けているが、基本的に民間の組織であるこの依頼所へ、自分の学科魔法士としての個人情報を登録して所属籍を持てば、依頼所に舞い込む多種多様の魔法士用の仕事、依頼が紹介されて、魔法士は依頼報酬という収入を得られるわけである。
依頼を出した時点で、仕事を頼んだ依頼主から予め依頼所へと報酬が預託されており、依頼を達成すれば確実に報酬が手に入るという、報酬の保障も受けられるため、依頼主の突然の蒸発による魔法士のタダ働きといった、不足の事態の発生も防げた。
自分の持つ魔法技能を頼りに、立場的にはほとんど自営業者として生きている多くの一般の学科魔法士にとって、依頼所は自分達の収入を守ってくれる、一種の互助組織でもあったのである。
その依頼所内で、魔法士の登録から依頼の斡旋にいたるまで、全権限を持つのが所長であり、所長は依頼所の顔役でもあるため、営業時の依頼所を所長が留守にする場合は、必ず所長の代役を立てる決まりがあった。
命彦の所属する依頼所【魔法喫茶ミスミ】は、日本で最も古い魔法使いの一族と目される、神樹家が経営する依頼所であり、梢の母親にして神樹家の現当主でもある、神樹梓が所長を務めていた。
そして、その梓が依頼所を留守にする時は、決まって娘の梢が所長代理を任されていたのである。
命彦は映像を見て、梢がポマコンの映像通信を使いたがった理由をすぐに察した。
普段の梢は依頼所のヒラ従業員で、受付で依頼の斡旋を魔法士に行う受付嬢の1人でもあるため、勧められた依頼を気軽に受けたり断ったりすることができるが、今の梢は代役とはいえ依頼所を預かる所長、総責任者の立場にある。
所長、あるいは所長代理が、自ら魔法士に斡旋する依頼は、総じて依頼所の威信に関わるモノが多いため、安易に断るのはマズかった。
(さすがにこれは、気乗りしねえからヤダって簡単に断るわけにも行かねえか。断る場合、理由をきっちり考える必要がある。ああー……面倒くせぇ。どういう依頼をこっちに回すつもりだろ? 梢さんだし、どうせまたややこしい依頼だろうけどさ)
呆れ顔の下でそういう風に思っている命彦。
その命彦の表情を見て、偉ぶっていることに呆れられていると勘違いした平面映像上の梢が、口を尖らせた。
『少しくらい偉そうにしてもいいでしょう? この立場でできることってそれくらいだし。まあ、どうせ偉ぶったところで、助けてもらうのはいつもと同じだけどね? 今回の依頼は、背後に少し事情があって、私がヒラ従業員の時に回してる依頼みたいに、簡単に断られるととても困るのよ。そこを汲み取ってくれるとありがたいわ』
梢の言い分を聞き、命彦が確認するように問い返す。
「それはこっちもよく分かってるよ。つまり今回の依頼って、依頼所の受付嬢がよくやる、期限が迫っている余り物の依頼を、手早く処理するために自分と親しい魔法士へ回すっていう、そういう種類の依頼じゃねえってことだろ?」
『ええ。依頼所の所長が、本当に扱いに困って、信頼できる魔法士に対応をお願いする、そういう種類の依頼と認識してほしいわ。母さんがいつも命彦に頼む緊急の依頼があるでしょ? そうした依頼と同じ扱いよ?』
梢が不意に表情を引き締め、言葉を続けた。
『通常、受領者が指定された依頼は、指定された魔法士がその依頼を断った時点で、依頼主に別の受領者を選ばせるけど、今回は依頼所として、依頼主の意志を優先する事情があるの。依頼主は命彦以外は嫌だそうよ? つまり、命彦が依頼を断ると依頼自体が消滅するわ。断る場合でも、せめて依頼主と会って、断った理由を説明してもらう必要があるのよ』
平面映像に映る梢は明るい表情であったが、その瞳には真摯さが宿っていた。
命彦がミサヤを見ると、箸を置いたミサヤも小さく首を振る。
「所長代理としてコズエが頼む依頼、ということであれば、受けるにせよ断るにせよ、私達もまずはある程度話を聞く必要がありますね? コズエを介してアズサが頼んでいる依頼、とも言えるわけですし」
「ふーむ。……分かったよ梢さん。とりあえず話を聞こうか」
『そう言ってくれると思っていたわっ! 依頼を受けてくれるのね?』
命彦の言葉を聞き、パッと目を輝かせる梢。すかさず命彦はツッコミを入れた。
「話を聞くって言ったの! 依頼を受けるとはまだ言ってねえよ! 自分に都合よく人の言葉を捻じ曲げてんじゃねえ! まったく……まあ神樹家と魂斬家は昔から家ぐるみの付き合いがあるし、所長の梓さんには可愛がってもらってる。内容次第では、梢さんの顔を立てて引き受けるよ。とにかく話せる範囲で依頼内容を教えてくれ、まずはそこからだ」
命彦の言葉を受けても、梢の表情は喜び一色であった。
『ありがとう、さすが命彦! 昔世話してあげた私の弟分よ! 一緒にお風呂に入ったり、同じ布団で寝たりした甲斐があったわ。お姉ちゃん嬉しい! この借りは必ず返すから!』
「気のせいでしょうか……いつの間にか、依頼を受ける前提で話が進んでいますが?」
ミサヤの言葉に、頭痛を堪えるように沈黙を返し、命彦は平面映像上で笑う梢を見た。
「……色々と言いたいことはあるが、それより梢さん! 10年も前の話を持ち出すのはやめてくれっ、誤解を招くから! そもそも梢さんの場合は世話したって言うよりも、俺で遊んでただけだろ? 姉さんを怒らして、よく羽交い絞めにされてたくせにさ!」
『あ、遊んでたって表現もやめてちょうだいよ、それこそ誤解を招くわっ! 私は親友が弟の世話をしているのを見て、楽しそうだったから少し手伝ったら、何故かいつも怒られただけよっ!』
「そりゃ姉さんの邪魔ばっかりしてたからだろっ! ……ふうぅー。つうかさ、今までの貸しがもう色々と貯まり過ぎてて、1個だけ返されても微妙だっての」
命彦が深いため息混じりに言うと、梢がからかうように言葉を返した。
『心配無用よ、貯まりに貯まった私の命彦への借りは、いつかきちんと返すから。それにいざという時は、私が命彦のお嫁にもらわれて、万事解決だしねっ!』
面白がっている様子の梢の言葉に、命彦は蒼い顔で慌てた。
「解決しねえよっ! あのね、冗談でもそういうこと姉さんの前で言ったら、俺は絶対に知らんぷりするよ? 恐ろしい折檻受けても、助けに行かねえからっ!」
『そういうこと言って、結局最後はいつも助けてくれるのよねぇー?』
ニヤニヤしている梢の言葉を、命彦が視線を反らせてプイッと無視すると、誰かの真似をするように、梢がポツリと言葉を紡いだ。
『ねえね、コズエたたくの、ダメぇ~』
「ふぁあっ! や、やめろよっ! 3歳の頃の俺の台詞を引き合いに出すんじゃねえっ!」
はずかしさに顔を真っ赤にして抗議する命彦。その命彦を、背後からそっと抱き締め、2人のやり取りを冷めた目で見ていたミサヤが、厳かに口を開く。
「コズエ。これ以上マヒコを煩悶させるのであれば、ここで見聞きしたこと全てを、アレコレと脚色してマイトに伝えますよ? あの嫉妬深いマイトが、不満を持ちつつもマヒコの傍に私を置いている理由。よもや忘れたとは思いませんが、知らしめた方が良いですか?」
『げげっ! 待った待った、結構です! 十二分に知ってるから、遠慮させてもらうわ!』
冷めたミサヤの視線と目が合った途端、梢が頬を引きつらせた。
「それではさっさと伝えることを伝えて、通信を終わってください。私は一応、マイトの目と耳ですからね? この私が見聞きしたことは、全てマイトにも伝わる。ゆめゆめ忘れぬことです」
『はいはい……ふう、とんだお目付け役がいたものだわ。でもまあ、弟分を多少いじって気分的には楽しかったからいいか。さて、それじゃあ今からすぐに店へ来てくれる? 守秘義務付きの依頼だからね、対面で言う必要があるのよ。こっちは談話室を1時間後に予約しとくから、そこで依頼について話しましょう。一応メイア達も呼んでおくわね?』
「守秘義務付きの時点で受ける気が失せるんだけど? 俺って結構おしゃべりだしさ……それに、あいつらも呼ぶのかよ? 俺宛ての依頼だってのにぃ?」
『依頼自体は命彦を受領者に指定してるけど、それは必ず命彦に受けて欲しいってだけの意味で、命彦が受けてくれさえすれば、単独でも小隊でも、好きに選べるわ。命彦の所属する【魔狼】小隊の子達を同席させてもいいってわけよ』
フフンと得意げに笑って言う梢を見て、ミサヤが冷たい視線で語る。
「メイア達を話に巻き込むことで、マヒコが依頼を断りにくくする魂胆ですね? しかし、この私がいる限り、そうはいきませんよコズエ? 断るべき依頼はきっちり断ります。我が主を危険に晒すわけにはまいりませんので」
『ぐっ、見透かされたか……ホントにミサヤは察しが良いわね? でもまあ、私は命彦を信じてるからね。それじゃまた3時頃にお店でね、待ってるわよー』
ポマコンの映像通信が切断されて、命彦がやれやれといった表情で脱力する。
「……ようやく通信が切れたか。好き勝手言ってくれるねホント。どっと疲れたぞ?」
背後のミサヤに抱き締められた命彦は、気だるそうに肩を落としていた。
0
あなたにおすすめの小説
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる