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4章 魔法士小隊
4章ー8:マヒコとマイコ、再会する2人
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ミツバが命彦を一瞥して、口を開いた。
「吊り橋効果や刷り込みに近いと思いますが、依頼主の舞子さんは、命彦さんの魔法戦闘技能を高く評価していました。そして同時にご自身の、自分達3人の勘違いにも気付いたと思われます」
「自分らの独学オママゴト訓練じゃ、魔獣とは戦えへん。ホンマもんの魔法戦闘訓練を受けて、ホンマもんの戦闘技術を身に付ける必要がある、ってか?」
勇子の問いかけに、ミツバは苦笑しつつコクリと首を振った。
「はい。舞子さんは、命彦さんに救われたすぐ後に、この依頼を依頼所へ出しました。そして、依頼所側としては、この依頼をできる限り依頼主の意志を尊重する形で、受理する必要があります」
「彼女達が死にかけた責任の一端が、依頼所側に、梢さんにあるからだよね?」
「はい。ついでに言えば、本件依頼主の歌咲舞子さんのご両親は、世間的によく知られた作曲家です。後で調べた結果分かった事実とはいえ、無下に扱うと色々とマズいのです。舞子さんがもし死んでいたら、梢姉さんのせいで世間に相当の影響力を持つご両親と訴訟沙汰の可能性もありましたからね? 今回の命彦さんの働きには、幾ら感謝しても足りません」
「ぐはっ! 空太もミツバも、はっきり言い過ぎよ、酷いわっ!」
梢が胸を押えて悶えていると、勇子が冷めて視線を送る。
「梢さんは黙っとき。9割方はこの子らの自己責任やけど、1割くらいは梢さんにも責任あるんやで? 勝手に判断して遠くへ行かんことを、出る前に一言でも厳命しとけば、この子らが怪我すんのを防げたかもしれんのに……。ほいでミツバ、その歌咲舞子さんの意志ってのが、命彦に依頼を受けてもらうこと、って理解でええのん?」
「はい。出された依頼について、依頼難度を設定・審査する間、幾度か舞子さんと連絡を取ったのですが、とにかく受領者を命彦さんにして欲しいと、重ね重ね希望されました。彼女にとって、命彦さんに救われた時のことは、相当深く印象に残っているようです。憧れに近い感情を持っているのかもしれませんね?」
「あらら、随分見込まれたものね、命彦?」
「ふむう。見る目があるとだけ言っておこうか」
『……面倒ですね、断りましょう、この依頼』
命彦の腕に納まっていたミサヤが、不機嫌そうに《思念の声》を発すると、梢が慌てて言い返した。
「一旦受けるって言っといて、事情もここまで聞いた以上、断るのは駄目よミサヤ! 私のクビが飛ぶわ!」
『望むところです』
「あんた、今本気で言ったわねっ!」
「まあまあ、ミサヤも梢さんも落ち着け。とりあえず事情は把握した。俺宛ての指定特殊依頼っていうことも分かった。失態を隠す意味で、依頼所の威信がかかった依頼と扱われてるのも、一応理解した。唯一、懸念材料があるとすれば梓さんだ。梓さんはこの件について知ってるのか、ミツバ?」
命彦がミツバに問うと、ミツバが苦笑する。
「はい。歌咲さん達から上がった報告書と、命彦さんが上げた報告書にそれぞれ目を通し、梢姉さんに事後の対応を一任しました。この対応のでき次第で、梢姉さんの運命が決まります。こっぴどく叱られて依頼所の受付嬢をクビにされるか、軽く叱られて仕事を続けられるか、2択ですね?」
「はへぇー……梓さんはホントに優しいですね」
「まったくだわ、命彦に依頼を受けさせる方法も相談に乗ってくれたし。今回ばかりは、母さんの優しさが身に染みたわよ」
「そうやって甘やかされとるから、梢さんがますますポカするんとちゃう?」
「あ、勇子にしては良いこと言った。僕もそう思う」
「勇子と空太、あんた達、仕事終わったらシメるからね?」
梢がじろりと勇子と空太を見る。視線が合った2人は震え上がった。
依頼所の受付嬢としては、色々と問題が多い梢だが、魔法の腕は一級品であり、命絃や魅絃と同じ4つの魔法学科、〔武士〕、〔神司〕、〔忍者〕、〔魔具士〕を修了している。
普通に考えれば、どうして依頼所の受付嬢をしているのか、疑問を抱かれるほどに高い魔法戦闘技能を、梢は有していた。勇子や空太が恐れるのも当然である。
「じょ、冗談だよ、梢さん」
「せ、せやで、堪忍してや」
「ふんだ」
むくれる梢にヘコヘコする勇子と空太を見て、命彦達は苦笑した。
指定特殊依頼の電子書面を確認後、談話室のその場で受領手続を済ませた命彦達。
保管用の紙面手続書類への記入を確認して、書類を手に持ったミツバが口を開いた。
「さて、依頼の受領も完了しましたし、彼女も来られたようですので、姉さんそろそろ」
「あ、到着したの? そうね。呼んで来てくれるミツバ?」
「はい。それでは皆様、少しお待ちくださいね」
ミツバが梢に目配せしてから、談話室を出て行く。
「呼ぶって誰かここへ呼ぶんか、梢さん?」
「うーん、今までの話の流れから推測すると……」
「依頼主の歌咲舞子さんが来るってことかしらね?」
「ええ。依頼を断るにせよ受けるにせよ、今回の依頼は依頼主と会うことが前提だからね。依頼の説明をする前に一度連絡して、依頼所へ来てもらってたのよ」
梢がそう言うと、談話室の襖がソッと開かれ、ミツバが1人の少女を連れて戻った。
「し、失礼します!」
歌咲舞子、依頼主の少女である。
童女の如く愛らしい顔立ちに、ほんわかとした眼差し。おかっぱ頭の黒い髪と、メイアと同じ防具型魔法具のゆったりした外套を着ているのに、そこだけが目立つほど発育が良い胸を持った、全体的に令嬢の気品を感じさせる少女。
育ちの良いお嬢様、端的にそう見える少女が、舞子であった。
舞子がやや硬い表情で、ぺこりと頭を下げ、カチコチした動きで、手招きする梢の横に座る。
梢が苦笑しつつ、口を開いた。
「えーと、それじゃ依頼主の舞子も到着したことだし、本件依頼主及び受領魔法士小隊の顔合わせを始めましょうか。まずは立会人を務める私、神樹梢と」
「神樹ミツバから、本件依頼を受領した魔法士小隊である、【魔狼】の紹介をさせてもらいますね。依頼主の舞子さんは、すでに転送されている依頼所からの、魔法士紹介情報と適宜照合し、確認してください。質問がある場合は、互いの紹介後に受け付けますので」
「はい」
舞子がポマコンを取り出し、画面を見詰める。その姿を見て、梢が口を開いた。
「まずは1人目、対面に座る魂斬命彦から紹介するわ。日本でも特に古い歴史を持つ魔法使いの一族、魂斬家の次期当主であり、〔武士〕と〔忍者〕という2つの学科魔法士資格を持つ魔法士よ? 学科位階はどちらも6と高位で、【魔狼】小隊を率いる小隊長を務めるわ。契約魔獣であるミサヤとの連携で、当依頼所でも屈指の戦闘力を持つ魔法士よ?」
梢の紹介を聞きつつ、自分のポマコンに映る命彦の紹介文を読んでいた舞子が、命彦に視線を移す。
舞子と目を合わせた命彦は、気さくに挨拶した。
「どうも、依頼主の歌咲さん。やや紹介が褒め過ぎてる気もするが、【魔狼】小隊の隊長を務めてる魂斬命彦だ。個人的に言うと、早過ぎる再会に少し驚いてる。以後よろしく」
『同じくミサヤです、よろしく』
命彦と目を合わせ、硬かった表情が急に和らぎ、舞子が頭を下げる。
「はい! お2人ともまたお会いできて嬉しいです。2日前は本当にありがとうございました。救われた友人達にも代わりまして、この場で改めて感謝させていただきます」
会う寸前まで忘れてたとはとても言えず、命彦が取り繕うように答える。
「あーいや、こっちこそ、まさかウチの依頼所に所属してた新人だとは思わず、先輩にあるまじき行動を取っちまった。助けはしたが、最終的には迷宮に置いてったし……もう少し親切にするべきだったと、今は反省してる。どうか頭を上げてくれ」
「いえ、こちらこそ自分達の迂闊さの代償を、本来は命で払う筈だったのに。お2人には救われました。本当に感謝しています。あの後、すぐに梢さん達が迎えに来てくれましたし、あれ以上の親切を望むのは、贅沢だと理解していますから」
舞子の命彦に対する態度を見て、ミサヤが警戒心満載の思念を発する。
『学科魔法士は、余力があれば助け合うのが基本です。ましてや、同じ依頼所に所属する魔法士は、共に仕事をすることもある間柄。助けるのは当然のことです。恩に着る必要はありません。過度の感謝も不要です。先達の魔法士であれば、誰でも間抜けた後輩を助けるものですからね』
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると、こちらも救われます」
ミサヤの思念を受け、ビクッと震えて舞子が言うと、ミツバが会話の区切りを察したのか、口を開いた。
「……再会の挨拶も済んだようですので2人目の紹介に移りますね? 命彦さんの右横に座る彼女が、依星メイアさんです。去年〔魔工士〕の学科魔法士資格を取得したために、学科位階はまだ3と低位ですが、【魔狼】小隊に加入したのが最も遅いのに、頭脳明晰、冷静沈着であるため、小隊の意思決定に影響を与えることが多い才女です。生産と戦闘を両立できる天才魔女ですよ?」
「ミツバ、褒め過ぎよ。私一応、本業は魔法機械の生産だからね? まあそれはさておき、よろしくお願いしますね、歌咲さん?」
「はい! しかし、凄いですね? 生産型の魔法学科を修了しているのに、専門外である魔法戦闘もできるんですか……凄いです、尊敬します!」
自分と魔法士としての立場が近いためか、舞子がメイアへキラキラした視線を送って、ズイッと興奮気味に座椅子から身を乗り出す。
「あ、ありがとうございます……どうでもいいですけど、顔が近い」
メイアがたじろいでいる姿を気にもせず、梢が3人目と4人目の紹介に移った。
「次は命彦の左横に座るゴツイのと、その横に座るヒョロイのね? ゴツイのが鬼土勇子、ヒョロイのが風羽空太。紹介は……省略ということで」
「手抜きにもほどがあるやろっ!」
「さっきの意趣返しにしても陰険過ぎるよ、梢さん!」
「姉さん、駄目ですよ? 勇子さんと空太さんの紹介も、ちゃんとしてください」
「ああもう、分かったわよ! このでっかくてゴツイ方が鬼土勇子ね? 亜人でも特に身体能力に秀でた鬼人種、シュラ族の母を持ち、母親譲りの身体能力はウチの依頼所でも随一よ。魔法に関しても〔闘士〕学科の魔法士であり、学科位階は6と高位に位置するわ。ウチの依頼所内では、拳系少女とか脳筋姫、あと、歩く筋肉爆弾とかって呼ばれてるわ」
「最後の方で思いっきり馬鹿にされてる気がするんは、ウチの気のせいやろか?」
「気のせいよ。そして、そっちの顔だけが良くて、他全部が駄目っぽいヒョロイ方が風羽空太ね? 日本でも古い歴史を持つ魔法使いの一族、風羽家の次期当主で、〔精霊使い〕学科の魔法士よ。学科位階も6で高位に位置するわ。ただ、怖がりだからか、本分の精霊攻撃魔法より、精霊結界魔法の方が得意っていう困った点はあるわね?」
「最後の方どころか、最初から馬鹿にされてる気がするんですけど、梢さん?」
「気のせいよ。ウチの施設をよくよく破壊してくれる問題児達だから、扱いを雑にしてるとか思ってると、天罰が下るわよ? それとも今の扱いに文句ある?」
「「いいえ」」
「よし。とまあ、ミサヤを数に入れて、通常は5人で活動しているのが【魔狼】小隊ね。まあ、たまに私が入ったり、命彦の姉が入ったりして、6人や7人で活動する時もあるけど、基本は5人で活動しているわね?」
「小隊の実績を表す小隊順位も、当依頼所では2桁の30位。300小隊近くが所属する当依頼所において、若手では1番の実績がありますね? 小隊として達成した依頼の実績は、討伐・採集・探索・護衛・派遣・特殊と多種多様で、あらゆる依頼を経験し、達成しています」
「舞子が1番気にしている迷宮での戦闘に関しても、安全性は異様に高いわね? 魔法学科だけで見ても〔武士〕と〔忍者〕、〔闘士〕と〔精霊使い〕がいるから、戦闘力は高いし、〔魔工士〕も、魔法機械を戦力に計算する場合は相当の戦闘力があるわ。欲を言えば、〔騎士〕と〔僧侶〕が欲しいけど……」
「そこは個々の小隊員が、必要と思う魔法技術を個別に修得して欠点を埋めていますので、安心してください。いざという時は魔獣のミサヤさんが本気を出してくれますから、小隊としてはとても安定してますよ」
「ということで、【魔狼】小隊の小隊員及び小隊の紹介は終了ね。次は、依頼主の紹介をしてもらいましょうか」
「はい」
梢が舞子の方を見ると、舞子がまた硬い表情に戻って、コクリと首を振った。
「吊り橋効果や刷り込みに近いと思いますが、依頼主の舞子さんは、命彦さんの魔法戦闘技能を高く評価していました。そして同時にご自身の、自分達3人の勘違いにも気付いたと思われます」
「自分らの独学オママゴト訓練じゃ、魔獣とは戦えへん。ホンマもんの魔法戦闘訓練を受けて、ホンマもんの戦闘技術を身に付ける必要がある、ってか?」
勇子の問いかけに、ミツバは苦笑しつつコクリと首を振った。
「はい。舞子さんは、命彦さんに救われたすぐ後に、この依頼を依頼所へ出しました。そして、依頼所側としては、この依頼をできる限り依頼主の意志を尊重する形で、受理する必要があります」
「彼女達が死にかけた責任の一端が、依頼所側に、梢さんにあるからだよね?」
「はい。ついでに言えば、本件依頼主の歌咲舞子さんのご両親は、世間的によく知られた作曲家です。後で調べた結果分かった事実とはいえ、無下に扱うと色々とマズいのです。舞子さんがもし死んでいたら、梢姉さんのせいで世間に相当の影響力を持つご両親と訴訟沙汰の可能性もありましたからね? 今回の命彦さんの働きには、幾ら感謝しても足りません」
「ぐはっ! 空太もミツバも、はっきり言い過ぎよ、酷いわっ!」
梢が胸を押えて悶えていると、勇子が冷めて視線を送る。
「梢さんは黙っとき。9割方はこの子らの自己責任やけど、1割くらいは梢さんにも責任あるんやで? 勝手に判断して遠くへ行かんことを、出る前に一言でも厳命しとけば、この子らが怪我すんのを防げたかもしれんのに……。ほいでミツバ、その歌咲舞子さんの意志ってのが、命彦に依頼を受けてもらうこと、って理解でええのん?」
「はい。出された依頼について、依頼難度を設定・審査する間、幾度か舞子さんと連絡を取ったのですが、とにかく受領者を命彦さんにして欲しいと、重ね重ね希望されました。彼女にとって、命彦さんに救われた時のことは、相当深く印象に残っているようです。憧れに近い感情を持っているのかもしれませんね?」
「あらら、随分見込まれたものね、命彦?」
「ふむう。見る目があるとだけ言っておこうか」
『……面倒ですね、断りましょう、この依頼』
命彦の腕に納まっていたミサヤが、不機嫌そうに《思念の声》を発すると、梢が慌てて言い返した。
「一旦受けるって言っといて、事情もここまで聞いた以上、断るのは駄目よミサヤ! 私のクビが飛ぶわ!」
『望むところです』
「あんた、今本気で言ったわねっ!」
「まあまあ、ミサヤも梢さんも落ち着け。とりあえず事情は把握した。俺宛ての指定特殊依頼っていうことも分かった。失態を隠す意味で、依頼所の威信がかかった依頼と扱われてるのも、一応理解した。唯一、懸念材料があるとすれば梓さんだ。梓さんはこの件について知ってるのか、ミツバ?」
命彦がミツバに問うと、ミツバが苦笑する。
「はい。歌咲さん達から上がった報告書と、命彦さんが上げた報告書にそれぞれ目を通し、梢姉さんに事後の対応を一任しました。この対応のでき次第で、梢姉さんの運命が決まります。こっぴどく叱られて依頼所の受付嬢をクビにされるか、軽く叱られて仕事を続けられるか、2択ですね?」
「はへぇー……梓さんはホントに優しいですね」
「まったくだわ、命彦に依頼を受けさせる方法も相談に乗ってくれたし。今回ばかりは、母さんの優しさが身に染みたわよ」
「そうやって甘やかされとるから、梢さんがますますポカするんとちゃう?」
「あ、勇子にしては良いこと言った。僕もそう思う」
「勇子と空太、あんた達、仕事終わったらシメるからね?」
梢がじろりと勇子と空太を見る。視線が合った2人は震え上がった。
依頼所の受付嬢としては、色々と問題が多い梢だが、魔法の腕は一級品であり、命絃や魅絃と同じ4つの魔法学科、〔武士〕、〔神司〕、〔忍者〕、〔魔具士〕を修了している。
普通に考えれば、どうして依頼所の受付嬢をしているのか、疑問を抱かれるほどに高い魔法戦闘技能を、梢は有していた。勇子や空太が恐れるのも当然である。
「じょ、冗談だよ、梢さん」
「せ、せやで、堪忍してや」
「ふんだ」
むくれる梢にヘコヘコする勇子と空太を見て、命彦達は苦笑した。
指定特殊依頼の電子書面を確認後、談話室のその場で受領手続を済ませた命彦達。
保管用の紙面手続書類への記入を確認して、書類を手に持ったミツバが口を開いた。
「さて、依頼の受領も完了しましたし、彼女も来られたようですので、姉さんそろそろ」
「あ、到着したの? そうね。呼んで来てくれるミツバ?」
「はい。それでは皆様、少しお待ちくださいね」
ミツバが梢に目配せしてから、談話室を出て行く。
「呼ぶって誰かここへ呼ぶんか、梢さん?」
「うーん、今までの話の流れから推測すると……」
「依頼主の歌咲舞子さんが来るってことかしらね?」
「ええ。依頼を断るにせよ受けるにせよ、今回の依頼は依頼主と会うことが前提だからね。依頼の説明をする前に一度連絡して、依頼所へ来てもらってたのよ」
梢がそう言うと、談話室の襖がソッと開かれ、ミツバが1人の少女を連れて戻った。
「し、失礼します!」
歌咲舞子、依頼主の少女である。
童女の如く愛らしい顔立ちに、ほんわかとした眼差し。おかっぱ頭の黒い髪と、メイアと同じ防具型魔法具のゆったりした外套を着ているのに、そこだけが目立つほど発育が良い胸を持った、全体的に令嬢の気品を感じさせる少女。
育ちの良いお嬢様、端的にそう見える少女が、舞子であった。
舞子がやや硬い表情で、ぺこりと頭を下げ、カチコチした動きで、手招きする梢の横に座る。
梢が苦笑しつつ、口を開いた。
「えーと、それじゃ依頼主の舞子も到着したことだし、本件依頼主及び受領魔法士小隊の顔合わせを始めましょうか。まずは立会人を務める私、神樹梢と」
「神樹ミツバから、本件依頼を受領した魔法士小隊である、【魔狼】の紹介をさせてもらいますね。依頼主の舞子さんは、すでに転送されている依頼所からの、魔法士紹介情報と適宜照合し、確認してください。質問がある場合は、互いの紹介後に受け付けますので」
「はい」
舞子がポマコンを取り出し、画面を見詰める。その姿を見て、梢が口を開いた。
「まずは1人目、対面に座る魂斬命彦から紹介するわ。日本でも特に古い歴史を持つ魔法使いの一族、魂斬家の次期当主であり、〔武士〕と〔忍者〕という2つの学科魔法士資格を持つ魔法士よ? 学科位階はどちらも6と高位で、【魔狼】小隊を率いる小隊長を務めるわ。契約魔獣であるミサヤとの連携で、当依頼所でも屈指の戦闘力を持つ魔法士よ?」
梢の紹介を聞きつつ、自分のポマコンに映る命彦の紹介文を読んでいた舞子が、命彦に視線を移す。
舞子と目を合わせた命彦は、気さくに挨拶した。
「どうも、依頼主の歌咲さん。やや紹介が褒め過ぎてる気もするが、【魔狼】小隊の隊長を務めてる魂斬命彦だ。個人的に言うと、早過ぎる再会に少し驚いてる。以後よろしく」
『同じくミサヤです、よろしく』
命彦と目を合わせ、硬かった表情が急に和らぎ、舞子が頭を下げる。
「はい! お2人ともまたお会いできて嬉しいです。2日前は本当にありがとうございました。救われた友人達にも代わりまして、この場で改めて感謝させていただきます」
会う寸前まで忘れてたとはとても言えず、命彦が取り繕うように答える。
「あーいや、こっちこそ、まさかウチの依頼所に所属してた新人だとは思わず、先輩にあるまじき行動を取っちまった。助けはしたが、最終的には迷宮に置いてったし……もう少し親切にするべきだったと、今は反省してる。どうか頭を上げてくれ」
「いえ、こちらこそ自分達の迂闊さの代償を、本来は命で払う筈だったのに。お2人には救われました。本当に感謝しています。あの後、すぐに梢さん達が迎えに来てくれましたし、あれ以上の親切を望むのは、贅沢だと理解していますから」
舞子の命彦に対する態度を見て、ミサヤが警戒心満載の思念を発する。
『学科魔法士は、余力があれば助け合うのが基本です。ましてや、同じ依頼所に所属する魔法士は、共に仕事をすることもある間柄。助けるのは当然のことです。恩に着る必要はありません。過度の感謝も不要です。先達の魔法士であれば、誰でも間抜けた後輩を助けるものですからね』
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると、こちらも救われます」
ミサヤの思念を受け、ビクッと震えて舞子が言うと、ミツバが会話の区切りを察したのか、口を開いた。
「……再会の挨拶も済んだようですので2人目の紹介に移りますね? 命彦さんの右横に座る彼女が、依星メイアさんです。去年〔魔工士〕の学科魔法士資格を取得したために、学科位階はまだ3と低位ですが、【魔狼】小隊に加入したのが最も遅いのに、頭脳明晰、冷静沈着であるため、小隊の意思決定に影響を与えることが多い才女です。生産と戦闘を両立できる天才魔女ですよ?」
「ミツバ、褒め過ぎよ。私一応、本業は魔法機械の生産だからね? まあそれはさておき、よろしくお願いしますね、歌咲さん?」
「はい! しかし、凄いですね? 生産型の魔法学科を修了しているのに、専門外である魔法戦闘もできるんですか……凄いです、尊敬します!」
自分と魔法士としての立場が近いためか、舞子がメイアへキラキラした視線を送って、ズイッと興奮気味に座椅子から身を乗り出す。
「あ、ありがとうございます……どうでもいいですけど、顔が近い」
メイアがたじろいでいる姿を気にもせず、梢が3人目と4人目の紹介に移った。
「次は命彦の左横に座るゴツイのと、その横に座るヒョロイのね? ゴツイのが鬼土勇子、ヒョロイのが風羽空太。紹介は……省略ということで」
「手抜きにもほどがあるやろっ!」
「さっきの意趣返しにしても陰険過ぎるよ、梢さん!」
「姉さん、駄目ですよ? 勇子さんと空太さんの紹介も、ちゃんとしてください」
「ああもう、分かったわよ! このでっかくてゴツイ方が鬼土勇子ね? 亜人でも特に身体能力に秀でた鬼人種、シュラ族の母を持ち、母親譲りの身体能力はウチの依頼所でも随一よ。魔法に関しても〔闘士〕学科の魔法士であり、学科位階は6と高位に位置するわ。ウチの依頼所内では、拳系少女とか脳筋姫、あと、歩く筋肉爆弾とかって呼ばれてるわ」
「最後の方で思いっきり馬鹿にされてる気がするんは、ウチの気のせいやろか?」
「気のせいよ。そして、そっちの顔だけが良くて、他全部が駄目っぽいヒョロイ方が風羽空太ね? 日本でも古い歴史を持つ魔法使いの一族、風羽家の次期当主で、〔精霊使い〕学科の魔法士よ。学科位階も6で高位に位置するわ。ただ、怖がりだからか、本分の精霊攻撃魔法より、精霊結界魔法の方が得意っていう困った点はあるわね?」
「最後の方どころか、最初から馬鹿にされてる気がするんですけど、梢さん?」
「気のせいよ。ウチの施設をよくよく破壊してくれる問題児達だから、扱いを雑にしてるとか思ってると、天罰が下るわよ? それとも今の扱いに文句ある?」
「「いいえ」」
「よし。とまあ、ミサヤを数に入れて、通常は5人で活動しているのが【魔狼】小隊ね。まあ、たまに私が入ったり、命彦の姉が入ったりして、6人や7人で活動する時もあるけど、基本は5人で活動しているわね?」
「小隊の実績を表す小隊順位も、当依頼所では2桁の30位。300小隊近くが所属する当依頼所において、若手では1番の実績がありますね? 小隊として達成した依頼の実績は、討伐・採集・探索・護衛・派遣・特殊と多種多様で、あらゆる依頼を経験し、達成しています」
「舞子が1番気にしている迷宮での戦闘に関しても、安全性は異様に高いわね? 魔法学科だけで見ても〔武士〕と〔忍者〕、〔闘士〕と〔精霊使い〕がいるから、戦闘力は高いし、〔魔工士〕も、魔法機械を戦力に計算する場合は相当の戦闘力があるわ。欲を言えば、〔騎士〕と〔僧侶〕が欲しいけど……」
「そこは個々の小隊員が、必要と思う魔法技術を個別に修得して欠点を埋めていますので、安心してください。いざという時は魔獣のミサヤさんが本気を出してくれますから、小隊としてはとても安定してますよ」
「ということで、【魔狼】小隊の小隊員及び小隊の紹介は終了ね。次は、依頼主の紹介をしてもらいましょうか」
「はい」
梢が舞子の方を見ると、舞子がまた硬い表情に戻って、コクリと首を振った。
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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