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4章 魔法士小隊
4章ー7:コズエの失態と、依頼主の心当たり
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命彦達の視線が、梢に突き刺さる。
「そいじゃ梢さん、洗いざらい吐いてもらおか?」
「いや、それは、あのう……」
「[結晶樹の果実]を報酬に追加されたら、俺も断れねえよ。依頼は受けてやるから、経緯をキリキリ吐け。どうせ今回も自分の失敗の尻拭いを、俺達にさせたいんだろ?」
命彦達に取り囲まれ、ダラダラと汗を流す梢が語り出す。
「ほんの2日前……一昨日のことだけど、3人組の新人の学科魔法士が、ウチの依頼所へ魔法士登録しに来て、受付で私が応対したのよ」
ビクつく梢の補足をするように、ミツバが言う。
「全員16歳で、魔法学科修了認定試験に今年合格し、命彦さん達と同じく魔法士育成学校の生徒という立場で、学科魔法士の資格を取得した女学生の方々でした。驚いたことに、彼女達は全員が魔法未修者だったそうです」
「ほえー……めっちゃ優秀やん。魔法の教育受け初めて、たった4年で修了試験に合格て。受験する魔法学科によって合格率の高低があるとはいえ、それでも簡単にできることやあらへんで? まるでメイアみたいやわ」
「そうだね、まあメイアの方が1年早いけど」
「勇子も空太も、こっちをマジマジ見て言うのは止めてよ、恥ずかしいでしょ? それで、試験で合格したその子達の魔法学科は?」
「全員が〔魔法楽士〕だそうです」
ミツバが座卓を操作すると、平面映像上に映っていた依頼書から、黒い塗り潰し部分が消えて、依頼主の隠されていた情報が明かされた。魔法学科も確認できる。
「確かに限定型魔法学科の〔魔法楽士〕だ。俺はてっきり、生産型の学科魔法士と思っていたんだが、違ったか」
「私も生産型とばかり思ってたわ……限定型の魔法士か。ねえミツバ、もしかして書面上で魔法学科を隠してたのは、依頼主が限定型の学科魔法士だったから?」
メイアの問いかけに、ミツバは苦笑して首肯した。
「はい。今件依頼について、情報開示に制限があったのは、命彦さん達が今件依頼を受けるにあたって気にするであろう、依頼主の情報、それも依頼を断る方へ働く可能性がある情報でした」
命彦が新たに開示された依頼書の情報、特に依頼主の顔の映像を見て、首を傾げた。
(どっかで見た気がするんだが……んーどこだっけ。ミサヤ、分かるか?)
『微妙に見覚えはあるのですが。マヒコ以外の人間の顔は、あまり区別がつきませんからね……』
《思念の声》で語りかけるも、ミサヤも考え込む様子。
瞑目して考え込む命彦達を気につつ、話を先に進めるため、空太が梢に問う。
「生産型の魔法士より魔獣との接点が希薄である限定型の魔法士が、どうして魔法戦闘技能を欲しがってるのか、突っ込みたいとこだけど、それはともかくとして、この依頼主の歌咲さんって子が、その話してる3人組の1人って理解でいいのかい、梢さん?」
空太の問いかけに小さく首を振る梢を見て、勇子とメイアがふと口を開く。
「〔魔法楽士〕って、声楽や楽器演奏とかの相当高い技能や知識を持っとるヤツだけが、魔法士育成学校入学時に専攻を許されるっちゅう、限定型の魔法学科やろ? そいで確か、2年目の時点で声歌の精霊とかいう基心外精霊を使役でけへんと転科させられる、相当に厳しい魔法学科って聞いとるで? ……あれやん、その子ら普通に選ばれし者やんか」
「ええ。限定型の魔法学科は、専攻すること自体に条件が付いてるからね。その意味では、確かに選ばれし者と言えるわ。〔魔法楽士〕は、基本的に戦時よりも平時に置いてその力を発揮し、傷病者達の心理面での慰撫や民衆への娯楽の提供といった、集団心理の先導を行うための魔法学科よ」
「ふーん……で、その〔魔法楽士〕学科を取得した魔法士が、どうして戦闘技能を求めとるん、梢さん? さっき空太も言うとったけど、今メイアの話を聞いた限りやと、魔法士としての活動で魔獣との絡みもあらへんし、魔法戦闘技能とか全然要らんやんか」
「それは本人に確認してよ。依頼主の個人的事情っぽいから」
「個人的事情ねえ……じゃあ、そこは置いといてや。続きを聞こか、梢さん」
「はいはい。女学生3人組が魔法士登録に来て、彼女達の応対をした私は、サクッと登録を済ませ、依頼所の説明をしたのよ。そうしたら、彼女達がすぐに依頼を受けたい、とか言い出して、まあいいかと思って、依頼難度1の依頼を幾つか紹介したわけ」
ミツバがいれた緑茶をグビッと飲み、梢が後悔するように言う。
「ところがあの子達、私が紹介した〔魔法楽士〕が主に受ける、依頼難度1の派遣依頼を全部嫌がって、戦闘型の学科魔法士が受ける依頼難度1の依頼が受けたい、とか言って来てね?」
「はあ? 無謀にもほどがあるでしょ、それ」
「限定型や生産型の魔法学科って、戦闘型や探査型の魔法学科みたいに、魔法戦闘技能を身に付ける戦闘訓練とか全然せえへんやん。そもそも、命彦に今こういう依頼を出しとる時点で、魔法戦闘技能を持っとらんかったわけやろ、依頼主やその他の子らは?」
「それでよく、魔法戦闘技能必須の依頼を受けたいとか言えたものね?」
「私もそう思ったわよ。あんた達、魔法戦闘を甘く見てると死ぬわよって、真剣に警告したんだけど、彼女達は、自分達は魔法戦闘技能を修得してるから平気だって言ってね?」
「いやいやいや、矛盾しとるやんっ!」
突っ込む勇子の横で、とりあえず考え込むのを止めて話を聞いてた命彦が、梢に問うた。
「……それはつまり、その子達、梢さんに嘘ついたってことか?」
命彦の問いかけに、梢は苦笑を返した。
「いえ、嘘をついたってよりも、多分認識の違いでしょうね? 後から聞いた話だけど、学校で戦闘型魔法学科の訓練を見て、それを自分達でも真似して訓練してたんですって。まあ……本職からすればオママゴトよ。ただ、彼女達はそのオママゴトの訓練に真剣に取り組み、魔獣とも戦えるだろうって自信だけはあったみたいね?」
「つまり、その当時の彼女達の認識では、魔法戦闘技能を修得してるつもりだった、と?」
「ええ。私達から見れば、それは魔法戦闘技能と言うにはあまりにお粗末過ぎるモノだけど、彼女達にとっては、独学で身に付けた彼女達の魔法戦闘技能だったってわけ。だから、嘘をついたっていうよりは、勘違いと言うべきでしょうね?」
「勘違い、ですか。……確かに考えてみれば、〔魔法楽士〕は精霊付与魔法を修得しますからね。戦闘で使う魔法はすでに修得済みだし、見よう見真似の戦闘訓練でも、それ相応の効果はあるかもしれません。仮にも戦闘訓練を真似てたんだから、長い間繰り返せば、多少身体も引き締まるでしょうし……」
「ええ。多分そういう見た目の違いも手伝って、実力が付いた、魔獣達と戦える力を持ったと、都合の良い勘違いをしたんでしょう。3人とも、世間知らずのお嬢様って雰囲気だったし、夢見る乙女って感じで、自分に酔ってる感じがして、周りが見えてるかどうかも怪しかったからね? だから私も、できる限り危険性は説いたんだけど、無駄だったわ」
梢の言葉に続くように、ミツバが口を開く。
「本来であれば、自己の修了した魔法学科の領分を超える依頼を、魔法士側が受けたいと希望する場合、依頼所の方で実力を確認する必要があるのですが……」
「実力の確認方法は、依頼所に一任されているわ。私はどんだけ無能の戦闘型や探査型の学科魔法士でも、絶対に達成できるであろう依頼難度1の採集依頼をその場で作成して、彼女達に受領させたのよ。それが達成できれば、魔法戦闘技能が最低限はあると証明できるからね? あの時の私の判断、間違ってたミツバ?」
「いいえ。心の優しい梢姉さんが、血気盛んで、〔魔法楽士〕として見れば優秀であろう少女達の、いじましい努力と誇りと鼻っ柱を、自分の手で木っ端微塵にするのは気が引けたため、試験的に依頼を受けさせた判断は良いと思いますよ? 問題は……」
ミツバが微妙に冷たい視線を梢に送った。
「依頼受領後、彼女達を送り出す時に言った、姉さんの発言の方です」
「ぎくっ!」
「梢姉さんは、冗談めかしてこう言いましたよね? 室内監視動画に記録がありますよ」
ミツバが座卓に手を触れると、依頼書を映した平面映像の上に、別の映像が現れる。
依頼所内の様子を記録した動画で、受付の席で話す梢と3人の少女達の姿があった。
『近場の【結晶樹】はあんた達以外にも、採集依頼を受けた魔法士が多くいる筈よ。バカが樹液を取り過ぎて、樹木を枯らしてる可能性もある、っていうのはさすがに言い過ぎだけど、樹液が出にくいことはあるわね? まあ、採集量はごく僅かでいいから平気だと思うけど、できる限り早く確実に、全員無事で[結晶樹の樹液]を持ち帰ること。いいわね?』
動画の梢の言葉が終わると、ミツバが動画を平面映像上から消し、命彦達を見た。
「……この発言が、迷宮について無知である彼女達の判断を誤らせました。彼女達は、梢姉さんが指定した、【迷宮外壁】から300m圏内にある、最も近い【結晶樹】へは行かず、自分達が依頼所で購入した迷宮電子地図に記載された、第2迷宮域側に近い遠方の【結晶樹】を目指したそうです」
「[結晶樹の樹液]の採集依頼を梢さんは彼女達に出し、近場の【結晶樹】の位置も教えた。けれど、[結晶樹の樹液]が出にくいかもって情報を聞いて、より確実に樹液を採集したいと彼女達は思い、近場よりも採集者達が減るであろう、遠方の【結晶樹】を目指したと。そういうことね、ミツバ?」
「はい。ただ、一滴でも樹液が採集できれば、彼女達の依頼はそこで達成と言えますし、幾ら樹液を取り過ぎても、生きてる【結晶樹】であれば、最低限一滴二滴程度の樹液は必ず採集できます。そして、採集依頼を受ける魔法士は、余程の新人でも木を枯らすほど樹液を採集したりしません」
ミツバが残念そうに苦笑し、言葉を続けた。
「ですので、彼女達は近場の【結晶樹】にまず行くべきだったのですが、彼女達にはそうした迷宮の知識がありませんでした。いえ、そうした知識をそもそも知りませんでした」
「せやから、勝手に判断して遠い方へ行ってもうたんやね? 遭遇する魔獣かて、都市に遠い方がマズいヤツが多いのに。下手に自信があったから、行けると思たんやろか。素人考えの怖いとこやわ。はあー……それでその子ら、全員無事やったんか?」
「無事、とは言えませんね。行った先の【結晶樹】の傍で、採集作業時に魔獣達から襲撃を受けたと、帰還した本人達から聞きましたので」
「魔獣に襲撃されて全員生きて戻ったのっ! 凄いねその子達!」
「救助されたのよ。2人は重傷、1人は軽傷。この軽傷の1人が、依頼主の歌咲舞子よ。他2人は実家で静養してるわ。身体の傷はその日のウチに魔法で治療したけど、心の傷はもう少し回復に時間がかかるでしょうね。この2人は実際に死にかけたというか、殺されかけたわけだし……」
「私達は、軽傷で戻った舞子さんから、ある学科魔法士に窮地を救われたと、報告を受けました。命彦さん、さすがにもう気付いてますよね? 舞子さんは、命彦さんに救われたからこそ、受領者に選んだのです」
ミツバの言葉に、命彦がミサヤと顔を見合わせ、小さく首を振った。
「ああ。依頼書に記載され、塗り潰されてた依頼主の顔の画像と、ついさっきの動画の全身映像を見て、今し方ようやく思い出したよ。一昨日、俺が助けた3人組の1人だろ? あの子、歌咲舞子っていうのか。ウチの依頼所に所属してたとは……少し驚いたよ」
『そうですね。こちらで作成した報告書は、【魔法喫茶ミスミ】に提出して終わりましたし、散財分の費用もその日のうちに口座に振り込まれていました。手続きがやたらと早かったことを考えると、同じ依頼所に所属していたことに気付けたと思いますが、報告後の経過や助けた相手のことは知らされていませんし、翌日にはすっかり忘れていましたからね?』
「ホント普通に忘れてた。こっちとしては、救助に使った費用が取り戻せたらそれでいいし。助けた相手のことも、ぶっちゃけどうでも良かったからさ? しかし、あの時魔獣達から助けたせいで、俺を師匠に……この依頼の受領者に指定したのか。ふぃー、依頼主を警戒してたのがバカみたいだぜ」
命彦が、ようやく得心がいったとばかりに、小さくため息をついた。
「そいじゃ梢さん、洗いざらい吐いてもらおか?」
「いや、それは、あのう……」
「[結晶樹の果実]を報酬に追加されたら、俺も断れねえよ。依頼は受けてやるから、経緯をキリキリ吐け。どうせ今回も自分の失敗の尻拭いを、俺達にさせたいんだろ?」
命彦達に取り囲まれ、ダラダラと汗を流す梢が語り出す。
「ほんの2日前……一昨日のことだけど、3人組の新人の学科魔法士が、ウチの依頼所へ魔法士登録しに来て、受付で私が応対したのよ」
ビクつく梢の補足をするように、ミツバが言う。
「全員16歳で、魔法学科修了認定試験に今年合格し、命彦さん達と同じく魔法士育成学校の生徒という立場で、学科魔法士の資格を取得した女学生の方々でした。驚いたことに、彼女達は全員が魔法未修者だったそうです」
「ほえー……めっちゃ優秀やん。魔法の教育受け初めて、たった4年で修了試験に合格て。受験する魔法学科によって合格率の高低があるとはいえ、それでも簡単にできることやあらへんで? まるでメイアみたいやわ」
「そうだね、まあメイアの方が1年早いけど」
「勇子も空太も、こっちをマジマジ見て言うのは止めてよ、恥ずかしいでしょ? それで、試験で合格したその子達の魔法学科は?」
「全員が〔魔法楽士〕だそうです」
ミツバが座卓を操作すると、平面映像上に映っていた依頼書から、黒い塗り潰し部分が消えて、依頼主の隠されていた情報が明かされた。魔法学科も確認できる。
「確かに限定型魔法学科の〔魔法楽士〕だ。俺はてっきり、生産型の学科魔法士と思っていたんだが、違ったか」
「私も生産型とばかり思ってたわ……限定型の魔法士か。ねえミツバ、もしかして書面上で魔法学科を隠してたのは、依頼主が限定型の学科魔法士だったから?」
メイアの問いかけに、ミツバは苦笑して首肯した。
「はい。今件依頼について、情報開示に制限があったのは、命彦さん達が今件依頼を受けるにあたって気にするであろう、依頼主の情報、それも依頼を断る方へ働く可能性がある情報でした」
命彦が新たに開示された依頼書の情報、特に依頼主の顔の映像を見て、首を傾げた。
(どっかで見た気がするんだが……んーどこだっけ。ミサヤ、分かるか?)
『微妙に見覚えはあるのですが。マヒコ以外の人間の顔は、あまり区別がつきませんからね……』
《思念の声》で語りかけるも、ミサヤも考え込む様子。
瞑目して考え込む命彦達を気につつ、話を先に進めるため、空太が梢に問う。
「生産型の魔法士より魔獣との接点が希薄である限定型の魔法士が、どうして魔法戦闘技能を欲しがってるのか、突っ込みたいとこだけど、それはともかくとして、この依頼主の歌咲さんって子が、その話してる3人組の1人って理解でいいのかい、梢さん?」
空太の問いかけに小さく首を振る梢を見て、勇子とメイアがふと口を開く。
「〔魔法楽士〕って、声楽や楽器演奏とかの相当高い技能や知識を持っとるヤツだけが、魔法士育成学校入学時に専攻を許されるっちゅう、限定型の魔法学科やろ? そいで確か、2年目の時点で声歌の精霊とかいう基心外精霊を使役でけへんと転科させられる、相当に厳しい魔法学科って聞いとるで? ……あれやん、その子ら普通に選ばれし者やんか」
「ええ。限定型の魔法学科は、専攻すること自体に条件が付いてるからね。その意味では、確かに選ばれし者と言えるわ。〔魔法楽士〕は、基本的に戦時よりも平時に置いてその力を発揮し、傷病者達の心理面での慰撫や民衆への娯楽の提供といった、集団心理の先導を行うための魔法学科よ」
「ふーん……で、その〔魔法楽士〕学科を取得した魔法士が、どうして戦闘技能を求めとるん、梢さん? さっき空太も言うとったけど、今メイアの話を聞いた限りやと、魔法士としての活動で魔獣との絡みもあらへんし、魔法戦闘技能とか全然要らんやんか」
「それは本人に確認してよ。依頼主の個人的事情っぽいから」
「個人的事情ねえ……じゃあ、そこは置いといてや。続きを聞こか、梢さん」
「はいはい。女学生3人組が魔法士登録に来て、彼女達の応対をした私は、サクッと登録を済ませ、依頼所の説明をしたのよ。そうしたら、彼女達がすぐに依頼を受けたい、とか言い出して、まあいいかと思って、依頼難度1の依頼を幾つか紹介したわけ」
ミツバがいれた緑茶をグビッと飲み、梢が後悔するように言う。
「ところがあの子達、私が紹介した〔魔法楽士〕が主に受ける、依頼難度1の派遣依頼を全部嫌がって、戦闘型の学科魔法士が受ける依頼難度1の依頼が受けたい、とか言って来てね?」
「はあ? 無謀にもほどがあるでしょ、それ」
「限定型や生産型の魔法学科って、戦闘型や探査型の魔法学科みたいに、魔法戦闘技能を身に付ける戦闘訓練とか全然せえへんやん。そもそも、命彦に今こういう依頼を出しとる時点で、魔法戦闘技能を持っとらんかったわけやろ、依頼主やその他の子らは?」
「それでよく、魔法戦闘技能必須の依頼を受けたいとか言えたものね?」
「私もそう思ったわよ。あんた達、魔法戦闘を甘く見てると死ぬわよって、真剣に警告したんだけど、彼女達は、自分達は魔法戦闘技能を修得してるから平気だって言ってね?」
「いやいやいや、矛盾しとるやんっ!」
突っ込む勇子の横で、とりあえず考え込むのを止めて話を聞いてた命彦が、梢に問うた。
「……それはつまり、その子達、梢さんに嘘ついたってことか?」
命彦の問いかけに、梢は苦笑を返した。
「いえ、嘘をついたってよりも、多分認識の違いでしょうね? 後から聞いた話だけど、学校で戦闘型魔法学科の訓練を見て、それを自分達でも真似して訓練してたんですって。まあ……本職からすればオママゴトよ。ただ、彼女達はそのオママゴトの訓練に真剣に取り組み、魔獣とも戦えるだろうって自信だけはあったみたいね?」
「つまり、その当時の彼女達の認識では、魔法戦闘技能を修得してるつもりだった、と?」
「ええ。私達から見れば、それは魔法戦闘技能と言うにはあまりにお粗末過ぎるモノだけど、彼女達にとっては、独学で身に付けた彼女達の魔法戦闘技能だったってわけ。だから、嘘をついたっていうよりは、勘違いと言うべきでしょうね?」
「勘違い、ですか。……確かに考えてみれば、〔魔法楽士〕は精霊付与魔法を修得しますからね。戦闘で使う魔法はすでに修得済みだし、見よう見真似の戦闘訓練でも、それ相応の効果はあるかもしれません。仮にも戦闘訓練を真似てたんだから、長い間繰り返せば、多少身体も引き締まるでしょうし……」
「ええ。多分そういう見た目の違いも手伝って、実力が付いた、魔獣達と戦える力を持ったと、都合の良い勘違いをしたんでしょう。3人とも、世間知らずのお嬢様って雰囲気だったし、夢見る乙女って感じで、自分に酔ってる感じがして、周りが見えてるかどうかも怪しかったからね? だから私も、できる限り危険性は説いたんだけど、無駄だったわ」
梢の言葉に続くように、ミツバが口を開く。
「本来であれば、自己の修了した魔法学科の領分を超える依頼を、魔法士側が受けたいと希望する場合、依頼所の方で実力を確認する必要があるのですが……」
「実力の確認方法は、依頼所に一任されているわ。私はどんだけ無能の戦闘型や探査型の学科魔法士でも、絶対に達成できるであろう依頼難度1の採集依頼をその場で作成して、彼女達に受領させたのよ。それが達成できれば、魔法戦闘技能が最低限はあると証明できるからね? あの時の私の判断、間違ってたミツバ?」
「いいえ。心の優しい梢姉さんが、血気盛んで、〔魔法楽士〕として見れば優秀であろう少女達の、いじましい努力と誇りと鼻っ柱を、自分の手で木っ端微塵にするのは気が引けたため、試験的に依頼を受けさせた判断は良いと思いますよ? 問題は……」
ミツバが微妙に冷たい視線を梢に送った。
「依頼受領後、彼女達を送り出す時に言った、姉さんの発言の方です」
「ぎくっ!」
「梢姉さんは、冗談めかしてこう言いましたよね? 室内監視動画に記録がありますよ」
ミツバが座卓に手を触れると、依頼書を映した平面映像の上に、別の映像が現れる。
依頼所内の様子を記録した動画で、受付の席で話す梢と3人の少女達の姿があった。
『近場の【結晶樹】はあんた達以外にも、採集依頼を受けた魔法士が多くいる筈よ。バカが樹液を取り過ぎて、樹木を枯らしてる可能性もある、っていうのはさすがに言い過ぎだけど、樹液が出にくいことはあるわね? まあ、採集量はごく僅かでいいから平気だと思うけど、できる限り早く確実に、全員無事で[結晶樹の樹液]を持ち帰ること。いいわね?』
動画の梢の言葉が終わると、ミツバが動画を平面映像上から消し、命彦達を見た。
「……この発言が、迷宮について無知である彼女達の判断を誤らせました。彼女達は、梢姉さんが指定した、【迷宮外壁】から300m圏内にある、最も近い【結晶樹】へは行かず、自分達が依頼所で購入した迷宮電子地図に記載された、第2迷宮域側に近い遠方の【結晶樹】を目指したそうです」
「[結晶樹の樹液]の採集依頼を梢さんは彼女達に出し、近場の【結晶樹】の位置も教えた。けれど、[結晶樹の樹液]が出にくいかもって情報を聞いて、より確実に樹液を採集したいと彼女達は思い、近場よりも採集者達が減るであろう、遠方の【結晶樹】を目指したと。そういうことね、ミツバ?」
「はい。ただ、一滴でも樹液が採集できれば、彼女達の依頼はそこで達成と言えますし、幾ら樹液を取り過ぎても、生きてる【結晶樹】であれば、最低限一滴二滴程度の樹液は必ず採集できます。そして、採集依頼を受ける魔法士は、余程の新人でも木を枯らすほど樹液を採集したりしません」
ミツバが残念そうに苦笑し、言葉を続けた。
「ですので、彼女達は近場の【結晶樹】にまず行くべきだったのですが、彼女達にはそうした迷宮の知識がありませんでした。いえ、そうした知識をそもそも知りませんでした」
「せやから、勝手に判断して遠い方へ行ってもうたんやね? 遭遇する魔獣かて、都市に遠い方がマズいヤツが多いのに。下手に自信があったから、行けると思たんやろか。素人考えの怖いとこやわ。はあー……それでその子ら、全員無事やったんか?」
「無事、とは言えませんね。行った先の【結晶樹】の傍で、採集作業時に魔獣達から襲撃を受けたと、帰還した本人達から聞きましたので」
「魔獣に襲撃されて全員生きて戻ったのっ! 凄いねその子達!」
「救助されたのよ。2人は重傷、1人は軽傷。この軽傷の1人が、依頼主の歌咲舞子よ。他2人は実家で静養してるわ。身体の傷はその日のウチに魔法で治療したけど、心の傷はもう少し回復に時間がかかるでしょうね。この2人は実際に死にかけたというか、殺されかけたわけだし……」
「私達は、軽傷で戻った舞子さんから、ある学科魔法士に窮地を救われたと、報告を受けました。命彦さん、さすがにもう気付いてますよね? 舞子さんは、命彦さんに救われたからこそ、受領者に選んだのです」
ミツバの言葉に、命彦がミサヤと顔を見合わせ、小さく首を振った。
「ああ。依頼書に記載され、塗り潰されてた依頼主の顔の画像と、ついさっきの動画の全身映像を見て、今し方ようやく思い出したよ。一昨日、俺が助けた3人組の1人だろ? あの子、歌咲舞子っていうのか。ウチの依頼所に所属してたとは……少し驚いたよ」
『そうですね。こちらで作成した報告書は、【魔法喫茶ミスミ】に提出して終わりましたし、散財分の費用もその日のうちに口座に振り込まれていました。手続きがやたらと早かったことを考えると、同じ依頼所に所属していたことに気付けたと思いますが、報告後の経過や助けた相手のことは知らされていませんし、翌日にはすっかり忘れていましたからね?』
「ホント普通に忘れてた。こっちとしては、救助に使った費用が取り戻せたらそれでいいし。助けた相手のことも、ぶっちゃけどうでも良かったからさ? しかし、あの時魔獣達から助けたせいで、俺を師匠に……この依頼の受領者に指定したのか。ふぃー、依頼主を警戒してたのがバカみたいだぜ」
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
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