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4章 魔法士小隊
4章ー20:感覚学習による魔力発現と、迷宮潜行の開始
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《旋風の眼》を具現化すると同時に、命彦と舞子の周囲に突如としてつむじ風が発生し、全周囲に拡散する。
その瞬間、舞子がぺたりと地面に座り込み、ガクンと首を垂れた。
勇子が気絶した舞子を後ろから抱えて、ぺチぺチと頬を叩く。
「おーい舞子、舞子ってば、しっかりしいや?」
「うう……はっ! 今のは! アレ? モフモフの6匹の子犬達はどこに……」
舞子が寝言のように言うと、命彦が苦笑を返した。
「あのちっこいミサヤ達は、俺の脳内で作り出した魔法の想像図だ。現実にはいねえよ。魔力を同調させた状態で、精霊探査魔法《旋風の眼》を展開したから、俺が頭に思い描いた魔法の想像図が、互いの魔力を介して舞子にも伝わったんだ」
命彦が繋いだままの舞子の手を引き、立たせて言葉を続ける。
「精霊は一定の性質を持った力の塊だ。感知系の効力を持つ探査魔法は、その精霊達に自分の五感の代わりをさせるわけで、当然魔法の想像図にもそれ相応の工夫を凝らす必要がある。早い話が、精霊達を自分の目や耳の一部にするため、意識上で精霊を生物化し、仮初の五感を与える必要があるんだよ」
「意識上で精霊を生物化、ですか? ……ってことは、さっきの小さいミサヤさん達は、全部マボロシということ? し、信じられません、凄まじい現実感があったのに!」
驚く舞子に、命彦の肩に乗ったミサヤが得意げに応じた。
『いいえ、マボロシですよ。実際《旋風の眼》が展開された時には、マヒコの周囲に魔力が混ざったつむじ風が発生し、拡散して行っただけですからね? 私に似た子犬の姿は、どこにもありません。要するに、風の精霊達に周囲を見回ってもらうため、精霊達に目を、身体を一時的に与えたということ。それが、マイコの見た魔法の想像図です』
どうやらミサヤは、命彦の魔法の想像図が、自分を参考にしていることを知っているらしい。ふふん、と勝ち誇るように舞子を見下ろしていた。
そのミサヤを見て苦笑しつつ、空太を傍にある瓦礫の上へ座らせたメイアが言う。
「まあ、初めて見たら驚くでしょうけど、感知系の探査魔法に生物化した魔法の想像図は付き物よ? この種の探査魔法を修得するつもりだったら、今後どういう風に精霊を生物化するのか、考えておいた方がいいわね?」
「ウチとメイアは命彦に探査魔法を教わったから、命彦の魔法の想像図をほぼ模倣して使ってるで? 考えるの面倒やったら、命彦の魔法の想像図をそのまま使えばええねん。そこのアホは、〔精霊使い〕学科の授業で精霊探査魔法を修得しとるから、独自の魔法の想像図を持っとるけど、イカレてるから真似すんのはやめときや?」
「は、はい……」
メイアに回収され、気絶からようやく目を覚ました空太が勇子に反論する。
「誰がイカレてるだ! 魔法の想像図は使い手によって違うのが普通だろ! 自分が想像しやすいのが1番だよ。精霊探査魔法の場合も、精霊に与える仮初の肉体は千差万別でいいんだっ! 僕の場合は義妹の空子が1番ゴブゥっ」
空太が力説し始めた瞬間、勇子の拳がまたもや火を噴いた。
「聞いとらんわい! えー……ってことで、魔法の想像図を真似するか、イチから作るかは、舞子の好きにし。さっき体感した感覚こそが一番重要やから。感知系の精霊探査魔法は、周囲の情報を精霊を介して感覚的に知覚する魔法や。ウチらも昔実際に味わったけど、結構オツムにきつかったやろ?」
「はい。凄い情報量が一気に脳へ叩き込まれて……気付いたら、意識がありませんでした」
「始めは皆そうよ。必要である情報と不要である情報を取捨選択して、次々に届く情報を素早く読み取る必要があるの。勿論、脳の処理能力をできるだけ抑えるためにね? この種の魔法って、繰り返し使って情報の取捨選択に脳を順応させる必要があるから、今後は命彦が精霊探査魔法を使う度に、逐一魔力を同調させて、魔法を使う感覚を学習してね?」
メイアが横目で命彦をチラチラ確認しつつ、勇子と目配せして発言する。
命彦はこの時点で、勇子とメイアが示し合わせていることに気付いた。
ミサヤがグルルと唸り、命彦にだけ聞こえるように、《思念の声》を発する。
『あの2人、勝手にマヒコの手を煩わせて……少し懲らしめましょうか?』
(まあ、落ち着けミサヤ。無知極まる新人を放って置けずに、手を貸してるつもりだろ? いや、この場合手を貸してるのは俺だけどさ。まあ面倒だが、しばらくは付き合うさ。そういう依頼だしね? 少し我慢してくれ、帰ったら一杯構ってやるから)
苛立っている様子のミサヤに《思念の声》を返し、ドウドウと抑えつつ、命彦は様子を見守っていた。
メイアから探査魔法の修得について聞いた舞子は、鼻息も荒く首を上下させる。
「探査魔法を使っている命彦さんの感覚を、魔力の同調を介して私自身が感じ取り、自分でもその感覚を再現できるように記憶する、ということですよね? 分かりました!」
「せや。舞子は一般人の家庭の生まれやろ? それやったら魔法士育成学校の1番最初の実習授業で、魔力を目覚めさせる訓練をした筈や。あれと同じ要領ですればええねん」
「了解です。私、魔力の発現も早い方だったので、すぐに修得して見せますよ。授業の終わり頃には、どうにか魔力に目覚めて、補助実習を受けませんでしたからね? 少しは才能がある筈です。ふんす!」
「その意気よ。応援してるわ」
舞子の意気揚々とした言動に、メイアは苦笑した。
魔法士育成学校に入学した新入生で、魔法について全く見知らぬ魔法未修者は、当然の如く魔力が未発現であり、魔法を訓練する以前に、魔力を目覚めさせる必要があった。
そのため魔法士育成学校では、1番最初の魔法実習授業で、教官によって魔法未修者の魔力の発現が行われる。
その方法が、さっき舞子の体感した、魔力の同調と非常によく似ていた。
教官が新入生の魔法未修者と手を繋ぎ、新入生の身体に自分の魔力を送り込んで、肉体の感覚に魔力が全身を走る感覚を憶え込ませるのである。
魔力は、魂を持つ生物の誰しもが持つ固有の力であり、普段眠っている魔力は、別の魔力に接触されると、防衛反応や免疫反応のように急激に活性化して、発現する。
この活性化を利用して魔力を叩き起こし、魔力を操る感覚を伝授する方法は、古来から魔法使いの一族の間で継承されていた秘儀であり、個人差はあるものの、確実に魔力を発現させる唯一の方法であった。
どういう魔法であっても、魔法自体が魔力の制御によって具現化された特殊現象である以上、魔法を使う感覚、魔力を操る感覚を知ることで、魔法の修得期間を相当短縮できる。
魔力の同調による魔法の伝授も、魔力の発現訓練と根本は同じであった。
「いやはや、舞子は無知に加えて豪胆やねぇ? まさか、魔法士育成学校に入学してすぐの、初日の実習授業の僅か数分で魔力に目覚めたメイアを前にして、自分の才能を語るとは恐れ入ったわ。あはははは……」
勇子が面白そうにケタケタ笑っていた。うええっという表情をする舞子の肩をバンバン叩いて、勇子は心底楽しそうである。
魔力の発現時間は人によってバラバラであり、1度目の授業でスッと目覚める生徒もいれば、繰り返しその訓練を受けて、ようやく魔力が目覚める生徒もいた。
当然のことだが、魔力の発現が遅れれば実習授業には参加できず、欠席と扱われて、欠席が一定数を超えると、自動的に単位を落とすために、学校側も休日や放課後に補助実習を行い、魔力未発現の生徒を重点的に訓練する授業体制をとっている。
魔法に対する適性、才能がある者ほど、魔力は発現しやすいため、初回の授業で魔力が発現した舞子は、一般論で言えば才能がある方へ分類されていた。
もっとも、メイアは訓練を受けたその瞬間に魔力を発現したため、自分とメイアの才能差を思い知り、舞子がしまったと焦る顔をするのも当然である。
勇子に殴打されたのにもう回復している空太が言う。
「メイアは魔力の発現訓練を受け持った女性教官が、放っといても数年後に勝手に魔力が発現してた化け物って、言ってたらしいよ? 数百万人に1人くらいの確率で、そういう人間がいるんだってさ」
「そしてそういう人間が、魔法使いの一族を作ったんだ。魔力の発現訓練を見れば分かると思うが、師匠が魔力を発現してねえと、そもそも弟子に訓練ができねえ。つまり魔法使いの一族を作った最初の1人、始祖は、自力で魔力を発現する必要がある。メイアは才能だけで見れば、文字通り始祖級だ。自分の魔法使いの一族を作れるぞ?」
「作りません! あんた達、面白がってるでしょ!」
プリプリして文句を言うメイアを見て、楽しそうに笑う空太と命彦。
その3人の会話を聞いて、勇子が目を丸くする。
焦ったり驚いたりする舞子のくるくるした表情が余計に面白いのか、勇子が声を上げて馬鹿笑いしていた。酷い先輩である。
「まあ、とりあえず舞子の発言は置いといて。ミサヤ、《地礫の眼》も使ってくれるか? 地上と上空は《旋風の眼》で見れるが、地下が心配だし」
命彦がミサヤに頼むと、ミサヤが舞子に思念を発した。
『承知しました。……先に行っときますがマイコ、私は手を貸しませんよ』
「あ……はい」
有無を言わさぬミサヤの思念を受けて、舞子が勇子の背に隠れる。
「ミサヤってば、新人に怖いわぁ」
ミサヤはぷいっと顔を背け、命彦の背に垂れた頭巾に潜り込んだ。
そのミサヤから魔力が走り、命彦の周囲にうねる砂塵が発生し、拡散して地面を滑っていく。
地の精霊を介した、感知系の精霊探査魔法《地礫の眼》である。
その様子を見て、舞子が言った。
「あの命彦さん、どうして2つも探査魔法を使うんですか? 1つで十分では?」
「いや、1つじゃ足りねえよ。探査魔法や儀式魔法は他の魔法術式と比べ、効力が複雑である分魔法の想像図もややこしい。それはつまり、魔法士による魔法の制御、とりわけ精霊の制御が難しく、精霊の持つ力の性質が、他の魔法術式より色濃く魔法の効力へ反映されるってことを意味するんだ」
命彦の言葉に、メイアと勇子、空太が続いた。
「具体的に言うとね、《旋風の眼》の場合は、風の精霊を介して探査魔法が具現化されるから、地上や上空の様子を探るのは得意だけど、地下の様子を探るのは難しいのよ。でも、魔獣には地下に潜む種類も当然いるわ」
「せやから同じ感知系の精霊探査魔法である《地礫の眼》を合わせて使うわけや。地の精霊を介してるから、《地礫の眼》は上空を探るんは難しいけど、地上と地下の様子を探るんは得意。2つの探査魔法を同時並行して使うことで、探査範囲内の死角を消しとんねん」
「攻撃魔法や付与魔法、結界魔法にも、精霊による効力差は一応あるんだけど、探査魔法や儀式魔法は、魔法の想像図や効力が複雑である分、一際その差が出やすいんだ。だからこそ、使う側がそれぞれの効力を熟知し、欠点を消すように組み合わせて使う必要があるわけさ」
「おまけで言うとくと、水の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《水流の眼》は、水面の下の様子まで探れるし、火の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《火炎の眼》は、火事場や溶岩の内側まで見れる。火山地帯が丸ごと迷宮域の九州迷宮やったら、溶岩に潜む魔獣とかおるから《火炎の眼》は必須やで?」
「他にも、心象精霊である陽聖の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《陽聖の眼》や、陰闇の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《陰闇の眼》は、霊体種魔獣の発見に必須よ?」
「れ、霊体種魔獣? それはどういう魔獣ですか?」
「そうね……多分帰りに分かるわよ」
くすくす笑うメイアに、オロオロとする舞子。その舞子へ命彦が言う。
「ほら、動くぞ。意外と時間を喰っちまった。ここでうだうだしてると、あっという間に日が暮れる。全員《旋風の纏い》を使え。廃墟の屋上を跳んで移動する」
「「「其の旋風の天威を衣と化し、我が身に風の加護を与えよ。包め《旋風の纏い》」」」
命彦達が詠唱して《旋風の纏い》を使い、手前の建築物の屋上へと跳躍した。
「凄いっ! 魔法機械の制作で付与魔法を使う〔魔工士〕のメイアさんはともかく、本来付与魔法は未修得である〔精霊使い〕の空太さんまで付与魔法を使えるとは……私も負けていられません!」
舞子も《旋風の纏い》を使い、命彦達の後を追って、廃墟の屋上を飛蝗のように跳ねて移動した。
その瞬間、舞子がぺたりと地面に座り込み、ガクンと首を垂れた。
勇子が気絶した舞子を後ろから抱えて、ぺチぺチと頬を叩く。
「おーい舞子、舞子ってば、しっかりしいや?」
「うう……はっ! 今のは! アレ? モフモフの6匹の子犬達はどこに……」
舞子が寝言のように言うと、命彦が苦笑を返した。
「あのちっこいミサヤ達は、俺の脳内で作り出した魔法の想像図だ。現実にはいねえよ。魔力を同調させた状態で、精霊探査魔法《旋風の眼》を展開したから、俺が頭に思い描いた魔法の想像図が、互いの魔力を介して舞子にも伝わったんだ」
命彦が繋いだままの舞子の手を引き、立たせて言葉を続ける。
「精霊は一定の性質を持った力の塊だ。感知系の効力を持つ探査魔法は、その精霊達に自分の五感の代わりをさせるわけで、当然魔法の想像図にもそれ相応の工夫を凝らす必要がある。早い話が、精霊達を自分の目や耳の一部にするため、意識上で精霊を生物化し、仮初の五感を与える必要があるんだよ」
「意識上で精霊を生物化、ですか? ……ってことは、さっきの小さいミサヤさん達は、全部マボロシということ? し、信じられません、凄まじい現実感があったのに!」
驚く舞子に、命彦の肩に乗ったミサヤが得意げに応じた。
『いいえ、マボロシですよ。実際《旋風の眼》が展開された時には、マヒコの周囲に魔力が混ざったつむじ風が発生し、拡散して行っただけですからね? 私に似た子犬の姿は、どこにもありません。要するに、風の精霊達に周囲を見回ってもらうため、精霊達に目を、身体を一時的に与えたということ。それが、マイコの見た魔法の想像図です』
どうやらミサヤは、命彦の魔法の想像図が、自分を参考にしていることを知っているらしい。ふふん、と勝ち誇るように舞子を見下ろしていた。
そのミサヤを見て苦笑しつつ、空太を傍にある瓦礫の上へ座らせたメイアが言う。
「まあ、初めて見たら驚くでしょうけど、感知系の探査魔法に生物化した魔法の想像図は付き物よ? この種の探査魔法を修得するつもりだったら、今後どういう風に精霊を生物化するのか、考えておいた方がいいわね?」
「ウチとメイアは命彦に探査魔法を教わったから、命彦の魔法の想像図をほぼ模倣して使ってるで? 考えるの面倒やったら、命彦の魔法の想像図をそのまま使えばええねん。そこのアホは、〔精霊使い〕学科の授業で精霊探査魔法を修得しとるから、独自の魔法の想像図を持っとるけど、イカレてるから真似すんのはやめときや?」
「は、はい……」
メイアに回収され、気絶からようやく目を覚ました空太が勇子に反論する。
「誰がイカレてるだ! 魔法の想像図は使い手によって違うのが普通だろ! 自分が想像しやすいのが1番だよ。精霊探査魔法の場合も、精霊に与える仮初の肉体は千差万別でいいんだっ! 僕の場合は義妹の空子が1番ゴブゥっ」
空太が力説し始めた瞬間、勇子の拳がまたもや火を噴いた。
「聞いとらんわい! えー……ってことで、魔法の想像図を真似するか、イチから作るかは、舞子の好きにし。さっき体感した感覚こそが一番重要やから。感知系の精霊探査魔法は、周囲の情報を精霊を介して感覚的に知覚する魔法や。ウチらも昔実際に味わったけど、結構オツムにきつかったやろ?」
「はい。凄い情報量が一気に脳へ叩き込まれて……気付いたら、意識がありませんでした」
「始めは皆そうよ。必要である情報と不要である情報を取捨選択して、次々に届く情報を素早く読み取る必要があるの。勿論、脳の処理能力をできるだけ抑えるためにね? この種の魔法って、繰り返し使って情報の取捨選択に脳を順応させる必要があるから、今後は命彦が精霊探査魔法を使う度に、逐一魔力を同調させて、魔法を使う感覚を学習してね?」
メイアが横目で命彦をチラチラ確認しつつ、勇子と目配せして発言する。
命彦はこの時点で、勇子とメイアが示し合わせていることに気付いた。
ミサヤがグルルと唸り、命彦にだけ聞こえるように、《思念の声》を発する。
『あの2人、勝手にマヒコの手を煩わせて……少し懲らしめましょうか?』
(まあ、落ち着けミサヤ。無知極まる新人を放って置けずに、手を貸してるつもりだろ? いや、この場合手を貸してるのは俺だけどさ。まあ面倒だが、しばらくは付き合うさ。そういう依頼だしね? 少し我慢してくれ、帰ったら一杯構ってやるから)
苛立っている様子のミサヤに《思念の声》を返し、ドウドウと抑えつつ、命彦は様子を見守っていた。
メイアから探査魔法の修得について聞いた舞子は、鼻息も荒く首を上下させる。
「探査魔法を使っている命彦さんの感覚を、魔力の同調を介して私自身が感じ取り、自分でもその感覚を再現できるように記憶する、ということですよね? 分かりました!」
「せや。舞子は一般人の家庭の生まれやろ? それやったら魔法士育成学校の1番最初の実習授業で、魔力を目覚めさせる訓練をした筈や。あれと同じ要領ですればええねん」
「了解です。私、魔力の発現も早い方だったので、すぐに修得して見せますよ。授業の終わり頃には、どうにか魔力に目覚めて、補助実習を受けませんでしたからね? 少しは才能がある筈です。ふんす!」
「その意気よ。応援してるわ」
舞子の意気揚々とした言動に、メイアは苦笑した。
魔法士育成学校に入学した新入生で、魔法について全く見知らぬ魔法未修者は、当然の如く魔力が未発現であり、魔法を訓練する以前に、魔力を目覚めさせる必要があった。
そのため魔法士育成学校では、1番最初の魔法実習授業で、教官によって魔法未修者の魔力の発現が行われる。
その方法が、さっき舞子の体感した、魔力の同調と非常によく似ていた。
教官が新入生の魔法未修者と手を繋ぎ、新入生の身体に自分の魔力を送り込んで、肉体の感覚に魔力が全身を走る感覚を憶え込ませるのである。
魔力は、魂を持つ生物の誰しもが持つ固有の力であり、普段眠っている魔力は、別の魔力に接触されると、防衛反応や免疫反応のように急激に活性化して、発現する。
この活性化を利用して魔力を叩き起こし、魔力を操る感覚を伝授する方法は、古来から魔法使いの一族の間で継承されていた秘儀であり、個人差はあるものの、確実に魔力を発現させる唯一の方法であった。
どういう魔法であっても、魔法自体が魔力の制御によって具現化された特殊現象である以上、魔法を使う感覚、魔力を操る感覚を知ることで、魔法の修得期間を相当短縮できる。
魔力の同調による魔法の伝授も、魔力の発現訓練と根本は同じであった。
「いやはや、舞子は無知に加えて豪胆やねぇ? まさか、魔法士育成学校に入学してすぐの、初日の実習授業の僅か数分で魔力に目覚めたメイアを前にして、自分の才能を語るとは恐れ入ったわ。あはははは……」
勇子が面白そうにケタケタ笑っていた。うええっという表情をする舞子の肩をバンバン叩いて、勇子は心底楽しそうである。
魔力の発現時間は人によってバラバラであり、1度目の授業でスッと目覚める生徒もいれば、繰り返しその訓練を受けて、ようやく魔力が目覚める生徒もいた。
当然のことだが、魔力の発現が遅れれば実習授業には参加できず、欠席と扱われて、欠席が一定数を超えると、自動的に単位を落とすために、学校側も休日や放課後に補助実習を行い、魔力未発現の生徒を重点的に訓練する授業体制をとっている。
魔法に対する適性、才能がある者ほど、魔力は発現しやすいため、初回の授業で魔力が発現した舞子は、一般論で言えば才能がある方へ分類されていた。
もっとも、メイアは訓練を受けたその瞬間に魔力を発現したため、自分とメイアの才能差を思い知り、舞子がしまったと焦る顔をするのも当然である。
勇子に殴打されたのにもう回復している空太が言う。
「メイアは魔力の発現訓練を受け持った女性教官が、放っといても数年後に勝手に魔力が発現してた化け物って、言ってたらしいよ? 数百万人に1人くらいの確率で、そういう人間がいるんだってさ」
「そしてそういう人間が、魔法使いの一族を作ったんだ。魔力の発現訓練を見れば分かると思うが、師匠が魔力を発現してねえと、そもそも弟子に訓練ができねえ。つまり魔法使いの一族を作った最初の1人、始祖は、自力で魔力を発現する必要がある。メイアは才能だけで見れば、文字通り始祖級だ。自分の魔法使いの一族を作れるぞ?」
「作りません! あんた達、面白がってるでしょ!」
プリプリして文句を言うメイアを見て、楽しそうに笑う空太と命彦。
その3人の会話を聞いて、勇子が目を丸くする。
焦ったり驚いたりする舞子のくるくるした表情が余計に面白いのか、勇子が声を上げて馬鹿笑いしていた。酷い先輩である。
「まあ、とりあえず舞子の発言は置いといて。ミサヤ、《地礫の眼》も使ってくれるか? 地上と上空は《旋風の眼》で見れるが、地下が心配だし」
命彦がミサヤに頼むと、ミサヤが舞子に思念を発した。
『承知しました。……先に行っときますがマイコ、私は手を貸しませんよ』
「あ……はい」
有無を言わさぬミサヤの思念を受けて、舞子が勇子の背に隠れる。
「ミサヤってば、新人に怖いわぁ」
ミサヤはぷいっと顔を背け、命彦の背に垂れた頭巾に潜り込んだ。
そのミサヤから魔力が走り、命彦の周囲にうねる砂塵が発生し、拡散して地面を滑っていく。
地の精霊を介した、感知系の精霊探査魔法《地礫の眼》である。
その様子を見て、舞子が言った。
「あの命彦さん、どうして2つも探査魔法を使うんですか? 1つで十分では?」
「いや、1つじゃ足りねえよ。探査魔法や儀式魔法は他の魔法術式と比べ、効力が複雑である分魔法の想像図もややこしい。それはつまり、魔法士による魔法の制御、とりわけ精霊の制御が難しく、精霊の持つ力の性質が、他の魔法術式より色濃く魔法の効力へ反映されるってことを意味するんだ」
命彦の言葉に、メイアと勇子、空太が続いた。
「具体的に言うとね、《旋風の眼》の場合は、風の精霊を介して探査魔法が具現化されるから、地上や上空の様子を探るのは得意だけど、地下の様子を探るのは難しいのよ。でも、魔獣には地下に潜む種類も当然いるわ」
「せやから同じ感知系の精霊探査魔法である《地礫の眼》を合わせて使うわけや。地の精霊を介してるから、《地礫の眼》は上空を探るんは難しいけど、地上と地下の様子を探るんは得意。2つの探査魔法を同時並行して使うことで、探査範囲内の死角を消しとんねん」
「攻撃魔法や付与魔法、結界魔法にも、精霊による効力差は一応あるんだけど、探査魔法や儀式魔法は、魔法の想像図や効力が複雑である分、一際その差が出やすいんだ。だからこそ、使う側がそれぞれの効力を熟知し、欠点を消すように組み合わせて使う必要があるわけさ」
「おまけで言うとくと、水の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《水流の眼》は、水面の下の様子まで探れるし、火の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《火炎の眼》は、火事場や溶岩の内側まで見れる。火山地帯が丸ごと迷宮域の九州迷宮やったら、溶岩に潜む魔獣とかおるから《火炎の眼》は必須やで?」
「他にも、心象精霊である陽聖の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《陽聖の眼》や、陰闇の精霊を介した感知系の精霊探査魔法《陰闇の眼》は、霊体種魔獣の発見に必須よ?」
「れ、霊体種魔獣? それはどういう魔獣ですか?」
「そうね……多分帰りに分かるわよ」
くすくす笑うメイアに、オロオロとする舞子。その舞子へ命彦が言う。
「ほら、動くぞ。意外と時間を喰っちまった。ここでうだうだしてると、あっという間に日が暮れる。全員《旋風の纏い》を使え。廃墟の屋上を跳んで移動する」
「「「其の旋風の天威を衣と化し、我が身に風の加護を与えよ。包め《旋風の纏い》」」」
命彦達が詠唱して《旋風の纏い》を使い、手前の建築物の屋上へと跳躍した。
「凄いっ! 魔法機械の制作で付与魔法を使う〔魔工士〕のメイアさんはともかく、本来付与魔法は未修得である〔精霊使い〕の空太さんまで付与魔法を使えるとは……私も負けていられません!」
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その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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