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5章 迷宮
5章ー6:マヒコとミサヤ、対【ヴァルキリー】小隊
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勇子の視線の先にいた命彦を一瞥した少女達は、表立って自分達と対立する勇子とメイアにきつい視線をぶつけ、忌々しい様子で口を開く。
「ふん、呆れた小隊ですわね? それほど暇ですの? どこの依頼所の小隊かしら?」
「随分と自分達の実力に自信があるようだが、小隊順位はどれほどのものだ?」
「私達は4番依頼所【魔法食堂ホムラ】の第60位小隊、【ヴァルキリー】。小隊員の平均年齢が10代で、60番台の小隊順位を持つのは4番依頼所において、この私達のみでしてよ?」
「その私達を2流や小物とおっしゃるのですから、当然貴方達はそれ以上ですよね? これで3桁の順位だったら、この場で土下座してもらいましょうか」
自信満々に言う少女達に、命彦達が顔を見合わせ、揃って余裕の笑みを返した。
「残念ね。私達は3番依頼所【魔法喫茶ミスミ】に所属する、第30位小隊【魔狼】よ?」
「ウチらこう見えて小隊順位は2桁やねん。確か小隊順位は依頼所間で同じ選定指標があった筈や。つまり、ウチらはお嬢さん方の4番依頼所でも、小隊順位は30位に相当する。ごめんやでぇ、土下座でけへんわぁ。あ、お嬢さんらがしてくれんのん?」
メイアと勇子が煽るように返すと、4人の少女達の顔に動揺が走った。
「しょ、小隊順位30位ですって!」
「ありえん……」
「私達よりも実力が上? 嘘でしょう?」
「3人とも落ち着いて! 【魔狼】小隊と言えば、3番依頼所の神樹所長がお気に入りの魔法士小隊と聞いたことがあります。実力以上に小隊順位や学科位階が先行しているとも噂される、色物コネ小隊ですわ!」
小隊長と思しき眼鏡少女の言葉を聞いて、他の3人の少女達が動揺を表情から消した。
「そ、そう言えば……小隊長が神樹家と関係の深い魂斬家の者とかで、所長の娘とも懇意にしていると聞きますし、小隊員にも確か〔魔工士〕が混じっていた筈。うふふ、順位に驚くことはありません! 恐らく小隊本来の実力とは、相当乖離していますもの!」
「確かに。生産型の学科魔法士である〔魔工士〕を連れて、迷宮の深奥に出入りするとは考えにくいですからね。ふふふ、どうせ近場で済む危険度の低い依頼ばかりを達成して、あとは所長のコネで順位に下駄をはかせてもらっているのでしょう!」
少女達の自分達に都合の良い解釈と、〔魔工士〕を見下したように聞こえる言葉に、メイアが過敏に反応し、ギラリと剣呑極まる目付きを作った。
勇子も、そして命彦の傍で事態をじいっと見守っていた空太でさえも、自分達の小隊を馬鹿にされて目に怒気を宿す。
「随分と都合の良い解釈をしてくれるわね? 生産型の魔法士が迷宮に潜るのはそれほどおかしいことかしら。魔獣と戦える〔魔工士〕もいるわよ? 実力、確かめてみる?」
「コネで下駄はかすとはよう言うたもんや。ほぼ週3で迷宮へ潜り、迷宮の最深部、第3迷宮域にも行ったことあるウチらを相手に。ええんやでここでおっぱじめても? 最初に煽ったんはあんたらやし」
【ヴァルキリー】小隊の少女達と、メイアと勇子が、一触即発の空気を作った。
【魔狼】と【ヴァルキリー】、場合によっては魔法士小隊同士の激突も有り得る雰囲気である。
舌戦の発端である舞子は、事態の深刻さに気付き、どうしようとオロオロしていた。
一方、女子同士の舌戦を黙って観戦していた命彦は、ミサヤと顔を見合わせ、眼前の諍いを止めるかどうか普通に迷っていた。
勇子達の後ろで右往左往する舞子を気にしつつ、空太にどうすると目で合図すると、空太は任せるとでも言うように、首を縦に振る。
その命彦達のやり取りに気付いた眼鏡の少女が、突然命彦を見て言った。
「そこの隊長さん、いつまで黙って見ているつもりですの? 彼女達、ここでつぶしてしまいますわよ? ふん! 魂斬家と言えば日本でも特に古い歴史を持つ、極めて戦闘力の高い魔法使いの一族と聞いていましたが、地に落ちたものですわねぇ? このように低俗で粗暴極まる小隊員を囲い、家同士のツテを頼って小隊順位を得ているとは……無様ですわ!」
見下したように言う、その少女の言葉がマズかった。
自分が話題の発端であるにもかかわらず、いつの間にか蚊帳の外に置かれていた舞子は、命彦の目付きに不穏極まるモノを感じ、身震いした。空太もすぐに命彦から距離を取る。
メイアも瞳から剣呑さを消し、勇子でさえその眼に憐れみを宿していた。
「あんたら、1つだけ忠告しといたるわ。今後も普通に女として生きてたいんやったら、ウチらの小隊長の実家については、一切口に出さん方がええ。特に止めてくれる人が周りにおらん、迷宮内では絶対にやめとけ。後悔するで?」
「無知って本当に怖いわね? 同じ女として助言するわ。命彦の実家に対して罵詈雑言や、小馬鹿にする類の言葉を吐くのは、本当に……冗談抜きでやめたといた方がいいわよ? 特殊性癖に目覚めさせられるから」
「あー、僕からも1つ言わせてもらうよ? 今お嬢さん方がするべきことは、この場を全力で逃走するか、全身全霊で土下座して、さっきの言葉を取り消すかの2択だ。言っとくけど、こっちは親切で言っているんだ。真剣に考えるべきだよ?」
メイアと勇子、空太のおかしい雰囲気に、疑問符を浮かべる4人の少女達。
「……はあっ? さっきからおっしゃっていることの意味が分かりませんわ? あのずっと黙っている、見た目からして地味で小物っぽい小隊長如きにいっ!」
命彦と視線を合わせた瞬間、4人の少女達が突然武具型魔法具を構え、臨戦態勢を取った。
おどろおどろしい殺気を宿した命彦の眼、そして、その横で牙を剥く子犬の様子に、気圧されたからである。
『我が主はお怒りだ、小娘ども。先の言葉……逆鱗に触れたぞ? 早急に選べ。額を地に付け、速やかに伏して謝るか、尻尾を巻いて逃げるかを!』
ミサヤの重たい《思念の声》が、戦槌のように少女達の頭を打つ。
「くっ! だ、誰が魔獣風情の言葉に従いますかっ!」
ミサヤの思念に一瞬怯むも、眼鏡少女が言い返した。
隊長であろう少女の言葉を聞いて、一斉にうんうんと首を振る他の少女達。
『お前達は……』
「今選択を誤ったぞ?」
魔法具を構える少女達を一瞥し、ミサヤと命彦が魔力を放出して制御した。
ただ魔力を放出しただけとはいえ、凄まじい量の魔力を放出した命彦達を警戒し、怯え焦った眼鏡の少女が、慌てて精霊攻撃魔法を短縮詠唱する。
「ひいっ!? う、穿て《火炎の矢》!」
火の追尾系魔法弾が眼鏡少女の頭上に10ほど出現し、先手必勝とばかりに命彦とミサヤへ放たれる。魔力の制御を見ると、優れた魔法士であることはうかがえるが、動揺して冷静さを欠いている時点で、本来の実力は封じられていた。
少女が先制攻撃に走るその様子を見て、命彦はニヤリと笑う。
当然のことだが、魔法士同士の諍い、争いの場合、先に手を出した者、先に相手へ魔法攻撃を仕掛けた魔法士の方が、重い責任を課される。
魔力の展開だけでは手を出したと判断されず、殺傷力のある魔法現象を具現化した時から、帰責性の判断が行われた。
10の追尾系魔法弾が発射されると同時に、ミサヤが咆える。
すると命彦達の頭上に200以上の《旋風の矢》が出現し、《火炎の矢》を迎撃して全弾を撃ち落とした挙句、少女達へ次々に降りかかった。
咄嗟に1か所に固まって、火の精霊結界魔法《火炎の動壁》を前方へと多重展開し、それぞれが防具型魔法具の盾を構えて、手数で魔法防壁を突破して来る《旋風の矢》を、どうにか防ぐ少女達であるが、弾幕の激しさのせいで命彦から注意を逸らしてしまった。
その間に、命彦が朗々と呪文を紡ぐ。
「……其の陰闇の天威を暗器と化し、我が敵を縫い止めよ。止まれ《陰遁・影縫い》」
少女達が防御態勢を作り、ミサヤの《旋風の矢》を受けている間に、命彦の具現化した漆黒の魔法弾が4つ、夜の闇に溶けるように走り、少女達の背後へ回って、廃墟の白い屋上の床に浮き上がる影を、火の結界魔法と月の明かりで浮き上がっていた少女達の影を、的確に射抜いた。
「「「「っ!!」」」」
目前の《旋風の矢》に気を取られ、不意討ち気味に命彦の魔法攻撃を受けた少女達は、回避も防御もできず、突然走る痛撃に身を固くして、手に持っていた魔法具を落とした。
自分の身に起こった異常に気付いて、少女達が顔色を失う。
口も指も動かせず、声も封じられて、その場で少女達は固まっていた。
痛みに唇を震わせる少女達。よく見ると、魔法弾が刺さった影の部分と、対応している自分の身体の部位を、少女達は手で押さえている。
影の胸の部分を魔法弾で縫い止められた少女は胸を押えて、影の腹の部分を縫い止められた少女は腹を押えて、その姿勢のままで少女達は固まっていた。
精霊攻撃魔法《陰遁・影縫い》。心象精霊である陰闇の精霊達を魔力に取り込んで使役し、魔法的状態異常を引き起こす漆黒の魔法弾を高速で射出して、対象の影を貫き、影の動きを止めることで、魔法対象者の肉体に時間的停止という異常を引き起こす魔法である。
異常系と呼ばれる攻撃魔法は、眠りや麻痺といった魔法的状態異常を与える、異常系魔法弾を具現化するが、《陰遁・影縫い》はそうした異常系の攻撃魔法でも、全く防御せずに魔法弾を受けてしまうと、特に致命的と言われる攻撃魔法であった。
心象精霊である陽聖の精霊や陰闇の精霊は、他の精霊と違って隠れた力の性質を持つ。
それが時空間干渉。時間や空間に干渉する力の性質であった。
陽聖の精霊は生きることへの希望、生への活力を力の性質として取り込んでいるため、他者へ活力を与える精霊治癒魔法によく使われる。
一方、陰闇の精霊は死への絶望、逃れ得ぬ破滅への脱力を力の性質として取り込んでいるため、呪詛をかけて他者の力を奪う精霊儀式魔法によく使われた。
本来、陽聖の精霊は活力を与え、陰闇の精霊は活力を奪うことが、それぞれの力の性質であるが、生物の心理的情報、生への希望や死への絶望は、人々の祈りや呪いとして特定の空間に留まる性質も持っている。
人々の祈りが集まる神社や寺には清い空気が感じられるし、死した人々の無念や呪いが集まる災害現場や人死にのあった廃墟には、淀んだ空気が感じられるだろう。
祈りや呪いは、時間経過とともに自然とその空間に積もって行き、清い空間はより清く、淀んでいる空間はより淀んで行った。
こうした2次的情報も取り込むせいで、心象精霊は時間や空間に干渉する力の性質を隠し持っている。
本来、時空間に干渉する力の性質を持つ精霊は、次元や時空間という概念の情報を取り込んだ基心外精霊、次空の精霊のみであるが、この次空の精霊は見付けるのが凄まじく難しいため、一般的に時空間に干渉する効力を持つ精霊魔法は、心象精霊を使っていた。
《陰遁・影縫い》の効力も、まさにこの心象精霊の隠れた性質に起因している。
影を射抜かれた対象者は、射抜かれた影と対応する身体の一部に、心理的痛撃を受けて苦悶し、影を介した肉体空間の時間を停止させられた。
怯え震える少女達の前には、にこやかに笑う命彦がいるが、その額には十字の血管が浮かび、目付きは据わっている。
「追尾系魔法弾を近距離で使われたら、全方位を警戒するのは基本だろうが。前方ばかり攻撃を受けてる時点で陽動って気付けよ。魔法戦闘の常識だろうが? 良い魔法具を装備してても、それで魔法防御の意識が薄れたら本末転倒だ、ドアホウ共め」
『全くです。……おやおや、随分痛そうですね? 治癒魔法、使ってもいいのですよ? この魔法的状態異常を解ける治癒魔法を、今この場で誰かが使えればの話ですが?』
命彦の言葉とミサヤの思念から、空気を侵食する怒気が感じられ、舞子は顔色を失った。
「ふん、呆れた小隊ですわね? それほど暇ですの? どこの依頼所の小隊かしら?」
「随分と自分達の実力に自信があるようだが、小隊順位はどれほどのものだ?」
「私達は4番依頼所【魔法食堂ホムラ】の第60位小隊、【ヴァルキリー】。小隊員の平均年齢が10代で、60番台の小隊順位を持つのは4番依頼所において、この私達のみでしてよ?」
「その私達を2流や小物とおっしゃるのですから、当然貴方達はそれ以上ですよね? これで3桁の順位だったら、この場で土下座してもらいましょうか」
自信満々に言う少女達に、命彦達が顔を見合わせ、揃って余裕の笑みを返した。
「残念ね。私達は3番依頼所【魔法喫茶ミスミ】に所属する、第30位小隊【魔狼】よ?」
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メイアと勇子が煽るように返すと、4人の少女達の顔に動揺が走った。
「しょ、小隊順位30位ですって!」
「ありえん……」
「私達よりも実力が上? 嘘でしょう?」
「3人とも落ち着いて! 【魔狼】小隊と言えば、3番依頼所の神樹所長がお気に入りの魔法士小隊と聞いたことがあります。実力以上に小隊順位や学科位階が先行しているとも噂される、色物コネ小隊ですわ!」
小隊長と思しき眼鏡少女の言葉を聞いて、他の3人の少女達が動揺を表情から消した。
「そ、そう言えば……小隊長が神樹家と関係の深い魂斬家の者とかで、所長の娘とも懇意にしていると聞きますし、小隊員にも確か〔魔工士〕が混じっていた筈。うふふ、順位に驚くことはありません! 恐らく小隊本来の実力とは、相当乖離していますもの!」
「確かに。生産型の学科魔法士である〔魔工士〕を連れて、迷宮の深奥に出入りするとは考えにくいですからね。ふふふ、どうせ近場で済む危険度の低い依頼ばかりを達成して、あとは所長のコネで順位に下駄をはかせてもらっているのでしょう!」
少女達の自分達に都合の良い解釈と、〔魔工士〕を見下したように聞こえる言葉に、メイアが過敏に反応し、ギラリと剣呑極まる目付きを作った。
勇子も、そして命彦の傍で事態をじいっと見守っていた空太でさえも、自分達の小隊を馬鹿にされて目に怒気を宿す。
「随分と都合の良い解釈をしてくれるわね? 生産型の魔法士が迷宮に潜るのはそれほどおかしいことかしら。魔獣と戦える〔魔工士〕もいるわよ? 実力、確かめてみる?」
「コネで下駄はかすとはよう言うたもんや。ほぼ週3で迷宮へ潜り、迷宮の最深部、第3迷宮域にも行ったことあるウチらを相手に。ええんやでここでおっぱじめても? 最初に煽ったんはあんたらやし」
【ヴァルキリー】小隊の少女達と、メイアと勇子が、一触即発の空気を作った。
【魔狼】と【ヴァルキリー】、場合によっては魔法士小隊同士の激突も有り得る雰囲気である。
舌戦の発端である舞子は、事態の深刻さに気付き、どうしようとオロオロしていた。
一方、女子同士の舌戦を黙って観戦していた命彦は、ミサヤと顔を見合わせ、眼前の諍いを止めるかどうか普通に迷っていた。
勇子達の後ろで右往左往する舞子を気にしつつ、空太にどうすると目で合図すると、空太は任せるとでも言うように、首を縦に振る。
その命彦達のやり取りに気付いた眼鏡の少女が、突然命彦を見て言った。
「そこの隊長さん、いつまで黙って見ているつもりですの? 彼女達、ここでつぶしてしまいますわよ? ふん! 魂斬家と言えば日本でも特に古い歴史を持つ、極めて戦闘力の高い魔法使いの一族と聞いていましたが、地に落ちたものですわねぇ? このように低俗で粗暴極まる小隊員を囲い、家同士のツテを頼って小隊順位を得ているとは……無様ですわ!」
見下したように言う、その少女の言葉がマズかった。
自分が話題の発端であるにもかかわらず、いつの間にか蚊帳の外に置かれていた舞子は、命彦の目付きに不穏極まるモノを感じ、身震いした。空太もすぐに命彦から距離を取る。
メイアも瞳から剣呑さを消し、勇子でさえその眼に憐れみを宿していた。
「あんたら、1つだけ忠告しといたるわ。今後も普通に女として生きてたいんやったら、ウチらの小隊長の実家については、一切口に出さん方がええ。特に止めてくれる人が周りにおらん、迷宮内では絶対にやめとけ。後悔するで?」
「無知って本当に怖いわね? 同じ女として助言するわ。命彦の実家に対して罵詈雑言や、小馬鹿にする類の言葉を吐くのは、本当に……冗談抜きでやめたといた方がいいわよ? 特殊性癖に目覚めさせられるから」
「あー、僕からも1つ言わせてもらうよ? 今お嬢さん方がするべきことは、この場を全力で逃走するか、全身全霊で土下座して、さっきの言葉を取り消すかの2択だ。言っとくけど、こっちは親切で言っているんだ。真剣に考えるべきだよ?」
メイアと勇子、空太のおかしい雰囲気に、疑問符を浮かべる4人の少女達。
「……はあっ? さっきからおっしゃっていることの意味が分かりませんわ? あのずっと黙っている、見た目からして地味で小物っぽい小隊長如きにいっ!」
命彦と視線を合わせた瞬間、4人の少女達が突然武具型魔法具を構え、臨戦態勢を取った。
おどろおどろしい殺気を宿した命彦の眼、そして、その横で牙を剥く子犬の様子に、気圧されたからである。
『我が主はお怒りだ、小娘ども。先の言葉……逆鱗に触れたぞ? 早急に選べ。額を地に付け、速やかに伏して謝るか、尻尾を巻いて逃げるかを!』
ミサヤの重たい《思念の声》が、戦槌のように少女達の頭を打つ。
「くっ! だ、誰が魔獣風情の言葉に従いますかっ!」
ミサヤの思念に一瞬怯むも、眼鏡少女が言い返した。
隊長であろう少女の言葉を聞いて、一斉にうんうんと首を振る他の少女達。
『お前達は……』
「今選択を誤ったぞ?」
魔法具を構える少女達を一瞥し、ミサヤと命彦が魔力を放出して制御した。
ただ魔力を放出しただけとはいえ、凄まじい量の魔力を放出した命彦達を警戒し、怯え焦った眼鏡の少女が、慌てて精霊攻撃魔法を短縮詠唱する。
「ひいっ!? う、穿て《火炎の矢》!」
火の追尾系魔法弾が眼鏡少女の頭上に10ほど出現し、先手必勝とばかりに命彦とミサヤへ放たれる。魔力の制御を見ると、優れた魔法士であることはうかがえるが、動揺して冷静さを欠いている時点で、本来の実力は封じられていた。
少女が先制攻撃に走るその様子を見て、命彦はニヤリと笑う。
当然のことだが、魔法士同士の諍い、争いの場合、先に手を出した者、先に相手へ魔法攻撃を仕掛けた魔法士の方が、重い責任を課される。
魔力の展開だけでは手を出したと判断されず、殺傷力のある魔法現象を具現化した時から、帰責性の判断が行われた。
10の追尾系魔法弾が発射されると同時に、ミサヤが咆える。
すると命彦達の頭上に200以上の《旋風の矢》が出現し、《火炎の矢》を迎撃して全弾を撃ち落とした挙句、少女達へ次々に降りかかった。
咄嗟に1か所に固まって、火の精霊結界魔法《火炎の動壁》を前方へと多重展開し、それぞれが防具型魔法具の盾を構えて、手数で魔法防壁を突破して来る《旋風の矢》を、どうにか防ぐ少女達であるが、弾幕の激しさのせいで命彦から注意を逸らしてしまった。
その間に、命彦が朗々と呪文を紡ぐ。
「……其の陰闇の天威を暗器と化し、我が敵を縫い止めよ。止まれ《陰遁・影縫い》」
少女達が防御態勢を作り、ミサヤの《旋風の矢》を受けている間に、命彦の具現化した漆黒の魔法弾が4つ、夜の闇に溶けるように走り、少女達の背後へ回って、廃墟の白い屋上の床に浮き上がる影を、火の結界魔法と月の明かりで浮き上がっていた少女達の影を、的確に射抜いた。
「「「「っ!!」」」」
目前の《旋風の矢》に気を取られ、不意討ち気味に命彦の魔法攻撃を受けた少女達は、回避も防御もできず、突然走る痛撃に身を固くして、手に持っていた魔法具を落とした。
自分の身に起こった異常に気付いて、少女達が顔色を失う。
口も指も動かせず、声も封じられて、その場で少女達は固まっていた。
痛みに唇を震わせる少女達。よく見ると、魔法弾が刺さった影の部分と、対応している自分の身体の部位を、少女達は手で押さえている。
影の胸の部分を魔法弾で縫い止められた少女は胸を押えて、影の腹の部分を縫い止められた少女は腹を押えて、その姿勢のままで少女達は固まっていた。
精霊攻撃魔法《陰遁・影縫い》。心象精霊である陰闇の精霊達を魔力に取り込んで使役し、魔法的状態異常を引き起こす漆黒の魔法弾を高速で射出して、対象の影を貫き、影の動きを止めることで、魔法対象者の肉体に時間的停止という異常を引き起こす魔法である。
異常系と呼ばれる攻撃魔法は、眠りや麻痺といった魔法的状態異常を与える、異常系魔法弾を具現化するが、《陰遁・影縫い》はそうした異常系の攻撃魔法でも、全く防御せずに魔法弾を受けてしまうと、特に致命的と言われる攻撃魔法であった。
心象精霊である陽聖の精霊や陰闇の精霊は、他の精霊と違って隠れた力の性質を持つ。
それが時空間干渉。時間や空間に干渉する力の性質であった。
陽聖の精霊は生きることへの希望、生への活力を力の性質として取り込んでいるため、他者へ活力を与える精霊治癒魔法によく使われる。
一方、陰闇の精霊は死への絶望、逃れ得ぬ破滅への脱力を力の性質として取り込んでいるため、呪詛をかけて他者の力を奪う精霊儀式魔法によく使われた。
本来、陽聖の精霊は活力を与え、陰闇の精霊は活力を奪うことが、それぞれの力の性質であるが、生物の心理的情報、生への希望や死への絶望は、人々の祈りや呪いとして特定の空間に留まる性質も持っている。
人々の祈りが集まる神社や寺には清い空気が感じられるし、死した人々の無念や呪いが集まる災害現場や人死にのあった廃墟には、淀んだ空気が感じられるだろう。
祈りや呪いは、時間経過とともに自然とその空間に積もって行き、清い空間はより清く、淀んでいる空間はより淀んで行った。
こうした2次的情報も取り込むせいで、心象精霊は時間や空間に干渉する力の性質を隠し持っている。
本来、時空間に干渉する力の性質を持つ精霊は、次元や時空間という概念の情報を取り込んだ基心外精霊、次空の精霊のみであるが、この次空の精霊は見付けるのが凄まじく難しいため、一般的に時空間に干渉する効力を持つ精霊魔法は、心象精霊を使っていた。
《陰遁・影縫い》の効力も、まさにこの心象精霊の隠れた性質に起因している。
影を射抜かれた対象者は、射抜かれた影と対応する身体の一部に、心理的痛撃を受けて苦悶し、影を介した肉体空間の時間を停止させられた。
怯え震える少女達の前には、にこやかに笑う命彦がいるが、その額には十字の血管が浮かび、目付きは据わっている。
「追尾系魔法弾を近距離で使われたら、全方位を警戒するのは基本だろうが。前方ばかり攻撃を受けてる時点で陽動って気付けよ。魔法戦闘の常識だろうが? 良い魔法具を装備してても、それで魔法防御の意識が薄れたら本末転倒だ、ドアホウ共め」
『全くです。……おやおや、随分痛そうですね? 治癒魔法、使ってもいいのですよ? この魔法的状態異常を解ける治癒魔法を、今この場で誰かが使えればの話ですが?』
命彦の言葉とミサヤの思念から、空気を侵食する怒気が感じられ、舞子は顔色を失った。
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"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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