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6章 逢魔が時
6章ー14:応戦の時、【魔狼】小隊 対 【水龍】
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命彦達と魔竜種魔獣【水龍】との本格戦闘が開始されようとしていた頃。
神霊種魔獣【雷命の女神:ミカヅチヒメ】との意識の接続を試みていたメイアは、神霊との接触を妨げる壁を感じていた。
(あの結界魔法、意識体を堰き止める力もあるのか……くぬぬ)
魔力に意識を乗せて、今いる次元・時空間の外へ、外へと、自分の意識を広げようとするが、どうにも重たい抵抗感がある。
その抵抗感を探るうちに、メイアはミズチが使った精霊融合結界魔法に、次元・時空間へと干渉する効力があることを思い出し、神霊と自分との接触を融合魔法防壁が妨害している可能性に気付いた。
(そう言えばミサヤが、ミズチの使った捕縛系の融合結界魔法には、陽聖の精霊が使われてるって言ってたわね? 陽聖の精霊は活力を与える本来の性質以外にも、2次的に次元・時空間へ干渉する性質も持つ筈。この抵抗感は、結界の持つ空間干渉力のせいか……ええいもう、重くて鬱陶しい! とにかくミカヅチヒメ様と会って、力をお借りするのが最優先だわ)
メイアが結界魔法の妨害をどうにか突破し、次元の狭間にたゆたい、自らに加護を与えた神霊種魔獣と再会して言う。
「ミカヅチヒメ様、お願いします。また力を貸してください!」
神霊種魔獣への恐れは、まだ色濃くメイアの心の内にあった。
しかし、自分が神霊魔法の使用を遅れれば遅れるほど、命彦とミサヤはともかく、勇子や空太、舞子が危険に晒され、魔竜に殺される可能性が高まる。
そのことを思うと、神霊の力に対する怖れよりも、友人達の無事を願う心配が勝った。
メイアの心情を理解するように、天女を思わせる神々しき美女の神霊種魔獣は、終始無言のまま、メイアへと歩み寄り、メイアと自分の姿とを重ねた。
命彦達がミズチと対峙して互いに牽制し合い、仕かけ時を探っていた頃。
メイアの身体から、突如として神霊の魔力が放出された。
「メイアさん!」
「間に合ったんか」
「よし、これで形勢逆転だよ!」
メイアから神霊の魔力を感じ取り、勇子達が歓喜する。
しかし、命彦とミサヤは感知系の精霊探査魔法を維持し続けていたせいか、すぐに感じ取った。
メイアの神霊儀式魔法、《神降ろし》が不完全であることを。
ミズチから視線を外さず、《旋風の眼》でメイアを見た命彦が問う。
「メイア、神霊には会ったのか?」
「ええ、時間をかけてごめんね。ちょっと結界魔法の妨害があって。あ、命彦の御利益を頼むの忘れてたわ」
「それはどうでもいい。お前、気付いてねえのか?」
「え?」
『その妨害、今も続いていますよ?』
ミサヤの思念にメイアがハッとする。勇子達も異常に気付いた。
「神の力を持つことを示す、神霊の幻影が出てねえ。恐らく、今の《神降ろし》は不完全だ」
命彦の言葉に、喜んでいた筈の勇子達が一瞬で沈黙した。
神霊儀式魔法《神降ろし》が完全であれば、ドリアード戦の時のように、メイアの背後に【雷命の女神:ミカヅチヒメ】の幻影が映し出され、全身から溢れ出た神霊の魔力が周囲に発散される筈である。
しかし今は、神霊の幻影は全く見えず、神の魔力も一応感じられるものの、周囲に発散されるどころか、メイアの身体に留まっていた。
「神霊との接続は成功してるっぽいが、力の流入がいつもより相当制限されてる印象を受ける。どうだメイア? 自分で感じねえか?」
「……多分、命彦の言うとおりだと思うわ。どうにかミカヅチヒメ様と繋がってるだけで、力の流入は相当の部分が堰き止められてる気がする。本来だったら溢れ出て来る筈の神霊の魔力が、今回は随分と弱々しいもの」
『蛇口の栓を閉めるように、結界魔法がこの空間への神霊の力の流入を妨げているのでしょう。しかし、単に獲物を閉じ込めるどころか、神霊魔法まで妨害する効力を持つとは、私も気付きませんでした。まあ、メイアが神霊魔法の使い手として未熟だからこそでしょうが……とはいえ、幾ら空間干渉力を持つと言っても、魔竜種魔獣が使う結界魔法にしては、やけに手が込んでいますね。ただの偶然で片付けてよいものか。でき過ぎているように思えます』
ミサヤがメイアを観察するように見ているミズチを注視しつつ、《思念の声》で疑念を語ると、命彦も同意した。
「ああ。神霊魔法の唯一の弱点はこの魔法の使い手だ。熟練した神霊魔法の使い手だったら、神霊との接続もあらゆる次元や時空間を超えて一瞬で済むから、妨害もほぼ無意味だが、メイアみたいに未熟だと妨害もしやすい。こうして神霊魔法の使用自体を制限することもできる。その意味じゃ、まるで狙い澄ましたかのようにメイアへ効く結界魔法だ。初めて遭遇した筈のミズチがそれを使うのか……面白くねえ、不気味だ」
じっとメイアを見るミズチ。そのミズチの行動に疑念を持った命彦が問う。
「あいつは普通の魔竜とは違う気がする。早く現状を打破したい。メイア、結界魔法は破れそうか?」
「一応今の力を全て使えば、簡単に破れるとは思うんだけど、その後すぐに逃げたり、ミズチと戦ったりしろとか言われると、少し難しいかも……主に私の体調の面でね?」
「結界が消えれば、神霊の魔力が一気に自分へ流入する可能性があるから、受け止められるかどうかが心配ってわけやね」
勇子がメイアの不安を代弁すると、命彦がミズチを見つつ〈魔狼の風太刀:ハヤテマカミ〉を構え、顔をしかめた。
「やれやれ、逃げるためにはこの結界魔法をまず破る必要があるのに、ミズチが目前にいる現状じゃ、当然のように妨害されちまう。その妨害を防ぐため、ある程度までミズチと戦って弱らせるとすると、今度は俺達が危険に晒される上に……」
『死に物狂いでミズチが決死の反撃を行う可能性が高まります。それだったら、もう最初から全力で反撃を許さぬほど徹底的に攻撃して、ミズチを仕留めに行った方が良いでしょう。短期決戦で確実に止めを刺す。現状ではそれが一番安全で、周囲に被害が及びません』
ミサヤの思念を聞いて、舞子と空太が顔を蒼くする。
「えーと、それってつまり、結局あのミズチと全力で戦うってことですよね?」
「僕は嫌だよ! 昨日もドリアードと戦って死にかけたのに! 絶対勇子のせいだ! 勇子が最初から戦わへんかとか言うから、結局皆で戦う破目に……うう」
「ここでそれ言うか普通?」
「勇子のせいじゃねえよ。勇子が戦おうって言ってた時と今の情勢はまるで違う。誰のせいって言ったら、それは確実にあのミズチのせいだ。とにかく今は戦う以外に活路がねえ、全員腹をくくれ。ミズチの反撃をできる限り抑えつつ、全力で叩く。行くぞ!」
命彦がそう言うと、舞子以外の【魔狼】小隊の面々が真剣に表情を引き締めた。
「まあ、やるしかあらへんね」
「あーもう! 無茶苦茶だ! ホント勘弁してくれよっ!」
「この状態でどこまで戦えるのか不安だけど……でも、このままじゃマズいのは分かるわ。やれるだけやってみましょう」
命彦達の戦意が高揚して行くことを察したのか。
ミズチが多数の追尾系魔法弾を具現化して、突然攻撃した。
「この程度っ!」
「貫け《地礫の槍》!」
「僕も! 貫け《火炎の槍》」
「うおりゃあぁーっ!」
メイアが神霊結界魔法を展開し、分厚い周囲系魔法防壁で防御すると同時に、命彦とミサヤ、空太が集束系魔法弾でミズチを攻撃し、勇子が一気に間合いを詰めて、ミズチを融合魔法力場を纏う拳で殴打した。
静から動へ。一瞬で始まった戦い。
「……っ!」
さっきまでの探り合いが嘘のように、あっという間に戦端が開かれたのを見て、メイアの横にいた舞子は背筋を凍らせた。
「勇子、30秒だけ前衛は任せた。空太は勇子の援護と魔法攻撃を、メイアは魔法防御に気を配りつつ、神霊攻撃魔法を叩き込め! 舞子はポマコンで映像記録だ、自衛軍と都市警察に後で確認してもらう!」
「「「了解」」」
メイア達全員に指示を出し、命彦は魔力を全身から放出した。
地水火風の基幹精霊を自分の魔力に取り込み、融合させて掌握する。
脳裏に思い浮かべるのは、全身を包む輝く魔法力場であった。
自分に魔竜と戦う力を与える、精霊融合付与魔法の姿を想像し、命彦が呪文を紡ぎ出す。
「地礫の天威、水流の天威、火炎の天威、旋風の天威。精霊の円環、融く合し束ねて神の衣と化し、相乗四象の加護を与えよ。包め《四象融合の纏い》」
勇子に続き、命彦も《四象融合の纏い》を具現化し、淡い4色の色相環を作って輝く、分厚い融合魔法力場を身に纏う。
「行くぞミサヤ!」
『思うままにその力を振るってください、我が主よ』
命彦が凄まじい速度でミズチに迫り、勇子と入れ換わると同時に、ハヤテマカミでミズチの顔面を切りつけた。
「てえぃりゃあっ!」
「グルッ!」
淡い青と緑色の分厚い魔法力場を纏い、顔面と刀身との間に、移動系魔法防壁をも即座に具現化したミズチであったが、命彦の融合魔法力場を集束させた刀身は、魔法防壁ごとミズチの魔法力場を斬り裂き、その顔面に浅く切れ込みを入れた。
その上、傷口を狙ってミサヤが火の集束系魔法弾を放つ。
『ついでだ、取って置け!』
「ギィルオオォーッ!」
集束系魔法弾を至近距離から傷口にぶち込まれ、苦鳴の咆哮と共にミズチが数歩後退した。
そこへ間髪入れず、空太の風の集束系魔法弾と、メイアの神霊攻撃魔法による集束系魔法弾とも言うべき雷撃が飛来する。
しかし、ミズチが移動系魔法防壁を一気に12枚も具現化し、2つの攻撃魔法を受け止め、無力化した。
ミズチの防御行動に、空太が驚いて唇を震わせる。
「嘘だろ? あの状態でも防御できるのか……」
「ぼさっとしてんじゃねえ! あいつは探査魔法持ちだ。よっぽど上手く不意を突かねえと、ほとんどの魔法攻撃は防御か回避されるぞ!」
命彦が空太に注意し、ミズチへと走り込む。
「勇子!」
「はいよ!」
命彦と勇子がミズチの左右から回り込み、交差するようにすれ違いつつ攻撃した。
命彦の魔法攻撃の方が重いと判断し、身を捻って斬撃を避けたミズチの腹に、勇子の拳が炸裂する。
「今度は〈魔甲拳〉付きの《エレメンタル・ランペイジ》じゃ、ボケエエーッ!」
弾倉を回転させていた勇子の装備する武防具型魔法具、〈双炎の魔甲拳:フレイムフィスト〉が作動し、拳の先から魔法結晶に封入されていた《火炎の槍》を叩き込んで、至近距離からミズチの2重の魔法力場を貫通し、傷口を作って、さらに傷口を圧迫するように融合魔法力場で追撃する。
「ギィイイィイーッ!」
傷口を押し広げるように、爆発的に一瞬で膨らむ融合魔法力場が、ミズチの巨躯を一気に後退させて吹き飛ばすが、その際ミズチは器用にも太く長い尾を振るい、勇子を叩き飛ばしていた。
「うごっ!」
「勇子!」
「勇子さん!」
ミズチの2重の魔法力場を纏う尾の一撃は、勇子にとって完全に不意討ちであった。
命彦が受け止めた勇子の片腕が明後日の方へ折れ曲がり、だらりと垂れていることに気付いて、舞子が心配そうに叫ぶ。
と同時に、ミズチが9重もの分厚い周囲系魔法防壁を具現化して、結界の外に見覚えのある水塊を作り出した。
それにいち早く気づいたミサヤが、命彦を思念で呼ぶ。
『マヒコ、あれを!』
「あいつ、また水分身を! メイア、あの水塊を消し飛ばせ!」
「分かったわ!」
瞬時にメイアが神霊攻撃魔法を放ち、球状雷電を1つ、水塊の傍に具現化させて、一気に雷電を拡散させ、水塊を蒸発させるが、水塊は結界魔法の内側にももう1つあったらしく、メイアの神霊攻撃魔法に耐えたミズチの周囲系魔法防壁を透過して、ミズチの分身体が出現した。
「結界の外にあったのは囮か、無駄に知恵が回る! メイア、もう一度アレを消滅させろ! てか、攻撃が単発でみみっちいぞ! どうにかできねえのか!」
「ごめん! 今は回復量が限られてるから連発はムリ!」
本来であれば使う端から全回復する筈の神霊の魔力が、今は回復量もしれているため、神霊結界魔法を展開しつつの魔法攻撃が相当厳しいらしい。
メイアの言葉を聞き、命彦は苦痛を必死にこらえる勇子を空太に預け、分身体へ自ら魔法攻撃した。
「く、仕方ねえ。空太、勇子の治癒を急げ! 貫け《火炎の槍》!」
命彦が火の集束系魔法弾を射出し、分身体を攻撃するが、分裂して分身体は魔法弾を避ける。
「ぶ、分裂しましたよアレ!」
「見りゃあ分かる! もう一度、貫け《旋風の槍》!」
命彦がミズチの前に立つ2体の分身体の片方へ集束系魔法弾を放つと、またして分身体は分裂して魔法弾を避けた。
「2回も分裂しやがった? 前は1回だけだったのに!」
『……マヒコ、もう一度です』
「考えがあるのかミサヤ? 分かった。貫け《地礫の槍》!」
命彦が再分裂した分身体以外の方へ、地の集束系魔法弾を放つ。
すると、またしても分裂して魔法弾が避けられた。
「こいつも駄目か!」
4体の分身体が、神霊結界魔法に守られた命彦達へとじりじり迫る。
《旋風の眼》で背後を見ると、空太が重傷系の精霊治癒魔法《陽聖の恵み》で勇子の傷を必死に癒しており、舞子が青い顔で命彦を見詰めて、メイアも焦燥感を目に宿して命彦を見ていた。
(マズいぞ、どうする、どうする?)
命彦が必死に頭を働かせて打開策を考えていると、ミサヤの思念が脳裏に響いた。
『……今です』
ミサヤが突然火の集束系魔法弾を放ち、分身体の1体を蒸発させる。
「はあっ? ど、どうして分裂しねえんだ?」
『ミズチの意識が、あの分身体から逸れたからですよ』
ハッとした命彦は、瞬時にミサヤの意図を理解した。
感知系の精霊探査魔法《旋風の眼》で、ミズチを覆い隠す水の魔法防壁を探ると、結界の内側から僅かに陽聖の精霊の気配が感じられた。
恐らく、《陽聖の恵み》と同じ時間遡行を行う高位の精霊治癒魔法をミズチは使っているのだろう。
(ミズチが今、別の魔法を使ってるから分身体の分裂が止まったわけか。そういや、俺達が分身体を仕留めた時も、あいつ空間転移の魔法を使ってたっけ?)
ミズチとの戦闘を思い出し、命彦が苛立った表情を浮かべて言う。
「ただの時間稼ぎにまた引っかけられたのか! メイア!」
「行けるわよ、どうすればいい?」
「分身体は俺達で始末する。メイアは結界魔法に籠ってるあのミズチを引きずり出せ!」
「了解」
メイアに指示した命彦へ、治癒を終えた空太と勇子が声をかける。
「命彦、僕らも行けるよ?」
「すまんかった、ここから挽回するでえ!」
「メイアがミズチを引きずり出す。勇子はミズチが姿を見せたら攻撃しろ! 空太は、俺達と一緒に分身体の排除を優先。分身体を消滅させたら総攻撃だ。持久戦に持ち込まれたら負けだぞ! 次で押し切る!」
「分かった、貫け《地礫の槍》」
「ウチも了解や。もう一回《四象融合の纏い》を展開するわ」
「おう、急げ! 貫け《旋風の槍》!」
『ただの分身風情が、消えよ!』
命彦達の短縮詠唱による3つの集束系魔法弾が、ミズチの分身体3体を吹き飛ばした時、メイアの神霊攻撃魔法による極太の雷撃が、ミズチの結界魔法を貫通した。
神霊種魔獣【雷命の女神:ミカヅチヒメ】との意識の接続を試みていたメイアは、神霊との接触を妨げる壁を感じていた。
(あの結界魔法、意識体を堰き止める力もあるのか……くぬぬ)
魔力に意識を乗せて、今いる次元・時空間の外へ、外へと、自分の意識を広げようとするが、どうにも重たい抵抗感がある。
その抵抗感を探るうちに、メイアはミズチが使った精霊融合結界魔法に、次元・時空間へと干渉する効力があることを思い出し、神霊と自分との接触を融合魔法防壁が妨害している可能性に気付いた。
(そう言えばミサヤが、ミズチの使った捕縛系の融合結界魔法には、陽聖の精霊が使われてるって言ってたわね? 陽聖の精霊は活力を与える本来の性質以外にも、2次的に次元・時空間へ干渉する性質も持つ筈。この抵抗感は、結界の持つ空間干渉力のせいか……ええいもう、重くて鬱陶しい! とにかくミカヅチヒメ様と会って、力をお借りするのが最優先だわ)
メイアが結界魔法の妨害をどうにか突破し、次元の狭間にたゆたい、自らに加護を与えた神霊種魔獣と再会して言う。
「ミカヅチヒメ様、お願いします。また力を貸してください!」
神霊種魔獣への恐れは、まだ色濃くメイアの心の内にあった。
しかし、自分が神霊魔法の使用を遅れれば遅れるほど、命彦とミサヤはともかく、勇子や空太、舞子が危険に晒され、魔竜に殺される可能性が高まる。
そのことを思うと、神霊の力に対する怖れよりも、友人達の無事を願う心配が勝った。
メイアの心情を理解するように、天女を思わせる神々しき美女の神霊種魔獣は、終始無言のまま、メイアへと歩み寄り、メイアと自分の姿とを重ねた。
命彦達がミズチと対峙して互いに牽制し合い、仕かけ時を探っていた頃。
メイアの身体から、突如として神霊の魔力が放出された。
「メイアさん!」
「間に合ったんか」
「よし、これで形勢逆転だよ!」
メイアから神霊の魔力を感じ取り、勇子達が歓喜する。
しかし、命彦とミサヤは感知系の精霊探査魔法を維持し続けていたせいか、すぐに感じ取った。
メイアの神霊儀式魔法、《神降ろし》が不完全であることを。
ミズチから視線を外さず、《旋風の眼》でメイアを見た命彦が問う。
「メイア、神霊には会ったのか?」
「ええ、時間をかけてごめんね。ちょっと結界魔法の妨害があって。あ、命彦の御利益を頼むの忘れてたわ」
「それはどうでもいい。お前、気付いてねえのか?」
「え?」
『その妨害、今も続いていますよ?』
ミサヤの思念にメイアがハッとする。勇子達も異常に気付いた。
「神の力を持つことを示す、神霊の幻影が出てねえ。恐らく、今の《神降ろし》は不完全だ」
命彦の言葉に、喜んでいた筈の勇子達が一瞬で沈黙した。
神霊儀式魔法《神降ろし》が完全であれば、ドリアード戦の時のように、メイアの背後に【雷命の女神:ミカヅチヒメ】の幻影が映し出され、全身から溢れ出た神霊の魔力が周囲に発散される筈である。
しかし今は、神霊の幻影は全く見えず、神の魔力も一応感じられるものの、周囲に発散されるどころか、メイアの身体に留まっていた。
「神霊との接続は成功してるっぽいが、力の流入がいつもより相当制限されてる印象を受ける。どうだメイア? 自分で感じねえか?」
「……多分、命彦の言うとおりだと思うわ。どうにかミカヅチヒメ様と繋がってるだけで、力の流入は相当の部分が堰き止められてる気がする。本来だったら溢れ出て来る筈の神霊の魔力が、今回は随分と弱々しいもの」
『蛇口の栓を閉めるように、結界魔法がこの空間への神霊の力の流入を妨げているのでしょう。しかし、単に獲物を閉じ込めるどころか、神霊魔法まで妨害する効力を持つとは、私も気付きませんでした。まあ、メイアが神霊魔法の使い手として未熟だからこそでしょうが……とはいえ、幾ら空間干渉力を持つと言っても、魔竜種魔獣が使う結界魔法にしては、やけに手が込んでいますね。ただの偶然で片付けてよいものか。でき過ぎているように思えます』
ミサヤがメイアを観察するように見ているミズチを注視しつつ、《思念の声》で疑念を語ると、命彦も同意した。
「ああ。神霊魔法の唯一の弱点はこの魔法の使い手だ。熟練した神霊魔法の使い手だったら、神霊との接続もあらゆる次元や時空間を超えて一瞬で済むから、妨害もほぼ無意味だが、メイアみたいに未熟だと妨害もしやすい。こうして神霊魔法の使用自体を制限することもできる。その意味じゃ、まるで狙い澄ましたかのようにメイアへ効く結界魔法だ。初めて遭遇した筈のミズチがそれを使うのか……面白くねえ、不気味だ」
じっとメイアを見るミズチ。そのミズチの行動に疑念を持った命彦が問う。
「あいつは普通の魔竜とは違う気がする。早く現状を打破したい。メイア、結界魔法は破れそうか?」
「一応今の力を全て使えば、簡単に破れるとは思うんだけど、その後すぐに逃げたり、ミズチと戦ったりしろとか言われると、少し難しいかも……主に私の体調の面でね?」
「結界が消えれば、神霊の魔力が一気に自分へ流入する可能性があるから、受け止められるかどうかが心配ってわけやね」
勇子がメイアの不安を代弁すると、命彦がミズチを見つつ〈魔狼の風太刀:ハヤテマカミ〉を構え、顔をしかめた。
「やれやれ、逃げるためにはこの結界魔法をまず破る必要があるのに、ミズチが目前にいる現状じゃ、当然のように妨害されちまう。その妨害を防ぐため、ある程度までミズチと戦って弱らせるとすると、今度は俺達が危険に晒される上に……」
『死に物狂いでミズチが決死の反撃を行う可能性が高まります。それだったら、もう最初から全力で反撃を許さぬほど徹底的に攻撃して、ミズチを仕留めに行った方が良いでしょう。短期決戦で確実に止めを刺す。現状ではそれが一番安全で、周囲に被害が及びません』
ミサヤの思念を聞いて、舞子と空太が顔を蒼くする。
「えーと、それってつまり、結局あのミズチと全力で戦うってことですよね?」
「僕は嫌だよ! 昨日もドリアードと戦って死にかけたのに! 絶対勇子のせいだ! 勇子が最初から戦わへんかとか言うから、結局皆で戦う破目に……うう」
「ここでそれ言うか普通?」
「勇子のせいじゃねえよ。勇子が戦おうって言ってた時と今の情勢はまるで違う。誰のせいって言ったら、それは確実にあのミズチのせいだ。とにかく今は戦う以外に活路がねえ、全員腹をくくれ。ミズチの反撃をできる限り抑えつつ、全力で叩く。行くぞ!」
命彦がそう言うと、舞子以外の【魔狼】小隊の面々が真剣に表情を引き締めた。
「まあ、やるしかあらへんね」
「あーもう! 無茶苦茶だ! ホント勘弁してくれよっ!」
「この状態でどこまで戦えるのか不安だけど……でも、このままじゃマズいのは分かるわ。やれるだけやってみましょう」
命彦達の戦意が高揚して行くことを察したのか。
ミズチが多数の追尾系魔法弾を具現化して、突然攻撃した。
「この程度っ!」
「貫け《地礫の槍》!」
「僕も! 貫け《火炎の槍》」
「うおりゃあぁーっ!」
メイアが神霊結界魔法を展開し、分厚い周囲系魔法防壁で防御すると同時に、命彦とミサヤ、空太が集束系魔法弾でミズチを攻撃し、勇子が一気に間合いを詰めて、ミズチを融合魔法力場を纏う拳で殴打した。
静から動へ。一瞬で始まった戦い。
「……っ!」
さっきまでの探り合いが嘘のように、あっという間に戦端が開かれたのを見て、メイアの横にいた舞子は背筋を凍らせた。
「勇子、30秒だけ前衛は任せた。空太は勇子の援護と魔法攻撃を、メイアは魔法防御に気を配りつつ、神霊攻撃魔法を叩き込め! 舞子はポマコンで映像記録だ、自衛軍と都市警察に後で確認してもらう!」
「「「了解」」」
メイア達全員に指示を出し、命彦は魔力を全身から放出した。
地水火風の基幹精霊を自分の魔力に取り込み、融合させて掌握する。
脳裏に思い浮かべるのは、全身を包む輝く魔法力場であった。
自分に魔竜と戦う力を与える、精霊融合付与魔法の姿を想像し、命彦が呪文を紡ぎ出す。
「地礫の天威、水流の天威、火炎の天威、旋風の天威。精霊の円環、融く合し束ねて神の衣と化し、相乗四象の加護を与えよ。包め《四象融合の纏い》」
勇子に続き、命彦も《四象融合の纏い》を具現化し、淡い4色の色相環を作って輝く、分厚い融合魔法力場を身に纏う。
「行くぞミサヤ!」
『思うままにその力を振るってください、我が主よ』
命彦が凄まじい速度でミズチに迫り、勇子と入れ換わると同時に、ハヤテマカミでミズチの顔面を切りつけた。
「てえぃりゃあっ!」
「グルッ!」
淡い青と緑色の分厚い魔法力場を纏い、顔面と刀身との間に、移動系魔法防壁をも即座に具現化したミズチであったが、命彦の融合魔法力場を集束させた刀身は、魔法防壁ごとミズチの魔法力場を斬り裂き、その顔面に浅く切れ込みを入れた。
その上、傷口を狙ってミサヤが火の集束系魔法弾を放つ。
『ついでだ、取って置け!』
「ギィルオオォーッ!」
集束系魔法弾を至近距離から傷口にぶち込まれ、苦鳴の咆哮と共にミズチが数歩後退した。
そこへ間髪入れず、空太の風の集束系魔法弾と、メイアの神霊攻撃魔法による集束系魔法弾とも言うべき雷撃が飛来する。
しかし、ミズチが移動系魔法防壁を一気に12枚も具現化し、2つの攻撃魔法を受け止め、無力化した。
ミズチの防御行動に、空太が驚いて唇を震わせる。
「嘘だろ? あの状態でも防御できるのか……」
「ぼさっとしてんじゃねえ! あいつは探査魔法持ちだ。よっぽど上手く不意を突かねえと、ほとんどの魔法攻撃は防御か回避されるぞ!」
命彦が空太に注意し、ミズチへと走り込む。
「勇子!」
「はいよ!」
命彦と勇子がミズチの左右から回り込み、交差するようにすれ違いつつ攻撃した。
命彦の魔法攻撃の方が重いと判断し、身を捻って斬撃を避けたミズチの腹に、勇子の拳が炸裂する。
「今度は〈魔甲拳〉付きの《エレメンタル・ランペイジ》じゃ、ボケエエーッ!」
弾倉を回転させていた勇子の装備する武防具型魔法具、〈双炎の魔甲拳:フレイムフィスト〉が作動し、拳の先から魔法結晶に封入されていた《火炎の槍》を叩き込んで、至近距離からミズチの2重の魔法力場を貫通し、傷口を作って、さらに傷口を圧迫するように融合魔法力場で追撃する。
「ギィイイィイーッ!」
傷口を押し広げるように、爆発的に一瞬で膨らむ融合魔法力場が、ミズチの巨躯を一気に後退させて吹き飛ばすが、その際ミズチは器用にも太く長い尾を振るい、勇子を叩き飛ばしていた。
「うごっ!」
「勇子!」
「勇子さん!」
ミズチの2重の魔法力場を纏う尾の一撃は、勇子にとって完全に不意討ちであった。
命彦が受け止めた勇子の片腕が明後日の方へ折れ曲がり、だらりと垂れていることに気付いて、舞子が心配そうに叫ぶ。
と同時に、ミズチが9重もの分厚い周囲系魔法防壁を具現化して、結界の外に見覚えのある水塊を作り出した。
それにいち早く気づいたミサヤが、命彦を思念で呼ぶ。
『マヒコ、あれを!』
「あいつ、また水分身を! メイア、あの水塊を消し飛ばせ!」
「分かったわ!」
瞬時にメイアが神霊攻撃魔法を放ち、球状雷電を1つ、水塊の傍に具現化させて、一気に雷電を拡散させ、水塊を蒸発させるが、水塊は結界魔法の内側にももう1つあったらしく、メイアの神霊攻撃魔法に耐えたミズチの周囲系魔法防壁を透過して、ミズチの分身体が出現した。
「結界の外にあったのは囮か、無駄に知恵が回る! メイア、もう一度アレを消滅させろ! てか、攻撃が単発でみみっちいぞ! どうにかできねえのか!」
「ごめん! 今は回復量が限られてるから連発はムリ!」
本来であれば使う端から全回復する筈の神霊の魔力が、今は回復量もしれているため、神霊結界魔法を展開しつつの魔法攻撃が相当厳しいらしい。
メイアの言葉を聞き、命彦は苦痛を必死にこらえる勇子を空太に預け、分身体へ自ら魔法攻撃した。
「く、仕方ねえ。空太、勇子の治癒を急げ! 貫け《火炎の槍》!」
命彦が火の集束系魔法弾を射出し、分身体を攻撃するが、分裂して分身体は魔法弾を避ける。
「ぶ、分裂しましたよアレ!」
「見りゃあ分かる! もう一度、貫け《旋風の槍》!」
命彦がミズチの前に立つ2体の分身体の片方へ集束系魔法弾を放つと、またして分身体は分裂して魔法弾を避けた。
「2回も分裂しやがった? 前は1回だけだったのに!」
『……マヒコ、もう一度です』
「考えがあるのかミサヤ? 分かった。貫け《地礫の槍》!」
命彦が再分裂した分身体以外の方へ、地の集束系魔法弾を放つ。
すると、またしても分裂して魔法弾が避けられた。
「こいつも駄目か!」
4体の分身体が、神霊結界魔法に守られた命彦達へとじりじり迫る。
《旋風の眼》で背後を見ると、空太が重傷系の精霊治癒魔法《陽聖の恵み》で勇子の傷を必死に癒しており、舞子が青い顔で命彦を見詰めて、メイアも焦燥感を目に宿して命彦を見ていた。
(マズいぞ、どうする、どうする?)
命彦が必死に頭を働かせて打開策を考えていると、ミサヤの思念が脳裏に響いた。
『……今です』
ミサヤが突然火の集束系魔法弾を放ち、分身体の1体を蒸発させる。
「はあっ? ど、どうして分裂しねえんだ?」
『ミズチの意識が、あの分身体から逸れたからですよ』
ハッとした命彦は、瞬時にミサヤの意図を理解した。
感知系の精霊探査魔法《旋風の眼》で、ミズチを覆い隠す水の魔法防壁を探ると、結界の内側から僅かに陽聖の精霊の気配が感じられた。
恐らく、《陽聖の恵み》と同じ時間遡行を行う高位の精霊治癒魔法をミズチは使っているのだろう。
(ミズチが今、別の魔法を使ってるから分身体の分裂が止まったわけか。そういや、俺達が分身体を仕留めた時も、あいつ空間転移の魔法を使ってたっけ?)
ミズチとの戦闘を思い出し、命彦が苛立った表情を浮かべて言う。
「ただの時間稼ぎにまた引っかけられたのか! メイア!」
「行けるわよ、どうすればいい?」
「分身体は俺達で始末する。メイアは結界魔法に籠ってるあのミズチを引きずり出せ!」
「了解」
メイアに指示した命彦へ、治癒を終えた空太と勇子が声をかける。
「命彦、僕らも行けるよ?」
「すまんかった、ここから挽回するでえ!」
「メイアがミズチを引きずり出す。勇子はミズチが姿を見せたら攻撃しろ! 空太は、俺達と一緒に分身体の排除を優先。分身体を消滅させたら総攻撃だ。持久戦に持ち込まれたら負けだぞ! 次で押し切る!」
「分かった、貫け《地礫の槍》」
「ウチも了解や。もう一回《四象融合の纏い》を展開するわ」
「おう、急げ! 貫け《旋風の槍》!」
『ただの分身風情が、消えよ!』
命彦達の短縮詠唱による3つの集束系魔法弾が、ミズチの分身体3体を吹き飛ばした時、メイアの神霊攻撃魔法による極太の雷撃が、ミズチの結界魔法を貫通した。
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