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終章 決戦
終章-25:平穏が戻り、後日談
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命彦と眷霊種魔獣サラピネスの死闘が決着してから10日後。
舞子は、メイアや勇子、空太と一緒に復旧工事が進む亜人街を歩いていた。
「壊れた街の建物も、そこそこ修復されて来とるねぇ? ええこっちゃ、ええこっちゃ」
「そうですね。未だに【逢魔が時】のことは、夢みたいに思えるんですが、これを見てると全て現実だったって、改めて思い知らされます」
「夢みたい、か。まあ、舞子はすんごい活躍だったからねえ? そう思うのも当然だよ」
「報道番組とかでも、都市魔法士管理局からの戦功表彰式が取り上げられとったもんね、舞子とメイアは? 次世代の【神の使徒】と【精霊歌姫】の後継者、三葉市の危機を救って表彰、とかいう煽り文句やったっけ?」
「やめてよ。その煽り文句、未だに引きずってるんだから……」
「そ、そうですよ! 表彰式は嬉しかったですけど、あの煽りや取材は未だにはずかしいと思ってるんですから」
ため息をつくメイアと慌てる舞子を見て、勇子と空太はケタケタ笑っていた。
命彦がメイアと共にサラピネスを討滅した後、関西迷宮の【逢魔が時】は、次第に終息して行った。
都市自衛軍や都市警察の展開した防衛線で、終始魔法士達を劣勢に追い込んでいたもう1体の眷霊種魔獣は、サラピネスの死滅後、すぐに空間転移して戦場から忽然と姿を消しており、また、魔獣らしからぬ統制で防衛線へと進攻して来ていた高位魔獣率いる魔獣混成群も、サラピネスの死後、突然統制を失って同士討ちを始めた。
おまけに【魔晶】が自壊したらしく、サラピネスの戦死から数時間後には、魔獣の召喚頻度が一気に低下して、都市へと進攻して来る魔獣の数が劇的に減少したのである。
そのために、押されていた戦局が一気にひっくり返った。
同様のことは、関西地方の他の迷宮防衛都市の戦場でも確認されており、こうした魔獣側勢力の混乱によって、魔法士側は劣勢を盛り返したわけである。
魔獣側の進攻勢力が一気に減衰したため、関西迷宮での【逢魔が時】は、発生から僅か3日で早期に終結していた。そのおかげで戦力不足が著しく、【迷宮外壁】という都市の守りが半壊していていた三葉市も生き残り、復旧工事を迅速に進められたのである。
舞子が周囲の工事を受けている建物を見て、しんみりと言う。
「【逢魔が時】が終わってから……進攻する魔獣達が消えてから、もう1週間ですか。早いものですね?」
「舞子、まだ終わってへんで? 軍の魔法士らの報告が公に発表されて、始めて終わったって言えるんや。今はまだ、完全に気い抜いたらいかん」
「あ、はい。すみません、勇子さん」
「勇子の言うとおりだけど、でも終わったって思いたい舞子の気持ちは、私にも分かるわ」
「そうだね。もう1体の眷霊種魔獣が姿を消してから、随分経つし……」
勇子の発言に表情を固くした舞子を見て、メイアと空太が苦笑した。
軍や警察としては、劣勢に追い込まれていただけに、魔獣側戦力の混乱は歓迎されたが、今回交戦したもう1体の眷霊種魔獣の行方については、1体で都市を消滅させられるほどの極めて高い戦闘力を持つため、一応今も継続して調査が行われている。
ただ、この眷霊種魔獣の逃走については、同胞が討たれたことを造物主たる【災禍の三女神】へ報告に戻った、という分析が軍の上層部の間で囁かれており、こちら側の世界にはもうおらず、探すだけ無駄という意見も増えていた。
実際、過去にも2体や3体といった複数で地球へと出現した眷霊種魔獣が、同胞達が討たれて1体だけ残された際、すぐに空間転移して逃走した事例が幾つもあり、戦闘結果を自分達の主に報告しに行っているという見解がされている。
あと数日、迷宮において眷霊種魔獣の行方を調査し、その姿を確認できぬ場合、軍の方で公に声明が出され、本当の意味で今回の【逢魔が時】は終わると、世間では噂されていた。
メイアがくすりと笑って口を開く。
「まあ、あの用心深いミサヤが、もうこちらの世界にいませんって言うんだもの。当の昔にあっちの世界に帰ってるんでしょう。軍の声明も多分そう結論づけられたものでしょうね? ということで、終わったって思っててもいいと思うんだけど、私は?」
「そ、そうですよね? ふう、よかった。もう一波乱あるのかと、心配してしまいました」
舞子がホッとしたようにため息をついた。
しばらく4人で亜人街を歩いていると、ニヤニヤして空太と勇子が言う。
「それはそうと舞子とメイア、さっきから道行く人の視線を集めまくってるよね?」
「せやね? 表彰式の時、報道番組が取り上げたせいやろ。いやー羨ましいわ」
確かに道行く亜人や日本人、街の住民達がメイアと舞子を指差して、興奮したように会話している。
小さい子ども達は、英雄を見るように目をキラキラさせて手を振って来るし、年配の人達はありがたそうに手を合わせていた。
苦笑いで尊敬と感謝の視線を受け止めていたメイアと舞子が、ニヤつく空太と勇子へ言う。
「羨ましいですって? 嘘ばっかり、顔が半笑いよ勇子」
「空太さんもですよ、2人して面白がって!」
「ぷふふっ、せやかて面白いんやもん」
「そうだよね? 拝まれて当惑する姿とか傑作で……ぷくく」
2人の発言を聞き、勇子と空太は吹き出していた。
都市に攻め入ろうとする魔獣達が消えてから、三葉市では急速に街の復興が行われ、それと並行して、被害確認と今回の件で死亡した住民や学科魔法士達の合同葬儀、そして、義勇魔法士の戦功表彰式が行われた。
特に義勇魔法士の戦功表彰式は、相当の人的・物的被害が出て住民の空気が暗いことを考慮し、今回は華々しく行われたのである。
その戦功表彰式で特に目立ったのが、主催者たる都市魔法士管理局の局長に呼び出され、壇上に上がって全国放送で表彰されたメイアと舞子であった。
サラピネスを相手に、自分の持つ全力を発揮したことで、神霊魔法を制御できる自信が多少ついたのか。
メイアはサラピネスの死滅後、命彦にあとを託され、【神の使徒】としてその本来の実力を発揮して、一騎当千の働きの末に、凄まじい数の魔獣達を単独で葬り去っていた。
また舞子も、非戦闘型の学科魔法士であるにもかかわらず、歌を介した魔法で三葉市の危機と多くの戦闘型魔法士の命を救った功績を讃えられ、戦場に魔法歌を届けた多数の〔魔法楽士〕学科の魔法士の代表として、表彰されたのである。
他にも表彰者はいたのだが、都市の住民を元気付けるために、見目麗しいメイアと舞子は報道各社で積極的に取り上げられ、耳目を引く煽り文句までつけられて、お茶の間に報道されていた。
そのせいで、街を救った英雄という見方が定着し、三葉市の住民の視線もよく集めたのである。
「命彦や勇子達の欠席は許されたのに、どうして私達の欠席は許されず、あまつさえ客寄せの餌みたいに使われるのかしら。不愉快だし、不公平だわ」
「ホントです! 特に命彦さんは、メイアさんと同じく最優秀戦功者に選ばれてたんですから、本来はもっと取り上げられて然るべきです!」
「いやいや、その場におらんモンをわざわざ調べて取り上げるより、その場におるモンを取り上げた方が楽やろ、普通は? あとメイア、うちらかて表彰式に出れたら出てかったで? 」
「そうだよ。あの時の命彦は源伝魔法の疲労でまだ昏睡状態だったし、僕と勇子も表彰式の日には魔力の過剰消費で倒れてた。同じように表彰式に呼ばれてた【ヴァルキリー】小隊だって、寝込んで欠席してたんだから、これはもうどっちかっていうと、【逢魔が時】終結後すぐに表彰式を開いた、都市魔法士管理局の方へ文句を言うべきだね」
「まあ、住民を早く活気付けて今まで通りの生活を取り戻したかったっちゅう、管理局の思惑も理解できる。ここは黙って英雄やっとき。舞子もやで? 表彰されたことで学校での風当たりも随分改善されたんやろ? 恩恵を受けとるんやから我慢し」
「うっ……わ、わかってるわよ」
「……はぁい」
勇子にしては筋の通ったことを言われ、メイアと舞子はやれやれと肩を落とした。
特に舞子は戦功表彰式後、学校における教官達の態度が一転し、信頼も一気に回復したため、勇子の言葉は身に染みるモノであった。
亜人街を歩き、上空から本来建っていた街の一角へと戻っていた【精霊本舗】へたどり着いた舞子達は、入店してすぐに店内を通り抜け、店舗棟と開発棟との間にある庭へと到着する。
到着するとすぐにエルフ女性に声をかけられた。
「4人とも、来てくださいましたか。では、すぐに用意に取りかかってください。空太様は料理部門へ、勇子様と舞子さんは運搬部門へ、メイア様は舞台周りの機器部門へ、それぞれ行ってください。担当の者が指示してくれますから」
「「「りょーかい」」」
庭では宴会の用意が進められており、舞子達も到着早々、各々が散らばって宴会の用意を手伝った。
昏睡状態だった命彦が昨日の昼頃ようやく目覚めたため、昨夜のうちに本日の快気祝いの宴会兼祝勝会が企画され、舞子達もその手伝いで【精霊本舗】に来ていたのである。
宴会の用意が一段落した頃。メイアと一緒に舞子は店舗棟6階、別荘階にいる命彦達を呼びに行った。
そして、別荘階の居間に入った舞子達は、わざわざ居間に布団を敷いて、甲斐甲斐しく美女姿のミサヤや命絃に世話されている、終始ご機嫌の命彦を目撃する。
頭痛を堪えるように、メイアが手で額を押えて言った。
「命彦、何してるの?」
「うん? あーん、もぐもぐ……見れば分かるとおり、看病してもらってるんだが? ミサヤ、水羊羹おかわり。姉さんはもっとのしかかってくれ」
「もう、甘えん坊ですね我が主は?」
「ホントに。こうかしら命彦?」
「おほぉうっ! そうそう、素晴らしい感触です! 気持ちいぃ!」
膝枕している命絃が身体を前に倒し、豊満である胸を命彦の顔に触れさせると、命彦の顔がほへえーっと緩む。
「……あれ、誰ですか?」
別人のように緩み倒す命彦の姿を見て、これまで脳裏で形成されていた頼れる先輩という命彦の心象が瓦解しつつあった舞子は、救いを求めるようにメイアに問う。メイアは端的に答えた。
「しっかりして、舞子。あれも命彦だから、別人みたいに見えるでしょうけど、私達の隊長だから」
「隊長ですよーい……あむあむ、ごくん。うーん、美味い!」
「……そこのバカ隊長! さっさと起きて降りて来て! そろそろ宴会の用意も終わるからっ! そもそも看病って、昨日目が覚めた時点で元気そうだったでしょうが!」
「働いたご褒美をもらってんだよ、少しくらいいいじゃねえか……さて、そいじゃ起きますかね?」
と返事はしつつも、イチャついたまま動く気は皆無である命彦達。
メイアがプルプル拳を震わせていると、メイア達の後ろから魅絃が姿を現した。
「あらあら、メイアちゃんの声がしたと思えば、呼びに来てくれてたのね? ほら命彦達も、これに着替えて用意して? 宴会に遅れてしまうわ」
「「「はーい」」」
美女形態のミサヤの分も用意したのか、お揃いの晴れ着を3着持っていた魅絃。
その魅絃の呼びかけには素早く反応して、命彦はさっさと用意を始めた。
疲れたように肩を落とすメイアを心配する舞子。
「め、メイアさん?」
「怒る気も失せたわ」
着替えを終えた命彦達と一緒に、メイアと舞子は庭に戻った。
すると、野太い歓迎の声や黄色い歓声が、揃いの背広姿でビシッと決めて登場した命彦達に振りかかる。
「若様ぁー!」
「いよっ! 都市を救った影の英雄!」
「凄かったですよ!」
「ワカサマ、かっくいいー!」
歓声に笑顔を返し、エルフ女性から飲み物をもらって、庭に作られた特設舞台に登った命彦が、参加する従業員やその家族、関係者に軽く会釈して言った。
「早く騒ぎたいだろうから、開宴の挨拶は短く行こうと思う。皆が手を貸してくれたおかげで、こうして無事に仇討ちは成功し、俺も生きて戻って来れた。ありがとう! 皆には感謝してる! ささやかだけど、今夜は楽しんでくれい! かんぱーい!」
「「「かんぱぁーい!」」」
こうして賑やかに宴会は始まった。過ぎ去った破壊の嵐を忘れるように、臨時休業した【精霊本舗】では夜遅くまで、笑い声が高らかに響いていた。
舞子は、メイアや勇子、空太と一緒に復旧工事が進む亜人街を歩いていた。
「壊れた街の建物も、そこそこ修復されて来とるねぇ? ええこっちゃ、ええこっちゃ」
「そうですね。未だに【逢魔が時】のことは、夢みたいに思えるんですが、これを見てると全て現実だったって、改めて思い知らされます」
「夢みたい、か。まあ、舞子はすんごい活躍だったからねえ? そう思うのも当然だよ」
「報道番組とかでも、都市魔法士管理局からの戦功表彰式が取り上げられとったもんね、舞子とメイアは? 次世代の【神の使徒】と【精霊歌姫】の後継者、三葉市の危機を救って表彰、とかいう煽り文句やったっけ?」
「やめてよ。その煽り文句、未だに引きずってるんだから……」
「そ、そうですよ! 表彰式は嬉しかったですけど、あの煽りや取材は未だにはずかしいと思ってるんですから」
ため息をつくメイアと慌てる舞子を見て、勇子と空太はケタケタ笑っていた。
命彦がメイアと共にサラピネスを討滅した後、関西迷宮の【逢魔が時】は、次第に終息して行った。
都市自衛軍や都市警察の展開した防衛線で、終始魔法士達を劣勢に追い込んでいたもう1体の眷霊種魔獣は、サラピネスの死滅後、すぐに空間転移して戦場から忽然と姿を消しており、また、魔獣らしからぬ統制で防衛線へと進攻して来ていた高位魔獣率いる魔獣混成群も、サラピネスの死後、突然統制を失って同士討ちを始めた。
おまけに【魔晶】が自壊したらしく、サラピネスの戦死から数時間後には、魔獣の召喚頻度が一気に低下して、都市へと進攻して来る魔獣の数が劇的に減少したのである。
そのために、押されていた戦局が一気にひっくり返った。
同様のことは、関西地方の他の迷宮防衛都市の戦場でも確認されており、こうした魔獣側勢力の混乱によって、魔法士側は劣勢を盛り返したわけである。
魔獣側の進攻勢力が一気に減衰したため、関西迷宮での【逢魔が時】は、発生から僅か3日で早期に終結していた。そのおかげで戦力不足が著しく、【迷宮外壁】という都市の守りが半壊していていた三葉市も生き残り、復旧工事を迅速に進められたのである。
舞子が周囲の工事を受けている建物を見て、しんみりと言う。
「【逢魔が時】が終わってから……進攻する魔獣達が消えてから、もう1週間ですか。早いものですね?」
「舞子、まだ終わってへんで? 軍の魔法士らの報告が公に発表されて、始めて終わったって言えるんや。今はまだ、完全に気い抜いたらいかん」
「あ、はい。すみません、勇子さん」
「勇子の言うとおりだけど、でも終わったって思いたい舞子の気持ちは、私にも分かるわ」
「そうだね。もう1体の眷霊種魔獣が姿を消してから、随分経つし……」
勇子の発言に表情を固くした舞子を見て、メイアと空太が苦笑した。
軍や警察としては、劣勢に追い込まれていただけに、魔獣側戦力の混乱は歓迎されたが、今回交戦したもう1体の眷霊種魔獣の行方については、1体で都市を消滅させられるほどの極めて高い戦闘力を持つため、一応今も継続して調査が行われている。
ただ、この眷霊種魔獣の逃走については、同胞が討たれたことを造物主たる【災禍の三女神】へ報告に戻った、という分析が軍の上層部の間で囁かれており、こちら側の世界にはもうおらず、探すだけ無駄という意見も増えていた。
実際、過去にも2体や3体といった複数で地球へと出現した眷霊種魔獣が、同胞達が討たれて1体だけ残された際、すぐに空間転移して逃走した事例が幾つもあり、戦闘結果を自分達の主に報告しに行っているという見解がされている。
あと数日、迷宮において眷霊種魔獣の行方を調査し、その姿を確認できぬ場合、軍の方で公に声明が出され、本当の意味で今回の【逢魔が時】は終わると、世間では噂されていた。
メイアがくすりと笑って口を開く。
「まあ、あの用心深いミサヤが、もうこちらの世界にいませんって言うんだもの。当の昔にあっちの世界に帰ってるんでしょう。軍の声明も多分そう結論づけられたものでしょうね? ということで、終わったって思っててもいいと思うんだけど、私は?」
「そ、そうですよね? ふう、よかった。もう一波乱あるのかと、心配してしまいました」
舞子がホッとしたようにため息をついた。
しばらく4人で亜人街を歩いていると、ニヤニヤして空太と勇子が言う。
「それはそうと舞子とメイア、さっきから道行く人の視線を集めまくってるよね?」
「せやね? 表彰式の時、報道番組が取り上げたせいやろ。いやー羨ましいわ」
確かに道行く亜人や日本人、街の住民達がメイアと舞子を指差して、興奮したように会話している。
小さい子ども達は、英雄を見るように目をキラキラさせて手を振って来るし、年配の人達はありがたそうに手を合わせていた。
苦笑いで尊敬と感謝の視線を受け止めていたメイアと舞子が、ニヤつく空太と勇子へ言う。
「羨ましいですって? 嘘ばっかり、顔が半笑いよ勇子」
「空太さんもですよ、2人して面白がって!」
「ぷふふっ、せやかて面白いんやもん」
「そうだよね? 拝まれて当惑する姿とか傑作で……ぷくく」
2人の発言を聞き、勇子と空太は吹き出していた。
都市に攻め入ろうとする魔獣達が消えてから、三葉市では急速に街の復興が行われ、それと並行して、被害確認と今回の件で死亡した住民や学科魔法士達の合同葬儀、そして、義勇魔法士の戦功表彰式が行われた。
特に義勇魔法士の戦功表彰式は、相当の人的・物的被害が出て住民の空気が暗いことを考慮し、今回は華々しく行われたのである。
その戦功表彰式で特に目立ったのが、主催者たる都市魔法士管理局の局長に呼び出され、壇上に上がって全国放送で表彰されたメイアと舞子であった。
サラピネスを相手に、自分の持つ全力を発揮したことで、神霊魔法を制御できる自信が多少ついたのか。
メイアはサラピネスの死滅後、命彦にあとを託され、【神の使徒】としてその本来の実力を発揮して、一騎当千の働きの末に、凄まじい数の魔獣達を単独で葬り去っていた。
また舞子も、非戦闘型の学科魔法士であるにもかかわらず、歌を介した魔法で三葉市の危機と多くの戦闘型魔法士の命を救った功績を讃えられ、戦場に魔法歌を届けた多数の〔魔法楽士〕学科の魔法士の代表として、表彰されたのである。
他にも表彰者はいたのだが、都市の住民を元気付けるために、見目麗しいメイアと舞子は報道各社で積極的に取り上げられ、耳目を引く煽り文句までつけられて、お茶の間に報道されていた。
そのせいで、街を救った英雄という見方が定着し、三葉市の住民の視線もよく集めたのである。
「命彦や勇子達の欠席は許されたのに、どうして私達の欠席は許されず、あまつさえ客寄せの餌みたいに使われるのかしら。不愉快だし、不公平だわ」
「ホントです! 特に命彦さんは、メイアさんと同じく最優秀戦功者に選ばれてたんですから、本来はもっと取り上げられて然るべきです!」
「いやいや、その場におらんモンをわざわざ調べて取り上げるより、その場におるモンを取り上げた方が楽やろ、普通は? あとメイア、うちらかて表彰式に出れたら出てかったで? 」
「そうだよ。あの時の命彦は源伝魔法の疲労でまだ昏睡状態だったし、僕と勇子も表彰式の日には魔力の過剰消費で倒れてた。同じように表彰式に呼ばれてた【ヴァルキリー】小隊だって、寝込んで欠席してたんだから、これはもうどっちかっていうと、【逢魔が時】終結後すぐに表彰式を開いた、都市魔法士管理局の方へ文句を言うべきだね」
「まあ、住民を早く活気付けて今まで通りの生活を取り戻したかったっちゅう、管理局の思惑も理解できる。ここは黙って英雄やっとき。舞子もやで? 表彰されたことで学校での風当たりも随分改善されたんやろ? 恩恵を受けとるんやから我慢し」
「うっ……わ、わかってるわよ」
「……はぁい」
勇子にしては筋の通ったことを言われ、メイアと舞子はやれやれと肩を落とした。
特に舞子は戦功表彰式後、学校における教官達の態度が一転し、信頼も一気に回復したため、勇子の言葉は身に染みるモノであった。
亜人街を歩き、上空から本来建っていた街の一角へと戻っていた【精霊本舗】へたどり着いた舞子達は、入店してすぐに店内を通り抜け、店舗棟と開発棟との間にある庭へと到着する。
到着するとすぐにエルフ女性に声をかけられた。
「4人とも、来てくださいましたか。では、すぐに用意に取りかかってください。空太様は料理部門へ、勇子様と舞子さんは運搬部門へ、メイア様は舞台周りの機器部門へ、それぞれ行ってください。担当の者が指示してくれますから」
「「「りょーかい」」」
庭では宴会の用意が進められており、舞子達も到着早々、各々が散らばって宴会の用意を手伝った。
昏睡状態だった命彦が昨日の昼頃ようやく目覚めたため、昨夜のうちに本日の快気祝いの宴会兼祝勝会が企画され、舞子達もその手伝いで【精霊本舗】に来ていたのである。
宴会の用意が一段落した頃。メイアと一緒に舞子は店舗棟6階、別荘階にいる命彦達を呼びに行った。
そして、別荘階の居間に入った舞子達は、わざわざ居間に布団を敷いて、甲斐甲斐しく美女姿のミサヤや命絃に世話されている、終始ご機嫌の命彦を目撃する。
頭痛を堪えるように、メイアが手で額を押えて言った。
「命彦、何してるの?」
「うん? あーん、もぐもぐ……見れば分かるとおり、看病してもらってるんだが? ミサヤ、水羊羹おかわり。姉さんはもっとのしかかってくれ」
「もう、甘えん坊ですね我が主は?」
「ホントに。こうかしら命彦?」
「おほぉうっ! そうそう、素晴らしい感触です! 気持ちいぃ!」
膝枕している命絃が身体を前に倒し、豊満である胸を命彦の顔に触れさせると、命彦の顔がほへえーっと緩む。
「……あれ、誰ですか?」
別人のように緩み倒す命彦の姿を見て、これまで脳裏で形成されていた頼れる先輩という命彦の心象が瓦解しつつあった舞子は、救いを求めるようにメイアに問う。メイアは端的に答えた。
「しっかりして、舞子。あれも命彦だから、別人みたいに見えるでしょうけど、私達の隊長だから」
「隊長ですよーい……あむあむ、ごくん。うーん、美味い!」
「……そこのバカ隊長! さっさと起きて降りて来て! そろそろ宴会の用意も終わるからっ! そもそも看病って、昨日目が覚めた時点で元気そうだったでしょうが!」
「働いたご褒美をもらってんだよ、少しくらいいいじゃねえか……さて、そいじゃ起きますかね?」
と返事はしつつも、イチャついたまま動く気は皆無である命彦達。
メイアがプルプル拳を震わせていると、メイア達の後ろから魅絃が姿を現した。
「あらあら、メイアちゃんの声がしたと思えば、呼びに来てくれてたのね? ほら命彦達も、これに着替えて用意して? 宴会に遅れてしまうわ」
「「「はーい」」」
美女形態のミサヤの分も用意したのか、お揃いの晴れ着を3着持っていた魅絃。
その魅絃の呼びかけには素早く反応して、命彦はさっさと用意を始めた。
疲れたように肩を落とすメイアを心配する舞子。
「め、メイアさん?」
「怒る気も失せたわ」
着替えを終えた命彦達と一緒に、メイアと舞子は庭に戻った。
すると、野太い歓迎の声や黄色い歓声が、揃いの背広姿でビシッと決めて登場した命彦達に振りかかる。
「若様ぁー!」
「いよっ! 都市を救った影の英雄!」
「凄かったですよ!」
「ワカサマ、かっくいいー!」
歓声に笑顔を返し、エルフ女性から飲み物をもらって、庭に作られた特設舞台に登った命彦が、参加する従業員やその家族、関係者に軽く会釈して言った。
「早く騒ぎたいだろうから、開宴の挨拶は短く行こうと思う。皆が手を貸してくれたおかげで、こうして無事に仇討ちは成功し、俺も生きて戻って来れた。ありがとう! 皆には感謝してる! ささやかだけど、今夜は楽しんでくれい! かんぱーい!」
「「「かんぱぁーい!」」」
こうして賑やかに宴会は始まった。過ぎ去った破壊の嵐を忘れるように、臨時休業した【精霊本舗】では夜遅くまで、笑い声が高らかに響いていた。
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(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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