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第二章

2-5 ネーミングセンス

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 調合台を一度閉まって取り出す。こうすることで全てが初期化され、綺麗な状態で始めることができる。
 片付けの必要すらない。腰のケースだけは独立したもののようだけど。

 俺は先ほど見つけていた基礎調合のあるページを探しパラパラ捲る。
 次に調合するのは、

『硬化内服薬』
 効能
服用すると10分間程、体の外的要因(物理的な物に限る)に対する防御効果を発揮する被膜を張る。

 調合法
アリーの茎の乾燥粉末に魔硬岩の粉を1:4の割合で混ぜ合わせたものに、ポリー草の煮汁を少しずつ加えて――

 こちらも長いので調合法は省略。ただ防水軟膏ほどに細かな割合が書いていたりはしない。まぁあの割合も正しいのかよく分かんないけど。
 魔硬岩は行商隊が来ていた時に買い込んでいたもの。
 通常の石よりもかなり硬く粉にして他のものと混ぜ合わせると強固に固まるんだとか。

 アリーの茎の乾燥粉末は引き出しの中に残っているし、材料は全部そろっている。
 ただポリー草の煮汁の濃度が、先ほどの防水軟膏のときよりも大分薄いので水を入れて調整した。

 魔硬岩も振動粉砕機で簡単に粉にすることができる。
 本来は大変なんだろうけどな。

 今度はできる容量が多いため乳鉢ではなくビーカーというものを使用した。
 上部の口のところが尖っていて何となく飲みやすそうだ。

「どうせできたものは飲めないけどねぇ……」

 一人内心にツッコミを入れて調合していく。
 自分が成長したというべきか、調合台の力が尋常じゃないのか分からないが、手慣れたものでサクサクと調合を行い青色の液体が完成した。
 少しどんな味がするのか舐めてみたいと思ったが、そんな思い虚しく光を放つと薄水色の珠がビーカーの底にコロンと転がった。

 フロードの時よりも大分色が薄い。アクアマリンとかいう宝石がおそらくこんな色だと思う。
 フロードの珠はサファイアよりは薄かったから、それそのものではないというのは分かるんだけど。

「ま、どうでもいいや。まずは嵌め込んでと……」

 同様の手順をなぞると、今度はまるでブロックのような形のスーラが現れた。珠とほぼ同じ色。目と口が四角で出来ていてなんとも面白いが。

「ガジュッ!」

 ピギュンとは違う低い声。俺の胸に飛び込んできて、硬そうな気がしたのだが身体は非常に柔らかい。ぷるぷるだ。

「ははは。よろしくな! ええと……どうしようか。よし、お前の名前はガジュン。今からガジュンだ!」

「ガガッ!」

 俺的にネーミングセンスがなさすぎるかと思ったが、意外と気に入ってくれた様子だ。
 ユニークな見た目だがプルプル揺れて意外と可愛く思えてくる。
 となると、気になるのは持っている力だ。

「ガジュンは硬くなったりできるのか……?」

「ガジュン!」

 重さは変わらないが、少しだけ体を白く変え瞬く間に身体を固くしてみせた。
 まるで軽い岩のような感じだ。叩くとコンコンと音が鳴る。
 どうやら形を変えた状態で固まることも出来るらしく、うまくやれば持ち手を作りこん棒のように使えるかもしれない。

「でも、それは可哀そうかな……?」

 尋ねかけてみると意外にも嫌そうな様子は見せなかったので、構わないということなんだろう。
 俺は武器らしい武器を何一つ持っていない。
 お供たちがいるので必要になるかは分からないが、一応ガジュンが武器になれるということを頭の片隅に置いておくことにした。

「じゃ、ガジュンはそこで見ててね」

 俺はガジュンを調合台の端っこに寄せてから、次の調合にとりかかろうと冊子をめくる。

 しかし。

 ここで頭がふらつくのを感じた。調合台に長く座っていると、疲労感が溜まっていくというのは分かっている。
 その時と同様の感覚だ。

 けれど今は以前の時ほど長い時間は座っていない。
 フロードと話すときは立っていたし、長く座らないように気を付けていたのだ。
 とすると、

(調合を行うと魔力を消費していくということ……?)

 ピギュンを二体出したときにはこんなことはなかった。
 その時との違いは調合難易度が上がったということ。人語を解するフロードを生み出したということ。
 魔法を使うことのできない俺は(傷を癒すのはまだ使ったことがない)魔力の消費というものの感覚がいまいち掴めていない。

「それとも同時にお供を出していると疲労していくとか……?」

 俺は柔らかなガジュンの体をつつきながら呟いてみた。
 が、特に返事はない。ピギュンに比べると感情の起伏が少ないようだ。

 とりあえず調合は一度やめ二人の戻るのを待つことにして、ガジュンと調合台をしまった。
 深い意味はないが出しておくと魔力を消費するような気がしたのだ。

 その時。

 森の遠方からズズンと大きな音が耳に届いてきた。
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