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第5話 魔法の具現はイメージ力
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リナージュの屋敷はあり得ないほどに大きな屋敷だった。
まるで宮殿。青々と茂る芝の中に縦横に走る精緻に整えられた薔薇の庭木。
シンメトリーに並べられた幾何学模様を思わせられるタイルから眺める豪邸。
やはりというかゲームで見るのと実際に見るのではまるで別物。
そんな場所をお伽話に出てきそうな馬車で出発し、メイドのアーシャと共に揺れるがまま身を任せていた。
(ねぇ、リナージュ。あなたって魔法を使えるのよね……?)
フッと沸いた疑問。
リナージュはセントフィールド家が出資した国一番の魔法学校の主席。
同年齢帯でいえば最高の魔法資質を持った人間だ。
ならばこの肉体に宿っている私は魔法を使えるのかもしれない。
そんな期待が膨らんだ。
【当たり前じゃないですか。カオリは使えないんですか?】
(私は使えないよ。でもリナージュの身体なら使えるってことだよね……。試してみても良い?)
【いいですけれど、無闇やたらと魔法を使わないでくださいね。疲弊しますし、暴走でもしたら大変ですから】
(へ、へぇ……。なんか怖いね。どうやって使ったらいいの?)
【体内に流れるマナの力を感じ取って動かしてやればいいんです。それさえできれば意志とイメージの力で魔法は顕著します】
(意思とイメージねぇ……。指先に炎を集める感覚で……)
ジッと指先を見つめながら集中してみると、爪の先からゆらゆらと炎が生まれた。
オレンジ色の炎。空気が含まれれば青くなる?そんな考えでイメージを膨らませてみる。
炎は色を変えていきゴォォと音を立て青白い炎を吹き上げた。
「リ、リナージュ様、如何されましたか!?」
アーシャが慌てて寄って来るのが目に映る。
私は急いで炎を消し手を振ってみせた。
「ごめんなさい、ちょっと浮かれていました。卒業式なので気合を入れようと思っただけなのです、ごめんなさいね」
【あら、その喋り方でいいのです。カオリもやればできるじゃないですか】
(うん? キャバクラで働いてたし、人に合わせるのは早い方だと思うかな)
【キャバクラ……? それは何ですか……?】
(ああ、ごめん、なんでもない。気にしないで)
【そこまで言って気にしないでというほうが気になりますよ……】
そんなやり取りをしているうちに、アーシャは入り口付近に戻っており安心した顔を見せた。
「見たことのない炎でしたから魔法が暴走でもされたのかと思いました。
新しい実験ですか? 流石はリナージュ様です」
「ふふ。そうなんです。ごめんなさいね、気を遣わせてしまって」
【それです。さっきの炎はなんだったのですか? 見たことのない程に強い力を放っていました】
(あー、イメージの力って言ったからね。私がいた場所では魔法がなかったんだけど、代わりにこう言った知識を凝集した技術が発展していたんだ)
【魔法がない……というのは興味深いですが、知識を凝集とは私の知的探求心が疼きます。是非、カオリのいた場所にも行ってみたいです】
(いやぁ、それは無理だと思うよ。あまりにこことは遠すぎる。馬車なんかじゃとてもいけないくらいにね)
【そうなんですか……。それは残念です】
リナージュのしょんぼりした顔が目に浮かぶ。
私の憧れの人が、私の中でしょんぼりしているというのがなんだか嬉しい。
けれど、日本に戻るというのはどうにもならない。
むしろ私は戻りたくなかった。
大切だった彼氏……と思っていた男に裏切られ借金を背負い人生は詰んだ。
まるで逃げるようだけど、憧れのリナージュと身体を共有できて私は今幸せを感じている。
リナージュにとってそれは不都合であるし、好ましくないというのは分かる。
でも、それでも、私に少しくらいは救済があってもいいんじゃないかと思ってしまうのだ。
今ではコウジの代わり。いや、そういう言い方をしたくはない。
コウジいた時からリナージュには憧れを抱いていたし、そこに宿る感情に明らかな差異がある。
年齢こそコウジよりさらに年下、それなのに私より一回り程も年下の彼女を尊敬していたのだから。
だから……。
この先に待つ悲劇を伝えなければいけない。
思い出した現実をつきつけなければいけない。
変えられない未来なのかもしれないけど、知っていれば感じる辛さも軽減される可能性がある。
けれど……。
それはまだ私が他人事だと認識しているのを、浮き彫りにするだけのことだったのだ。
まるで宮殿。青々と茂る芝の中に縦横に走る精緻に整えられた薔薇の庭木。
シンメトリーに並べられた幾何学模様を思わせられるタイルから眺める豪邸。
やはりというかゲームで見るのと実際に見るのではまるで別物。
そんな場所をお伽話に出てきそうな馬車で出発し、メイドのアーシャと共に揺れるがまま身を任せていた。
(ねぇ、リナージュ。あなたって魔法を使えるのよね……?)
フッと沸いた疑問。
リナージュはセントフィールド家が出資した国一番の魔法学校の主席。
同年齢帯でいえば最高の魔法資質を持った人間だ。
ならばこの肉体に宿っている私は魔法を使えるのかもしれない。
そんな期待が膨らんだ。
【当たり前じゃないですか。カオリは使えないんですか?】
(私は使えないよ。でもリナージュの身体なら使えるってことだよね……。試してみても良い?)
【いいですけれど、無闇やたらと魔法を使わないでくださいね。疲弊しますし、暴走でもしたら大変ですから】
(へ、へぇ……。なんか怖いね。どうやって使ったらいいの?)
【体内に流れるマナの力を感じ取って動かしてやればいいんです。それさえできれば意志とイメージの力で魔法は顕著します】
(意思とイメージねぇ……。指先に炎を集める感覚で……)
ジッと指先を見つめながら集中してみると、爪の先からゆらゆらと炎が生まれた。
オレンジ色の炎。空気が含まれれば青くなる?そんな考えでイメージを膨らませてみる。
炎は色を変えていきゴォォと音を立て青白い炎を吹き上げた。
「リ、リナージュ様、如何されましたか!?」
アーシャが慌てて寄って来るのが目に映る。
私は急いで炎を消し手を振ってみせた。
「ごめんなさい、ちょっと浮かれていました。卒業式なので気合を入れようと思っただけなのです、ごめんなさいね」
【あら、その喋り方でいいのです。カオリもやればできるじゃないですか】
(うん? キャバクラで働いてたし、人に合わせるのは早い方だと思うかな)
【キャバクラ……? それは何ですか……?】
(ああ、ごめん、なんでもない。気にしないで)
【そこまで言って気にしないでというほうが気になりますよ……】
そんなやり取りをしているうちに、アーシャは入り口付近に戻っており安心した顔を見せた。
「見たことのない炎でしたから魔法が暴走でもされたのかと思いました。
新しい実験ですか? 流石はリナージュ様です」
「ふふ。そうなんです。ごめんなさいね、気を遣わせてしまって」
【それです。さっきの炎はなんだったのですか? 見たことのない程に強い力を放っていました】
(あー、イメージの力って言ったからね。私がいた場所では魔法がなかったんだけど、代わりにこう言った知識を凝集した技術が発展していたんだ)
【魔法がない……というのは興味深いですが、知識を凝集とは私の知的探求心が疼きます。是非、カオリのいた場所にも行ってみたいです】
(いやぁ、それは無理だと思うよ。あまりにこことは遠すぎる。馬車なんかじゃとてもいけないくらいにね)
【そうなんですか……。それは残念です】
リナージュのしょんぼりした顔が目に浮かぶ。
私の憧れの人が、私の中でしょんぼりしているというのがなんだか嬉しい。
けれど、日本に戻るというのはどうにもならない。
むしろ私は戻りたくなかった。
大切だった彼氏……と思っていた男に裏切られ借金を背負い人生は詰んだ。
まるで逃げるようだけど、憧れのリナージュと身体を共有できて私は今幸せを感じている。
リナージュにとってそれは不都合であるし、好ましくないというのは分かる。
でも、それでも、私に少しくらいは救済があってもいいんじゃないかと思ってしまうのだ。
今ではコウジの代わり。いや、そういう言い方をしたくはない。
コウジいた時からリナージュには憧れを抱いていたし、そこに宿る感情に明らかな差異がある。
年齢こそコウジよりさらに年下、それなのに私より一回り程も年下の彼女を尊敬していたのだから。
だから……。
この先に待つ悲劇を伝えなければいけない。
思い出した現実をつきつけなければいけない。
変えられない未来なのかもしれないけど、知っていれば感じる辛さも軽減される可能性がある。
けれど……。
それはまだ私が他人事だと認識しているのを、浮き彫りにするだけのことだったのだ。
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