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第15話 リナージュの淑女としてのプライドがなんかかわいい
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セントフィールドの敷地は周りをぐるっと兵士たちで囲まれていた。
まだ戦闘などは始まっていない。おそらくは私が捕らえられたのを聞いてから、という手筈なのだろう。
ゲームではこの先の事は、
『アプサロスとの内通を行っていたセントフィールド家を滅ぼした。悪は滅びたぜ、やったね、ぶい』
くらいで簡潔に終わらせられてしまっていたので、ここからは予習済みとはいかない。
アーシャの存在も割と謎なんだよね。
爵位が低い貴族の正妻として迎えられたというのも、文章だけだったので本当かはよく分からないし。
なんとも穴だらけのシナリオだ。
ただ一つ言えることはセントフィールド家とリナージュが嵌められて滅びてしまったということ。
それで十分。
私にとって大切なのはリナージュ唯一人。
そのために鬼にでも悪魔にでもなってみせる。
兵士たちの頭の上に隕石でも降らせてもいいのだけど、とりあえず公爵である父と話そうと思い玄関前へと降り立った。
「お嬢様、御無事で……! 一体これはどういった事ですか?」
私兵隊の隊長であるエルビスさんだ。
歳は35程。頭をそり上げた筋骨隆々の男。猪なところがあるがその武勇は知れ渡っている。という設定だったっけ。
「卒業式で濡れ衣を着せられて婚約破棄を言い渡されました。さらにはセントフィールド家にスパイ容疑がかけられています」
「なっ……!? 誰が一体……。いや、婚約破棄と言えばアイゼン。王子の陰謀なのですか?」
「違います。うちはアプサロスとサイゼリスとの三国から狙われていると考えてもいいでしょう」
エルビスさんが驚きつつ囲んでいる兵士(ちなみに全てこの国の鎧を着ている)に目を向ける。
と、リナージュが私に話しかけてきた。
【カオリも私の喋り方が板につきましたね。なんだかかっこいいです】
(ふふ。リナージュの人生が流れ込んできたおかげってのもあるかも。今の私はほんとリナージュと全てを共有してるんだ)
【そういうことなんですね。しかし、どうしますか? すべて倒すというのはいかに今の私でも……】
(大丈夫。未知こそ恐怖。それをわからせてあげるよ。っと、その前にお父さんと話しに行くね)
【分かりました。父は話せばわかってくれると思います】
私はエルビスさんに向かって声をかける。
「多分大丈夫だと思うけれど、攻め込んできたら迎え撃ってください。話し合いでどうこうなる状況じゃないですから」
「畏まりました。お嬢様はどちらへ……?」
「お父様のところへ。この家は放棄することになるかもしれない」
「放棄……ですか……。伝統あるセントフィールド家を……。いえ、しかし、お嬢様がそう言うのであればそうなのでしょうな」
「ごめんなさいね。うちにいたというだけで、この先大変になるかもしれない。それでも付いてきて欲しいです」
「はっはっは。お嬢様がおしめをしている頃から一緒におるのですよ。たとえ火の中水の中。それに俺の部下に命を惜しむような奴などもいやしませんよ」
エルビスさんがそう言った途端、リナージュが声を荒げて抗議を入れた。
吹き出しそうになったのは内緒だ。
【おしめなんてしていません! 私は常に清潔にしてもらっていました!】
(そ、そんなとこに反応しなくても……。流石にエルビスさんはリナージュのおむつ事情なんて知らないって)
【淑女としてそこは譲れません!】
(べ、別にいいじゃない。リナージュがおむつをしていたと思うとなんだか可愛いのに)
【よくありませんし、していません!】
小さく息をつき、エルビスさんにリナージュの言葉を伝えることにした。
「私はおしめなどしておりませんよ、エルビス。ま、後の言葉は本当に頼もしく思っています」
「かっかっかっか。お嬢様、例えですよ、例え。だが、もししていたとしてもいいじゃないですか! その方が可愛いですぞ」
(ほらぁ。みんなそう思うんだって)
【エ・ル・ビ・ス……。もし体が戻ることがあったら覚えてなさい……】
体があればプルプルと震えているんじゃないかと思うような声。こわいこわい。
けれど、エルビスさんは貴重すぎる程に貴重な仲間だ。仲良くしておいて損はない。
「ありがとう、エルビス。そう言ってくれるとなんだか元気が湧いてきました」
【こ、こら、カオリ! そんなこと言ったら本当におしめをしていたと思われるじゃないですか!】
(いやいや、もうしてないって否定はしたじゃん。だいじょーぶだよ)
【で、ですが……エルビスが笑いをこらえたような顔をしているんですが?】
(気のせい気のせい、多分鼻が痒いんだよ)
【私の事馬鹿にしてません?】
(してませんよ? ええ、これっぽっちも)
【…………あっちに戻った時覚えてなさいよ。次はカオリのご両親に会うんですからね】
(あ、あっ! やめてー。しゃんとしますから!)
【分かればよろしい】
リナージュが得意げな様子で胸を張っているのが目に浮かぶよう。
とりあえず、あんまりもたもたとはしていられない。
一応姿を隠して降りたつもりなので見られてはないと思うけど、卒業式で私が捕まっていないのを知ってどう動くかは分からない。
「それではエルビス。ここはよろしく頼みますね。私はお父様と話してきますので」
「ええ、命に代えても……!」
「それは罷り通りません。あなたの命もエルビスの部下の方々も非常に大切な者たちなのです。何かがあればセントフィールド家を裏切ってでも逃げのびてください」
「そんな……! 俺たちは命なんて惜しく……いえ、分かりました。その眼、余程の覚悟からのものと見受けました」
「ありがとう」
ニコリと微笑みかけて私は屋敷の奥へと足を運びんだ。
まだ戦闘などは始まっていない。おそらくは私が捕らえられたのを聞いてから、という手筈なのだろう。
ゲームではこの先の事は、
『アプサロスとの内通を行っていたセントフィールド家を滅ぼした。悪は滅びたぜ、やったね、ぶい』
くらいで簡潔に終わらせられてしまっていたので、ここからは予習済みとはいかない。
アーシャの存在も割と謎なんだよね。
爵位が低い貴族の正妻として迎えられたというのも、文章だけだったので本当かはよく分からないし。
なんとも穴だらけのシナリオだ。
ただ一つ言えることはセントフィールド家とリナージュが嵌められて滅びてしまったということ。
それで十分。
私にとって大切なのはリナージュ唯一人。
そのために鬼にでも悪魔にでもなってみせる。
兵士たちの頭の上に隕石でも降らせてもいいのだけど、とりあえず公爵である父と話そうと思い玄関前へと降り立った。
「お嬢様、御無事で……! 一体これはどういった事ですか?」
私兵隊の隊長であるエルビスさんだ。
歳は35程。頭をそり上げた筋骨隆々の男。猪なところがあるがその武勇は知れ渡っている。という設定だったっけ。
「卒業式で濡れ衣を着せられて婚約破棄を言い渡されました。さらにはセントフィールド家にスパイ容疑がかけられています」
「なっ……!? 誰が一体……。いや、婚約破棄と言えばアイゼン。王子の陰謀なのですか?」
「違います。うちはアプサロスとサイゼリスとの三国から狙われていると考えてもいいでしょう」
エルビスさんが驚きつつ囲んでいる兵士(ちなみに全てこの国の鎧を着ている)に目を向ける。
と、リナージュが私に話しかけてきた。
【カオリも私の喋り方が板につきましたね。なんだかかっこいいです】
(ふふ。リナージュの人生が流れ込んできたおかげってのもあるかも。今の私はほんとリナージュと全てを共有してるんだ)
【そういうことなんですね。しかし、どうしますか? すべて倒すというのはいかに今の私でも……】
(大丈夫。未知こそ恐怖。それをわからせてあげるよ。っと、その前にお父さんと話しに行くね)
【分かりました。父は話せばわかってくれると思います】
私はエルビスさんに向かって声をかける。
「多分大丈夫だと思うけれど、攻め込んできたら迎え撃ってください。話し合いでどうこうなる状況じゃないですから」
「畏まりました。お嬢様はどちらへ……?」
「お父様のところへ。この家は放棄することになるかもしれない」
「放棄……ですか……。伝統あるセントフィールド家を……。いえ、しかし、お嬢様がそう言うのであればそうなのでしょうな」
「ごめんなさいね。うちにいたというだけで、この先大変になるかもしれない。それでも付いてきて欲しいです」
「はっはっは。お嬢様がおしめをしている頃から一緒におるのですよ。たとえ火の中水の中。それに俺の部下に命を惜しむような奴などもいやしませんよ」
エルビスさんがそう言った途端、リナージュが声を荒げて抗議を入れた。
吹き出しそうになったのは内緒だ。
【おしめなんてしていません! 私は常に清潔にしてもらっていました!】
(そ、そんなとこに反応しなくても……。流石にエルビスさんはリナージュのおむつ事情なんて知らないって)
【淑女としてそこは譲れません!】
(べ、別にいいじゃない。リナージュがおむつをしていたと思うとなんだか可愛いのに)
【よくありませんし、していません!】
小さく息をつき、エルビスさんにリナージュの言葉を伝えることにした。
「私はおしめなどしておりませんよ、エルビス。ま、後の言葉は本当に頼もしく思っています」
「かっかっかっか。お嬢様、例えですよ、例え。だが、もししていたとしてもいいじゃないですか! その方が可愛いですぞ」
(ほらぁ。みんなそう思うんだって)
【エ・ル・ビ・ス……。もし体が戻ることがあったら覚えてなさい……】
体があればプルプルと震えているんじゃないかと思うような声。こわいこわい。
けれど、エルビスさんは貴重すぎる程に貴重な仲間だ。仲良くしておいて損はない。
「ありがとう、エルビス。そう言ってくれるとなんだか元気が湧いてきました」
【こ、こら、カオリ! そんなこと言ったら本当におしめをしていたと思われるじゃないですか!】
(いやいや、もうしてないって否定はしたじゃん。だいじょーぶだよ)
【で、ですが……エルビスが笑いをこらえたような顔をしているんですが?】
(気のせい気のせい、多分鼻が痒いんだよ)
【私の事馬鹿にしてません?】
(してませんよ? ええ、これっぽっちも)
【…………あっちに戻った時覚えてなさいよ。次はカオリのご両親に会うんですからね】
(あ、あっ! やめてー。しゃんとしますから!)
【分かればよろしい】
リナージュが得意げな様子で胸を張っているのが目に浮かぶよう。
とりあえず、あんまりもたもたとはしていられない。
一応姿を隠して降りたつもりなので見られてはないと思うけど、卒業式で私が捕まっていないのを知ってどう動くかは分からない。
「それではエルビス。ここはよろしく頼みますね。私はお父様と話してきますので」
「ええ、命に代えても……!」
「それは罷り通りません。あなたの命もエルビスの部下の方々も非常に大切な者たちなのです。何かがあればセントフィールド家を裏切ってでも逃げのびてください」
「そんな……! 俺たちは命なんて惜しく……いえ、分かりました。その眼、余程の覚悟からのものと見受けました」
「ありがとう」
ニコリと微笑みかけて私は屋敷の奥へと足を運びんだ。
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