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第16話 公爵家×(滅ぼした恨み×復讐10倍)=?
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長い廊下。リナージュの父であるフォレアス公爵のもとへ行こうと、敷かれたダマスク柄の絨毯を歩いていると、男の子が私に近付いてきた。
「姉さん……一体どうなっているのですか?」
不安げな表情を浮かべているのは、二歳年下のセントフィールド家の長男アレスくんだと思う。
こう言っちゃ悪いが、脇役なので金髪碧眼のショートカットであまり特徴のない顔つきをしている。
いや、普通にイケメンなんだけど。ただ普通にイケメンなんだよね。うん。かっこいいんだけど。
とは言ってもゲームでの話。
今は彼の存在も大きい。
脇役ではあるが魔法力は高く運動能力も申し分ない。
リナージュに比べちゃうと器用貧乏な面という感じになってしまうけど。
「アーシャが隣国のスパイでした。セントフィールド家がそれを囲っていたとして逆賊の汚名をかけられています。それが囲まれている理由です。
これは嵌められた結果なので覆る事項ではありません」
「ア、アーシャが……!?」
アレスくんも当然アーシャと同じ家で育っているわけで親しくしていたはず。
それがスパイだと知れば驚くのも当然だと思う。
【カオリ、アレスにはもうちょっと穏やかに喋ってもいいと思いますよ。懐いてくれているいい子ですし】
(ん、うん。でも今は緊迫感持たせた方がいいかなと思って。アレスくんはゲームではあんまり知らないけどリナージュ的にはしっかりした子でしょ?
だから気が動転したりはしないと思ったんだけど)
【なるほど、そういうことですか。確かにアレスの力も必要になるかもしれませんね】
(お父さんが長男を戦いに駆り出すなんて!? みたいに怒ったりはしないかな?)
【大丈夫です。あの人はむしろ笑って送り出すくらいの人でしょうから】
(ん、だよね。そんなイメージだ)
私はアレスくんの目を見据えて言い聞かせるように言葉をかけた。
「アレス、もしかしたら戦闘が始まるかもしれません。他の弟や妹たちにもそう伝えておいてください。これは国絡みの陰謀だと」
「分かりました、姉さん。正直信じられなかったけれど、姉さんがそこまで真剣な顔をして言うのなら正しいのだと判断します」
「ふふ、いい子ですね。私は父のところへと行くのでお願いします」
14歳の彼であるが頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。
それでも小さく頭を下げて去って行ったので、セントフィールド家の躾は行き届いていると考えるところだろうね。
さて。
さらに進み重厚な扉の前に立つ。
セントフィールドの象徴でもある鷹の意匠をこらしたドアノックを優しく叩く。
公爵と言えば国の上から考えたほうが早い人間。リナージュの父であり知識もあるが、軽々な態度は取れない。
自然と背筋が伸びあがり肩に力が入る。
【ふふ。カオリ、そんなに緊張しなくても大丈夫です。父は私には優しいですから】
(そりゃこんなに可愛くて才能豊かならねぇ。いやはや私とは違いますな!)
【そんなことはないですよ。カオリは美しい容姿をしていました】
(才能は……?)
【えっと……そうですね……。足の指でティッシュをつまめる特技があるんですっけ?】
(や、やめてー。人の怠惰から生まれた特技を暴露しないで。それ誰にも言ったことないんだから!)
【カオリの恥ずかしい事もみんな知ってますからね】
(わ、私だってリナージュの……くっ、この完璧人間め……!)
本物のお嬢様として育ったからか、リナージュには性格の悪さ以外に欠点らしい欠点がなかった。
それよりも、私の恥ずかしいことを全て知られているというのはまずい。
現代人には知られたくない秘密が山ほどできてしまうものなのだ。
しかし。
扉の奥から渋い声がかかり、私は涙をのむことにした。
ドアを開けると渋いおじさまが私の事をじっと見つめて、窓の外に目を向け、そして小さく息をついた。
フォレアス公爵。
確かに錬磨されたオーラが背中から漂っている。まだ40歳くらいの年齢だというのに。
髭は丁寧に整えられていて、その眼光は鋭い。
けれど私が他人であるがゆえか、年齢が近いからかその見た目は格好良いと思えるほどの男性だ。
そこにリナージュとして感情は存在しない。
「リナージュ……まずは座りなさい」
黒檀のような素材でできたデスクの脇に置いてあった、おそらく公爵用のロッキングチェアを勧められ私は腰を下ろした。
滑らかな毛皮が肌を撫で気持ちが少し落ち着く。
「今がどういった状況か尋ねるために来たのではあるまい? 会場から無事にここに戻って来ているのがまずおかしいからな」
これだけ包囲されていれば当然疑問に思うと思う。
アレスくんは何も思っていなかったようだけど。
「セントフィールド家は嵌められました。アプサロスとサイゼリス、そしてこの国キューラスの三国にです」
「嵌められた……。ふむ。説明してもらえるか?」
私はフォレアス公爵に一部始終を説明した。
アーシャがスパイとしての裏切り者だったこと。
婚約が私の悪感情を昂らせることで、嫌がらせの証拠を作り、最終的に婚約破棄をすると最初から考えられた捏造劇だったこと。
アプサロスとサイゼリスが裏で同盟を組んでいて、セントフィールドの財を骨までしゃぶりつくそうとしていること。
「それは許せんことだな……。あの愚王め、どれだけこの国のために貢献してやったと思っているんだ……!
リナージュの婚約もあいつが是非にと頼み込んできたからだというのに」
「そうですね。私も一時はアイゼンに心を奪われていましたのでなんとも言えませんが……」
【なんだか申し訳ありませんね。あの時までは良い方だと思っていたんですよ……】
(女は大変だよねぇ。私も今思えば絶対おかしかったのに、あの時まではコウジと結婚できると思ってたもんなぁ……)
【はぁ】
(はぁ~)
【ふふ。ま、これからですよね】
(そうそう、これからだよ)
窓の外を見ながら考え込むフォレアス公爵に、私は考えていた宣言を言い放つ。
「お父様。私たちセントフィールド公爵家はリンガイア帝国と同盟を組んで、三国を滅ぼすべきだと考えています」
「姉さん……一体どうなっているのですか?」
不安げな表情を浮かべているのは、二歳年下のセントフィールド家の長男アレスくんだと思う。
こう言っちゃ悪いが、脇役なので金髪碧眼のショートカットであまり特徴のない顔つきをしている。
いや、普通にイケメンなんだけど。ただ普通にイケメンなんだよね。うん。かっこいいんだけど。
とは言ってもゲームでの話。
今は彼の存在も大きい。
脇役ではあるが魔法力は高く運動能力も申し分ない。
リナージュに比べちゃうと器用貧乏な面という感じになってしまうけど。
「アーシャが隣国のスパイでした。セントフィールド家がそれを囲っていたとして逆賊の汚名をかけられています。それが囲まれている理由です。
これは嵌められた結果なので覆る事項ではありません」
「ア、アーシャが……!?」
アレスくんも当然アーシャと同じ家で育っているわけで親しくしていたはず。
それがスパイだと知れば驚くのも当然だと思う。
【カオリ、アレスにはもうちょっと穏やかに喋ってもいいと思いますよ。懐いてくれているいい子ですし】
(ん、うん。でも今は緊迫感持たせた方がいいかなと思って。アレスくんはゲームではあんまり知らないけどリナージュ的にはしっかりした子でしょ?
だから気が動転したりはしないと思ったんだけど)
【なるほど、そういうことですか。確かにアレスの力も必要になるかもしれませんね】
(お父さんが長男を戦いに駆り出すなんて!? みたいに怒ったりはしないかな?)
【大丈夫です。あの人はむしろ笑って送り出すくらいの人でしょうから】
(ん、だよね。そんなイメージだ)
私はアレスくんの目を見据えて言い聞かせるように言葉をかけた。
「アレス、もしかしたら戦闘が始まるかもしれません。他の弟や妹たちにもそう伝えておいてください。これは国絡みの陰謀だと」
「分かりました、姉さん。正直信じられなかったけれど、姉さんがそこまで真剣な顔をして言うのなら正しいのだと判断します」
「ふふ、いい子ですね。私は父のところへと行くのでお願いします」
14歳の彼であるが頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。
それでも小さく頭を下げて去って行ったので、セントフィールド家の躾は行き届いていると考えるところだろうね。
さて。
さらに進み重厚な扉の前に立つ。
セントフィールドの象徴でもある鷹の意匠をこらしたドアノックを優しく叩く。
公爵と言えば国の上から考えたほうが早い人間。リナージュの父であり知識もあるが、軽々な態度は取れない。
自然と背筋が伸びあがり肩に力が入る。
【ふふ。カオリ、そんなに緊張しなくても大丈夫です。父は私には優しいですから】
(そりゃこんなに可愛くて才能豊かならねぇ。いやはや私とは違いますな!)
【そんなことはないですよ。カオリは美しい容姿をしていました】
(才能は……?)
【えっと……そうですね……。足の指でティッシュをつまめる特技があるんですっけ?】
(や、やめてー。人の怠惰から生まれた特技を暴露しないで。それ誰にも言ったことないんだから!)
【カオリの恥ずかしい事もみんな知ってますからね】
(わ、私だってリナージュの……くっ、この完璧人間め……!)
本物のお嬢様として育ったからか、リナージュには性格の悪さ以外に欠点らしい欠点がなかった。
それよりも、私の恥ずかしいことを全て知られているというのはまずい。
現代人には知られたくない秘密が山ほどできてしまうものなのだ。
しかし。
扉の奥から渋い声がかかり、私は涙をのむことにした。
ドアを開けると渋いおじさまが私の事をじっと見つめて、窓の外に目を向け、そして小さく息をついた。
フォレアス公爵。
確かに錬磨されたオーラが背中から漂っている。まだ40歳くらいの年齢だというのに。
髭は丁寧に整えられていて、その眼光は鋭い。
けれど私が他人であるがゆえか、年齢が近いからかその見た目は格好良いと思えるほどの男性だ。
そこにリナージュとして感情は存在しない。
「リナージュ……まずは座りなさい」
黒檀のような素材でできたデスクの脇に置いてあった、おそらく公爵用のロッキングチェアを勧められ私は腰を下ろした。
滑らかな毛皮が肌を撫で気持ちが少し落ち着く。
「今がどういった状況か尋ねるために来たのではあるまい? 会場から無事にここに戻って来ているのがまずおかしいからな」
これだけ包囲されていれば当然疑問に思うと思う。
アレスくんは何も思っていなかったようだけど。
「セントフィールド家は嵌められました。アプサロスとサイゼリス、そしてこの国キューラスの三国にです」
「嵌められた……。ふむ。説明してもらえるか?」
私はフォレアス公爵に一部始終を説明した。
アーシャがスパイとしての裏切り者だったこと。
婚約が私の悪感情を昂らせることで、嫌がらせの証拠を作り、最終的に婚約破棄をすると最初から考えられた捏造劇だったこと。
アプサロスとサイゼリスが裏で同盟を組んでいて、セントフィールドの財を骨までしゃぶりつくそうとしていること。
「それは許せんことだな……。あの愚王め、どれだけこの国のために貢献してやったと思っているんだ……!
リナージュの婚約もあいつが是非にと頼み込んできたからだというのに」
「そうですね。私も一時はアイゼンに心を奪われていましたのでなんとも言えませんが……」
【なんだか申し訳ありませんね。あの時までは良い方だと思っていたんですよ……】
(女は大変だよねぇ。私も今思えば絶対おかしかったのに、あの時まではコウジと結婚できると思ってたもんなぁ……)
【はぁ】
(はぁ~)
【ふふ。ま、これからですよね】
(そうそう、これからだよ)
窓の外を見ながら考え込むフォレアス公爵に、私は考えていた宣言を言い放つ。
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