37 / 46
37
しおりを挟む
俺が気付いた時には森にいた。いや、アリゼッタとエリーゼも共にいるので俺たちというべきだろうか。
しかし、見たことのない場所。廃坑ダンジョンの外の森でもなければ、街の周りの森とも全然違う。
「ここは一体どこですの……? とても幻想的というかなんというか……」
「ええ。こんな美しい場所来たことがありません」
清流がキラキラと光を反射し、ミズゴケがちらちらと揺らめいている。
草木にはつややかな露がついており陽光をその中に蓄える。
生えている花や佇んでいる木々も、まるでファンタジーの世界に来たかのような変わった種類。
いや、この世界自体が剣と魔法のファンタジーのような世界。これこそ普通なのかもしれないが。
「タイランガルが紫の珠を砕いてここに飛ばされたってわけだよな……。あれは何だったのだろうか」
俺がそう口にすると、アリゼッタが大きめの胸を張った。
「ふふん。褒めてくださいませ、エトワイア! 私あの珠を鑑定していたのです」
「ええ。アリゼッタは機転が利いて素晴らしいです。私なんてどうしようかと思ってましたのに」
「ちょ、私はエトワイアに褒めてもらいたかったんですのよ。ま、まぁ、ありがとうですわ」
「ははは。アリゼッタ、ナイスだ! それで……どんな結果だったんだ?」
アリゼッタの頭をなでてやると嬉しそうに頬を染め、思い出すためか目をつぶった。
「ええと、リンガール大陸に個体別にランダムで転移させる魔法珠。って説明でしたわ。希少度が恐ろしく高いものみたいでしたの」
「リンガール大陸……っていうと俺たちがいた場所と違うところ……か」
王城の書庫で勉強をしていた時に、大陸の記述がされていたのを覚えている。
俺たちがいたのはアントーラ大陸。
アントーラ大陸は人間が支配――というと言葉が悪いが――している大陸でリンガール大陸は、はっきり言って名前以外未知の大陸だった。
「ん。個体別……? 俺たちは手を取り合ってたから一個体と判断されたってことか? だとしたら……間に合って本当に良かったな」
手が繋がったのは、かなりぎりぎりのタイミングだった。
それが1秒。いや0.5秒でも遅れていたら、俺は二人とは別の場所に飛ばされていたということだ。
もしそうなっていたらと考えるとぞっとする。
「本当に良かったですわ」
「アリゼッタが珠の鑑定をして、もしかしたらと私に教えてくれたんです」
「そうなのか? アリゼッタ……お前がいてくれて本当に嬉しいよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいな。エリーゼも、エリーゼも中に入れてあげて欲しいのですわ」
俺がアリゼッタの手を取ると顔は綻ばせたが、口ではそう言いエリーゼに視線を向けていた。
「勿論、エリーゼもそうだ。二人がいてくれて本当に良かった。二人がいるから俺は前を向いて歩ける」
「「エトワイア……」」
俺たちが三人で手を取り合っていると、突如がさりと茂みが揺れる。
警戒しながらそちらに視線を向けると、女の子が顔を驚愕に染めて立っていた。
そのまま持っていたカゴを落とすと、悲鳴を上げて背中を向けて走り去る。
「きゃぁ~~~」
だが、ただの女の子ではなかった。
「今のは…………タイランガルと同じ……魔族ですの……?」
「そうなんでしょうか。それにしては可愛らしいというかなんというか。動物さんのような、人のような……」
「ああ、おそらくエリーゼが正しい。多分、獣人ってやつだな。見たことはなかったが」
黄色く尖った耳が頭から伸びており、お尻の辺りからはふさふさした毛の生えた尻尾が生えていた。
ゲームや小説の知識が通用するのならば獣人というもので間違いないだろう。
いや、魔族は魔族であっていたのだから通用するのだろう。
まさかこの目で本物を見ることができるとは思っていなかった。
「獣人……というのですか。危険な存在なんですの?」
「いや……分からないな。だが、敵意は感じなかった。それに可愛かったし」
「「エトワイア……!」」
二人の異口同音がハモリを奏でる。そんないいものではまるでないのだが。
「えと、そうじゃなくて、普通に可愛かっただろ? 狐の耳と尻尾が……うん……。
「確かに可愛かったですけれど……。怪しいですわ」
「顔も普通に美人さんでしたよね。美少女さんというほうが正しいのでしょうか」
「あ、あー。まぁな。うん、二人の方がもっと可愛いけどな。とりあえず敵意はなかった。それでいいじゃないか!」
二人のジト目が俺の精神をじくじく削る。
だが誤魔化されてくれたのか小さく息をついた。
「そうですね……。単純に私達に驚いたといった様子でした」
「ん、そうだな。行く当てもないし、カゴを届けてやることにするか」
「そうですわね。なんで驚かれたのか分かりませんが、誤解は解いておきたいところですわ」
十中八九人間を見たからっていう驚きだろうが確定ではない。
俺はいくつかのキノコや山菜のような物が入ったカゴを拾い上げると、女の子が逃げていった方向に向かって歩き出した。
しかし、見たことのない場所。廃坑ダンジョンの外の森でもなければ、街の周りの森とも全然違う。
「ここは一体どこですの……? とても幻想的というかなんというか……」
「ええ。こんな美しい場所来たことがありません」
清流がキラキラと光を反射し、ミズゴケがちらちらと揺らめいている。
草木にはつややかな露がついており陽光をその中に蓄える。
生えている花や佇んでいる木々も、まるでファンタジーの世界に来たかのような変わった種類。
いや、この世界自体が剣と魔法のファンタジーのような世界。これこそ普通なのかもしれないが。
「タイランガルが紫の珠を砕いてここに飛ばされたってわけだよな……。あれは何だったのだろうか」
俺がそう口にすると、アリゼッタが大きめの胸を張った。
「ふふん。褒めてくださいませ、エトワイア! 私あの珠を鑑定していたのです」
「ええ。アリゼッタは機転が利いて素晴らしいです。私なんてどうしようかと思ってましたのに」
「ちょ、私はエトワイアに褒めてもらいたかったんですのよ。ま、まぁ、ありがとうですわ」
「ははは。アリゼッタ、ナイスだ! それで……どんな結果だったんだ?」
アリゼッタの頭をなでてやると嬉しそうに頬を染め、思い出すためか目をつぶった。
「ええと、リンガール大陸に個体別にランダムで転移させる魔法珠。って説明でしたわ。希少度が恐ろしく高いものみたいでしたの」
「リンガール大陸……っていうと俺たちがいた場所と違うところ……か」
王城の書庫で勉強をしていた時に、大陸の記述がされていたのを覚えている。
俺たちがいたのはアントーラ大陸。
アントーラ大陸は人間が支配――というと言葉が悪いが――している大陸でリンガール大陸は、はっきり言って名前以外未知の大陸だった。
「ん。個体別……? 俺たちは手を取り合ってたから一個体と判断されたってことか? だとしたら……間に合って本当に良かったな」
手が繋がったのは、かなりぎりぎりのタイミングだった。
それが1秒。いや0.5秒でも遅れていたら、俺は二人とは別の場所に飛ばされていたということだ。
もしそうなっていたらと考えるとぞっとする。
「本当に良かったですわ」
「アリゼッタが珠の鑑定をして、もしかしたらと私に教えてくれたんです」
「そうなのか? アリゼッタ……お前がいてくれて本当に嬉しいよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいな。エリーゼも、エリーゼも中に入れてあげて欲しいのですわ」
俺がアリゼッタの手を取ると顔は綻ばせたが、口ではそう言いエリーゼに視線を向けていた。
「勿論、エリーゼもそうだ。二人がいてくれて本当に良かった。二人がいるから俺は前を向いて歩ける」
「「エトワイア……」」
俺たちが三人で手を取り合っていると、突如がさりと茂みが揺れる。
警戒しながらそちらに視線を向けると、女の子が顔を驚愕に染めて立っていた。
そのまま持っていたカゴを落とすと、悲鳴を上げて背中を向けて走り去る。
「きゃぁ~~~」
だが、ただの女の子ではなかった。
「今のは…………タイランガルと同じ……魔族ですの……?」
「そうなんでしょうか。それにしては可愛らしいというかなんというか。動物さんのような、人のような……」
「ああ、おそらくエリーゼが正しい。多分、獣人ってやつだな。見たことはなかったが」
黄色く尖った耳が頭から伸びており、お尻の辺りからはふさふさした毛の生えた尻尾が生えていた。
ゲームや小説の知識が通用するのならば獣人というもので間違いないだろう。
いや、魔族は魔族であっていたのだから通用するのだろう。
まさかこの目で本物を見ることができるとは思っていなかった。
「獣人……というのですか。危険な存在なんですの?」
「いや……分からないな。だが、敵意は感じなかった。それに可愛かったし」
「「エトワイア……!」」
二人の異口同音がハモリを奏でる。そんないいものではまるでないのだが。
「えと、そうじゃなくて、普通に可愛かっただろ? 狐の耳と尻尾が……うん……。
「確かに可愛かったですけれど……。怪しいですわ」
「顔も普通に美人さんでしたよね。美少女さんというほうが正しいのでしょうか」
「あ、あー。まぁな。うん、二人の方がもっと可愛いけどな。とりあえず敵意はなかった。それでいいじゃないか!」
二人のジト目が俺の精神をじくじく削る。
だが誤魔化されてくれたのか小さく息をついた。
「そうですね……。単純に私達に驚いたといった様子でした」
「ん、そうだな。行く当てもないし、カゴを届けてやることにするか」
「そうですわね。なんで驚かれたのか分かりませんが、誤解は解いておきたいところですわ」
十中八九人間を見たからっていう驚きだろうが確定ではない。
俺はいくつかのキノコや山菜のような物が入ったカゴを拾い上げると、女の子が逃げていった方向に向かって歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!
ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。
転生チートを武器に、88kgの減量を導く!
婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、
クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、
薔薇のように美しく咲き変わる。
舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、
父との涙の再会、
そして最後の別れ――
「僕を食べてくれて、ありがとう」
捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命!
※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中
※表紙イラストはAIに作成していただきました。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる