戦慄の罠師 ~世界を相手取る俺の圧倒的戦術無双~

こたつぬこ

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第10話 くそみたいな風習

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 ディアのステータスはどう見てもやばい系だった。
 薄々そうだとは思っていたけど、常闇蟲とかいうのが封印されてるってことなんだろう。
 右のカッコ内が常闇蟲とかいうやつの能力と仮定するなら数値がおかしい。
 あまりにも差があって無茶苦茶すぎる。

 まあ本人が実は常闇蟲だったパターンじゃなかったので良しとしよう。
 それでも俺はこのフラグを大切にするつもりではいたが。

 にしても俺は本当に解放してよかったのだろうか?
 と思わないこともない。

 封印された状態で俺よりもレベルが高いのはいいとして、流石にレベル355はやばいだろう。
 世界を破滅に導くとかも穏やかじゃない。
 けれど、ディアが狭く冷たい部屋で独りなのを放置できるはずがない。

 それに可愛いしな。可愛いは正義。
 年齢も思った以上に近かったことだし。
 女のために生きる事こそ男の使命。
 今までそんなことなかったけどそういうことにして俺は前を向く。

「ディアは強いんだな。いやいや、お兄さんびっくらこいちゃったよ」

「わたし……常闇蟲が、いるから……」

「あ、ああ……それもそうだが。そんなものいなくたって俺より強いんだぜ? こんなに可愛いのに」

「かわ、いい……? わたしが……?」

「ああ、他に誰がいるって言うんだ。ディアはくそ可愛いぞ!」

 染み一つない白の肌を僅かに赤く染めるのが無茶苦茶可愛い。
 それを感じたのか、両手を頬に当てる動作も女子力が高いと思う。

「わたし、かわいい、の……? うれしい」

「そうかそうか! ディアが笑ってくれると俺も嬉しいぞ」

 わしゃわしゃと絹糸のように細い黒髪をかき乱してやると、少し嫌そうに眉をしかめたがすぐに微笑んだ。

「レンジュ……めっ……! 髪、乱れちゃう……」

 世界の破滅に関与する存在だとしても俺は幸せだ。
 どうせ封印盤だけで封印を解ける状態だったんだから、遅かれ早かれ解放されていた。
 ならこの世界に関与が薄い俺が解き放って正解だったのだと思う。

「ははは、すまんすまん。
 さて……。ディアが森を歩けそうなのは分かったけど、未知過ぎて全く分からんな。未知の道だな。道ないけど」

 俺のダジャレにキョトンとした表情で首を傾げるディア。
 可愛らしいのだけど。反応が欲しい。

「くっ。ディアには少し難しかったか……」

「みちの、みち……」

「え!?」

「レンジュ、みちのみち、っていった……。しょうもない、よ?」

 ワンテンポおかれた反応に一瞬どう返すか困ってしまったが親指を立ててごまかした。

「ナイス反応!」

 再度キョトンとした表情で首を傾けた後、俺をまねたのか親指を立てた。

「いえ、い」

「いや、知ってただろそれ……。ま、いいや。ええと……ディアはここに閉じ込められていたわけじゃん?」

「うん、いえ、い……!」

「あ、うん。可愛い可愛い、よしよし」

 反応が微妙だったのが不満だったのかわずかに頬を膨らませたので、頭をなでてやると物凄く嬉しそうな顔をしてくれた。
 こんな時間も楽しくていいんだが、ずっとやってると暗くなってしまうだろう。
 今ここでなら遺跡の中に入ることができるが、流石に森の中で夜を過ごしたくはない。

 日本の森ですら虫とかが寄ってきそうで嫌なのに、こんな知らない世界の、それもモンスターやらがいそうな森で夜を過ごすとかありえない。
 準備や道具が揃ってるならともかくとしてだ。
 それにディアがいる。繋がれていたんだからここはベッドででも寝かせてやりたい。

「ディアはいつからここに閉じ込められてたん?」

「う、んと……多分、300年くらい…………」

「300年!? 15歳じゃなかったの……?」

「15歳、の時に……常闇蟲の贄、となった……。ううん、なるはずだった……」

 先に進みたい気持ちは山々だがディアの言葉を聞かずにはいられなかった。

 100年間孤独に耐えていたとしたら、それはどんな感情を抱くというのか?
 俺の転生候補の中に石ころやタワシがあったが、それとほぼ同じだろう。

 それをこの目の前の少女は実際に味わっているのだ。
 大人しくさせるためとはいえ、自動トランポリンを仕掛けたことに非常に申し訳ないという気持ちが溢れた。

「ごめん……さっきはひどいことして……」

「ひどい、こと……?」

「繋がれてるとき上下に跳ねまくっただろ?」

「あぁ……。こわかった、よ……。けどレンジュ、会えたからうれしい」

 抱きしめていいのなら抱きしめていただろう。
 けれど俺にはそんなスキルはない。あるのは罠を仕掛けるというスキルだけだ。

 日本ではジゴロのスキルを取得していなかった。
 少女に触れることができるのは頭と……せいぜいが手だけだ。
 それだけでも俺の心臓はバクバクとふるえる。

「俺もディアに会えてよかったよ。それで……なるはずだったってのはどういうことなんだ?」

「わたし、には……特別な力が……あったらしくて。贄、ではなく宿主になった、の………」

「宿主……。それが300年前?」

「そう……。それで、あそこに封印される前に……常闇蟲が、闇属性最上級魔法……で、私の、時間をとめたの……」

「時間を止めた……?」

「う……ん。私が死ねば常闇蟲も、一緒に死ぬ……。それを、防いだ…………」

 どうやらその後の話を聞いていると、お話でよく聞くようなことが過去に行われていたらしい。

 常闇蟲というナニカがある一つの国を滅ぼした。
 人々はその災禍を広げないために、生贄として若い女を捧げるというありきたりでくそみたいな風習を、隣国の最も近い村が行った。

 なぜそんなことをするのだろうか?

 確か昔の中国でも行ってて、俺の尊敬する諸葛亮孔明先生が饅頭を代わりに捧げたという話がある。
 まぁそれは川の氾濫か何かで、常闇蟲という実在生物(?)の餌としての生贄とは違うんだろうけど。


 ディアもその忌まわしき風習の生贄として選ばれたはずだった。
 常闇蟲の餌か何か知らないが、どのくらいに及ぶか想像もできない程の人数の死んでいった少女たちと同じ運命を辿るはずであったのだ。
 けれどディアの場合だけは違った。
 逆に常闇蟲の存在を体に宿すという奇跡が起きたのだ。
 その時のディアと常闇蟲の自我は半々といった感じで、生贄を行っていた村はディアの体に宿った常闇蟲が滅ぼしたらしい。
 ディアはそれほど気にしていないようだったが、自分の身体でそれを行ったのだからまるきり気にしていないわけはないだろう。


 ま、俺もそんなこと気にしない。
 自分の目で見て感じたことだけを信じて生きるのだ。

 そして身よりも無くなり住む場所もなくなったディアは途方に暮れていた。


 それでも必死に生きていたある日、ディアを殺すためか封印するためか討伐隊が派遣されてきた。
 それも宿った常闇蟲がなぎ倒すように殺していったという。
 けれど、独りでずっと戦っていたディアは当然消耗していき、何度目かの討伐隊と戦っていた時、世界最高峰の魔術師のバルなんとかだかに遺跡に封印されてしまった。
 少女の命と共に常闇蟲が死ぬであろうという予測からの封印。
 それを常闇蟲が魔法で覆したのだという。


 そしてこの遺跡はアンタッチャブルとなった……のだというが、それにしては落ちていてはいけないはずの封印盤が無造作に落ちていたし、怪しげな女性の姿も見かけた。
 俺には何かキナ臭い予感がしてならなかった。
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