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第13話 罠師の醍醐味
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全ての準備を整えた俺たちは、ジッと距離を詰めてくるモンスターを見つめた。
大きく吊り上がるまなじりから、白銀の剣線のような瞳孔が俺たちの事を捉えている。
獰猛な顔つき。
虎と冠しているのは伊達じゃなく、膨らんだ鼻頭が俺たちの匂いを確認しているのかすんすんと揺らぐ。
保護色なのか茶色に僅かな深緑色の縞を入れた体毛。
伸びる爪がまるで刀を添えつけたような、どうみても初期で出会っては駄目なモンスター。
おかしい。もしこれがゲームだとしたら完全なバランス設定のミス。
いわゆるくそゲーだ!
だが、人生と言うのはくそゲーだと誰かが言っていた。
これはそういうことなのかもしれない。
やるしかない。
諦めたら終わりなのだから。
僅かなミスも、僅かな不運も命取りになり呆気なく俺たちの命は散る。
けれど、おそらくはそれこそが異世界というもの。それが罠師という枠から外れた職業の定め。
日本に生きていたときに冗談で「死ぬ~死ぬ~」みたいに言っていた時とは違う本物の命の危機。
それが現実として俺たちに牙を剥く。
ディアという守るべき存在の手を小さく握り、作戦は始動した。
ディアの手から無数に煌めく炎の弾丸――ヒートパラベラムがモンスターに向かって放たれる。
同時に俺は右方に跳ぶ。
「ガルルァァ!」
幾百に及ぶというオレンジの火球を、豪風を伴った一振りで掻き消して怒号のような雄たけびを上げた。
火の粉が散り落ち葉をパチパチと燃やす。
ます第一段階。
先にこちらが牽制を放ちモンスターの動きを直線的に誘導するという作戦は成功した。
ここでダメージを与えては警戒させてしまう。
俺たちが敵意を持ち、そして、実力が下だと認識させたのだ。
大量の腐葉土を巻き上げながらモンスターが迫る。
同時に中間地点にあがる炎の断壁。
ゆらりと揺れるディアから放たれたフレイムウォールは五メートル程の高さの炎壁を作り出した。
炎による攻撃狙いでも、足止め狙いでもない。
そんなことで止まるようなやわな存在ではないことは分かっている。
「ディア!!」
まともに正面から当たれば紙屑のように殺されてしまうのは確定的。
俺の叫びでディアは反対側へと駆けて行く。俺よりよほど速い速度だ。
同時にモンスターが炎の壁を物ともしないでぶちぬいてくる。
しかし、当然計算通り。
フレイムウォールの効果や威力などはよく分からなかったが、あれだけのレベルの質量体がそれで止まったりするわけがない。
炎の壁は視界を悪くし、炎熱で俺たち二人の匂いを消すための煙幕であり、これを越えてくることができるか?という挑発の三つの狙い。
俺たちがいないのを見てか急ブレーキをかけた瞬間、俺の罠が発動し光芒がきらめく。
第一の罠――移動の罠。
これほどの質量体にどれほどの効果を及ぼすことができるかが不安要素だった。
当然、10メートルを移動させる程の効力を及ぼすことができるわけがない。
おそらくはディアが表記通りきっちり二メートルほど上昇していたことから、人間の質量体を基準にメートル換算されているのだろうと予測。
人間でもディアの身体は軽いため、もう少し重いものでも行けるだろうとは思うが、まぁあのモンスターは無理。
モンスターは右足だけを強制的に右にずらされるように移動させられたことで、バランスを崩し左に倒れ込む。
魔法陣の端をぎりぎり右足で踏んだ感じだったので少しひやひやしたが、狙い通りには変わりない。
同時に次の罠が発動する。
第二の罠――上昇の罠。
これの効力は目で見て確認済み、モンスターの体長から換算して、頭の位置で発動するように仕掛けておいたので、頭が奇妙に浮き上がる。
強振による脳震盪が望めればベストであるが、モンスターの耐久力的にそこまでの効果は得られないと予想していた。
モンスターの顔が驚愕に染まる。
そりゃそうだ。
圧倒的に矮小な俺たちを前にして体が自分の意志とは無関係、しかも物理法則を無視したかのように勝手に動いてしまうんだから。
だが強制的な作用力を持つ罠の前には個の実力というものは関係ない。
もっともこれはおそらくの話で、俺の想定を越える力で罠の効力を無効化するようなこともあるかもしれない
だが、今はそれはない。
モンスターは為すすべなく俺の罠にかかっていく。まるで〇タゴラスイッチのように。
これを見て俺はアイテムボックスに保管しておいた石ころを、ある地点に向かって大量に投げた。
第三の罠――落とし穴。
奇妙に揺れた頭はまるでゴール!とでもいわんばかりに、習熟して幅2メートル深さ4メートルに達した穴ぼこに逆立ち状態でぶちこまれた。
俺の心が歓喜に震える。罠が決まるとこんなにも気持ちのいいものだなんて。
悪友を落とし穴に叩き落した時とはまるで違う。
命のやり取りが俺の考えた通りの絵図で仕上がっていくことによる快感。
これが罠師の醍醐味だ。
「ガルルルルルァ!!」
穴ぼこの中から地響きのような怒号が伝わってくる。
心の奥底にしまいこんだ恐怖が染み出るように俺の心臓を叩く。
鑑定を試してみたが、やはりというかモンスターは体力を一割ほども減らしていなかった。
先ほどのゴーレムとはまるで別物なのだろう。
まあ、あれは運の要素がかなりでかかったとは思っているが。
だが俺の放った大量の石も同時に効果を示す。
最後の罠――煙爆弾の罠。
俺の大量にはなった石ころにきっちり反応し、ソフトボール大の緑色の球体から大量の煙が放たれる。
習熟してレベル3になっているためか、花火の煙玉の比じゃ無いほどの大量のモスグリーンの煙。
木々の間を縫うように広がり、モンスターの体と周囲を煙が覆い隠す。
全てが狙い通り、全てが計算通り。ミスなんてここまでは一つもない。
パチパチと焦げる落ち葉が匂いを消し、煙玉が視界を阻む(この煙玉は花火と違い匂いを伴わないようだ)さらに頭から落ちたモンスターは復帰に時間がかかるだろう。
後は逃げるだけだ。
大きく吊り上がるまなじりから、白銀の剣線のような瞳孔が俺たちの事を捉えている。
獰猛な顔つき。
虎と冠しているのは伊達じゃなく、膨らんだ鼻頭が俺たちの匂いを確認しているのかすんすんと揺らぐ。
保護色なのか茶色に僅かな深緑色の縞を入れた体毛。
伸びる爪がまるで刀を添えつけたような、どうみても初期で出会っては駄目なモンスター。
おかしい。もしこれがゲームだとしたら完全なバランス設定のミス。
いわゆるくそゲーだ!
だが、人生と言うのはくそゲーだと誰かが言っていた。
これはそういうことなのかもしれない。
やるしかない。
諦めたら終わりなのだから。
僅かなミスも、僅かな不運も命取りになり呆気なく俺たちの命は散る。
けれど、おそらくはそれこそが異世界というもの。それが罠師という枠から外れた職業の定め。
日本に生きていたときに冗談で「死ぬ~死ぬ~」みたいに言っていた時とは違う本物の命の危機。
それが現実として俺たちに牙を剥く。
ディアという守るべき存在の手を小さく握り、作戦は始動した。
ディアの手から無数に煌めく炎の弾丸――ヒートパラベラムがモンスターに向かって放たれる。
同時に俺は右方に跳ぶ。
「ガルルァァ!」
幾百に及ぶというオレンジの火球を、豪風を伴った一振りで掻き消して怒号のような雄たけびを上げた。
火の粉が散り落ち葉をパチパチと燃やす。
ます第一段階。
先にこちらが牽制を放ちモンスターの動きを直線的に誘導するという作戦は成功した。
ここでダメージを与えては警戒させてしまう。
俺たちが敵意を持ち、そして、実力が下だと認識させたのだ。
大量の腐葉土を巻き上げながらモンスターが迫る。
同時に中間地点にあがる炎の断壁。
ゆらりと揺れるディアから放たれたフレイムウォールは五メートル程の高さの炎壁を作り出した。
炎による攻撃狙いでも、足止め狙いでもない。
そんなことで止まるようなやわな存在ではないことは分かっている。
「ディア!!」
まともに正面から当たれば紙屑のように殺されてしまうのは確定的。
俺の叫びでディアは反対側へと駆けて行く。俺よりよほど速い速度だ。
同時にモンスターが炎の壁を物ともしないでぶちぬいてくる。
しかし、当然計算通り。
フレイムウォールの効果や威力などはよく分からなかったが、あれだけのレベルの質量体がそれで止まったりするわけがない。
炎の壁は視界を悪くし、炎熱で俺たち二人の匂いを消すための煙幕であり、これを越えてくることができるか?という挑発の三つの狙い。
俺たちがいないのを見てか急ブレーキをかけた瞬間、俺の罠が発動し光芒がきらめく。
第一の罠――移動の罠。
これほどの質量体にどれほどの効果を及ぼすことができるかが不安要素だった。
当然、10メートルを移動させる程の効力を及ぼすことができるわけがない。
おそらくはディアが表記通りきっちり二メートルほど上昇していたことから、人間の質量体を基準にメートル換算されているのだろうと予測。
人間でもディアの身体は軽いため、もう少し重いものでも行けるだろうとは思うが、まぁあのモンスターは無理。
モンスターは右足だけを強制的に右にずらされるように移動させられたことで、バランスを崩し左に倒れ込む。
魔法陣の端をぎりぎり右足で踏んだ感じだったので少しひやひやしたが、狙い通りには変わりない。
同時に次の罠が発動する。
第二の罠――上昇の罠。
これの効力は目で見て確認済み、モンスターの体長から換算して、頭の位置で発動するように仕掛けておいたので、頭が奇妙に浮き上がる。
強振による脳震盪が望めればベストであるが、モンスターの耐久力的にそこまでの効果は得られないと予想していた。
モンスターの顔が驚愕に染まる。
そりゃそうだ。
圧倒的に矮小な俺たちを前にして体が自分の意志とは無関係、しかも物理法則を無視したかのように勝手に動いてしまうんだから。
だが強制的な作用力を持つ罠の前には個の実力というものは関係ない。
もっともこれはおそらくの話で、俺の想定を越える力で罠の効力を無効化するようなこともあるかもしれない
だが、今はそれはない。
モンスターは為すすべなく俺の罠にかかっていく。まるで〇タゴラスイッチのように。
これを見て俺はアイテムボックスに保管しておいた石ころを、ある地点に向かって大量に投げた。
第三の罠――落とし穴。
奇妙に揺れた頭はまるでゴール!とでもいわんばかりに、習熟して幅2メートル深さ4メートルに達した穴ぼこに逆立ち状態でぶちこまれた。
俺の心が歓喜に震える。罠が決まるとこんなにも気持ちのいいものだなんて。
悪友を落とし穴に叩き落した時とはまるで違う。
命のやり取りが俺の考えた通りの絵図で仕上がっていくことによる快感。
これが罠師の醍醐味だ。
「ガルルルルルァ!!」
穴ぼこの中から地響きのような怒号が伝わってくる。
心の奥底にしまいこんだ恐怖が染み出るように俺の心臓を叩く。
鑑定を試してみたが、やはりというかモンスターは体力を一割ほども減らしていなかった。
先ほどのゴーレムとはまるで別物なのだろう。
まあ、あれは運の要素がかなりでかかったとは思っているが。
だが俺の放った大量の石も同時に効果を示す。
最後の罠――煙爆弾の罠。
俺の大量にはなった石ころにきっちり反応し、ソフトボール大の緑色の球体から大量の煙が放たれる。
習熟してレベル3になっているためか、花火の煙玉の比じゃ無いほどの大量のモスグリーンの煙。
木々の間を縫うように広がり、モンスターの体と周囲を煙が覆い隠す。
全てが狙い通り、全てが計算通り。ミスなんてここまでは一つもない。
パチパチと焦げる落ち葉が匂いを消し、煙玉が視界を阻む(この煙玉は花火と違い匂いを伴わないようだ)さらに頭から落ちたモンスターは復帰に時間がかかるだろう。
後は逃げるだけだ。
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