戦慄の罠師 ~世界を相手取る俺の圧倒的戦術無双~

こたつぬこ

文字の大きさ
14 / 21

第14話 見落とし

しおりを挟む
「レン、ジュ……。うまくいった、すごい…………」

 作戦通りディアと合流し、俺たちは全力で目的の方向へ向かって駆けて行く。
 ディアの微笑みが俺の心に染み渡る。

「ああ、やべぇな。こんなにうまくいくなんて」

「レンジュ、手が震えてる………。怖い、の……?」

 走りながらでも分かる程の俺の体は震えていた。
 けれど怖いからじゃない。

「いや、これは多分武者震いってやつだな。とまんねぇ!」

「ふふ……。かっこ、よかった……よ」

「ディアがびびらずに魔法を撃ってくれたおかげだ。あれがなければ最初の罠の地点に誘導できなかった」

「ありがと……。わたしも…、レンジュために、がんばった……」

 頭を撫でてやりたいがそんな余裕はない。
 後ろでは獰猛な雄たけびが鳴り響いているのだから。

 その時、なぜだか唐突に嫌な予感を感じた。
 何か重大な事を見落としているような、そんな予感。
 チリリと前頭葉を掠める電撃のような直感。
 同時に膨れ上がるような奇妙な気配を後ろ――モンスターがいるであろう場所から感じた。

 嫌な予感の正体。

 それはモンスターには魔力があるというのに、ここまで魔法らしき魔法を一切使っていない。
 にも関わらず、なぜかモンスターの魔力量が最大値から減っていたこと。
 冷や汗が首筋から噴き出る。
 このままではまずいと俺の勘が全力で警鐘を鳴らす。

「ディア! 乗れ!」

 確固たる考えがあったわけじゃない。なんの根拠もないただの勘。
 けれど命のやり取りをしているこの状況で、それを黙って見過ごすわけにはいかなかった。

 ただ、それだけだった。

 俺はディアと俺の前方に移動の罠を二つ仕掛ける。
 左の罠は左に、右の罠は右に。本当になんとなくからの行動だった。
 俺とディアの体は習熟し強化された移動の罠によって、まるで直角に折れ曲がるかのように体をずらし移動する。
 罠の対象に俺が含まれないという、意味不明仕様じゃなくて良かった。
 あまりの重心の変化に耐えきれず足がもつれてこけてしまう程の勢い。

 と同時にモンスターの咆哮が聞こえ、

「グォォォォォ!!」

 膨大なエネルギーを感じる白亜の波動が、俺たちがいた地点を薙いだ。
 いや、球体上のエネルギー弾と表現するのが良いだろうか。
 草を抉り、大地を抉り、木々を抉り、まるでそこにトンネルができあがるのではなかろうかと錯覚するほどの鋭利な切り口。
 暴風を伴い、俺とディアの体はさらに腐葉土の上を転がっていく。

 けれど、それだけだ。
 傷もないし立ち上がれて動くことも出来る。
 もし回避していなかったら俺たちはここにはいない。呆気なく死んでいたことだろう。
 安堵からか暖かい呼気が肺腑から零れる。
 だが回避した。第六感が仕事をしてくれたんだ。

 向かい側のディアに向かって進むべき方向を指さしてから、俺たちは再度駆け出した。
 おそらくは俺たちの位置を探知するような魔法を所持しているのだと思われる。
 広大すぎるほどのこの森で運悪く出会うなんてことが、やはりというかあるわけがない。

 出会うべくして出会った。

 俺が遺跡に入らず森を選んでしまっていれば、運の良し悪しなど全く関係なく二度目とも言える人生は終わっていたことだろう。

 だが、俺たちは切り抜けた。

 追いかけてくる気配はないので諦めたのだろう。
 それとも死んだと予想して探知の魔法を使わないのかは分からない。
 とするのであれば、切り開かれてしまった恐怖を煽る茫漠な力の痕跡に、足を踏み入れるわけにはいかない。
 そこは完全に視界が開けてしまっている。
 まだ煙爆弾の効果が残っているとはいえ、わざわざ危険を冒すことはできないのだ。

 ディアの方が足が速いのだが俺に合わせてくれているのか、その姿はほぼ真横で確認できる。
 合流できないとはいえ、その存在を確認できるだけで俺の中から力が沸いてくるような気がした。
 本当にありがたい。遺跡でディアを助けたのが多分俺の今までの人生で最大の功績。

 自分をほめてやりたいくらいだ。

 どのくらい走っただろうか?

 森の切れ目――というよりはぽっかり空いた空間に神殿のような建物が立っていた。
 ディアが捕らわれていた黒色の遺跡とはまるで違う水色の美しい神殿。
 ハープの音色でも聞こえてきそうな様相だ。
 先ほどのエネルギー体が作り上げた暴力の爪痕は神殿のすんで、まるでバリアでもあるかのようにその前方で途切れている。

 完全に切り抜けた。

 俺の心が僅かに緩む。
 だが緩めてはいけなかったのだ。
 戦いはまだ終わってはいないというのに。
 追ってこないからといって諦めたと考えたのは時期尚早だった。
 相手は探知と遠距離高威力の攻撃を所持しているのだから。

 刹那とも言える時間にディアの後ろから白亜の閃光が輝く。
 飛行機の離陸音のような爆音が森を駆け抜ける。
 冷や汗すら流すことを許されないその一瞬。
 森を蹂躙するように削り取ったその力は、ディアの体を容易く飲み込んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...