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032.初めての戦い。
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ナイフを構え目を据えて黒き影の動きを確認する。
装備的に言えばあまりにも心もとない、刃渡り20センチ程のくすんだ輝き。
両手で握ると思わず手が震え、歯がカチカチと音を立てる。
「大丈夫なのです! 魔物はウォーブラン、レベル5の低級魔物なのです!」
木の幹の陰から現るは150センチ程のナナフシのような枝の魔物。
身体も手足も細い枝で構成されていて、ところどころささくれている。
ダンジョンのモンスターの様な可愛らしい外見ではなく、目も口もない本当に枝で出来た人形が、二足歩行で迫ってきているのはかなり不気味。
手の先は刺又のように分かれており、お飾りと言わんばかりの枯れた茶の葉がくっついている。
「うわわ」
その速度はそれほど早くはない。
50メートルを15秒で走破するくらいの速度であり、僕の目でしっかり視認することが出来る。
サクサクと落ち葉を踏みしめながら迫ってきたウォーブランの振りかぶる横なぎを、眼を見開いて避け距離を取る。
「その調子なのです! 振った後に隙があるのでそこを狙えば良いのです!」
(と言われてもね……)
確かに見えはする。避けは出来る。
だからと言って身に沁みついた臆病な心は、そう簡単には払しょくすることは出来ない。
それでも、言われた通りに試してみようと握る掌に力を込める。
サシュッ!
僕の頬を開かれた枝先の一本が掠め、僅かに血が舞う。
けれど、お返しと言わんばかりに切りつけることが出来た。
おそらく木を切りつけるのとも生物を切りつけるのとも違う感触。
それが手に焼き付き僕の心を揺らす。
(初めて切った……生き物……って、生き物なのかな?)
いじめられて殴られた経験はある。
でも切られた経験はない。
殴られれば痛い。
切られればもっと痛いだろう。死ぬのはもっと痛いだろう。
(けれど……)
ウォーブランはその痛みに喘いだり、苦悶の表情を漏らしたりすることはない。
傷口を確認することもない。
それが僕の罪悪感を蹴散らすように押しのけていく。
木々の幹との位置取りに気を付けながらそれを繰り返し、湿る大地を滑らないように移動する。
段々とその動きにも慣れた頃、僕の力を込めた一撃がウォーブランの胴を切り裂いた。
そこから覗くは糸のように細いオーロラの様な揺らぎ。
(あの糸のような物は凄く硬かった。ということは魔力……? それで連なって四肢を動かしているのかな?)
四肢の繋ぎ目に裂けめや同様の輝きは見て取れない。
ぐにりと弾力のある粘剤のようなもので繋がっているように見えた。
「ご主人様、あと一息なのです! 頑張ってくださいなのです!」
「あ、りがと!」
パタパタ飛びながらピュイは注意深く危険がないようにと見てくれている。
それだけで安心して僕は動くことが出来る。
小さく乱れる気息を正し体を動かす。
(実際に身体を動かしての戦いなんて楽しくないと思っていたけど……、こんなにワクワクするものなんだ)
魔物を倒すにはどうすれば良いのか分からない。
弱点でもあってそこを攻撃しないといけないのかもしれない。
そう思いながらも攻撃を繰り返すこと三合。
ついに、ウォーブランは体中に裂傷を刻み、崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「はぁはぁはぁ……。やった、やったよ! 僕……」
腐葉土に膝をつき思わず拳を握り締める。
歓喜から身体に奮えが起こる。
木漏れ日が僕の初勝利を祝福してくれるように届き、柔らかく湿り気のある風が僕の鼻をくすぐっていく。
(もしかして……いじめるのって……楽しいから……?)
戦闘における興奮。
もしかしてそれは日本でも同じなのかと考えたが、僕は抵抗したことはない。
抵抗しない相手、それも人間を相手にする。
それを考えると僕の首筋の産毛が逆立つ。
「ご主人様、やりましたのです! かっこよかったのです!」
言いながら僕の腕の中に飛び込んでくるピュイに、嫌な気持ちが泡沫のように薄れていった。
装備的に言えばあまりにも心もとない、刃渡り20センチ程のくすんだ輝き。
両手で握ると思わず手が震え、歯がカチカチと音を立てる。
「大丈夫なのです! 魔物はウォーブラン、レベル5の低級魔物なのです!」
木の幹の陰から現るは150センチ程のナナフシのような枝の魔物。
身体も手足も細い枝で構成されていて、ところどころささくれている。
ダンジョンのモンスターの様な可愛らしい外見ではなく、目も口もない本当に枝で出来た人形が、二足歩行で迫ってきているのはかなり不気味。
手の先は刺又のように分かれており、お飾りと言わんばかりの枯れた茶の葉がくっついている。
「うわわ」
その速度はそれほど早くはない。
50メートルを15秒で走破するくらいの速度であり、僕の目でしっかり視認することが出来る。
サクサクと落ち葉を踏みしめながら迫ってきたウォーブランの振りかぶる横なぎを、眼を見開いて避け距離を取る。
「その調子なのです! 振った後に隙があるのでそこを狙えば良いのです!」
(と言われてもね……)
確かに見えはする。避けは出来る。
だからと言って身に沁みついた臆病な心は、そう簡単には払しょくすることは出来ない。
それでも、言われた通りに試してみようと握る掌に力を込める。
サシュッ!
僕の頬を開かれた枝先の一本が掠め、僅かに血が舞う。
けれど、お返しと言わんばかりに切りつけることが出来た。
おそらく木を切りつけるのとも生物を切りつけるのとも違う感触。
それが手に焼き付き僕の心を揺らす。
(初めて切った……生き物……って、生き物なのかな?)
いじめられて殴られた経験はある。
でも切られた経験はない。
殴られれば痛い。
切られればもっと痛いだろう。死ぬのはもっと痛いだろう。
(けれど……)
ウォーブランはその痛みに喘いだり、苦悶の表情を漏らしたりすることはない。
傷口を確認することもない。
それが僕の罪悪感を蹴散らすように押しのけていく。
木々の幹との位置取りに気を付けながらそれを繰り返し、湿る大地を滑らないように移動する。
段々とその動きにも慣れた頃、僕の力を込めた一撃がウォーブランの胴を切り裂いた。
そこから覗くは糸のように細いオーロラの様な揺らぎ。
(あの糸のような物は凄く硬かった。ということは魔力……? それで連なって四肢を動かしているのかな?)
四肢の繋ぎ目に裂けめや同様の輝きは見て取れない。
ぐにりと弾力のある粘剤のようなもので繋がっているように見えた。
「ご主人様、あと一息なのです! 頑張ってくださいなのです!」
「あ、りがと!」
パタパタ飛びながらピュイは注意深く危険がないようにと見てくれている。
それだけで安心して僕は動くことが出来る。
小さく乱れる気息を正し体を動かす。
(実際に身体を動かしての戦いなんて楽しくないと思っていたけど……、こんなにワクワクするものなんだ)
魔物を倒すにはどうすれば良いのか分からない。
弱点でもあってそこを攻撃しないといけないのかもしれない。
そう思いながらも攻撃を繰り返すこと三合。
ついに、ウォーブランは体中に裂傷を刻み、崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「はぁはぁはぁ……。やった、やったよ! 僕……」
腐葉土に膝をつき思わず拳を握り締める。
歓喜から身体に奮えが起こる。
木漏れ日が僕の初勝利を祝福してくれるように届き、柔らかく湿り気のある風が僕の鼻をくすぐっていく。
(もしかして……いじめるのって……楽しいから……?)
戦闘における興奮。
もしかしてそれは日本でも同じなのかと考えたが、僕は抵抗したことはない。
抵抗しない相手、それも人間を相手にする。
それを考えると僕の首筋の産毛が逆立つ。
「ご主人様、やりましたのです! かっこよかったのです!」
言いながら僕の腕の中に飛び込んでくるピュイに、嫌な気持ちが泡沫のように薄れていった。
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